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第三話 騎士夫婦・前編

久しぶりに主人公視点で、二人の結婚にまつわるお話を。全体的にゆったりしています。

 俺とココは結婚した。

 彼女は「正騎士試験に合格したら結婚しましょう」と言っていたものの、仮にも貴族のお嬢様なのだから、準備に日数がかかるだろうとのんびり構えていた。


 詳しいことは平民の自分には分からないが、貴族は布を選んだり刺繍を施したり家具を吟味したりと、新しい暮らしに必要なものを揃えるのにじっくりと時間をかけると聞いていたからだ。

 しかし、ふたを開けてみれば本当にすぐだった。フリクティー王国から帰還し、両家への挨拶を済ませて王都へ戻って数日後。ココは俺の腕を取り、にっこり笑って告げたのだ。


「準備が整ったと連絡がありましたから、早速行きましょう」

「へ? 行くって、どこにだよ?」

「決まっているじゃありませんか。スウェルです」


 いやいや、まさか結婚式の準備が完了した話だとは誰も思わないって。

 いつの間にやら休みの申請までされていて、俺は気付けばスウェルの教会の前に居た。まさに電光石火の早業はやわざである。


「そ、そんなに急がなくても、式場もドレスも逃げたりしないだろ」


 勢いに面食らってしまい、素直にそう伝えたらココは首をふるふると横に振る。


「式場もドレスも逃げませんけど、一番肝心なヤルンさんが、他の女性に奪われてしまったら意味がありません」


 またそれか。そういうのは杞憂きゆうって言うんだ。心配性なところまであの師匠に師事しなくて良いんだぞ。


「……俺はむしろ、ココに求婚する男が現れる確率の方が、ずーっと高い気がするぜ?」


 ある日突然、デカい花束を持って現れ、ココをかっさらっていく爽やかイケメンを想像する。所謂いわゆる「白馬の王子様」って奴だ。女子はああいうシチュエーションに憧れるものなんだろ?

 ところがそれは違うようで、貴族から求婚されるには彼女はもう年齢が高いそうだ。普通、御令嬢はもっと若い時に婚約相手を決めてしまうらしい。


 以前にココの両親から届けられた縁談は、家同士が強い繋がりを求めたからこその話だったようだ。


「言われてみりゃあ、もうすぐ20歳(はたち)だもんな」

「後妻や第二・第三夫人なら、話は別でしょうけどね」


 嫌な話だし、そうなった彼女を想像してみても「ココらしさ」は感じられない。

 美しく着飾った貴婦人達とお茶会に舞踏会にと表面上は上手くやれても、いつか我慢の限界が来て家を飛び出しそうだ。……割とすぐかもな?


「じゃあ平民なら、ってのはもっと難しいか」


 えて口にするまでもなかった。誰より自分自身が無意識に感じてきた壁だ。「好き」という感情だけで簡単に一緒になれるほど、この国の身分制度は甘くないのである。

 俺達が結婚出来たのだって、正騎士になれたこととセクティア姫という強大な後ろ盾があったおかげなのだから。


「あんな強引な仲人なこうども、あんまり居ないだろうがな」

「うーん。意外と『仲人さん』は、皆さんああいった感じかもしれませんよ?」

「終末からの使徒かよ」


 なんて言っても、ココの場合はこうと決めたら何をしてでも成し遂げてしまいそうな気もする。ま、俺だって夢に関しては自分を曲げるつもりは一切ないし、人のことは言えないけど。


「それに」


 彼女は再びくすっと笑って言った。


「『白馬の王子様』より、『魔導書を構えた騎士様』の方が何倍も格好良くて魅力的です」


 その価値観もどうなんだ?



