種族の過去
この女性は剣二様と言ったのか?
だとしたら、この女性はヒトリアなのか?
だが、ヒトリアはこんな立派な女性ではない。幼い子供だった。
どう考えても、ヒトリアではない。
「悪い。仲間を探さないといけないんだ。それじゃあな」
「そうなのですか?」
その女性をその場に残し、立ち去ろうとする。
だが、なぜかその女性も後をついてくる。
「なんだ?行き先が一緒なのか?」
「え?剣二様?何を言ってるんですか?」
「は?」
「約束したじゃないですか・・・ずっとついて行くって・・・」
「は!?」
待て待て。
状況が全く理解できない。
だが、もしかしてこいつは・・・。
「ヒトリアなのか?」
「何言ってるんですか?当たり前じゃないですか・・・」
「は!?いや、ヒトリアって幼い子供だろ。少なくとも俺の知っているヒトリアとはかけ離れているのだが?」
戸惑う俺を目にしたヒトリアは、何かを思い出したように告げた。
「あー、そういえば言ってませんでしたね」
「何がだ?」
「私・・・、人種じゃないんです」
「・・・は?」
これは夢なのだろうか。
だが、いくら頬を引っ張っても目に見えるのは大人姿のヒトリア。
夢じゃない。現実なんだ。
そういい聞かせるもなかなか信じることができない。
「ヒトリアは、なんでこんな姿になったんだ?というかお前は一体何者なんだ?」
「そうですね・・・私は・・・」
その後にこう綴った。
「妖精種のエルフ族なんです」
「妖精・・・エルフ・・・」
「はい、魔法値を全て使い切ってしまうと、幼女の姿になってしまうのです・・・」
ゲームや小説などに登場するエルフ。
夢に見たエルフの登場なのに何か引っかかる。
そうか、そうだ。
なぜ、エルフが人間の奴隷になっているのかが引っ掛かっていたんだ。
エルフは、一般男性にとっては「女神」と言っても良いほどの人気種族のはずなのに、なぜ奴隷にされていたのか。
俺は思いのままヒトリアに伝えた。
「なんで、エルフが人間の奴隷にされてるんだ?」
「それが・・・」
言いたくなさそうな顔色だったが、ヒトリアは意を決して、
「歴史は遡り、エルフ族がまだ人間の奴隷になる前の話です。初めの災いが起こり、エルフ族は壊滅状態。絶滅しか残された道がありませんでした。その状況に手を差し伸べたのが人間だったのです。人間は私達エルフ族に食料と復興支援を施してくれました。だが、そこから悪夢は始まっていたのです。」
「どういうことだ?」
「エルフの女王であるエルフミーラが人間に何か恩返ししたいと提案しました。そしたら人間は、エルフは希少価値が高いから売ってくれと言ったのです。もちろん女王は拒否の意思表示をしました。しかし、その態度が気に食わなかったのか、人間はエルフ領を攻撃してきたのです。そして十余りのエルフが捕まり、王国へと連れ去られたのです。そして、繁殖を試みたある貴族が性交するよう強要してきたのです」
「じゃあヒトリアは・・・」
「はい、それによって生まれた子供ということです。そして、エルフが幼女化するのは奴隷による労働と精神的ストレスが原因なのです。」
何て胸糞悪い話なんだ。
もの扱いしかしないその態度に腹だたしかった。
全ては儲けのためか?
本当にこの世界を牛耳る奴はクソしかいないな。
だが、先ほどの話に違和感があった。
「なあ、ヒトリア」
「何ですか?」
「俺もヒトリアに食料とか施したんだけど、警戒してなかったよな?それはなんでなんだ?」
ヒトリアはこの話を俺に会う前から知っているはずだ。
だとしたら、人間である俺を警戒したはずだ。
その答えは至って単純だった。
「それはですね・・・」
ヒトリアは照れ臭そうに、
「剣二様の瞳は暖かくて、一人の少女として見てくれたからです」
「それだけか・・・?」
「それだけです」
「ヒトリアは騙されやすいタイプだな。気を付けた方が良いぞ?」
「そうかもしれませんね、気を付けます・・・」
二人の間に自然と笑みが零れる。
「それじゃあ、ヒトリアは人間が憎いのか?」
「そういうわけじゃないですけど・・・」
「優しさはいつか報われるからな」
「え・・・どういう・・・」
俺は「装備庫」の中から自分が元々着ていた服を取り出した。
「これ着ておけ、ブカブカかもしれないけどな」
「え、そんな・・・申し訳ないです・・・」
「ヒトリア。自分の今の格好をみてまだそんなこと言うのか?」
「へ・・・?」
ヒトリアは視界を下に落とすと、そこにはくまさん入りの服はなく、すっぽんぽんの自分が映ってた。
「ひゃ!」
「だから、これ着ておけ」
「ありがとうございます・・・」
恥ずかしながらも、俺の服を受け取るヒトリア。
まさか、みんなが夢見るエルフに悲惨な過去があったなんて。
その場に居合わせていなかった自分を咎めてやりたい。
「やっぱりブカブカですね・・・」
「どこかの街に入れるようになったら服を買ってやるから、もう少し我慢してくれ・・・」
「そんな、勿体無いですよ」
「気にするな」
「気にしますよ!なんなら私が自分で素材を換金して払います!」
「そうか、まあとりあえずは街に入れるようになるまで辛抱してくれ」
「わかりました、街に入れるようになればぐっすり寝れるので、早く入れるようになればいいですね・・・」
「いや、それは違うだろ。お前はいびきかいてぐっすり寝てただろ」
「か、かいてません!」
「いや、すぴーすぴーって・・・」
「かいてません!」
顔を紅潮させて反論するヒトリア。
別にいびきは恥ずかしがることじゃないだろ。
そんなくだらない雑談をしながらも、俺達はいつ起こるか分からない「災い」に向けて今日も一日行動を起こすのだった。