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舞いし者の覚書  作者: 仕神けいた
3/13

第二話

挿絵(By みてみん)


「どうされました?」

「いえ(べつ)に」


 舞人(まいひと)玄信(げんしん)視線(しせん)()けるように(たな)の品々を見る。


 外国の書物にめがね、ポートワインに望遠鏡(ぼうえんきょう)自鳴鏡(じめいきょう)

 他にもいくつか、舞人(まいひと)も名の知らぬ物があった。


「……おや、おかしいですね? (たし)か、十三品あったと思うのですが?」


「ああ、それは……」


 玄信(げんしん)は言いにくそうに視線(しせん)を泳がせる。

「村の資金(しきん)にしました」


「え?」

「こんなわしらを受け入れてくれた村じゃ。そのためなら、よろこんで()し出せますわ。

 ただ……この(へん)じゃ換金(かんきん)もろくにできませんで。だいぶ前に来てくれた旅の商人が価値(かち)を知っていて高く買い取ってくれたのが最初(さいしょ)最後(さいご)ですわ」

 玄信(げんしん)湯呑(ゆの)みを二つ持ってきた。そのうちの一つ、ひびの入っていない綺麗(きれい)な方を舞人(まいひと)の前に()く。


「ところで、どうですか? (まい)を広めると(おっしゃ)ってましたがその後は?」

「ええ、順調(じゅんちょう)です。思っていたより興味(きょうみ)をお持ちの方が多くて、(うれ)しい(かぎ)りですよ」

 どっしりと(すわ)()んだ玄信(げんしん)が茶をすする。

「そうですか。ウチのせがれもあなたほど行動力があればええんですがねー……」


 舞人(まいひと)湯呑(ゆの)みに口をつける。が、あまりの(あつ)さに(した)火傷(やけど)した。しかも、お茶の味はほとんどしない。


清恒(きよつね)殿(どの)は、今は何をされているのですか?」

 玄信(げんしん)(てのひら)をひらひらと()って苦笑(にがわら)いする。


「なーんもしとりません。(めし)食う時も鼻ちょうちん作りよりますし、日がな一日(いちにち)どこでも()てばっかで、村の(しゅう)からは『寝太郎(ねたろう)』なんぞと()ばれちょるんですわ」


寝太郎(ねたろう)、ですか」


「もうかれこれ三年と三月は()ちょってです。村が旱魃(かんばつ)大変(たいへん)やっちゅうのに」


「ちらりとですが、村の様子を(うかが)いました。ここへ来る前に大きな川がありましたが、そこから水を引くなどはできないのですか?」


七瀬川(ななせがわ)か……できんわけじゃないが。しかし、明らかに資金(しきん)が足りんのです。人手もですわ。去年も旱魃(かんばつ)がひどくて()え死にした者が多く出ちょってんです。せめて雨でも()ってくれればと――」


