女の子の理不尽な過去
「私はもともとこの世界の住人じゃないの」
「お前もか」
どうやらこの子は異世界召喚によってこちらの世界に招かれた存在。
俺と同じ人間だったのだ。
だが、それが彼女が縛られている理由にはならない。
「あなたも異世界召喚されたの?」
「まあな」
同類の存在がそんなに珍しいのか?
彼女の美しい紅色の目がルビーのように輝かせてこちらを見ていた。
「んで、ここに縛られている理由を聞こうじゃないか」
とても暗く、悲しい過去なのだろう。
彼女の輝きを放っていたルビーの瞳は光を失っていた。
そして彼女は恐る恐る事の成り行きを説明し始めた。
「突然、ある国に異世界召喚されたの」
「ある国って?」
「・・・・ヘカベル」
チッ、またあの国か。
彼女の口から告げられなくても容易に事の顛末が分かってしまう。
その推測も見事に的中した。
「私の装備クラスが「魔剣」だからって・・・」
「追い出されたのか?」
「いや、違う」
・・・は?
追い出されたのじゃないのなら彼女は何でこんなところにいるのか。
まあ追い出すと言っても、俺も国から追い出されただけで自由に生きてたからな。
それなら、彼女は自ら鎖で拘束したとかか?
いや、彼女はどう見てもそんな痴女に見えないな。
だとしたらなんだって言うんだ?
理解しようとしても全く理解できなかった。
「じゃあ、お前は何でこんなとこにいるんだ?」
「さっきも言った通り、騙されたの」
「全く話の終着点が見えないのだが?」
話の筋道が全く読めない。
あのヘカベルで追い出されなかったということはそれなりの待遇もいいはずだ。
「「魔剣」は六宝剣じゃないよな?」
「うん、違う・・・」
「六宝剣じゃないと分かった上で追い出されなかったのは良いことだと思うんだが?俺は追い出されたからな」
実際、俺は剣二時代にヘカベルから国外追放された身。
六宝剣でないのにも関わらず、追い出されないだけ彼女の待遇は良いと思う。
何が騙されたのか。
彼女は思い出したくもない過去の蓋を無理やりこじ開け、その真相を告げた。
「その弱みにつけこまれたの」
「弱み?」
弱み?どこにそんな弱みがあるのか?
聞いた話に弱みになろうヵ所は見当たらなかった。
「詳しく聞かせてくれ」
なぜか惹かれてしまった。
はじめに言っておくが、彼女にではない。
その話に惹かれたのだ。
その真剣に聞く姿勢の俺に、彼女はゆっくりと口を開いた。
「私は「魔剣」の装備クラスとしてこの世界に召喚された。その装備クラスを聞いた辺りの反応は、歓喜一色だった。「まさか七人目の勇者か?」だとか「我が国の英雄だ」とか。私は、何もわからないままヘカベルの勇者になっていた」
どこを抜粋しても良い話にしか聞こえないが。
それにしても俺との待遇の差が激しすぎる。
まあ「魔剣」という響きだけで強さがにじみ出てるもんな。
それだけではないだろうが。
彼女が可愛いからという成分も恐らく含まれているだろう。
本当に理不尽な国だな。
まあペランのこともあるし、そもそもこの世界事態おかしいのか。
そして、彼女の話はまだ続く。
「そして、初モンスター討伐の日。私はゲームとかやったことないからモンスターの討伐とかわからなかったの。ヘカベルの草原にいたサファイアに攻撃できなかった。最初はみんな励ましてくれた」
サファイアってサファイア・ミネラルのことか?
それにしても・・・
クソ、あの国は美女に弱いのか?
その対応の差に、虫唾が走る。
「なあ、聞いた話どこにもお前がここで鎖付けにされる要素がないんだが?」
「ここまではね」
含みの言い方をした彼女。
ここまで?ということはここからは話の展開が変わるのか。
起承転結の部分で言うと転の部分ってところか。
「何があったんだ?」
「それで、その後もサファイアを攻撃できなかった。だって攻撃したら殺すことになっちゃうんでしょ?とても私には無理だった。だって可哀そうでしょ?」
あー、何となくだが、彼女が鎖付けにされた原因が垣間見れた気がした。
そして、単細胞集団の考えることだ。
容易に見当がつく。
この事件の一部始終。つまり、結の部分を導き出した。
なぜか俺の口から彼女が真相を明かす前に勝手に結が出されてた。
「なんだ、戦えない勇者だからって見捨てられたのか」
彼女の顔から驚きが隠せていなかった。
「なんでわかったの?」
「なんでって・・・」
そんなこと誰でもわかることじゃないか。
使えないものは徹底的に排除する。
それがヘカベルという国である。
国王あってのあの国だ。
胸糞悪いことしかしない連中の考えることは、いつも幼稚すぎる。
だが、このままいうの正直気が引ける。
だから、俺は一言こう言った。
「さあな」
はぐらかすように流す。
これ以上の面倒ごとはごめんだ。
ここら辺でお開きとするか。
だが、彼女をこのままにして置くのはどうかと思う。
人間に復讐をする為、人間族をやめ魔人族になったが多少なりの人間性とやらは残っていたらしい。
それか彼女のその理不尽さに同情していたのか?
気がつけば彼女の鎖を俺の愛刀で斬っていった。
「ほら、これでどこでも好きなとこに行け」
「え?あなたについていっちゃダメなの?」
「え?」
「え?」
俺について行きたい?
馬鹿なことを言う奴もいたもんだな。
モンスター一匹も殺せないお人好しに俺についてくるなんてできるわけないだろ?
だってこれからは人間も殺すんだから・・・
身も蓋もなく言ってしまえばただの足手まといだ。
「お前は俺について来れない」
「なんで?物理的な結界があるとか?」
「そういう意味じゃない」
「じゃあどうして?同じ人間でしょ?仲良くしようよ」
あー、そうか。
こいつはまだ俺のことを人間だと思っているのか。
まあ見た目じゃわからないよな。
「悪いな、俺は人間をやめた身なんで」
「いや、どっからどう見ても人間だよね?」
「じゃあ仮に人間だとしても、俺はこの世界を嫌っている。この世界をぶっ壊すために人間をたくさん殺す。それでもついてくるのか?」
彼女の顔がわかりやすく曇っているのがわかる。
全く、ついてくるなんて変な気を立てるなよ。
俯く彼女を放っておいて、来た道を再び戻っていく。
「まって!」
立ち去る俺を呼びとめる。
ったく、なんなんだよ。
呆れながらも振り返ると、そこにいる彼女は何かを決心した顔でこちらを向いていた。
「なんだ?用件なら早く済ませろ」
「私、良いこと思いついた」
そして彼女はこう綴った。
「あなたの嫁になる」