一日の夜明けと共に
「さて、魚も取れたことだし、薪でも探しに行くか・・・」
「薪ですか?」
「焼くために必要なんだ」
「薪って、何ですか?」
「まあ、後で教えるよ」
「はい!」
まあ、探しに行くと言っても周りに木の類が存在していないのは誰にでもわかることだった。
そのぐらい広い範囲で草原は広がっていた。
「どうするかなー。なあ、ヒトリア」
「何ですか?」
「この近くに木がたくさん集まっている所はないか?」
「そうですねー」
人差し指と親指を顎に乗せ、唸りながら深々と考える。
すると、ヒトリアは何かを思い出したような反応を見せた。
「どこにあるのか知ってるのか?」
「はい、貴族の方に連れて来られた時に一度だけ・・・」
「ここからどのぐらい時間掛かるかわかるか?」
「詳しいことは分かりませんが、馬車で20分ぐらいでしょうか」
「結構遠いな」
だが、行かなければこの草原の上で生涯を終えるだけだ。
遠くても、多少は我慢して歩かなきゃいけないよな。
「ヒトリア、歩けそうか?」
「はい!私なら大丈夫です!」
「そうか、行く途中にモンスターもいるはずだから戦闘の練習もしよう」
「はい!私頑張ります!」
「その意気だ。行くぞ」
「はい!」
馬車で20分となると、徒歩では単純計算で40分ぐらいだろうか。
それに加えてモンスターの討伐を計算に入れると、かなりの時間と労力を費やす。
そして、俺たちが森林に到着したのはそれから2時間後のことだった。
太陽が沈みかかる前に何とか到着できてよかった。
「太陽が沈む前にさっさと済ませるぞ」
「はい!薪?というものを探せばいいんですよね?」
「ああ、だが、わからないだろ?」
「まあ、そうですけど・・・」
「そうだな・・・」
生い茂る木々の中から何とか薪を見つけることができた。
「こういうやつだ。よく覚えておけ」
「説明がアバウトすぎます・・・もう少し詳しく教えてもらわないと・・・」
「説明のしようがないだろ」
「確かに似てますから説明しづらいのは分かりますけど・・・」
納得の答えが貰えず、頬を膨らませるヒトリア。
木は似たような切り口をしているから仕方ないだろ。
そんなことはさておき、今度はすぐにでも鎮火ができる川付近に移動しなければならない。
だが、こうしている間にも陽が落ち、茂みに覆われたこの空間は一段と暗さを増していた。
「急ぐぞ、ヒトリア」
「は、はい!今度は?」
「川の近くに移動するぞ」
「魚は沢山取りましたよ?」
「そうだが、今度は火を消すために必要なんだ」
一件、正論を言っているように聞こえるが、明らかな矛盾が発生していた。
その矛盾をヒトリアは見逃さなかった。
「あの、剣二様」
「なんだ?」
「それなら、昼に魚を捕る意味なかったんじゃ・・・」
「・・・いいか?ヒトリア」
「はい」
「もし、今から行く川に魚がいなかったらどうするんだ?」
「あ、なるほど。さすがは剣二様です!」
「それより探すぞ」
「はい!」
正直、危なかった。
こんなことで信頼を失われたらたまったものじゃない。
だが、不幸中の幸いなのか川の発見に至らなかった。
火も落ち、辺りが真っ暗になりかけていた。
「仕方がない。ここにスペースがあるからここで今日は休憩しよう」
「分かりました。私は何を手伝えばいいですか?」
「今日の戦闘で疲れただろう?休んでていいぞ」
「そんなわけにはいきません。何かお手伝いさせてください!」
「そうだな。俺は火を起こすからヒトリアは魚にこの木の棒を指していってくれ」
「分かりました!」
そして各自が黙々と作業を進める。
無事に火を起こすことができ、それと同時に魚の準備が完了した。
「ヒトリア、その魚を火の近くに刺してくれ」
「こうですか?」
「そうだ、他の魚も全部」
指示通りにヒトリアは1本ずつ、丁寧に刺していった。
「全部終わりました!」
「よし、そしたら焼けるまで待機だ」
「わかりました!」
鼻歌を歌いながら焼き上がるまで待機するヒトリア。
その光景は何だか微笑ましいものだった。
「そろそろいいだろう。ヒトリア、食べていいぞ」
「わーい、あれ?剣二様は?」
「俺はあんまりお腹空いていないからな。食べれそうなら食べていいぞ?」
「ダメですよちゃんと食べなきゃ。ほら!あったかくておいしいですよ?」
「確かに、おいしそうだな」
「でしょー?」
するとヒトリアは俺の横に移動してきて、もぐもぐ魚を食べ続けた。
その様子はなんだか・・・。
「本当に子どもだな・・・」
「ん?何ですか?」
「いや、何でもない。うまいか?」
「うん!」
「それはよかった」
その後もむしゃむしゃ魚を食べて満腹になったのか、木の棒を持ったままうとうとし始めていた。
「眠いのか?」
「眠く何てありません・・・」
「フラフラじゃないか。ほら早く寝ろ」
「はーい」
するとヒトリアは俺の膝で寝てしまった。
「おい、ヒトリア」
「すぅ・・・すぅ・・・」
「しょうがない・・・」
ヒトリアから目を逸らし、焚火の方を見てみると魚が一匹残っていた。
残してくれたのか?
ほっておいても焦げるだけだし、彼女の行為に甘えさせてもらおうかな。
そして、俺は魚を口にする。
だが・・・。
「・・・あんま美味しくないな」
こうして、俺の長い夜との戦いが幕を開けた。
まずは、身の安全の確保をしなくてはならない。
俺たちが寝ている間にモンスターに襲われるかもしれないからだ。
他にも他やるべきことは山ほどある。
だが、人間は三大欲求に打ち勝つ術がないのは当然の結末で、どうやら俺は寝てしまっていたらしい。
次に起きた時には、太陽が東から顔を出していた。
「寝ちゃったか・・・ヒトリアは・・・え?」
ヒトリアを探したがどこにもいなかった。
その代わりに、全てが生まれたての女性が俺の膝の上で気持ちよさそうに眠っていた。
これを驚愕と言わずに何を驚愕というのか。
「うお!」
突然の出来事に、俺は思わず立ち上がった。
俺の膝の上で眠っていた女性は、膝から落とされたのだから当然起きてしまう。
そして、頭を痛そうに撫で続けながら放った言葉があまりにも衝撃的過ぎた。
「おはようございます。剣二様」