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貴族の信頼度

 クツェルについて行くこと5分、着いたのは暗い路地裏だった。


 「んで?話ってなんだ?」


 彼の顔色を伺うに、例の件で間違いなさそうだ。


 「全部聞いたよ。お前たちが国から追放されたってな」

 「ギルシュインからか」

 「見てたのか?」

 「ああ、ちょうど二人で話ている所をな」

 「そうか」


 やはり奴絡みの話だったか。

 嫌な予感はしていたが、まさか奴の話だったとは。

 これでこの国からも追い出されることは間違いなかった。


 「それで?強姦野郎は出て行けと?」

 「は?誰がそんなこと言った?」

 「は?」

 「は?」


 二人の意思が噛み合わない。

 追放しないのなら、俺にどうしろと言うのか。


 「あのな、坊主よく聞け」

 「なんだ?」

 「あの貴族はな、各国からかなーり嫌われてるんだぞ?常識だ」

 「あの貴族は嫌われてるのか!?」

 「当たり前だ。あんなクズみたいな貴族は嫌われて当然だ」


 何だろう。

 心の内がすっきりしたような錯覚を覚えた。

 だとしたら、あのクズが嫌われているのが分かっているのなら、何が聞きたいのか。

 その理由を教えてもらわなければならなかった。


 「じゃあ、お前は俺から何を聞きたいんだ?」

 「そうだな・・・俺が聞きたいのは・・・」


 重い口をゆっくり開き、こう綴った。


 「本当に強姦なんてやってないよな?」

 「されてません!剣二様にはあの貴族から助けて頂いただけです!」


 今まで口を開かなかったヒトリアはそう告げた。

 そんな彼女の様子を見たクツェルは失礼ながらも盛大に笑ったのだ。


 「ハハハ!お前らもひどい目にあったな!」

 「なんだよ、俺を疑ってたのか?」

 「何言ってんだ坊主。例え奴が嫌われていても確認を取るのは常識だ」

 「そうかよ」

 「まあ普通に考えればわかる話だよな」

 「どういうことだ?」


 クツェルは笑顔でこう告げた。


 「強姦されたら、普通こんなに仲良くしてないだろ?」

 「そうだ。あの国の連中は普通に考えることすらできない低知能集団なんだ」

 「ハハ、それもそうだな」


 二人で笑い合う。

 いつからだろう?

 心の底から笑ったのは。

 俺を理解してくれる人間がようやく現れた。

 それが本当に嬉しかった。

 救われたのだ。


 「まあ、本当に災難だったな。奴に利用されてよ」

 「利用?」

 「あー、なんだこの話も知らないのか」

 「ああ」

 「あいつはな、利用できるものを全部利用する人間だ。それで貴族まで上がったんだからな」

 「じゃあ俺らが追放されたのは・・・」

 「ああ、周りの人間からの好感度上げのために利用されただけだ」


 たかが、そんな理由で。

 成り上がりの貴族もどきの踏み台になったことに腹が立つ。

 だが、奴に関わる必要はもうない。

 何があろうと放っておこう。


 「奴とその話をしただけなのか?」

 「いや、それだけじゃない」

 「後は何を話したんだ?」

 「やけに興味津々だな」

 「うるさい」


 否定も肯定もしない俺にクツェルは、


 「刀の男とエルフの女を国に入れるなってな」

 「俺たちのことか?」

 「そうだ。だが、そもそももう入ってるし、奴の信頼は自国ではあるんだろうけど、他の国は全くないからな。正直言うことを聞く必要がないんだわ」


 だんだんあの貴族が哀れになってくる。

 自国だけしか信頼がないのに威張り散らしているその光景。

 考えるだけでも、滑稽だった。


 「後はな、俺に「災い」からヘカベルを守ってくれって言われた」

 「なんだそれ」

 「そもそも俺はこの国を守護する勇者で傲慢な国を守ってやるほど落ちぶれてないからな」

 「本当にその通りだ。クツェルに頼るんじゃなくて他の勇者を召喚した方が早いのに」

 「坊主。何言ってるんだ?」


 俺は変なことを言っただろうか。

 そんなに守って欲しいなら新しく勇者でも召喚すれば良い。

 普通に考えられることだった。

 だが、クツェルにとっては違うようだった。


 「どういう意味だ?」

 「そのままの意味だ」


 その後にクツェルはこう綴った。


 「数年前に「六宝剣」の勇者六人は召喚されているからな」

 「・・・は?」


 だったら、何で俺は召喚されたんだ?

 全く理解できなかった。

 その謎をクツェルに尋ねた。


 「それじゃあ、なんで俺は召喚されたんだ?」

 「そんなの単純だ。ヘカベルの奴らは勇者を召喚されてことを知らないからだ。無論、俺の正体もな」

 「だったらなんで勧誘されたんだ!?」

 「普通に戦闘能力が高いと思ったからじゃないか?」

 

 なんだよ、とばっちりも良いところじゃないか!

 こっちはやりたくもない職業についた挙句、追放までされたのに。

 お前らは何も知らない赤子同然だったのかよ。

 だが、奴らが何も知らない無知な集団だと考えるだけでそんなこともどうでも良くなってくる。


 「それじゃあ、あいつらは「災い」に対抗する手段がないと?」

 「そういうことになるな、最後の希望だった坊主を見放したんだからな。笑えるよな?」

 「ああ、かなりな」


 俺の心の底から笑いが込み上げてくる。

 そこからはどうでも良い雑談を繰り広げ、気がついた頃には22時になっていた。


 「それじゃあこの辺で」

 「ああ、ありがとなクツェル」

 「何がだ?」

 「俺を信じてくれて」


 するとクツェルは最高の笑顔で、


 「当たり前だろ!仲間なんだからよ!」

 「ああ、そうだったな」


 期限付きとは言え、仲間という響きがとても心地良かった。

 そして、クツェルの背中が消えるまで見届けた。


 「俺らも帰るか」

 「はい!剣二様!」

 「やけに嬉しそうだな?どうした?」

 「いえ!剣二様が楽しそうだったので!」


 人間は感情に左右されやすい生き物とは本当らしい。

 この世界で一番長く付き合ってきたヒトリアがそう言うんだ。

 きっとそうなんだろう。


 こうして二人は宿へと帰っていくのだった。

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