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二人の約束

 ヘカベルは、この世界の中心にそびえ立つ巨大な国家だった。

 どの門を抜けても、どこかしらの国には辿り着けるだろう。

 だが問題なのは、あのクソ貴族の情報伝達速度がどのくらいのものかということだ。

 もしかしたら、すでにこの世界に俺の名前が知れ渡っているかもしれない。

 見知らぬ王国に入って殺さる運命を想像するだけで、俺たちはどこにも行くことができなかった。

 だから、当分先はモンスター狩りをしながら野宿するしか道はない。


 「今日もたくさんサファイア・ミネラルが湧いてるな・・・」


 昨日も見た綺麗な草原の光景。

 だが、なぜだろう。

 何も感じない。

 感じることができなかった。


 「剣二様・・・」

 「なんだ?」

 「その・・・ご、ごめんなさい」

 「ヒトリアが謝ることじゃないだろ」

 「でも、私のせいで・・・・」

 「お前のせいじゃない。あの国がおかしいんだ」


 誰がどう見たってあの国が圧倒的におかしい。

 もし、その事件が真実かどうか見極めるなら、第一の被害者であるヒトリアに尋問するはずのが筋ってもんだ。

 それなのに、その被害者に「勝手に喋るな」だ?

 頭が湧いているようにしか思えない。

 それに被害者ぶっていた、あの貴族。


 「クソ、思い出すだけでも腹が立つな」


 だが、今は生き延びるしかない。

 そのためには、することは一つだった。


 「ヒトリア、その剣を抜け」

 「・・・・え?」

 「サファイア・ミネラルを倒すんだ」

 「む、無理です・・・」

 「やってみないとわからないだろ。それに「災い」が来た時、ヒトリアを守れるだけの力が俺にはない。だから自分の身ぐらい守れる力があってもらわないと困る」

 「でも・・・」


 恐らくモンスターと対峙したことがないのだろう。

 だが、それは俺も同じことだ。

 ゲームでしか倒したことのないモンスターを昨日一日で200近く倒したのだ。

 出来ないはずがない。


 「ヒトリア、剣を抜け」

 「・・・はい」


 ヒトリアはゆっくりと青く輝く剣を引き抜いた。


 「いいか?よく聞け。モンスターだからと言って怖がってはいけない。重要なのは生き残ることだけを考えるんだ」

 「生き残る・・・」


 なぜこんなことを言ったのか?

