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伝説の六宝剣による理不尽

 ・・・・お・・・・・!

 ・・・・・・い・・・!

 ・・・・・や・・・か!


 誰かが言い争いでもしているのだろうか。

 その声のトーンから察するに、恐らく男二人が言い争いをしているのだろう。

 意識が朦朧とする中、言い争いの声が鼓膜を通して伝わってくる。

 

 ・・・・・お・・・・き・・!

 な・・・で・・・・か・・な!

 ・・・ら・・・てに・・・・に!


 言い争いはヒートアップしていく。

 声のトーンが先ほどにも増して高くなっているのがよくわかる。


 ーー全く・・・騒がしいな・・・。


 どちらかが穏便に済ませれば、この争いは終着するというのに。

 その無謀な争いに溜息が出そうになるが、おかしな点に気が付いた。

 なぜ俺は、今の今まで気が付かなかったのだろうか。

 日々の疲れか?それとも何か面白いことを求めていたからか?

 どちらにせよ、まず初めにそれに気が付かなければならなかった。


 ーーあれ・・・?そういえば俺・・・一人暮らしだったような・・・。


 一人暮らしの家に他の人間が存在するのは明らかにおかしい。

 事の重大さにようやく気が付いた俺は、跳ね上がるように飛び起きた。

 泥棒が入ったのか?それとも不法侵入者か?

 そもそも、泥棒や不法侵入者が他人宅で揉め事をするはずがないのだが、人の家に勝手に上がり込むなど住居侵入罪に値する。


 だが双方どちらでもなく、罪に値することはなかった。

 瞬きを幾度となく繰り返すが、景色は一向に移り変わらない。

 視界の先に広がっていたのは赤いカーペットが辺り一面に敷かれ、豪華な造りの椅子に座っているご老人と部屋を囲むギャラリー。

 どう考えても俺の部屋じゃない。


 「ようやく目覚めたな」


 豪華な椅子に座るご老人が俺に優しく語りかける。

 まるで、プレイしたことのあるようなファンタジーゲームの世界の中みたいだった。

 どうやら、現実世界ではなさそうだ。

 なぜなら、こんなシチュエーションは俺のいた世界ではまずありえないからだ。


 「あの陛下。ここは一体どこなのでしょう?」


 この老人の正体、言うまでもなくこの国の王様に違いない。

 その証拠に金色に輝く王冠を頭に乗せていたからだ。

 いくら大学生と言えど、そのぐらいのことは容易にわかる。


 「ここは、ヘカベル。地図上の真ん中に位置する大国だ」


 聞いたことのない地名。

 どうやら異世界で間違いなさそうだった。

 だが、念には念を。

 俺は国王と思われる老人に、


 「なるほど。つまり俺は異世界召喚されたという解釈でよろしかったでしょうか?」

 「いかにも。貴君にはこの地に降り注ぐ「災い」に対抗する戦力になってもらう」


 俺は突然異世界召喚されたというのにも関わらず、なぜか冷静沈着、落ち着いていた。

 むしろ、このような状況に期待を胸に膨らませて興奮していた。

 出会いもなく、労働ばかりしていた学生時代。

 そんな刺激とは無縁で生きてきた俺には、このシチュエーションはご褒美でしかなかった。

 だが、問題なのは・・・


 「いきなり、戦力になれって言われてましても・・・武器なしの大学生の俺じゃ何もできないし、役に立ちませんよ?」


 実際ここでは大学生というステータスは全く使い物にならない。

 中距離攻撃や遠距離攻撃の一つや二つ持っていないと俺は戦えないぞ?

 募った不満が伝わってしまったのか、老人はすぐさま応じた。


 「大丈夫だ。異世界召喚される者は勇者にしか使うことができない「六宝剣」の装備クラスが宿っている」

 「「六宝剣」?」

 「そうだ、耳にしたことはないか?」

 「いえ、全く・・・」


 何かの書物にでも書かれているのか。

 どちらにせよ、聞いたことのない単語だということに間違いはなかった。

 聖剣や魔剣はよく聞くが、宝剣は聞かない。

 そんな俺に、宝剣とは何かを陛下はすぐさま教えてくれた。


 「全てを切り裂くロングソード。万能性が随一のファルシオン。強力な一撃をもたらすツヴァイハンダー。鎧をも貫通させるエストックソード。俊敏力を武器に敵を翻弄するタガー。その曲がった刃から致命傷の一撃を与えるシミタールソードの六種だ」

 

 剣の種類にも色々あるのだ。

 今までやったことのあるゲームは、大剣や太刀、短剣などマイナーなものばかりだった。

 ファルシオン?ツヴァイハンダー?耳にしたことのない剣の名前ばかりだ。

 そんな数々の剣を耳にしても俺からしたら・・・


 ーーなるほど・・・・・・・・剣って斬れればどれでも同じなんじゃないのか?


 中距離・遠距離攻撃を推す俺に違いなどわかるはずがない。

 そのせいで、「六宝剣」がどんなものなのかも想像がつかなかった。

 とりあえずは、相槌でも打って国王の話に合わせるとしよう。

 

 「なるほどなるほど、そのどれかが俺に宿っているということですね?」

 「そうだ。試しに装備ステータスを開き、クラスが何かを我に教えろ」


 教えろとは言われてもこちらは勝手に召喚された身。

 そんな術をもちろん知らなかい。

 ゲーム内ではオプションボタンを押せば何とかなるが、そんなボタンはどこにも見当たらなかった。

 試しに服についているボタンを二つ押してみるも、何も起こらない。


 観念した俺は、国王にステータスの開き方を聞いた。

 すると国王は溜息をつきながら、


 「はあ・・・勇者とあろう者がそんなことも知らないのか」


 なぜ、溜息をつかれなきゃいけないんだ?

