表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舞いし者の覚書  作者: 仕神けいた
8/13

第七話

挿絵(By みてみん)


 鉱山(こうざん)では、三つの決まり事があった。


 ひとつ、たがねを空打ちしてはいけない。

 ひとつ、口笛をいてはいけない。

 ひとつ、百足(むかで)(ころ)してはいけない。



 (つね)に落石や転落の危険(きけん)にさらされている坑夫(こうふ)たちにとって、鉄の(おきて)であった。


 (いわ)く、鉱脈(こうみゃく)の走る様子が百足(むかで)()ているから。

 百足(むかで)の一足が一福神という信仰(しんこう)(むす)びつき、金山繁栄(はんえい)をもたらす神の使いとして(しん)じられている。


 鉱山(こうざん)(くず)れないように、と決められたことだ。


「おーい! 聞こえるかー?」

「こりゃもうだめじゃ」


舞人(まいひと)殿(どの)、なんとかならんか?」

 清恒(きよつね)舞人(まいひと)背負(せお)う箱をチラと見ながら言う。

「なぜ(わたし)に?」


「お主、以前(いぜん)親父を不思議(ふしぎ)な力を使って助けてくれたじゃろ。(おれ)は見ていたぞ。お前が()うと、背負(せお)っている箱が光って親父に向かって()んできた矢が全部はじき落されちょった。お前、ただの()い手じゃねぇだろ?」

「と、申されますと?」

「……本当は陰陽師(おんみょうじ)とか……?」


 清恒(きよつね)の真面目な顔に、きょとんとする舞人(まいひと)。数秒()ち、舞人(まいひと)()みをこぼした。だけでは足りなかったらしく、(わら)い声まで出てきた。


清恒(きよつね)殿(どの)は面白い方ですね。(わたし)陰陽師(おんみょうじ)? その発想はありもしませんでした」

「いや、真面目な話! それなら舞人(まいひと)殿(どの)はこの状況(じょうきょう)も何とかできようにと思っちょるんやけど!」


 ひとしきり(わら)い終わった舞人(まいひと)は、

「ここで(おん)を売ってみてもいいかもしれませんね」

 と、鉱山(こうざん)を見上げた。


「では、人助けをいたしましょうか」

 しかし舞人(まいひと)(くず)れた鉱山(こうざん)の入り口に近付(ちかづ)こうとすると、男が(にら)()けながらその行く手を(はば)んだ。


「何するつもりだ? (あぶ)ねえから(はな)れてろ!」


「中の方々を助けます。あなたこそ退()いてください」

「はあ? 無理(むり)(あな)でも()ったら余計(よけい)(くず)れるだろうが!」


 二人が(にら)み合う。そこを、シンが()()む。

「おい、なんでここで険悪(けんあく)になるんだよ!? 手を()すっつってんだろ? ここはひとつ舞人(まいひと)殿(どの)にやらせてくれ! この人なら、中の人をきっと助けられる」

「そんなの、にわかに信用(しんよう)しろと言う方が無理(むり)だろ!」


「わかった!」


 突然(とつぜん)(さけ)んだのは清恒(きよつね)だ。

 清恒(きよつね)は、シンと舞人(まいひと)に下がるよう言うと、男を(はば)む手を()し下げた。

「あんたの言う通りにする。ここは一旦(いったん)(はな)れよう。(みな)()()えにはできん。早くここから(はな)れよう」


清恒(きよつね)殿(どの)、よろしいのですか?」

(ごう)に入っては(ごう)に従え、だ。あいつの方がここに(くわ)しい。その(くわ)しいやつが『(あぶ)ないから(はな)れろ』と言うんだ。あー……助かるかもしれない中の人が犠牲(ぎせい)になるのは~、(おれ)も心苦しいが~、仕方がない!」

清恒(きよつね)殿(どの)……」

 後半、声が大きくなった清恒(きよつね)にシンと舞人(まいひと)は大きくため息をつく。


「そうさな~。仕方ないな~。舞人(まいひと)殿(どの)のすごいものが見れるかと思っとったんだがな~。(あぶ)なくて(はな)れなきゃならんなら仕方ないな~!」

 シンのねちっこい物言いに、男もさすがに不快感(ふかいかん)を露にする。が、それ以上(いじょう)に、仲間(なかま)を助けたい気持ちが勝っていた。


「……本当にできるのか?」


(わたし)ならできます」


(しん)じ……られるのか?」

(べつ)(しん)じなくてもええ。これで中の人たちが助かれば幸運、でなければ命運。どちらにせよ、ここで(はたら)(モン)は、それなりの覚悟(かくご)があるんじゃろ?」