 とにかく、式はビックリするほど滞りなく執り行われた。

 普段は訓練や仕事のためにあまりしていない化粧を家の侍女達にされ、真っ白いドレスに身を包んでヴェールを着けたココは息を呑むほどに美しかった。

 香油こうゆを塗り、複雑に編み込んだ青い髪もツヤツヤと常ならぬ輝きを放っている。


「き、綺麗だな」

「ありがとうございます」


 贈った精一杯の賛辞に、心の底から嬉しそうに笑む顔を正面から直視してしまい、胸が詰まる。


「おめでとう!」

「おめでとうー!」


 晴天の下で、両家の家族や親族、そしてちゃっかり参加していた師匠とキーマが盛大に祝ってくれたあの時間は、きっと忘れないだろう。



 ――などと感慨深げな心地に、柄にもなく浸っていられたのもここまでだった。


「わ、立派ですね……!」

「まま、マジでこれを俺達にくれようってのか!?」


 王都に戻ってみると、お姫様がデカ過ぎる「お祝い」を用意して待っていたのだ。なんと、王城すぐ近くのそれはそれは豪華な邸宅である。

 お祝いを渡すと言っておきながら、城の外にまで連れ出されるなんて妙だと思ったらこれか。案内役を務めてくれた姫付きの使用人はにこりとんで頷く。


 今は誰にも使われていないのに丁寧に刈り込まれた庭の木々、がっしりとした趣の扉や壁、それから明るい色の屋根。磨き上げられたのか、新築みたいに隅から隅までピカピカである。


「二人でここに住めって? ちょっと、いやかなり立派過ぎだろ」

「かもしれませんね……」


 王城の傍というこれ以上ない好立地なだけはあり、周囲には上級貴族のものと一目で分かる屋敷がこれでもかと建ち並んでいる。

 どこも庭が広々としているから密集感はないにしろ、まさしく「高級住宅街」に相応しい光景だ。


「ウチの実家が何個も入りそうだな」


 あくまで地方貴族の滞在用の別邸として作られたらしいこの家は、それらに比べれば小さいかもしれない。でも、平民生まれ・商家育ちの俺にしてみれば確実に文句なく「豪邸」だった。

 一応、恐々としつつ中も見せて貰ったが、絶対に平民が住んで良いレベルの「お宅」じゃあない。


「本当に立派で素敵なお家ですけど、これは……」


 実家はどんなに立派でも、なり立ての騎士二人で住むとなると不相応だとココも感じたらしい。最初こそ嬉しそうだったが、今や顔に冷や汗をかいている。

 ……まぁ、潔く辞退しに行っても、姫に無理やり押し切られちまったんだけどな。



「荷物の移動、これで何回目だ?」

「えぇと、大きな移動はスウェルからウォーデン、それからこの王都に送って頂きましたから、お引越しは三回目でしょうか」


 結局、方々に立ち寄って報告と挨拶と書類上の手続きを済ませてから、俺達は引っ越すことになった。


 まずは騎士寮の自室から転送術で荷物を移動させ、他に必要なものは追々買い揃えていくことに決める。今は屋敷の玄関部分に広げまくっている状態だ。

 せっかくスペースが十二分にあるのだから、使わない手はない。誰か来たらどうするんだって? 幻でもかけて全力で誤魔化すっ!


「少ないと思っていましたけど、こうしてみると結構ありますね」

「王都に来てからも、色々と貰ったり買い込んだりしたからな」


 剣や水晶が詰まった箱もあれば、フリクティー王国で手に入れた薬草類などもある。


 読書家のココは圧倒的に本が多いようだ。「ちょっと見せてくれ」と断って、俺はタイトルを目と指先でさらっていく。どれどれ?

 魔術に関する本以外にも、料理のレシピや物語などがある。……おっ、これ面白そうだな、後で貸して貰おうっと。はは、この調子じゃあしばらくは本の虫かもな?


「実に興味深いです」


 逆に彼女も俺の蔵書をしげしげと眺めている。だ、大丈夫だよな? 見られて困るような変な本はないはず……!

 ちなみにこれらの本の保管場所として書庫を設けることも決定済みだ。扱いに注意が必要な魔術書も少なくないため、扉に魔術錠をかけておくことも同様である。


「新しく買うものもそんなになさそうで、良かったですよね」

「だな」


 なお、家具は以前のこの家の持ち主が置いていったものがある上に、お互いの家族がお祝いの品としても準備してくれていた。

 山積みになった本から目を離したココが、荷物を見渡して安堵の表情を浮かべている。


 部屋もかなりの数に上るのだ。全てを自分達で一から整えなければならなかったらと思うと、ゾッとしてしまう。多少、経年劣化はあるにしても、元の持ち主には感謝してもしきれなかった。

本編の第八部第十話以降の改稿を始めました。

主にヤルンの言動に関する記述です。

お読み下さった方には分かると思いますが、あまりにヘタレ過ぎるのでもう少しシャッキリさせたいと思います(苦笑)。

※大幅改稿ではありません。ご安心ください。

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