 それは、モンスターを前にしたヒトリアが硬直していたからだ。


 「生き残る・・・生き残る・・・」


 言い聞かせるように言うヒトリアの体から緊張が解けていくのが目に見えてわかった。


 「やるんだ!」

 「や、やああああああ」


 力を振り絞るように剣を縦に振るも、サファイアミネラルの硬さに弾かれてしまった。


 「もっと力を込めるんだ!」

 「やああああああ!」


 だが、結果は一緒だった。

 その弾かれた隙を突かれ、サファイア・ミネラルが攻撃をヒトリアに仕掛けた。


 「ヒトリア危ない!」


 刀を素早く取り出し、サファイア・ミネラルを斬り刻む。


 みええええええ・・・


 奇妙な声を上げながら、サファイア・ミネラルが消失した。


 「危なかったな・・・」

 「剣二様、凄い・・・」

 「こんなの大したことないさ、それより怪我はないか?」 

 「私なら大丈夫です・・・それより、ごめんなさい・・・」


 落ち込むように俯くヒトリアの頭を撫でようと手を伸ばす。

 ヒトリアは肩をびくっと動かし全てを受け入れたように口を結ぶ。

 だが、俺はどこぞの貴族とは違い、暴力で解決することは決してない。


 「え・・・・?」

 「少しづつ慣れて行けばいいさ・・・」

 「剣二様・・・」

 「だから、もうそんな顔するなよ。な?」


 ヒトリアの目からは綺麗な涙が零れ落ち、最高級の笑顔で返事した。


 「はい・・・!」

 「よし、そろそろ昼にするか」

 「はい!あの剣二様?」

 「なんだ?」

 「どうしたら強くなるのかもっと教えてください!」

 「ああ、飯食った後でな?」

 「わかりました!」


 とりあえず、食材を確保しなければいけなかった。

 だが、食材ってどう集めるのか知るはずもない。

 辺りを見渡しても草原色一色。


 「仕方ない。少し動くか・・・ヒトリア動けるか?」

 「私なら大丈夫です!」

 「じゃあ行くか」

 「はい!」


 ヒトリアは嬉しそうな顔で俺の手を握る。


 「手を握る必要があるのか?」

 「ダメですか?」


 そんな上目遣いで見てくれるな。

 断りづらくなるだろう。

 しかし、ヒトリアの手はやはり小さい。

 こんな子供を奴隷にしてたのか。


 俺は貴族を含めた、奴隷を見て見ぬふりをする王族を許せなかった。

 そんなクソみたいな奴らは「災い」で滅んでしまえばいいのにな。


 「あんなやつら、どうなったっていい・・・」

 「どうしたんですか?」

 「いや、何でもない」


 もう奴らのことを考えるのはやめよう。

 すると、ヒトリアはある物を発見した。


 「剣二様!川です!川があります!」

 「ヒトリアは川を見たことがないのか?」

 「あんまり外の世界に出たことがないので・・・」

 「そうか、じゃあこれからは色んなことを学ばないとな」

 「どういうことですか?」

 「見てみればわかるよ」


 首をかしげるヒトリア。

 無事に川に着いた俺達は、さっそくある作業に取り掛かった。


 「ヒトリア、そっち行ったぞ?」

 「え、あわわわわ・・・」

 「なんだ?魚が怖いのか?」

 「ち、違います!魚は好きです!」

 「だったら取れるだろう?」

 「うぅー。剣二様はいじわるですー」


 俺達は魚を取ろうと試みるが、手で取ろうとすると滑ってなかなか捕獲とまでいかない。


 「どうしたものか・・・」

 「や!」


 何やらヒトリアは魚と戦っているらしい。


 「や!」

 「ヒトリア、大丈夫・・・」


 その光景に目を疑った。

 なんと、ヒトリアは二匹の魚を捕獲していた。

 その捕獲方法はというとーーーー、


 「・・・何してんだ?ヒトリア」

 「え?魚を捕まえてるんですよ?」

 「いや、そうじゃなくてだな・・・」

 「???」


 頭の上に?マークが見えそうなぐらい、困惑した顔をしていた。

 全く、それは普通にないだろう。

 俺は思ったことをストレートに伝えた。


 「なんで剣を使ってるんだ?」

 「え、この方が捕まえやすいですよ?」

 「動いている魚の尾びれを狙って刺し捕まえるのはある意味凄いと思うぞ?」

 「そうなのですか?」


 そう、ヒトリアは魚の尾びれに剣を刺して捕まえていたのだ。

 天才の他に思いつく言葉が見つからなかった。


 本当は凄い奴なんじゃ・・・。


 「剣二様もやってみてください!」

 「いや、俺は遠慮しておく。ちょっと疲れたから休んでる」

 「はい!わかりました!そのうちに沢山捕まえておきますね!」

 「たのんだ」


 俺が休憩を選んだ理由。

 それはプライドが危ういと感じたからだ。

 同じ時間を費やして、ヒトリアの方が多く捕まえられていたら俺の尊厳が失われてしまう。

 だから、戦略的撤退をしたわけだ。

 決して逃げたわけではない。

 そう自分に言い聞かせている間にも、ヒトリアは沢山魚を捕獲していた。

 それを唯々眺めていた。


 それからどのぐらいの時間を使っただろう。

 ヒトリアは疲れ果てたのか、魚を両手いっぱいに持って俺の元に戻ってきた。


 「剣二様ー。沢山捕まえましたー」

 「よくやったな。ニ十匹か。よく捕まえたな」

 「私、頑張りました。だから頭なでなでしてください」

 「なんでそんなことを・・・」

 「おねがーい」


 だから、上目遣いでみるなよ。

 断りづらくなるだろ。

 だが、まあ今回はヒトリアのお手柄だ。

 ご褒美は必要だろう。


 「ちょっとだけだぞ?」

 「わーい!」


 そして、その綺麗な金髪を優しく撫でる。


 「えへへー」

 「どうした?」

 「愛を感じまして・・・」

 「やめてもいいか?」

 「嘘です!だからやめないでください!」

 「全く」


 しばらくの沈黙がその場に流れ、その沈黙を破るようにヒトリアは笑いながら口を開いた。


 「ふふ、やはり剣二様は優しいですね」

 「店主にも言ったが、俺は元から善人だ」

 「そういえばそうでしたね」


 二人の会話の中に笑いが生まれ、場が和んでいくのがわかる。

 ヒトリアを助けられて良かったと思える瞬間だった。


 「剣二様」

 「なんだ?」

 「私、剣二様がどこに行こうとついて行きます」

 「それは頼もしいな」

 「だから・・・」


 ヒトリアは意を決して言った。


 「死なないでください」

 「ああ、ヒトリアを置いて死なないよ」

 「本当ですか?」

 「ああ、約束だ」

 「約束です!」


 指切りをする二人の旅はまだまだ続くのだった。


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