憤怒の暗黒騎士、その名も
「うおおおおおおお!」
「ギュエエエエエエ!」
これでスコルピオ・ナイトを何体殺しただろうか。
2000?3000?
いや、それ以上な気がする。
だが、いくら殺してもアイテムの換金はできない。
このアイテムは無に等しい。
只々、ステータスだけが上がっていく。
魔法値を除いた。
俺は装備ステータスを久しぶりに開いた。
ステータスはというと・・・。
攻撃:1350
防御:1140
素早さ:1030
魔法値:0
テクニック:1500
魔法値を除いた全てのステータスが1000を超えていた。
だが、まだだ。
勇者クラスになると2000は余裕で超えているはずだ。
この世界をぶっ壊すにはまだ圧倒的に力が足りない。
かといってここじゃあもうそこまでステータスアップは見込めない。
ここはもう離れるか・・・。
「シエエエエエエエエ!」
「うるせえ・・・、耳障りだ・・・」
背後から襲い掛かるスコルピオ・ナイトを素手で一撃。
ここはもう雑魚モンスターしかいねえ。
もっとレベルの高いモンスターを倒さねーと。
もともと中距離・遠距離が専門分野だが、刀にも慣れてきた。
ソロ攻略ならこのままでもいいかもな。
足で纏いがいなくて助かるぜ。
一人広大な砂漠をひたすら歩く。
景色は全く変わらない。
雑魚のスコルピオ・ナイトしかいなかった。
「チッ、力をつけるには・・・この世界をぶっ壊す力を手に入れるには・・・」
この世界を破壊したい欲求が日に日に増していく。
早く・・・早くぶっ壊したい。
邪魔者は排除する・・・・殺す・・・。
その時だった。
君は実に興味深い・・・。
脳内にその声が響く。
その声の主を探すべく辺りを見渡しても誰もいない。
広大な砂漠に遮蔽物は存在しない。
俺はそのまま立ち尽くした。
「誰だ、姿を見せろ」
慌てなくてもすぐにこっちに連れてくるよ。
連れてくる?こいつは一体何を言ってるんだ?
声の主がそういうが一向に何も起こらない。
「チッ、舐めやがって・・・」
俺が瞬きしたその瞬間、ガラッと景色は一転した。
目の前にあったはずの広大な砂漠は消え、薄暗い一室に変わった。
どうやら本当にどこかに連れてこられたらしい。
目の前には小段の階段があり、その上には五人の人物がテーブルを囲んで座り、優雅にお茶を飲みながらこちらを見ていた。
誰だ?こいつらは?
「やあ、よく来たね。剣二君」
「誰だ?お前は。知りもしない人間に名前で呼ばれたくないんだが」
「相変わらず不愛想だね」
「お前は俺の何を知っている。俺の計画の邪魔をする人間なら斬り殺すぞ」
俺が刀を取り出すと、他の四人が一斉に構えを取った。
こいつらは敵だ。
殺す。
「まあまあ、お互い落ち着こう。ね?」
「てか、お前は誰だ?お前だけ何もかも知ったような口で話されるのは虫唾が走る」
「やれやれ、しょうがないな。順番に私から自己紹介するよ」
すると彼女は席を立ち、名乗った。
「私は「暴食」の暗黒騎士。ジェールナ」
ジェールナは、黒髪ロングをポニーテールにした10代前半の女の子で、とても綺麗な顔立ちをしていた。
「次は私だね。私は「強欲」の暗黒騎士。エルフミーラ」
エルフミーラは金髪をストレートに伸ばした美人系お姉さんで、金髪に飾られた金木犀の花飾りがとても似合っている。
ーーエルフミーラ?どこかで聞いたことがあったような気がしたが・・・・・・まあいいか。
「僕が「怠惰」の暗黒騎士。グウィルド」
グウィルドは細身の体型の気弱そうな少年で、黒髪の彼は、特に絶大なインパクトを与えるような容姿ではなかった。
「私が「色欲」の暗黒騎士。サキュラバーニ」
サキュラバーニは、茶髪をサイドテールにしたエロ可愛いお姉さん。
そう、それはまるでサキュバスのようだった。
「俺が「嫉妬」の暗黒騎士。ゼランだ。よろしく」
ゼランはニコニコしている優しそうな紺髪のお兄さん。
だが、いつもその顔をしているのかと思うと気味が悪い。
「そして・・・」
その後にジェールナはこう綴った。
「あなたが「憤怒」の暗黒騎士。剣二」
「・・・は?」
俺が憤怒?暗黒騎士?
