行きずりの疑念
ギルドに登録を済ませ、ブラックラベルのパーティであるコンキスタドールと一悶着あり、マリアはどこかに飛んでいってしまった。カフネはマリアを気がかりに思いながらもイライザの店に向かう。
ギルドを出るとすでに日が暮れていた。街は暗闇に包まれると思いきや街の至る所にぼんやりとオレンジ色の光の玉が浮かんでいるため、夜の夏祭りのように明るく懐かしい雰囲気を醸し出している。
受付嬢に聞いた通りに夜道を歩く。ギルドから離れるほど人の通りは少なくなる。
路地に入ると、浮浪者や物乞いのような人も増えてくる。中には大人だけでなく、子供の姿も見られた。カフネも何度か声をかけられるが、無視して店に向かう。
以前の世界でも浮浪者みたいな人は見かけたけど、こっちもあまり変わらないんだなぁ。こういう人達を見ると、不思議な気持ちになる。助けてあげたいような、悲しいような、哀れむような。なんでこの人達はこんな生活をしてるんだろうか。この人達にもきっと事情があるんだろうな、好きでこんな生活してるわけない。でも、下手にお金をあげたりしてもこの人達のためにならないんだろうなぁ。力があれば、何か変わるだろうか、してあげられることはないだろうか。せめて、子供達だけでも…見て見ぬ振りをするしかないのかぁ。
頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、目的地が見えてくる。
イライザの店は魔法によって作り出された大きな看板が目を引く。
入り口の前に立つと客の楽しそうな話し声が聞こえてくる。随分と繁盛しているようだ。
店に入ると、店内は明るく、大衆居酒屋のように沢山の席があり、客はお酒や料理を思い思いに楽しんでいる。
1人の店員がカフネに気づき、話しかけてくる。
「カフネ様ですね、お話はイライザさんから聞いてお
りますので、どうぞこちらへ」
店員に連れられ、店の奥に入っていく。
店の奥には隠し扉があり、忍者屋敷のようにパタンと壁が回転する。
回転した先はバーのようにカウンターと備え付けの椅子があり、カウンターの中ではイライザがグラスを拭いている。
「いらっしゃいませ。本日は何に致しましょう?…なんてね。」
「じゃあ、オススメをお願いします。」
イライザは手慣れた手つきでカクテルを作る。材料のラム酒などは香り高く、以前の世界と同じような印象を受ける。
「アイオープナーです。こちらはラムとオレンジキュラソー、アブシンスに卵黄と砂糖を少々加えたものでございます。こちらにはカクテル言葉というものがございまして、運命の出会いとなっております。」
「素敵ですね。このお酒は初めて飲みますね。」
一口目からラムとアブシンスの主張が強くアルコール度数も高いのがわかる。とても癖のある味わいで初心者向けではない。試されているのだろうか。
「なんだか面白い味ですね。このお店の構造もそうですし。」
「でしょう?私の自慢の店よ。最近はチェーン展開も始めたの、この部屋はいわゆるVIPルームってやつで他の店舗もこういう作りになってるの。他の町でよることがあったら私の名前を出すといいわ。割引してあげる。」
「どうしてそんなに優しくしてくれるんです?」
「…顔が可愛いからよ。」
少し間が気になったが、カフネは自分の顔がどんな顔なのか確認していないことに気づき、それどころではなかった。
イライザは誤魔化すように話を続ける。
「ここに来れたってことは冒険者登録ができたみたいね。これであなたも晴れてホワイトラベル冒険者になったわけだ。」
「お陰様で。それで今目的が無いんだ。情報収集目的でここに来たんだけど、なにか耳寄りな情報はないかな?」
「その言葉を待ってたわ!実はこの部屋に通したのも、貴方に頼みがあるからなのよ。」
「頼みというと?」
カフネは違和感を覚える。
