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舞いし者の覚書  作者: 仕神けいた
6/13

第五話

挿絵(By みてみん)



 船出(ふなで)して二週間が()つかという(ころ)

 船ではさらに深刻(しんこく)事態(じたい)(むか)えていた。


寝太郎(ねたろう)さーん? いっくらなんでも食べ()ぎとちゃう~?」

「や、やからすまんって」

「すまん、で()んだらこの船旅もすんごく楽なんやけどねー」


「どうしました?」

 清恒(きよつね)水夫(すいふ)たちに()()られているところに、船内を散歩(さんぽ)していた舞人(まいひと)が通りかかる。


「どーしたもこーしたもないわー」

「あんたからも言ったってーや。(めし)はほどほどにって」


 聞けば、寝太郎(ねたろう)は食事の度におかわりするやらつまみ食いするやらで食糧(しょくりょう)(そこ)をつきそうだという。


「それは(こま)りましたね。清恒(きよつね)さん、そんなに大食らいでしたっけ?」

「お、おうよ。何せ、三年も()とったから、腹減(はらへ)って仕方ないんよ!」

 言い切るわりには、どこか自信(じしん)()さげだ。その態度(たいど)舞人(まいひと)も首をかしげる。


「……そうなんですか?」

「でもそれじゃあ、足りない食糧(しょくりょう)はどーすんですかあ?」

「そりゃあ……のう…………」

「なんや(たの)りないなあ」


 ()()られて、清恒(きよつね)脱兎(だっと)(ごと)くその場を後にした。

()げたっ!」

「追えー!」


 しかしそこまで広くない船では、清恒(きよつね)はあっという間に追い()められた。

「さーあ、清恒(きよつね)さんには、食糧(しょくりょう)をとってきてもらわんとなー」

「とりあえず、魚のエサになってもらうかのー?」



「……まってくれ!」


 声がしたのは、(みな)の後ろの方からだった。


 聞きなれない声に(みな)()り向くと、見慣(みな)れない青年がたっていた。


「…………(だれ)?」


 (とし)()のほどは清恒(きよつね)と同じくらいだろう。

 (がら)の入った、なかなかにいい生地を使っているが、(すそ)がボロボロの着物。背中(せなか)まで()びたボサボサの(かみ)を一つにまとめ、長い(ぬの)を頭に()いていた。手には(ぬの)()かれた長い(ぼう)のようなものを持っている。


「か、かか海賊(かいぞく)か!?」

「この船にゃあ金目のモンはねえぞ!」

 へっぴり(ごし)(かま)える水夫(すいふ)たちに、青年は少々(こま)った顔になる。


挿絵(By みてみん)


(おれ)は、シンだ。海賊(かいぞく)じゃねえ。あんたらやこの船にはなにもしねえから安心しろ。

 それと、食糧(しょくりょう)()りが早いのは、(おれ)のせいだ。そいつが悪いわけじゃねえ」

  言って、危害(きがい)(くわ)えない(あかし)だというように(すわ)り、両手の平を見せた。


それを見て(あわ)てたのは清恒(きよつね)

彼と水夫の間に立ち、彼をかばうように両手をひろげる。


「ちょ……ちょちょっとまて!まってくれ!これにはワケが――!」


 (みな)一斉(いっせい)清恒(きよつね)(にら)む。


寝太郎(ねたろう)さぁん? こりゃどーゆー事なん?」

「あーっと、な……実は、船を見つけてくれたんはこいつで~……それから草鞋(わらじ)を――」


「そういうことを聞いてるんやないですよ!」

「長い船旅は一人()えただけでも食糧(しょくりょう)やら()み荷やら大変(たいへん)なんです!乗せるなら最初(さいしょ)に言ってくれないと!」


「お、おぅ……すまん……」


 てっきり、袋叩きか船の舳先(へさき)にでも()るされるかと思った清恒(きよつね)は、間の()けた返事をした。


「とにかく、食糧(しょくりょう)を何とかせにゃあ」

「どうすっぺ?」

「う~ん、どこか港に()るにしても、あと数日はかかるやろうし」

 水夫(すいふ)たちの(こま)った声に、舞人(まいひと)が話しかけようとすると、シンが無言(むごん)で立ち上がる。


(おれ)が何とかする」

「何とかって……? どうするんじゃ?」

食糧(しょくりょう)があればいいんだろ? 来てくれればわかる」

 言われて、シンのあとをぞろぞろとついていく。


 甲板(かんぱん)に出ると、シンはためらいもせず海へと()()んだ。


「みっ、身投げ!?」

「いや、()げた!?」

()げてないっ!」

 水夫(すいふ)たちの(さけ)びに対して言ったのは清恒(きよつね)だ。シンの行動に、清恒(きよつね)もやや戸惑(とまど)っているようだが、それが表情(ひょうじょう)に出るのを(こら)えている。


「あいつは考えがあるって言ってたろ!ここは信じてまっててくれ!」


 数分後、水面みなも泡立(あわだ)ったかとおもうと、(はげ)しい水飛沫(みずしぶき)をたてて巨大(きょだい)な魚が()び上がってきた。

「!?」

 飛沫(しぶき)(まぎ)れて、シンが船縁(ふなべり)に着地する。


「これでしばらくはもつか?」

 呆気(あっけ)にとられる一同。


 海をみればプカプカと()かぶ、食糧(しょくりょう)という名の巨大魚(きょだいぎょ)。丸々として、船に乗っている全員で食べても何日、いや何週間もかかりそうだ。


「……十分やわ」


 食糧(しょくりょう)問題が解決(かいけつ)した瞬間(しゅんかん)であった。


 ■ ■ ■


 シンが()った魚を水夫(すいふ)たちがさばいている間、甲板(かんぱん)(すみ)で、それをじっと見ているシン。その(となり)清恒(きよつね)()した。


無茶(むちゃ)するなー、シン」

「すまん、清恒(きよつね)