そんなものになった覚えがない。勝手に仲間に加えるな。
人とはもう関わりたくない。
人は信用ならない。
「俺はお前らと仲良しこよしで暗黒騎士とやらになった覚えはない」
「それもそうだ。俺たちが勝手に決めたからね」
勝手にってなんだ。
その身勝手な行動がイラつくんだよ。
「へえ、ここまでの力とはね~」
「こらエルフミーラ?勝手に剣二の力を奪っちゃだめよ?」
「分かってるよ?ジェールナ。あなたこそ彼に食いついちゃだめだよ?」
「分かってるよ~」
なんなんだこいつら。
俺を小馬鹿にするためにここへ呼んだのか?
俺が一人だからって仲良しこよしの振りか?
気分が悪い。
こいつらをさっさと殺して元の場所に戻るか。
「ほら、君たちが変なこと話してるから彼が怒っちゃったじゃないか」
「しょうがないじゃない、グウィルド。なかなかのイケメンが来たんだから」
「エルフミーラ、お前目大丈夫か?俺からしたら普通の見た目だぞ?フツメンってやつ?」
こいつらはどこからどこまで・・・
「本当にむかつくな!」
胸糞悪い。
早急に殺さなくては。
一瞬で階段を駆け登り、奴らの元へ。
こいつ、「怠惰」の暗黒騎士って言ったか?
まずはお前から殺す。
特に殺す順番は決まっていなかったからな。
グウィルドの首を目掛けて刀を振るった。
だが、その寸前で隣にいたゼランが素手で受け止めた。
その頃、グウィルドは腰を抜かし地べたに手をついていた。
「なんだ?お前から殺されたいのか?」
「っく、こいつ!なかなか力が・・・」
「そんなに死にたいならその苦しみを早く終わらせてやる」
「っく・・・・」
俺の力の方がゼランを遥かに上回っていたのか、防戦一方に。
やばいと思ったのか、サキュラバーニが止めに入った。
「剣二っちさ、落ち着いて。私達は仲間だから」
「仲間だ?俺に仲間なんかいらねぇんだよ!」
「いや本当に仲間だから!」
「いい加減なことほざくならこいつの次に斬り刻んでやる」
俺の威圧に負けたサキュラバーニは腰から落ちていった。
「はあ、やれやれ。剣二君。君は何か勘違いをしている」
ジェールナが俺の中の間違いを正そうとしている。
俺が勘違いしているだと?
ジェールナはニッコリ笑いながらこう言った。
「私達人間じゃないよ?魔人。魔人族だよ?」
「魔人だ?」
魔人と言えば高レベルの種族か?
丁度いい。
ステータスの大幅アップが期待できそうだ。
「っく・・・・・」
「とりあえず。攻撃はやめてくれないかな?」
「ジェールナって言ったか?なんでだ?」
「私の同胞がこんな目に合ってるんだから止めるのは筋でしょ」
「仲良しごっこか?くだらん。実にくだらん。」
「剣二君・・・とりあえずジェールナの話を聞いてもらえないかな?」
「エルフミーラ・・・」
俺がなんでこいつらの言うことを聞かなきゃいけないんだ?
全くの赤の他人。
話をする価値も聞く価値もないというのに。
俺の邪魔をするやつは殺す。
それだけで十分だ。
「それじゃあ、剣二君。こんな提案はどうかな?」
「提案だ?」
「私たちの話を最後まで聞いてほしい。それでも考えが改まらないなら皆殺しでも何でもしていいから」
それは素晴らしい提案だ。
ここに魔人族が五人。
皆殺しをすれば一体どのくらいステータスアップができるのだろうか。
「いいだろう。手短に話せ」
「わかった、その代わりに・・・」
「ああ、こいつは一時的に開放してやる」
刀を引き、ゼランへの攻撃は一時中断となった。
少しでも不快だと感じたら殺す。
それは決定事項だ。
「それで、話ってなんだ?」
「私たち魔人族の話。私たちは最初から魔人族じゃなかったの」
「他の種族だったってことか」
「そう、剣二君が人間を嫌うように私たちも人間を嫌うようになったある理不尽が原因で憎しみが生まれ、この魔人族に生まれ変わったの」
「その理不尽ってなんだよ」
「人間による差別」
その言葉に思い当たる節が俺にもあった。
こいつらはもしかして仲間なのか?
