見た目で判断できないもの
俺達は、先の戦いで入手した「アイアント・ゴーレムの甲殻」と「スコルピオ・ナイトの甲殻」の換金と「スコルピオの紫電玉」で武器を作ってもらうために武器屋へと向かっていた。
「今日はいくらぐらいになりますかね!」
「そうだな。宿は確保してあるようなものだし、稼げたら少しぐらい贅沢するのも悪くないな」
「そうですね!どうせならおいしいものを食べに行きましょう!」
鼻歌を歌いながら隣を歩くヒトリア。
見た目は大人なのに中身はまるで子供だった。
こう言う類のエルフに出くわした時の対処方法はどうするべきなのか未だに良く分からなかった。
「まあ、いつも通りで良いか」
「ん?なんですか?」
「いや、何でもない」
そうこうしている間にも、目的の武器屋へと到着した。
中に入ろうとすると、扉の上に取り付けられたベルが客の来店を店内に知らせる。
「はーい」
店の奥で声がした。
声は高く可愛らしい声だった。
どうやら女性らしい。
「いらっしゃいませー」
店の奥から姿を現した女性に驚きを隠せなかった。
「あの、お嬢・・・ちゃん?店主は・・・?」
姿を現したのは大人の女性ではなく、子供の姿をした少女だった。
どう間違えてもこの子は店主なわけがない。
だが、俺の予想を遥かに超える事象が発生した。
「・・・?私が店主ですよ?」
「馬鹿なことを言わないでくれ、小さな子供は働くことを禁じられています」
この世界では奴隷以外の子供は働くことを禁じられている。
働いている時点で犯罪なのだ。
「私は子供じゃありません!」
「嘘をつけ、どう考えても子供だ」
「子供じゃありません!」
「あ、あの剣二様・・・」
女の子との会話に割り込んでくるヒトリア。
彼女は何か言いたそうな顔でこちらを向いていた。
「なんだ?」
「その子がつけてるバッチって・・・」
ヒトリアの指さす方を見てみると、女の子は白いプレートに書かれた店長バッチをつけていた。
「おいおい、勝手につけちゃダメだろ」
「これは私のです!」
「それなら証拠を出せ」
「わかりました!見せてやりますとも!」
怒りながらも女の子はポケットの中から一枚のカードを取り出した。
免許証みたいなものだろうか。
それを堂々と俺に見せつけた。
「これを見てください」
「なんだ?これは」
「身分証です!」
「拝見しよう」
身分証の確認を取るべく、女の子から受け取り確認作業に入る。
「名前は、ロヴェン。職業は武器屋か」
この子の言っていることは事実だった。
だが、なぜこんな小さな子が働けるのか理解できなかった。
「年齢は49・・・49・・・?・・・49!?」
「そうです。私は立派なレディーなのです」
この小さな女の子ことロヴェンは49歳の俗に言うおばさんだったのだ。
何度も確認するが、49の文字は見間違いではないらしい。
「なんか・・・すみません」
「いいですよ。よく言われることですし」
この人もなかなかつらい人生を送ってきたのだろう。
悲痛に同情しているとロヴェンの方からある提案をされた。
「私のことをロヴェンお姉さんと呼んでいいのですよ?」
「・・・・・・なあ、店主。換金をお願いしてもらってもいいか?」
「無視ですか!?」
年齢を知ってしまった以上、この人をお姉さんと呼べなかった。
てか、お姉さんよりおばさんだろ。
それはさておき、俺は換金してもらうためにアイテムを「道具」のアイテムストレージから取り出す。
「これを頼む」
「ふむふむ、なるほど。「アイアント・ゴーレムの甲殻」と「スコルピオ・ナイトの甲殻」ですか・・・」
「全部でいくらぐらいになりそうだ?」
腕を組み、値打ちを考えるロヴェン。
「まあ、全部で銀貨100枚と言ったところでしょうか」
「銀貨100枚か」
この量で銀貨100枚はまあまあの収入だった。
手渡しでロヴェンから銀貨100枚を受け取ると、後ろでヒトリアが嬉しそうに飛び跳ねていた。
「剣二様!剣二様!これで今夜はおいしいものが食べられますね!」
「そうだな。今夜はおいしいものを食べに行こう」
「やったー!」
本当に子どもだな。
そんなことを思いながらも、もう一つのやるべきことをやっておく。
「後この素材で武器を作れるか?」
「スコルピオの紫電玉ですか・・・作れますけど、お好きな武器は作れませんがよろしいですか?」
「ああ、頼む」
「それでは少しお待ちください。今から作りますので」
ロヴェンは、スコルピオの紫電玉を使って武器を精製し始める。
「どのくらい時間がかかりますかね?」
「さあな。作ってもらっている以上、何時間でも待たなきゃいけないけどな」
「そうですね」
その後は静かにロヴェンを見守る。
そして、それから30分後・・・。
「完成しました!」
「ああ、ありがとう」
「弓ですね!とっても綺麗な紫色をしています」
「ヒトリア、武器を持ってみろ」
「はい」
店主から武器を受け取り装備するヒトリア。
なんだろう、凄く似合っている。
弓の綺麗な紫と防具の白に黄緑のラインが入った装備とうまく融合していた。
「よかったです。お客様は弓使いでしたか」
「弓使い?ヒトリアは元々剣を使ってたぞ」
「え?」
ロヴェンは驚いたような顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「いえ。本来、装備クラスは人それぞれ決められているので・・・お客様は珍しいです」
「そうなのか?」
今までにそんなことを考えもしなかった。
まあ、当然だろう。
与えていた武器が剣だけだったのだから。
それにしても、装備クラスが決まってないのは正直羨ましい。
なぜなら、中距離武器も遠距離武器も扱えるのだから。
変われるなら変わってほしいぐらいだ。
「剣二様!どうでしょうか?」
「ああ、いいんじゃないか?」
「もう少しちゃんと褒めてくださいよ!」
膨れるヒトリアの視線を回避するようにそっぽを向く。
まあ、やるべきことは全てやった。
後は・・・。
「店主、ありがとうな。行くぞヒトリア。飯の時間だ」
「あ、はい!ロヴェンさんありがとうございました」
「またのご来店をお待ちしています!」
弓を仕舞い、店を出て行く俺の後を追いかけるヒトリア。
こうして二人は、陽が落ちた夜の街に飛び出した。