 異世界に来て今日が初日、そんなことを知ってるはずない。


 俺は国王に対する文句を大声でぶちまけたかったが、これでも相手は国王。

 そんな無礼を働こうものなら極刑は免れないだろう。

 事は穏便に済ませなければならなかった。


 「とはいっても陛下。自分は召喚された身、向こうの世界にこのようなものがなかったために、分からないのです。どうかご教授していただけますか?」

 「ふむ、まあよかろう」


 ーーこの陛下マジむかつくな・・・。


 陛下の傲慢な態度。

 どうやら、この陛下は気に障るようなことしか言えないらしい。 

 だが、教授願えるだけまだマシだった。

 まあ、こっちは招かれた客もはずなのだが・・・


 「いいか?お主の視界の右端に装備ステータスというアイコンはないか?」

 「はい、あります」

 「それを押してみろ」


 指示通りにそのアイコンをタップしてみる。

 すると、画面いっぱいに装備ステータスが表示された。


 「これが装備ステータスか・・・」

 「そうだ。そしたら左上にクラスが表示されているだろう?それを読み上げろ」

 「あ、はい。クラスは・・・」


 ーーあれ?これって・・・。


 そこに書かれている単語に見覚えがあった。


 ーーいや、どう考えても見間違えるわけがないよな?だってこれって・・・。


 一拍空けて書いてあることを正直に言った。


 「「刀」って書いてあります」


 その瞬間、部屋全体が騒がしくなった。

 その言葉の一部では、「本当に勇者?」とか「信じられない」とかあまり気分がいいものではなかった。


 しょうがないだろ!そう書いてあるんだから。

 というか、俺は近距離攻撃より中距離・遠距離攻撃の方がいいんだが?


 この世界の勇者級の装備クラスは近距離武器しかないのだろうか。

 だったら、勇者クラスの武器にこだわる必要はない。

 中距離武器や遠距離武器で長々とこの異世界を満喫したい。


 そんな俺に対して、陛下は観衆が騒然としている中陛下がボソッと呟いた。


 「失敗作か・・・」


 ーー・・・・・・は?


 陛下は今何て言ったのか。

 失敗作と聞こえた気がするが、それは恐らく俺の聞き間違えだろう。

 観衆がうるさいせいでうまく聞き取れなかっただけだ。

 俺は陛下の解を聞こうともう一度尋ねた。


 「陛下、今何て言いました?」

 「失敗作だ。失敗作と言ったのだ」


 陛下は何の悪びれもなく断言した。

 いきなり失敗作と言われても、理解できるはずがなく、必然的に口論が起こってしまうのは世の定めだと言えるだろう。

 もちろん、俺もその例外ではない。


 「一体どういうことですか!」

 「言ったまんまだ、全く・・・異世界召喚にどれほどの魔法を使うと思ってるんだ」

 「そんなの知りませんよ!この武器だって俺が選んだわけじゃないですし・・・」

 「異世界召喚のために魔法を使った人間は魔法を失う。こちらは生贄を捧げたのに貴様は無能だったんだぞ?」


 ここにきて俺の堪忍袋の緒が切れるどころが大爆発を起こした。

 無理もないだろう。

 勝手に異世界召喚させておいて無能呼ばわりされたのだ。

 図々しいにもほどがある。

 どんな人間だって切れる時は切れる。

 俺も例外ではない。


 「ふざけんな!勝手に召喚しといて使えなかったら無能呼ばわりかよ!訂正しろ!」

 「貴様!陛下に向かってなんて口を聞くんだ!」


 陛下の右隣にいた兵士が、俺を咎めるが、こんな奴は眼中になかった。

 あるのは目の前で偉そうに居座っているクソジジイ。ただ一人だけだ。


 「そんなに気に入らないなら元の世界に返せ!俺だって望んでこの武器を選んだわけじゃねえんだよ!このクソジジイが!」

 「貴様!極刑に処すぞ!」

 「もうよい」


 なぜか隣で切れている兵士に陛下がなだめる。


 「残念ながら元の世界に送還する術がない。それに無能に無能と言って何が悪い?貴様は異世界人でありながら「六宝剣」に選ばれなかった雑種なんだぞ?」

 「てめぇらにはその権利すらないだろうが!候補にも選ばれない奴が良くもまあそんなことが言えたもんだな!?自分たちの方がよほど惨めだと思わないのか!?」

 「負け犬の遠吠えか?勇者ではない貴様にもう用はない。失った魔法師達の代償は大きいが、今回は見逃してやろう。早急に立ち去るがよい」

 「てめぇに言われなくてもこっちから出てってやる!」

 

 ーークソ、そんなに六宝剣が偉いのかよ。ただの近距離攻撃だろうが・・・。


 こんな連中のために「災い」に立ち向かう必要なんてない。

 俺は扉付近で待機していた兵士を突き飛ばし、王城を後にした。



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