金策と気がかり
今回説明多く長いです。
初戦闘を終えてレベルが上がったカフネはマリアとともに森を抜けて街道に出る。
遠方に見える街に向けて街道を30分ほど歩く。するとあまり大きくはないが出店が多く、行商人で賑わう活気のある街につく。人々はカラフルな髪の色だったり、犬や猫のような特徴を持った所謂亜人のような人々も見られる。
「ふぅ、やっと着いた。やたらと行商人が多いように感じるんだけど、どこもこんな感じなの?」
「んー、なんでだろ。知識にロックがかかっててよくわかんない。」
「前から疑問に思ってたけど、マリアって神なんだよね。なんでも自由に決められるんじゃないの?」
「それがそうでもないんだよね。私にも一応ルールがあってね、世界のバランスを崩さないようにしなくちゃいけないんだ。まぁ、簡単に言えば誰か1人に強すぎる力を与えてはいけなかったり、神である私が干渉しすぎてはいけないってことなのだよ。」
「今の状態はいいの?」
「私は見守ってるだけだし、意思疎通ができるカーナビみたいなことしかしてないしねー、セーフセーフ。」
すごくいい加減なルールだと思いながら、情報収集に適した場所を探す。
情報収集なら酒場かな、人は十人十色っていうくらいいろんな生き方をしてるし、酔うと気が大きくなって饒舌になる人もいるし…俺もそうだったなぁ…。カフネは以前の世界を思い出し、表情が曇る。すると、肩のマリアが耳を引っ張る。
「いてててっ!」
「なーに落ち込んでんの、悩み事があるならさっさと話して楽になっちゃいなよ。」
あっけらかんとしてて他人に興味が無いのかと思ったが、マリアの意外な優しさに触れて気分が解れる。
「マリアも優しいところがあるんだね」
「ヘッヘーン、私は慈愛の神なのよ、当たり前じゃない。」
「え、そうなの?」
「嘘に決まってるじゃない、ほらさっさと情報収集に行くわよ!」
だんだんいい加減さにも慣れてきた。
カフネがマリアに呆れていると、何やら市場がざわざわしている。
「ん、なんだろ」
「面白そうね!行ってみましょ!」
「う、うん」
人混みを掻き分け、ざわつきの中心の様子を伺う。
熊と見紛うほどの大男が長く黒いローブを着た怪しい武器屋の前でうつ伏せで寝ている。大男は泡を拭いて失神しているようだ。状況がわからず、隣にいた女性に話しかける。
「何があったんです?」
「それがよくわからないのよ。私は買い物してたんだけど、ずいぶん逞しい男がいると思って見てたのよ。大男はあのローブの男から黒くて大きな剣を買おうとしてたの。」
大男の右手をよく見ると、地獄を具現化したかのような黒く禍々しい大剣の柄を握りしめていた。
「男はお金を払って剣を手に持った瞬間泡を吹いて倒れてしまったのよ。もうびっくりじゃない!?」
「剣が手に馴染みすぎてびっくりしすぎたんですかね。」
「そんなわけないじゃない、剣を持っただけで失神するなんて聞いたことないわよ。」
話をしながら様子を伺っていると、ローブを着た武器屋がこちらを振り向く。フードを目深に被っているため顔は見え辛いが不敵な笑みを浮かべていることがわかる。すると不意に強烈な風が市場を吹き抜ける。たまらず目を閉じ、再び目を開けるとローブの男と大男が持っていた大剣は跡形もなく消え去っていた。
「なんだったんだろ、新手の詐欺かな。」
「……え、あ、そうだね〜いろんな人がいるからね〜」
「なんか気になることでもあった?」
「ううん、別に、ほら情報収集しに行こ!」
普段は忙しなくカフネの周りを飛び回っているマリアも今回は不気味に感じたのか挙動不審だ。
怪しい男が消え去り、大男も意識を取り戻した。市場は再びありふれた喧騒に包まれる。隣に居た女性に酒場の場所を聞こうとすると、逆に話しかけられる。
「あんた、冒険者?それにしては軽装だけど」
「いや、ただの旅人です。これから酒場に行って情報収集するとこ。」
「そうかい、ならちょうどいいね、うちの店に来なよ。あんた可愛い顔してるからサービスするよ!」