「もし、お助けできなかった場合の(わたし)への(ばつ)は、あなたがおきなように決めてください」

「…………」


「……では、(まい)ります」

 言って、舞人(まいひと)背中(せなか)の箱を下ろし、(ふさ)がれた入り口に()く。


「こちらの信仰(しんこう)(しん)様に祈ってみましょう」

「おいっ!」

 ()ばれた舞人(まいひと)()り向くと、男が舞人(まいひと)に頭を下げていた。


「よろしく……(たの)む!」

「おまかせを」


 (おうぎ)片手(かたて)に持ち、(まい)を始める。

  ()うというより、何かに()びかけているようにみえる。

 しばらくすると、箱の中から光の(つぶ)()れ始め、地面へと消えていった。


「なんと幻想的(げんそうてき)な――」


 見ているもの全員がうっとりしていると、その光が消えたところから、百足(むかで)がひょっこりでてきた。



挿絵(By みてみん)



「え? 百足(むかで)?」


 地面から一匹(いっぴき)出ると、そこからまた二匹(にひき)三匹(さんびき)。あちこちでそれが()り返される。


 その数たるや、百足(むかで)見慣(みな)れている村人たちも鳥肌(とりはだ)が立つほどであった。


「ひいぃっ?」

「さすがにこれは……」

「キモ……」


 百足(むかで)たちは、(くず)()もれた炭坑(たんこう)の入口に向かっていく。すると不思議(ふしぎ)なことに、()まった土がどんどん消えていった。


「すげぇ……!」

「どうなってるんだ?」


(あな)が開けばいいってもんじゃねーだろ。また(くず)れたら――」


 断続的(だんぞくてき)に小さな地響(じひび)きが起こる。崩落(ほうらく)を心配する人々をよそに、百足(むかで)たちは坑道(こうどう)(かべ)天井(てんじょう)()っていく。

 ボロボロ(くず)れ始める場所で百足(むかで)はどんどん消えていき、やがて地響(じひび)きもおさまった。


 坑道(こうどう)はすっかり元通りの(たたず)まいに(もど)り、(おく)(やみ)から人の姿(すがた)がおそるおそる出てきた。


「出口か……?」

「……助かった?」

「出口だ……!」

 抗夫(こうふ)たちは、(かた)き合い(よろこ)んだ。


 男は、怪我人(けがにん)がいないか確認(かくにん)させ、全員が無事(ぶじ)であることを知ると、舞人(まいひと)たちに頭を下げた。

「ありがとう……ございます!」


「ありがとう! あんたたちのおかげで、旦那(だんな)が助かったよ!」

 炭鉱(たんこう)に閉じ()められた人の(つま)らしき女性(じょせい)が、(なみだ)ぐんで礼を言う。

「本当に……ありがとう。助かったよ」

「あんたすごいねどうやったんだい?」

 村人たちは口々に舞人(まいひと)感謝(かんしゃ)の言葉をかけた。

 次々にくる人に、舞人(まいひと)たちはもみくちゃにされてしまった。


  助かったことへの(うれ)しさと、助かってくれた人への安堵(あんど)と、助けてくれた人へのお礼とで、その場はしばらくの間(にぎ)わいが消えることはなかった。

 そして、気づけば、もうとっぷりと日が()れていた。


草鞋(わらじ)はまた明日じゃな……」


「おい、そこの……玄信(げんしん)の子」

()たろ……清恒(きよつね)じゃ。縄田(なわた)清恒(きよつね)

(おれ)はマコトだ。あんたに話があるんだが、いいか?」

「おう。今いいで。何や?」

「ここでは……あっちの岩場で話したい」

「? わかった」


 二人は、人知れず(にぎ)わいの中から()け出していった。

 (しず)かになったのは、浜辺(はまべ)へ出て、岩礁(がんしょう)(つら)なった海岸に着いたころだ。


 人の横顔にも()た、二十七(しゃく)はあろうかという巨岩(きょがん)がある。


「……来ましたね」

 こっそりと二人を(のぞ)き見ているのは、舞人(まいひと)とシンであった。

 何をどうやったのか、清恒(きよつね)とマコトより先に来ていた。


「あいつら何やってんだ? 決闘(けっとう)か?」

浪漫(ろまん)がないですよ、シン殿(どの)。これは逢引(あいび)きですよ」

「あ、逢引(あいび)き? 男同士(おとこどうし)だぞ!?」

()き合うのに性別(せいべつ)関係(かんけい)ないんですよ」

「そ、そーゆーものなのか?」

 野次馬のようにのぞき()む二人。


 清恒(きよつね)とマコトは、(たが)いに向かい合っている。清恒(きよつね)()(ひく)い方ではなかったが、それでもマコトの方が清恒(きよつね)より頭二つほど身の(たけ)が高かった。


 先に口を開いたのはマコトだ。


(あらた)めて言う。助けてくれてありがとう。鉱山(こうざん)()もれたら、まず助からないのが(つね)だから、本当に感謝(かんしゃ)している」

「お礼なら、舞人(まいひと)殿(どの)に言ってくれ。(おれ)はなんもしちょらんし」

「あんたがあの中で引率者(いんそつしゃ)だとお見受けしてのことだ。

  ――ところで、草鞋(わらじ)はどれくらいあるのか?」

「ああ、数は数えてないが、ざっと見たところ、あんたの村全員分でも(あま)りがでそうだ」

「ならば、それをもって早く故郷(こきょう)へ帰った方がいい」

「は?」



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