 玄信(げんしん)は深いため息をついて口をつぐんでしまった。


 舞人(まいひと)は、お茶とは名ばかりの熱湯(ねっとう)をちびりとすすって少し考えた。


(わたし)でよろしければ、玄信(げんしん)殿(どの)のお力になりましょう」

「?」


 舞人(まいひと)はにこりとほほ()んだ。


雨乞(あまご)いならば、(わたし)の出番です」


 ■ ■ ■


 日が()れる(ころ)、近くにある神社の境内(けいだい)()りて儀式(ぎしき)舞台(ぶたい)(もう)けられた。


 今宵(こよい)は三日月。

 ()かれた(ほのお)からは雲を見立てて(けむり)が立ち(のぼ)り、村男の(たた)太鼓(たいこ)雷鳴(らいめい)(ごと)(とどろ)いた。


「水が足りぬ村では、空の星が(はしゃ)ぐと言いますが、月までもが水を(もと)めてその身を(けず)っていますね」


 舞人(まいひと)(かがみ)を前に、顔に白粉(おしろい)()り目じりと(くちびる)(べに)をさす。


 村の(しゅう)の前に姿(すがた)(あらわ)した舞人(まいひと)は、両手で(かか)えるほどの大きなひょうたんを持ち、(うやうや)しく水を()いた。

 円を(えが)いて舞台(ぶたい)一周(いっしゅう)し、村に雨が()るさまを()す。


 そして雨を()うように天を(あお)いで()(おど)る。

 足取りはゆるやかに、妖艶(ようえん)表情(ひょうじょう)に、()るものを魅了(みりょう)し、空までもが()じらっているようであった。と、舞人(まいひと)(おど)りに(さそ)われるかのように雲が姿(すがた)(あらわ)しだした。


挿絵(By みてみん)


「おお、雲じゃ!」

「雨雲じゃあ!」

 太鼓(たいこ)の音に負けない雷鳴(らいめい)(とどろ)き、今にも雲から(しずく)(したた)りそうになった。


 しかしその時。

 突然(とつぜん)の風が()き、雲はあっという間に()ってしまった。


「ああ……」

 村人たちから落胆(らくたん)の声が()れる。

 その後、(まい)(おど)(つづ)けたが、風はひょうひょうと()(つづ)き、雷鳴(らいめい)どころか雲は一つも集まりはしなかった。


 結局(けっきょく)雨乞(あまご)いは失敗(しっぱい)に終わった。


 その結果(けっか)(おどろ)きを(かく)せずにいたのは、()っていた本人であった。

 (まい)間違(まちが)いなく雨を()んだ。なのに、邪魔(じゃま)をするようにかき消されてしまった。それが舞人(まいひと)には、途中(とちゅう)(べつ)の力が()()んだように見えた。


 水を(きら)い、(かわ)きを(この)む神力の持ち主。舞人(まいひと)記憶(きおく)に、一つだけ心当たりがあった。


「まさか、(ヒデリガミ)? 空を(わた)らず(とど)まっているのか?」

 舞人(まいひと)は空を見上げた。


 空からは、村をたたくように(かわ)いた風が()()けていった。


 翌朝(よくあさ)玄信(げんしん)は開口一番舞人(まいひと)()びた。

「すまなんだ舞人(まいひと)殿(どの)。せっかく雨乞(あまご)いをしてくれたというに」

「何を(おっしゃ)います。(わたし)こそお役に立てませんで真に申し(わけ)ない」

 舞人(まいひと)は外の様子を見る。

 相変(あいか)わらず(かわ)いた風が()き、家をギシギシと(きし)ませている。


「少し、村を見て回りたいのですが」

「もちろんどうぞ。ゆっくりしていってください。あ、日暮(ひぐ)れには晩飯(ばんめし)にしますんで」


 舞人(まいひと)は、村の中を歩いて回った。

 田は完全(かんぜん)()上がっており、カラカラの地面にひびが入っていた。

 道端(みちばた)の草さえ()()てて(ひさ)しいようだ。

 しかし、村はずれの森を見ると、いくらか緑が(のこ)っている。


 (あらた)めてみると、枯渇(こかつ)は村の中心から始まっており、村から(はな)れるほど緑が(ゆた)かになってきている。

 この現象(げんしょう)が、旱魃(かんばつ)(ヒデリガミ)の力によるものだと舞人(まいひと)確信(かくしん)させた。

「かなり強い力のようですね……このままではじきに村が死んでしまう。玄信(げんしん)殿(どの)のためにもここはひとつ――」

 舞人(まいひと)は、何かを覚悟(かくご)したように表情(ひょうじょう)(かた)めた。


 夜、村が()(しず)まった(ころ)

