ヒトリアの防具
カーテンに閉ざされることなく、眩い太陽の日差しが俺の顔に直射する。
「眩しいな・・・」
起きようと試みるが、体が重い。
もう一度寝ようとカーテンに手を触れようとした所、思い通りに手が動かなかった。
重りをつけられている感じだ。
「何なんだ・・・?」
その正体を確かめようと、俺は手の方を確認する。
「・・・は?」
重りの正体は確認できた。
だが、不可解な点が二つ。
まず一つ目、なぜ俺はベッドに寝ているのかということ。
次に二つ目、なぜ俺の腕を使ってヒトリアは寝ているのかということだ。
「どうしてこうなったんだ・・・?」
昨晩の事は記憶になかった。
確かに俺はベッドの側の冷たい床で寝ていたはずだ。
なのに朝起きたらベッドの上?
トイレで起きた記憶もないし、自らベッドに行ったとは考えにくい。
だとしたらなぜか。
全く理解できなかった。
とりあえず、腕枕で寝ているヒトリアを起こさなきゃいけない。
「ヒトリア、起きろ」
「んー」
「おい、起きろって」
「んー」
彼女の返事は曖昧な返事ばかりだった。
仕方がない、無理やりどかすか。
空いている片方の手を使い、無理やり退かそうとする。
だが・・・。
「んー」
「おい!ヒトリア!離れろ!」
ヒトリアが退かそうとする俺の手を抱きしめ始めたのだ。
もちろん、その輝く果実に押しつけられるわけで、
「おい!ヒトリア!」
「もう少しだけ・・・」
「勘弁してくれ!このままじゃ・・・」
理性が崩壊する。
ヒトリアはエルフの美女。
夢にまで見たエルフがこんなご奉仕をすれば、俺の理性は簡単に崩壊してしまう。
この状況はピンチであった。
「おい!ヒトリア!離れろ!」
「もう少しだけ・・・」
「もうその少しは経ったはずだ、離れろ」
「嫌です〜」
起きてるんだったら、さっさと起きて離れろよ!
と言いたい所だが、今のヒトリアはそんな言うことを聞くと思えなかった。
何が良い案はないものか・・・。
両腕が使えないこの状況でできることは一体何なのか。
そう考えた時、ふと良い案が思いついた。
「ヒトリア、さっさと防具屋行くぞ。その後にモンスターの討伐をするから時間が惜しい。早く準備しろ」
「えー」
「嫌なら無理矢理引き剥がして置いていくぞ」
「ごめんなさい。だから置いてかないで!」
すんなり俺の腕から離れ、飛び起きたヒトリア。
両腕が無事解放されたのだが、腕枕にされていた方には痺れが残っていた。
「全く。ほら、さっさと準備しろ」
「剣二様・・・怒りました?」
上目遣いで俺を見る。
俺に力があれば怒っていると言えるのに。
力不足のせいで本当のことを言えなかった。
「怒っていない・・・だから、早く準備しろ」
「よかった・・・すぐ準備しますね!」
そう言うと、ヒトリアは寝室を出ていった。
俺も着替えようと装備ステータスからメニューを開くと、ある事を思い出した。
「あ、そういえばなんで俺はベッドに寝てたんだ?」
不可解な事件の一つ。
まあそんなことは今更どうでもいいか。
この事件を未解決のまま終わらせようとし、着替えが完了するとすぐにヒトリアは戻ってきた。
「お待たせしました!」
「よし、それじゃあ行くか」
「はい!」
そして二人はクツェルから借りた宿を出て防具屋へ向かったのだった。
防具屋に着き、さっそく入店する二人。
店の中に入ると、女性の方が店番をしていた。
「こんにちは」
「あ、どうも。こんにちは」
「何をお求めですか?」
「この子の防具をと思ってな」
「なるほど、なるほど」
よく観察するようにヒトリアの周りをぐるぐる回り始める女性。
「ちなみに予算の方はどのくらいでしょうか?」
「そうだな、銀貨20枚で頼む」
「ちょっと!剣二様!いくら何でもそれは無駄遣いすぎます!」
ぷんぷんと怒るヒトリア。
だが、またダメにしたらと考えるとやはり良いものを買った方がいいだろう。
どうせ後でモンスターを倒しに行くのだ。
金なら問題はない。
「銀貨20枚で頼む」
「かしこまりました」
「剣二様!」
ヒトリアの意見は無視し、防具を選んでもらう。
そして、店員が持ってきたのはというと、
「これなんてどうでしょう?」
「少しヒラヒラしすぎじゃないか?」
「そんなことないですよ?ヒラヒラは女性にも人気なんですよ!」
女性のことはよくわからない。
だが、ヒトリアが「可愛い」と言っているのだからそうなんだろう。
「さっそく、試着してみますか?」
「お願いします!」
ヒトリアは、その装備を持って更衣室へ足を運び、数分が経った頃にヒトリアは戻ってきた。
「ど、どうでしょう?」
結論から言うと、とても似合っていた。
白がメインの装備でラインには黄緑を使った装備。
この装備がヒトリアの金髪とうまく融合し、まるで女神のようだった。
素直に褒めたいところだが、うまく褒めることができない。
「良いんじゃないか?」
「もう、もう少し褒めてくれても・・・」
「お客様とってもお似合いですよ!」
「ありがとうございます!」
ヒトリアはこの装備が気に入ったそうだった。
気に入ってもらわないと大切に使ってもらえないからな。
「いくらだ?」
「全部で銀貨18枚です」
俺はテーブルの上に銀貨18枚を置いた。
「剣二様!私が払います!」
「日頃の礼だ」
「でも・・・」
納得がいかないヒトリアを見た店員はこう告げた。
「ご厚意はしっかり受け取らないとだめですよ」
「そういうことだ。それよりモンスターを討伐しに行くぞ」
そう言い残し店を出る。
「あ、剣二様!すみません、ありがとうございました!」
「またのご来店お待ちしておりまーす!」
俺の後を追いかけるヒトリアに背中に声をかける店員。
二人はモンスターの討伐へ向かうのだった。