頭を下げなかったが、彼なりの謝罪だと清恒(きよつね)は知っていた。


「こっちこそ(かく)しきれずにすまん。(おれ)(たの)りないのは事実だし、いずれ食糧(しょくりょう)が足りなくなるのはわかってた問題だし」


 そこへ舞人(まいひと)(くわ)わった。

先程(さきほど)の魚を()るとき、船のなかで感じたのと同じ気配がしました。あれはあなただったんですね」

「ああ」


 舞人(まいひと)は、シンの前にかしづく。

「さすが――さすがは大内氏(おおうちし)新介(しんすけ)様です」


 少し声音(こわね)をしぼり言い(よど)みはしたが、はっきりとシンには聞こえたようだ。


 シンは身構(みがま)えた。

「お前、何者だ? (すえ)の手の者か?」

 (ぬの)にくるまれた長い(ぼう)が刀として姿(すがた)(あらわ)す。

 清恒(きよつね)制止(せいし)しようとしたのを舞人(まいひと)が止める。

「ご安心を。(わたし)はただの舞人(まいひと)です。昔、大内殿(どの)(まい)(おさ)めたこともございます」

 舞人(まいひと)の身なりを見て、(かま)えをとかずに、じろじろと(いぶか)しげに見た。

「シン、この人はこの船を修繕(しゅうぜん)してくださった恩人(おんじん)じゃ」

「ああわかってる。この船には(おれ)も乗ってたからな」

「それにしては、うまく(かく)れておいででした。(わら)のなかは窮屈(きゅうくつ)ではありませんでしたか?」

「そこまでわかってたのか」

「ええ。しかし、それよりも気になっているのですが――」

 舞人(まいひと)は二人を見る。

「お二人はいつお知り合いになられたのですか?」


「知りあったのは三年前だ。この船を見つけたのと同じ時期だな」

 清恒(きよつね)甲板(かんぱん)()でながら言った。


「ん? (おれ)はお前のことは昔から知ってたぞ」

 そう言ったのはシンだ。

「え?」

(しろ)にいた(ころ)臣下(しんか)(おれ)と同じくらいの子供を()れてきていたのは玄信(げんしん)殿(どの)くらいだったから、よく(おぼ)えている。いつぞや、清恒(きよつね)退屈(たいくつ)だからと謁見(えっけん)から()けだそうとしたとき、手助けしたこともあったぞ」


「え? あ! ……あれ、シンやったんか……!?」

結局(けっきょく)()げたのがバレて清恒(きよつね)玄信(げんしん)殿(どの)怒鳴(どな)られていたろう? 城中(しろじゅう)(ひび)いてたぞ」

「…………」

 顔を真っ赤にする清恒(きよつね)


「お二人は(えにし)が深いのですね」

 舞人(まいひと)はにこやかにその二人のやりとりをみていた。


「しかし、あの(ほら)奇妙(きみょう)な力で(かく)されていました。なぜなのでしょうか?」

「あ、それはオレだ。和尚(おしょう)から()げるために(ふだ)をいくつか拝借(はいしゃく)してきたんだ。そのうちの一枚(いちまい)を使って(かく)れてたんだ」

「なるほど。合点がいきました。」

 舞人(まいひと)は、ようやく納得(なっとく)した顔になる。



寝太郎(ねたろう)さーん! シンさーん!舞人(まいひと)さーん!できたで~」

 水夫(すいふ)たちが三人を()ぶ。

 水夫(すいふ)とは海でとても重要(じゅうよう)な人物であろう。少なくとも三人はそう思った。


 豪勢(ごうせい)()られた刺身(さしみ)だけでなく、鍋料理(なべりょうり)(どんぶり)に、様々な魚料理(さかなりょうり)食卓(しょくたく)()()くした。

「これは……うまそうだな」

 言葉の落ち着きとは裏腹(うらはら)にシンの目が(かがや)く。

 無理(むり)もない。この三年という月日、清恒(きよつね)からもらったご(はん)のほかは、海水程度(ていど)しか口にしていない。海水も、蒸留(じょうりゅう)すればいくらかは飲めるのだが、シンにはその知識も発想もなかった。(ほら)に流れ()む海水は、(しお)の流れが悪く、魚は滅多にとれない。

 だから、目の前のごちそうは本当に(かがや)いて見えた。


「お前ら、凄いな!」

 素直におどろいていたのは清恒(きよつね)だ。()()り、手を()ばすと水夫(すいふ)たちがご馳走をひょいと取り上げた。

「何すんだ!」


「これは、シンさんがとった魚だ。まずはシンさんからだ」

 そう言って、水夫(すいふ)たちはシンの前にご馳走(ちそう)(なら)べた。

「あんたのお(かげ)航海(こうかい)(つづ)けられる。ありがとうよ」


「いや、こちらこそ(かく)れたりしてて悪かった。あんたらの言うことは(もっと)もだからな」


「――幾松(いくまつ)や」

「? おう?」


(まご)健作(けんさく)やが」

「おれは孫作(まごさく)だ」

「おれ、権兵衛(ごんべえ)

多左(たざ)()(もん)っちゅうねん」


「シンさん、よろしゅうにな」

「――ああ、よろしく(たの)む!」

 シンを(むか)える楽しそうな声が波間にのって、夜は()けていった。




挿絵(By みてみん)

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