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第一話 お姫様の拾いもの・後編

続きです。王都にヤルン達を引っ張り込んだところからになります。

「人を荷物みたいに突き飛ばしやがって」


 ヤルンに魔術学会から引き抜きの動きがあることを察知した私は、ウォーデン領にある魔術学院へ出向していた彼らを、強制的に王都へと移動させた。


「問答無用で転送術で飛ばすってのはどういう了見りょうけんだ、あぁ? 死ぬかと思ったんだぞ!」


 さすがに温和なシンにもいさめられたし、少々乱暴な移動方法にはヤルンも不服がありそうだった。

 が、三人揃って騎士見習いとして召し抱えると伝えることで、場を丸くおさめることに成功した。……したのよ。


 そこからの毎日は本当に楽しいものになった。オルティリトが愛弟子のために作った魔導具のカフスは飛ぶように売れたし、ヤルン達がいればちょっとしたお出かけも遠出も思いのままだ。

 こんなに心が躍ることは、他には乗馬くらいしか思い付かない。


 私の双子の子ども達――シリルとディエーラに魔力があるのを突き止めたことには驚かされたけれど、それだって彼がいなければ、せっかくの才能が一生分からず仕舞じまいだった可能性もある。

 常に人にかしずかれる立場の王族は、彼らを扱うすべを学びはしても、自身の魔力検査などしないからだ。事実を伝えたスヴェインも、目をいていた。


「なに、本当か?」

「私もすぐには信じられなかったわよ。でも、ヤルンが嘘をついているとは思えないの」


 幾つになっても相変わらず童顔な彼は、感情があからさまにその顔に出る。平民の中でも特に顕著けんちょな方だろう。

 これでも幼いころから貴族相手に表情を読む訓練を積まされてきた私に、嘘かどうか見抜けないわけがない。


「確かに先祖には魔導師も居たと聞いているが、とてつもなく昔の話だぞ」

「本当は貴方や義父おとう様達のこともチェックしたいのよね」


 ぼやくと、夫は眉間にしわを寄せて「くれぐれも言っておく」と忠告してきた。


「食事に魔力検査薬を盛ったりするなよ」

「わ、分かってるってば」


 実はチラリと考えたりもしたのだが、万が一にも反応があった場合、あの薬は魔力があればあるほど強烈なことになるらしい。

 そうなってしまえば、王族の暗殺未遂事件に発展して、料理人の首が物理的に飛ぶ恐れがある。それはさすがによろしくない。



 そして、ココに実家から縁談が持ち込まれたことに端を発し、ヤルン達は婚約し、フリクティー王国からの帰還を経て正式に結婚した。


 あれを「恋愛」と言っていいかは微妙だけれど、元から互いを大切には思い合っていたのは間違いないし、「友人」が「夫婦」になっただけのような気もする。

 これからだって、なんだかんだありつつも上手くやっていくのだろう。


「あーあ、結婚式に私も出席したかったなぁ」

「良く我慢されましたね」


 私室のソファに沈み込んで呟くと、シンがいつもの微笑で褒めてくる。そんな子どもっぽい賛辞より、私は何倍も何十倍もココのドレス姿が見たかった。

 顔立ちは可愛い系の美人で青い髪もツヤツヤ、毎日鍛えていてスタイルも良いし、着飾ったらさぞかし綺麗だっただろうな。


 そんなお嫁さんを前にして、ヤルンはどんな反応をしたのかしら? 絶対、真っ赤になってドギマギしたに決まってる。ちゃんと、夫として「綺麗だ」って褒めてあげたのよね……?


「あぁ、見たかった。悔しいっ!」

「ふふ、余程あのお二人にご執心なのですね」

「だって面白いんだもの」


 シンがれてくれた紅茶は口をすぼめて愚痴を零している間に冷めていて、私はそれをヤケ酒のようにぐびりとあおった。


 こんな時、王族という身分はとんでもなく窮屈だ。周りから許可された場にしか参加出来ないなんて本当に詰まらない。

 でも、式場のスウェルには自分だけでは行けないし、ヤルン達にも固辞されては我慢するしかなかった。


「はぁ、こんなことならせめて諜報員でも忍ばせておけば良かったわ」

「それは流石さすがに感付かれるかと。セクティア様のお心を砕いて選ばれた『お祝い』が喜ばれたのですから、今回は良しとされてはいかがです?」

「……まぁね」


 お祝いとは、二人が近い将来に結婚することが決まってからというもの、私が悩みに悩んで決めた贈り物だった。

 譲れない条件は「他の誰とも違うもの」だった。せっかく贈るのだし、仮にも王族が下賜かしするのに、他人と同じというわけにはいかない。


 だからって称号や勲章くんしょうはおかしく、ヤルンもココも喜ばないだろう。華美な宝飾品もきっと同じだ。あの子達の感覚は、普段私が付き合っている「貴族」とは全く違うのだから。

