過去と向き合う
「生贄者が見つかったのか!」
目を輝かせるクツェルを横目に俺は思った。
いや、生存者を発見したみたいなノリで言うんだなと。
だが、生贄者が見つかったのなら「災い」を終わらせることができる。
この勇者に早急に討伐しに行ってもらう必要があった。
「場所はどこだ?」
俺が尋ねると、忍びはある場所に指を刺した。
そこは俺とヒトリアが彷徨い、クツェルが助けてくれた場所で間違いない。
「あの大森林を抜けた先、ヘカベル王国の中心部です」
「よりにもよってヘカベルか・・・」
正直、あの国王や貴族にはもっと痛い目にあって欲しい。
だが、生贄者を殺さないと「災い」に終焉は来ない。
一刻も早く勇者に討伐してもらうしかない。
体力的にも精神的にも俺は限界だった。
「クツェル、生贄者を倒してきてくれ」
俺はそう頼み込むも、希望は儚く砕け散った。
「坊主、俺は無理だ。この国の指揮をとらないといけない」
「だが、生贄者を倒さない限りは「災い」は終わらないんだぞ!」
「そんなそんなことは分かっている。だから・・・」
クツェルは俺の肩をがっちり掴む。
そして願うように、
「坊主が生贄者を殺してきてくれ」
「いや、なんで俺が。そもそもあいつらは俺達に冤罪吹っ掛けて見捨てたんだぞ?そんな奴らを助けるような義理はない」
「剣二様・・・」
空気を読めよと言わんばかりの視線を向けてくるヒトリア。
だが、俺は決して間違えたことを言っていない。
何のために奴らを助けなければならない?
俺の意思を聞き届けたクツェルが、さらに力強く肩を掴んだ。
「いいか?よく聞け坊主」
「なんだ?」
「奴らを助けるという考えは捨てろ。お前が考えるべきなのはこのペランに住む住民を守ることだけだ」
「そんなことは分かっている!だが・・・」
奴らを現状況から助けると考えるだけで反吐が出る。
それこそ耐え難い苦痛だった。
その様子を見たクツェルは最後に頼み込んだ。
「坊主だけが頼みなんだ・・・頼む・・・」
今にも泣き出しそうな顔を向けてくるクツェル。
今まで世話になったから少しでも恩返しがしたい。
だが、奴らに手を差し伸べるのは気が引ける。
そんな究極の選択を迫られた俺の手を、ヒトリアは自身の手で優しく包み込んだ。
「やりましょう。剣二様」
「ヒトリア・・・」
「確かに、あの国の人達には沢山ひどいことされました。剣二様の気持ちも十分にわかります。でもここで私達が行かないとこの国の人たちにひどいことを私たち自身がするんですよ?苦痛を味わってきた剣二様ならわかるはずです」
ひどいこと・・・か・・・。
俺は散々ヘカベルの連中に弄ばれ、挙句には貴族の踏み台になるために国から追放された。
助けたくないと思うのは当たり前だ。
だが、このペランの住人達はお尋ね者である俺達を丁重に扱ってくれた。
ここで俺が行かなければ、彼らを裏切ることになる。
本当にそんなことしてもいいのだろうか?