女性の誘いは願ってもないが、この世界でお金を持っていないことに気づく。
「お誘いは嬉しいんだけど、お金が無いんだ。少しばかり売れそうなものは持ってるから換金したいんだけど、どこかないかな。」
「あらそうなの、じゃあ冒険者ギルドに行くといいわよ。ギルドで登録すれば仕事も受けられるし、物の換金もできるわ。」
ギルドか、ゲームでは定番だったな。今後の金策のためにも登録しに行くか。
「ありがとう、行ってみるよ」
「行ってみるってあんたギルドの場所わかるのかい?」
「そういえばわかんないや」
「ほら、案内してあげるから着いてきな」
面倒見が良い人だなと思いながら女性についていく。
颯爽と歩く姿は騎士のように凛々しく、歩くだけで視線を集める。褐色の肌、目鼻立ちの整ったラテン系の顔、風に揺れるパーマのかかった髪が西陽に透けて輝いている。酒場を営んでいると言っていたがモデルのようにスタイルが良く、長身でグラマラスな体型をしている。
「なんだい、そんなにじろじろ見て」
「…き、綺麗だなと思って」
女性経験の少なかったカフネは変に緊張しながら返事する。
「うふふ、ありがとう。そんなに素直に言われると少し照れるね。」
「そんなに綺麗なのに、どうして酒場を?もっと華々しい職業がありそうだけど」
「まぁちょっとね…お酒が好きなのもあるし、お姉さんには色々あるのよ。」
初対面なのに失礼だったかなと反省していると肩に乗っているマリアが耳を引っ張る。
「いててっ、なんだよマリア」
「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ。」
「なに怒ってんだよ。仕方ないだろ俺も男なんだから。」
「うるさい、だから童貞なのよバーカ。そんなことより、あの女怪しくない?」
「面倒見の良い人だなと思ったけど。」
「なんだろ…私もうまく言えないけど、あの女は何かあるわ。」
「うーん、まぁ一応警戒しときまーす。」
「まぁ私も何か気づいたら伝えるわ。」
マリアと小声で話していると女性が足を止める。
「ここよ。」
視線の先を見ると、大きなロッジのような建物が構えている。
「中に入って受付に声をかければ登録できるわ。」
「わざわざ案内してくれてありがとう。」
「いいのよ。その代わり、今度店に来てね、約束よ。あ、自己紹介が遅れたわね、私はイライザよ。」
「カフネ、よろしく。」
「カフネね、覚えたわ。商売の街、ガルドベルトにようこそ。店はイライザの酒場って名前、そこそこ有名だから人に聞けば場所はわかると思うわ。じゃあ、また店で会いましょ。」
去っていくイライザの背を見送り、ギルドに入る。
ギルドに入ると入り口から正面は2階に続く横に広く突き当たりで二手に別れる階段、右手に受付、その隣に換金所、左手に見ると大きな掲示板がある。木造の造りとランプの暖かな灯りがギルド内の優しい雰囲気を醸し出している。
冒険者登録をして換金所を使うために受付に話しかける。
「こんにちは、冒険者登録をしたいんですけど…」
「はい、登録ですね!では、こちらの机に登録するための諸項目が表示されるので回答をお願いします。」
受付の女性は愛想良く案内してくれる。すると、受付台がぼんやりと光る。文字が浮かび上がる。
「え、すごい」
「これも魔法の一種なんですよ。最近は紙媒体じゃなくて魔法化が進んでいて、後ろの掲示板もこんな感じで魔法で表示されるんです。どちらから来られたんですか?」
剣と魔法のファンタジーと聞いていたため、中世ヨーロッパのような雰囲気を想像していた。確かに街並みはイメージ通りだった。しかし、ここまで魔法が生活に浸透しているとは思わなかったため面食らった。
田舎者だと思われたかな、実際田舎なのかな、転生したところは…グランフォレストだっけ。ていうか文字読めるのかな、こっちの言葉って何語?でも会話できてるんだよな、自動翻訳されてんのか、便利だなぁ。あ、返事しなきゃ、えっと…言っていいのか?森の中って言ったら怪しまれないだろうか…どうしよう…。
