ヒトリアは一緒に寝たい!
今夜泊まる宿を探そうと必死に探す二人だったが、なかなか見つからない。
「まいったな」
「どこも満室ですもんね」
まるで、二人を泊めないかのように満室だらけの宿。
途方に明け暮れている二人の前に一人の男が。
「よお、坊主。何してるんだ?」
「宿を探してるんだが、どこも満室で」
「だったらいいところを教えてやろう。ついてこい。」
そう言うと、クツェルはある路地裏に入って行った。
クツェルの後をついていくと、宿らしき物件がそこにはあった。
「ここ好きに使っていいぞ」
「なんだ・・・?ここは」
首を傾げる俺にクツェルはドヤ顔でこう言う。
「ここは俺が所有する物件だ。二人には協力してもらうからな、少しは贅沢させてやらないと」
「ここに泊まっていいのか?」
「わかってねーなー坊主、貸切だよ。か・し・き・り」
「金はいくらだ?」
「そんなもんいらねーよ。俺のもんなんだから」
そんな夢の物件があっていいのだろうか。
さすがは勇者といったところだ。
待遇がいいのだろう。
それに比べて、俺は異世界からの落ちこぼれ。
待遇は良いどころか最悪だった。
だから、こんな善人に嫉妬してしまう。
だが、今は泊まる所を確保するのが最優先だ。
「ここを好きに使って良いのか?」
「だからそういってるだろ。災いが終わるまでここで暮らしとけ」
「・・・お前って本当はいい奴なんだな」
「今更気づいたのかよ」
宿を借りるつもりが、拠点となる物件を借りてしまった。
嫉妬はするが彼には感謝しなければならない。
「ありがとな」
「いきなり照れ臭いこと言うなよ。それじゃ俺はこの辺で失礼するわ」
そう言うと、クツェルは物件を出て行った。
「クツェルさん、良い人ですね」
「ああ、この礼は災いで返さないとな」
「そうですね」
とりあえず、物件の隅から隅で確認する。
キッチン、トイレ、お風呂、リビング、洗面所。
一通り全て揃っていた。
だが、ある問題があった。
「どうしましょう。ベッドが一つしかありません」
この家はクツェルが使っていたのだろう。
一人暮らしをしていたのかベッドタイプがシングルベッドだった。
こうなれば仕方がない。
「俺は床で寝るからヒトリアはベッドで寝ろ」
「いや、剣二様がベッドで寝てください!私が床でいいので」
「ダメだ。ヒトリアは女の子なんだからベッドで寝ろ」
「女の子・・・」
ヒトリアはそう言うと、突然動きが停止した。
なんだ、その乙女が恋したような顔は。
こっちまで恥ずかしくなるだろう。
その窮地を打開しようと俺は口を開いた。
「とにかく、ベッドはヒトリアが使え」
「だったら・・・」
「なんだ?」
「だったら、一緒に寝ませんか!」
なんでそうなるんだ!?
ヒトリアは子供のような性格をしているが、目の前にいるのは立派な大人の女性。
それが気恥ずかしいからヒトリアが一人でベッドを使えと言っているのに。
「私、剣二様と一緒に寝たいです・・・ダメですか?」
そんな顔するなよ。
こっちが困るだろ。
その悲しそうな顔は俺を苦しめた。
そして悩みに悩んだ末、俺が出した答えは、
「・・・わかった、一緒に寝よう」
「やった!剣二様ありがとうございます!」
「それより、先に風呂入っちゃえ」
「剣二様も一緒に・・・」
「入りません」
ヒトリアは「ちぇー」と言いながら風呂場へ向かっていく。
「さて、大変なことになったな・・・」
俺は元の世界で女の人と寝たことがなかった。
しかもあんなにも可愛い美女。
彼女に関係を迫って国外追放されたが、今日ここでその禁忌を犯してしまうのかも知れない。
「どうしたものか・・・」
ベッドに横になり天井を見上げながら考える。
ベッドは人間に安らぎを与える一位二位を争う神聖な場所。
そんな安らぎに対抗できるわけがなく、剣二はそのまま夢の世界へ潜り込んでしまった。
「剣二様、起きて。剣二様」
誰かが俺を呼んでいる。
細めをしながら振り返ると、そこには肩を露出させた白い服を身に纏うヒトリアの姿が。
「んー?なんだ?ヒトリア」
「ちゃんとお風呂には入ってください」
「ああ、わかった。今行くよ」
ベッドから起き上がり、お風呂場へ向かおうとする。
「・・・ん?」
俺はある違和感を覚えた。
「ヒトリア、白い服持ってたっけ?」
俺の知る限りヒトリアはそんな服を持っていなかった。
それじゃあ、彼女は何を着ていたのか。
通った道を振り返ると、ヒトリアの姿があったのだが、
「ヒトリア!なんて格好してるんだ!」
「え?」
そう、ヒトリアはバスタオル一枚だったのだ。
流石に驚きを隠せない。
その胸部を押し上げる二つの果実があらわになっていた。
正直、目のやり場に困る。
「ったく、ちゃんと服に着替えろよ?」
「はーい」
そう言い残し、俺は風呂場へと向かった。
そして三十分して風呂から出た後、ヒトリアがいるであろうベッドの方へ向かうと、すでに彼女は就寝についていた。
「疲れてたんだな・・・」
可愛い吐息を立てながら寝ている。
起こすのも悪いので、つけっぱなしだった灯を消し、俺は冷たい床の上で寝るのだった。