路地裏で
「とんだ災難だ。何なんだこの国は」
突然異世界召喚されたと思いきや、その場でまさかの無能の称号まで手に入れてしまった。
それに「刀」という装備クラス。
この世界は、俺に対して理不尽なようにしかできていない。
元の世界へ帰りたい。
だが、その方法がない。
ったく、あのクソジジイ。
異世界召喚する前にちゃんと送還の術を得とけよな。
だが、いくらそんなことを考えても現状の解決には至らない。
今は今後の生活に必要な資金と家を確保しなければならなかった。
だが、俺に一銭もないのは言うまでもない話。
もう、色々と最悪だった。
「さて、これからどうしたものか・・・」
まずこの世界で、どうやってお金を稼ぐのかを知らない。
ここがゲームの世界。RPGゲームと同じ原理で動く世界なら、敵を倒しておけば勝手にお金は入ってくる。
しかし、ここがゲームの世界と同じシステムとは限らない。
ゲーム内で億万長者だった俺でも、この状況の打開は困難を極めた。
街中には沢山の商業施設が並んでいる。
もしかしたら、店を経営しないとお金を稼ぐことができないのかもしれない。
そもそも、家を持っていない時点で俺に経営何てできるわけないじゃん。
完全な負け組だ。
「どこかにアルバイトでもないかなー」
現状、俺が知っている情報はこの国に「災い」が来ることと、それに対抗できる「六宝剣」の装備クラスを有する勇者の力が必要だということだけだった。
点々と色々なアルバイトをしてきた俺にしては、珍しくアルバイト情報を一切持っていなかった。
いくら商業施設を見て回っても、アルバイト募集のチラシが張り出されている店はない。
どこかに職業安定所はないものか・・・。
いくら歩き回ってもそのような類のものはない。
だとしたら、自己破産した人間は一体どうやって生活しているのだろうか。
やはり、ゲーム世界のようにモンスターと戦ってお金を手に入れるとか?
だが、その確信はない。
俺の脳内の中で軽く一時間は、同じやりとりを何度もしていた。
「誰か頼れる奴はいないのか・・・?」
異世界生活一日目の俺に、頼れる奴などもちろん存在しなかった。
というか、頼ってもろくな答えは返ってこないのは目に見えてわかっている。
「知らない」だの「なんだそれ」だの、答えが返ってくるに違いない。
だって、知っていたらとっくに発見しているはずだから。
「日が熱いな・・・とりあえず日陰行くか・・・」
夏でもなさそうなのになんだ?この暑さは。
これも「災い」と何か関係あるのか?
そう考えながら日陰成分がたっぷり詰まった路地裏へと逃げ込んだ。
「金もねーのに、この先どうすっかなー」
一人でも頼れる奴がいればこの状況が一気に変わるのだが、俺は正直ビビっていた。
会話が成立しなかったらどうしようだとか、相手の言っていることが理解できなかったらどうしようとか、接客に長けたベテランアルバイターがそんなことをさっきからずっと考えている。
意味わからないことを言ってるクソみたいなクレーマーが可愛く見えてくるな。
余計な事で考え込んでしまっている俺に、ゆっくりと近づく二つの影が。
心の準備がままならない俺は、とりあえず長年の経験にかけゆっくりと近づいてくる彼らの外見を見て勝手に絶望した。
耳と舌にピアスをつける男一人と、耳だけピアスをつける男。
一ミリ足りとも、この状況から解放してくれる救世主だと思えなかった。
「お兄さん、ちょっといい?」
「あ?」
「わ、目つき怖いよー?」
「お前の方がな」
「そうかもな」
俺の前で腹を抑え笑う男二人組。
こいつらは恐らくチンピラなんだろう。
このような類の人間は、相談しても話が通じないのは目に見えている。
独断の判断で何とかこの状況を打破しようと考えてみた。
それにしてもチンピラというのは、こんなにも軽装な格好をしているものなのだろうか?