 舞人(まいひと)玄信(げんしん)の家の戸を(しず)かに開ける。立て()けが悪いために、ギシギシと悲鳴を上げていた昼間とはうってかわり、全く音を発てなかった。

 それどころか、舞人(まいひと)の足音さえしない。

 舞人(まいひと)が一人で畔道(あぜみち)を歩いていくと、(かれ)の他に動くものがあった。

 雲一つない空に()かぶ月と星が正体を()らしだす。

 清恒(きよつね)だ。


 玄信(げんしん)の話によると、もう何年も()ているはずの(かれ)が起きて、しかもなにやら(あた)りを気にしながら歩いている。


 近くに舞人(まいひと)がいるのだが、それには気付(きづ)かない様子だ。

 舞人(まいひと)常人(じょうじん)とは思えないほどに気配を()っているせいでもあるかもしれない。


 (かれ)は、山の中へと歩いていく。


「これはまた奇妙(きみょう)な」


 舞人(まいひと)興味(きょうみ)を引かれ(かれ)の後をついていく。


 山の(おく)、木々が生い(しげ)る先には洞窟(どうくつ)がぽっかりと口をあけ、入口の上部には注連縄(しめなわ)()るされていた。


 村人が(まつ)っているのだろう。


 清恒(きよつね)はなんのためらいもなくその中へと入っていく。


 舞人(まいひと)も後を追おうとすると、前方で小枝(こえだ)()れる音がした。とっさに(かく)れた舞人(まいひと)だが、音の主がわかると姿(すがた)(かく)すのをやめた。

「こんな所でどうなさいました、玄信(げんしん)殿(どの)?」


 木々の(しげ)みから出てきた(かげ)は、舞人(まいひと)()んだ人物へと姿(すがた)()えた。

 玄信(げんしん)は、ばつが悪そうに頭を()き、舞人(まいひと)に頭を下げる。

「いやあ、みっともないところをお見せした。実は、せがれが夜中に一人で出歩くのを最近(さいきん)知りまして、後をつけておりました。しかしどうしてか、いつもこの(へん)見失(みうしな)うんです」


 舞人(まいひと)不思議(ふしぎ)そうに玄信(げんしん)を見つめ、清恒(きよつね)の入っていった(ほら)()り返る。

「あの(ほら)に入っていったようですが」

(ほら)?」

「お見えでない?」


 玄信(げんしん)不思議(ふしぎ)そうな顔をする。

舞人(まいひと)殿(どの)、わしもここへ来て何年にもなりますが、このあたりにゃ何もないですよ。わしらが来る前、祠があったっちゅう話もありましたが、今はどこにあるやらわからん状態(じょうたい)です」


 (かれ)の言葉に、舞人(まいひと)今一度(いまいちど)(ほら)を見やる。

 注連縄(しめなわ)立派(りっぱ)で、傍目(はため)では村で(まつ)っているものと思ってしまう。


舞人(まいひと)殿(どの)、せがれがその(ほら)とやらに入っていったのか?」

「はい。どうやら清恒(きよつね)殿(どの)は人外の力が(ただよ)う場所へ行ってしまわれたようですね」

「じんがい?」

「ええ。人ならざるものの力があの(ほら)から感じられます」


「そんじゃ、せがれは化けモンか何かになっちまったんですか?」


「いえ、そうではありません。ですが、この(ほら)が人にどんな影響(えいきょう)があるかはかり知れません。人外にならないという保証(ほしょう)はできかねます」

「なんですとー! せがれを()(もど)さんと!」


 (しげ)みを()び出し闇雲(やみくも)に走り出す玄信(げんしん)

「げ、玄信(げんしん)殿(どの)、落ち着いて。玄信(げんしん)殿(どの)には(ほら)が見えぬのでしょう? (わたし)(まい)りますからここはおとなしく待っていてください!」


舞人(まいひと)殿(どの)ぉ~……せがれを、せがれを……!」


「わかりましたから」


 舞人(まいひと)は、玄信(げんしん)の鼻水がついた(そで)を近くの(しげ)みに(なす)()けた。



挿絵(By みてみん)


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