冒険者になったばかりの見ず知らずの男に頼み事なんてするだろうか。それこそ、ギルドに依頼として申請した方が経験豊富な冒険者が請け負ってくれるだろうに。考えても始まらないと、とりあえず話を聞くことにした。
イライザはカウンターに古びた地図を置く。
まず印象的なのはバツ印だ。宝の地図だろうか。地図はかなり詳細に書き込まれており、メモ書きのようなものも端々に見受けられる。
「これは?」
「これはここから少し離れたところにある城跡の地図よ。このバツ印のところに未だに発見されていない宝があるって話よ、ロマンがあるでしょ?ここに一緒に行って欲しいのよ。」
違和感は依然強くなる。これは何か裏がありそうだ。
「うーん…それって、俺じゃない方がいいんじゃないかな?まだ駆け出しの冒険者じゃあ頼りないしさ。」
「大丈夫よ。私も昔は冒険者やっててね、腕にちょっとばかり自信があるのよ。それに、もう1人助っ人を呼んでるわ。多分そろそろ来る頃じゃないかしら…」
話していると隠し扉がパタンと回転する音がする。
音のする方向に振り向くと、夕方ギルドで出会った白い長髪の男が入ってくる。
「おかえり、ギルバート。」
「だー、疲れたぁ。ギルドマスターのおっさん、話なげぇんだよ!全く、端的にまとめてくれれば…ってなんでお前が居るんだよ!?」
まるで測ったかのように完璧なタイミングだ。
「もしかして助っ人って…」
「その通り、コンキスタドールのメンバー、鮮血のギルバートが一緒に来てくれるから安心して。」
「その二つ名で呼ぶなよ姉貴、それすげぇ恥ずかしいんだからな。」
ギルバートは頬を少し赤らめながら、席についてウィスキーを注文する。
「姉貴!?もしかしてイライザさんとこいつって…」
「姉弟だよ。知り合いだったんだね、なら話が早い。身支度を済ませたら明日、この城跡に向かうよ。」
「いやいやちょっと待って、行くなんてまだ一言も…」
「なんだ、行かねぇのか?飛んだ腰抜け野郎だ。」
「は?もう一回言ってみろよ」
「腰抜け野郎だって言ってんだ。駆け出しの冒険者はクリアできるかできないかくらいのクエストに行くもんなんだよ。死ぬか生きるかの瀬戸際で人は成長するもんなんだ。まぁ、安全なところでぬくぬく育ったあまちゃん野郎には分からないかなぁ?しかも、今回は姉貴と俺様がちゃんと守ってやる条件付き、なのに挑戦しない玉なし腰抜け野郎だろうが。」
言葉は悪いが、ギルバートの言うこともあながち間違いではない。実力者の護衛付きで経験値を稼ぐことができ、尚且つ宝も手に入る良い話だ。だが、うまい話には裏がある。2人は姉弟だし、何かを企んでいる可能性がある。ブラックラベルの実力者が身内にいるにも関わらず、駆け出しの冒険者を同行させる意味は?なんらかの事情で2人では踏破できない場所だからか?マリアの指摘も馬鹿にできないな。
カフネは思考を巡らせながら、戦闘時の高揚感や快感を思い出す。もう一度味わってみたい、可能なら何度でも…理性的な考えとは裏腹に純粋に刺激を求めるもう1人の自分がいた。
このまま引いたら以前の人生と同じになってしまう。それに、男らしくない。ここはあえて誘いにのって、常に警戒しておこう。
「…わかったよ。その代わり、俺はやばいと思ったらすぐに逃げるよ。」
「よし、決まりだね。」
「ったく、決めるのが遅いんだよ腰抜け。酒がなくなっちまった。」
「ギルバート、あんたちょっと言い過ぎよ。」
「へーい、さーせんしたー。」
イライザがグラスを取り出し、お酒を注ぐ。2人のグラスにも注ぎ音頭をとる。
「はい、じゃあ明日の出発を記念してカンパーイ!」
「ちっ、かんぱい」
「か、かんぱーい!」
カチンカチンと部屋に音が響き渡る。
ギルバートは癪に触るが、イライザさんは今のところ気の良いお姉さんといった感じだ。この光景を見たらマリアはなんと言うだろうか、また何かアドバイスをくれるだろうか…。
テンポ悪いなーって思うのでもっとサクサクスナック菓子食べるくらいの感覚で進ませまーす。