 あ、ココにはお茶友達として「お祝い」とは別に髪飾りを贈ったわよ。……ルルちゃんにも贈れば良かったかも? あぁ、ルルちゃんと言えば、少し前にココが物憂げに零していたことがあったわね。


『最近、ルルさんがどんどん綺麗になっているんです。私も嬉しいですけど、色々と不安にもなってしまって……』


 あれは遠回しの惚気のろけだったのかしら? 普通じゃない夫婦は、悩みも普通じゃないということね。

 私に言えるのは「自分を磨きつつ、相手をしっかりガードしろ」程度のことだけだ。それを新郎ではなく新婦に言うのが変なところだが。


 ……それはさておき、今はお祝いの件について考えていたのだった。


「もうほんと、あの時は悩み過ぎて頭が沸騰ふっとうしそうだったわ」


 そんな袋小路に風穴が開いたのは、窓から何気なく外を眺めていた時だ。抜けるような青い空の下で賑わう城下町を見たら、ふっとある考えが浮かび、私は完全に心を(わし)掴みにされてしまったのである。

 そうして贈ったもの。それは王城のすぐ近くに建つ、とある屋敷だった。かつてはある貴族が王都への滞在用に所有していた別邸なのだが、継ぐ者がなくなり、国が管理を代行してきた建物である。


「そんなに大きな家でもないのに、二人ともビックリしていたわよね」

「……そうですね」


 贈り物の内容を知らずに係の人間に案内され、綺麗に整えられた外も中も見てきたらしいヤルン達は、戻るなり開口一番「おそれ多くて頂けません」と言ってきた。

 近いうちに騎士寮を出て、王都の外れにでも家を探して住むつもりだから気を遣わないで欲しいと。


「こちらだって、『寮を出る』と聞いていたからプレゼントしたのよ。場所も大きさも丁度良いでしょう?」

「俺達は『騎士』っスよ。それも成りたての。あんな一等地の邸宅になんて住めませんて! っていうか二人で住むにはデカ過ぎでしょ!」

「周りは大貴族のお屋敷ばかりですし……」


 ヤルンより貴族の事情を知るココも青い顔で冷や汗をかいていたが、こちらにも「お祝い」以外にも受け取って貰わなければならない大きな理由があって引き下がれなかった。


「言っておくけれど、王都の外れなんて絶対に駄目よ。あそこに住めないなら、寮から出ることを禁じなければならないわ」


 新婚なのに、これまで通り別々の部屋に押し込めるなんて可哀想ではある。でも、騎士が夫婦で住めそうなところなど王城の敷地内にはないのだから仕方がない。

 案の定、ヤルンは「なんでスか!?」とみ付いてきた。やはり分かっていないようだ。


「なんでって。何かあった時、遠いと呼び出しにくいじゃないの。部屋の前に何度も兵士を配置されたことを忘れたの?」


 冷静に指摘すると、「うっ」と呻いて顔をしかめた。連絡さえ取れれば一瞬で来ては貰えるものの、距離は少しでも近い方が良い。


「他のことはともかく、シリルとディエーラのことで頼みに出来るのは貴方だけなのよ」


 魔力に関しては子ども達の専属医と言っても良く、遠くに住まわれるのは困る。目の届かないところに置いておくと、(誘拐の心配はなさそうにしても)またどこかから引き抜かれたりしそうだし。


 もしも姿が消えたら国中、いや、周辺国にだって捜索隊を派遣しなければならなくなってしまう。彼はそれほどの重要人物なのだ。本人が一番分かっていないだけで。

 オルティリトは魔術以外にももっと大事なことを弟子に教えるべきだと思う。


「……そうね。ならいっそのこと、私達の居住区域のすぐ近くに部屋でも作りましょうか」

「ええっ!?」


 手っ取り早いだろうと思ったのに、二人は揃って首を横にブンブンと振った。


「むむむ、無茶言わないで下さいよ! 屋敷だって分不相応なのに!」

「そ、そうです」

「もう、我がままばかり言わないで頂戴。あの屋敷に入るか、騎士寮に残るか、王宮に部屋を作るか。この三つから選びなさい」


 煮え切らない二人に苛々(いらいら)し、私はとうとう主人として「命令」するに至る。あまり偉ぶりたくなくても、譲れない一線はどうしても存在する。

 ヤルン達は言葉を詰まらせて視線を交わし合い、ぼそぼそと相談し――ようやく用意した屋敷を新居として受け取る決意をしてくれたのだった。


 キーマが「ちょっと待って。考えてみたら、自分はこれから朝どうやって起きれば良いのさ!?」と絶望していた――というのはまた別のお話である。

なんだか妙なオチになってしまいました。おかしいな?

次回は弓使いのルリュスのお話になる予定です。

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