俺の答えは必然的に決まる。
「はぁー、分かった行ってやる」
「坊主」
「クツェル、疲労を回復するポーションみたいのはないか?」
「ああ、これだ」
クツェルは1本のポーションを差し出す。
「これを飲めばいいのか?」
「いや、それを手に出して塗るんだ」
「そういう感じか」
とりあえず、腕と足だけ塗っておけばいいか・・・。
俺は腕と足にそのポーションを塗ると、疲れがスッと抜けていくのが分かった。
「これはすごいな・・・ヒトリアお前も使うか?」
「そうですね。よろしければ腕に塗っていただけませんか?」
「わかった」
俺はヒトリアの腕にポーションを塗り、ペランを旅立つ準備は万端だ。
「それじゃあ、行ってくる」
「待て、二人で行くつもりか?」
「この国に借りがあるんだ。二人で行かなきゃ意味ないだろ」
「そうか」
クツェルは引き止めなかった。
引き止められなかったと言った方が正しいだろうか。
俺達の覚悟を決めた目を見たら、当然のように言えなくなってしまうだろう。
「坊主、「災い」でも他のモンスターはいるからな?気をつけろよ」
「ああ、わかった。行くぞ、ヒトリア」
「はい!」
そして二人は大森林へと走って向かっていったが、大森林に入る前に屍に遭遇した。
「邪魔だな。ヒトリア、攻撃強化とスピード強化を頼む」
「はい!パワーテンション!アジリティバースト!」
攻撃と素早さが強化され一気に駆け抜ける。
「ヒトリア!ちゃんとついて来いよ!」
「はい!」
ガガガガガガガ
「うおおおおおおおおおお!」
襲ってくる屍を前線の俺が斬り倒し、ヒトリアはその後について行く。
「大森林に入るぞ!一気に駆け抜ける」
「はい!」
大森林の中を駆け抜ける。
他のモンスターにも注意を払わないといけないのだが、大森林の中には屍しかいなかった。
「屍しかいないな・・・モンスターはいないのか?」
「わかりません・・・」
「そうか、もうすぐで抜けるぞ」
「はい!」
近づく大森林の出口を目掛けて駆け抜け、無事に抜けた。
そして、抜けた先にあった光景は、
「おいおい・・・」
「血まみれですね・・・」
あの美しかった草原は血の海に染まっていた。
この草原はサファイア・ミネラルしか分布していなかったはずだ。
屍からは血はでない。
血で染まっているということはつまり・・・。
「剣二様!あそこ!」
ヒトリアが指さす場所。
そこには屍が大量に集まっていた。
「ヒトリア、援護頼む!」
「はい!」
俺が屍の集団に近づき、殲滅する。
終わった頃にヒトリアが近づいて来て、襲われていた兵士に俺は罵倒する。
「この程度の雑魚にやられるようじゃ、お前は戦う意味がない。下がれ」
「ちょ、剣二様!」
その腰を抜かしている兵士を取り残して西門へと向かっていき、門番の兵士に尋ねた。
「おい、お前。生贄者は今どこにいる」
「え・・・、ちょっとわからないな」
「チッ、とぼけてんじゃねぇよ!ここに生贄者がいるんだ!早く教えろ!」
「剣二様!」
怒り狂う俺をヒトリアは精一杯止めた。
今日の俺は一体どうしたのか。
いくら奴らに恨みがあったとしても、ここまで怒り狂ったことは一度もなかった。
本当にどうしたんだ?
自分でもよくわからないその感情を必死に抑えた。
「すまない、ヒトリア。取り乱した、行くぞ・・・」
「は、はい・・・」
門番を置いて町の中に入る。
変わらない光景。
本当なら懐かしむ所だろうが、俺は違っていた。
今すぐにでも早くここから出て行きたい。
「確か、中心部にいるって言ってたよな?」
「はい、確かそう言ってました」
「とりあえずそこに向かってみるか。それでいなかったら地道に探すしかないな」
「そうですね・・・」
先に歩いている俺の腕を掴んで、ヒトリアは引き止めた。
「ヒトリア?」
「剣二様・・・・大丈夫ですか?」
ヒトリアは先ほどの罵倒が気になっているらしい。
心配されるのも当然だ。
人格が変わったように怒鳴ったから。
自分でも大丈夫か?と心配をしているぐらいの罵声。
詳しい説明を乞わなくてもわかることだった。
「ああ、俺ならもう大丈夫だ。ヒトリアは大丈夫か?」
「はい、私なら大丈夫です」
「そうか、早く「災い」を終わらせよう」
「はい!」
二人は急いで町の中心部へと向かい、中心部には生贄者らしき人物がいた。
奴が生贄者で間違いない。
禍々しいオーラがあふれ出ていた。
「おい、生贄者!」
生贄者は、声のする俺達の方へゆっくりと振り返る。
その姿を見て、俺は言葉を失ってしまった。
目の前には信じられない光景があったからだ。
そして、最初に出てきた言葉がーーーー
「なんで・・・お前が・・・!」