この二人は何の苦労もなく生きてきたんだろう。
蔑むように二人を見つめる俺。
「それでお兄さんさ、お金持ってない?僕達ちょーっと困ってるんだよねー」
「悪いな。あいにく持ってないんだ」
「またまたー。嘘はつかなくていいんだよ?」
「嘘はついてない。じゃあ俺はこれで失礼するよ」
これ以上付き合っては時間の無駄だ。
彼らに関わってる暇があるなら生き残す術を考えよう。
早々に立ち去ろうとする俺を一人の男がしっかり掴む。
「はい、お兄さん逃げてないでねー?」
「逃げてない。お前らみたいな低知能と話してるのが時間の無駄だと思っただけだ」
「あ?てめえ。今なんつった?」
こいつは耳が遠いのか?早く耳鼻科行けよ。
まあ、仕方がない。こいつのためにも、もう一回言ってやるか。
「お前らみたいな低知能と話してるのが時間の無駄だと言ったんだ」
「殺すぞ?」
「殺せるもんなら殺してみろよ」
すると、男二人組は腰からナイフを取り出した。
百均で売ってそうないかにも安そうなナイフ。
「まさかだと思うが、その武器で戦うのか?」
「まさか、お前とは戦わねーよ?一方的な殺戮だからな?」
「大人しく、渡せば命までは取らないでやるよ」
何やら格好いいことを言っているが、その安いナイフのせいで全てが台無しだ。
まあ、この二人は俺と殺る気みたいなのには変わりないみたいだが。
「なるほど、それがお前らの望みか」
「なんだと!」
男はナイフを突き立て襲ってくる。
だが、なんという遅さだろう。
俊敏性のかけらもない。
喧嘩をするのは初めてだったが、全ての攻撃を避けて見せた。
「クソ!なんで当たらねーんだ!」
「もう行っていいか?」
「まだだ!」
「お前らさ、気が付いてないのかもしれないけどさ」
「なんだ?」
「見ててすっげー醜いよ?恥ずかしくねーの?」
「だまれ!今度は決める!」
どっちが悪役でどっちが正義役かわからなくなってしまう。
「そういえば何か武器はないのか?」
俺は男二人組が前にいるのにも関わらず、装備ステータスを開き始めた。
「おい、お前舐めてんのか?」
「この「武具庫」ってやつに入ってるのか?」
「聞いてんのか!」
「なんか入ってんな」
「聞けや!」
男の一人が飛び掛かるーーーーはずだったのだが、彼は急に動きをピタリと静止させた。
その鋭利な武器を見た瞬間に。
「お、おまえ・・・それ・・・」
「ああこれか?「刀」だよ」
「お前・・・!まさか勇者か!?」
「いや、ちが・・・」
「「すみませんでしたーーーーー!」」
刀を目にしたチンピラ二人組は、俺の言葉を聞かずに立ち去って行った。
「何なんだ?そんなことよりこれどうやってしまうんだ?」
出せたものは良いものの、武器の仕舞い方がわからない。
その戸惑いの様子をひっそり影から見ていた人物が一人いた。
「兄ちゃん困りことか?」
そう声をかけたのは、腕の筋肉を自慢げに組んだ図体がでかい大男。
よくゲームにいる鍛冶屋の職人みたいな人だった。
ゲームで見慣れている以上、今さら驚くこともなかった。
「ああ、武器の仕舞い方がわからなくてな・・・」
「見たことねー武器だな。俺、武器屋営んでるからちょっと見せてくれ」
「別に構わんが・・・」
「それじゃついて来い」
大男の後をつけていくが、距離は五メートルもない場所に武器屋はあった。
「こんなに近かったのかよ」
「まあな、さっき兄ちゃんがチンピラに絡まれてるの見てたぜ?」
「見てたんだったら助けてくれよ・・・」
「助けなくても余裕だったじゃねーか!それに喧嘩なんてしたら店の看板に泥塗ることになるだろ?」
「それはそうだが・・・」
見てたのなら、せめて誰かを呼ぶくらいはして欲しかった。
そのせいで余計な時間を潰してしまったのだから。
「それより、ようこそ!」
「いや、そこはいらっしゃいませだろ」
「なんだそれ?」
「なんでもない・・・」
案内されるがままに、俺は無一文で武器屋に入っていった。