そう考えたが、そんな甘っちょろい思想は振り払う。
簡単に信じてはいけないんだ。
「んで?その差別で人間に復讐しようと?」
「人間はもちろん、それを邪魔しようとする他の種族は皆殺しするつもり。私たちの目的は世界を変えることだから」
「俺の真似すんな」
「真似してない。私たちはそのために「災い」を利用している。剣二君は自分の手で変えようとしている。同じ考えの剣二君なら分かってくれるはず」
確かに、この世界をぶっ壊したい気持ちは分からなくもない。
ただ、こいつらと協力するのが嫌なだけだ。
というか、こいつは今、「災い」を利用していると言ったか?
まずはそこを聞き出さないとな。
「おい、今「災い」を利用しているって言ったな?どういうことだ?」
「おや?やっぱり食いついてきたね。いいだろう、教えてあげよう」
そこからは「災い」という人間史上の大災害の真の目的が明かされた。
「「災い」というのは私たちが起こした、例えるなら・・・そう!反対抗運動みたいな!」
「それじゃあ「災い」の前兆に出たあの熊も」
「私たちが放ったものだね」
そういうことだったのか・・・
それならいくつか合点がいく。
だが、いかないとするならば・・・
「なんで生贄にゴレオンが選ばれたんだ?」
生贄にゴレオンが選ばれた理由。
それを確かめたかったのだが、返ってきた答えはふざけたものだった。
「生贄に選ばれる人間は決まってないの。あのシンズモンスターを倒した瞬間にランダムに生贄になる人間が決まるって感じなんだ」
・・・は?
そんなふざけた理由でゴレオンは殺される運命になったのか。
以前の俺ならそう思っていただろう。
だが、今の俺には「ふーん、そうなんだ」程度の認識でしかなかった。
「つまり、間接的に奴らを滅するってことか?」
「まあ、その認識で間違えてないかな」
なるほどな。
俺とは考えが全く違う人種だな。
世界を変えたいという野望は同じだが、やり方がかなり違う。
分かり合えるとは到底思えない。
それに間接的に変えるという考えは俺自身が許さない。
「俺はお前ら見たいな馴合いは必要ないな」
「関わらなくても別に構わない。好きな時に関わってくれれば。ただこの世界の過ちを正したいだけなんだ」
関わらなくてもいいなら都合がいい。
「・・・ふん。この世界をぶっ壊すためには協力してやる。気は進まないがな」
「そうか・・・」
ホッと胸を撫でおろすジェールナ。
そんなに殺されるのが怖いのか?
「さて、儀式を始めますか」
エルフミーラがそう言う。
儀式?一体何のことだ?
その答えはすぐさまエルフミーラの口から告げられた。
「魔人族に生まれ変わるんですよ」
「生まれ変わるだ?」
「はい、今日からあなたは魔人族の「憤怒」の暗黒騎士、サタルドスとなります」
生まれ変わるってそういうことなのか?
名前を変えるのはどうかと思うが、仕方がない。
この名前だと思うように行動できないかもしれないからな。
「それでは儀式を始めます」
「さっさと終わらせてくれ」
「数分で終わりますよ」
すると異変は突然現れた。
腕には竜の入れ墨が、髪は白銀のような白い髪をしていた。
どう見たって別人だった。
「はい、これで剣二君は魔人族になり、サタルドスになりました」
「そんなことはどうでもいい。早く元の場所に返せ」
「せっかちですね・・・兵はどうするんですか?」
「いらん。欲しければ他人のを奪うだけだ」
「うわー悪趣味ですね」
「お前の「強欲」と似たようなものだろう」
「そうですけど・・・」
エルフミーラはそう言うと、ジェールナが彼女の代行を果たした。
「何かあればテリトリーと呟けばここに戻ってこれるから」
「何かあればな」
「それじゃあ、いってらっしゃいー」
その言葉と同時に暗い光に包まれ、気が付くとさっきの砂漠の上に立っていた。
あれは夢だったのか?
腕をめくってみると、竜の入れ墨が。
どうやら夢ではないらしい。
というか「憤怒」の暗黒騎士になっても何も起こらないのか?
装備ステータスを開いてみるとそこには・・・・
「なんだこれ・・・」