「…あ…あ、あ…」
カフネは考えを巡らせながら某アニメ映画の全身黒で顔が白い生きものみたいに挙動不審でいると、マリアが耳打ちする。
「ちょっとしっかりしなさいよ!出身地くらいじゃ怪しまれないわ、そうやって頭の中でぐるぐる考えて結局無難な返答しかしないからつまんない人生になるのよ。とりあえずなんか返事すればいいのよ、男だったら即断即決即行動しなさい!もう、手がかかるわね。」
ここ数時間しか一緒にいないけど、俺のことをよくわかってる。今までずっといろんな人生を見守ってきただけある。的確なアドバイスで背筋が伸びる。
受付嬢は困った様子でいる。気を取り直して改めて返事する。
「グランフォレストから来たんだ。」
マリアの言葉を信じて自信満々に答える。
「え、そうなんですか?あそこは最近、動物や魔物の活動が活発になってて危険ですし、人が住んでるという報告はないですが…」
受付嬢は露骨に怪訝な表情を浮かべている。
おいマリア話が違うぞ!?思いっきり怪しまれてるじゃねぇか!
数秒の沈黙の後、口を開く。
「…そうですね、グランフォレストは広大ですし、今でも未開の地が発見されるくらいですから村の1つや2つありますよね。」
「そ、そうなんですよ。ははは…」
なんか助かったみたいだ。転生して初っ端で怪しまれて登録できなかったら金策できないしサバイバル技術とか持ってなくて詰むから勘弁してほしい。結果的になんとかなったけど、マリアのアドバイスは危なっかしくて心が持たないよ。
文字も分かる言葉に自動変換されて無事に登録を済ませることができた。次に、ギルドのシステムの説明をしてくれる。
「冒険者登録すると、換金所が利用できるようになり、住民からの依頼やギルドが斡旋する仕事を後ろの掲示板から選んで受けることができます。冒険者は6階級に分かれており、駆け出しの冒険者はホワイトラベル、次に一人前のイエローラベル、ベテランのグリーンラベル、実力者の証であるブラウンラベル、最高クラスの実力を持つブラックラベル、そして伝説級のゴールドラベルがございます。依頼や仕事には難易度があり、各冒険者様の階級より1つ上の階級まで受注することができます。階級はギルドの判断で階級相応の実力があるとみなされた場合昇格します。また、ブラウンラベルからは降格する場合がございます。降格の条件は1年以上依頼や仕事を受注されない場合、受注した依頼・仕事を連続して失敗した場合、ギルドが階級にふさわしい実力が無いと判断した場合の2つ以上が当てはまる場合でございます。降格される方はあまりいらっしゃいませんが、一応覚えておいてくださいね。以上で説明を終わらせていただきますが、なにか質問や疑問はございますか?」
「自分の階級を確認したい場合はどうすればいいんですか?」
「その場合は受付に来てもらえれば確認できます。他にもマジックアイテムで確認することもできます。受付では、仕事や依頼の完了届けと報酬の受け渡しも行います。」
受付は基本的に仕事や依頼が終わったら来るとこなんだな。そして、マジックアイテムか…この指輪でも確認できるのかな、後で試してみよう。
「身分証明書みたいなものって無いんですか?身元が証明できないと困ることとか出てきそうですけど。」
「基本的にはありません。階級の情報なども個人情報ですので、外見でわかるようになっていると大変危険です。そういった個人情報を盗み見るような能力を持った人物は今まで報告にあがっていませんし、マジックアイテムで確認するため、問題ありません。ギルド職員や憲兵は確認するためのマジックアイテムを持ち歩いているので要所で確認させていただくことがありますがご容赦ください。」
そりゃ報告されないだろうなぁ。誰もそんな能力を持ってたら人に言わないだろうし。まぁ今のところは見られて困る情報もないし気にしないで良いかな。
受付嬢にお礼を言って隣の換金所に居る受付に話しかける。
「換金ですね。どちらを換金されます?」
グランフォレストで倒したドンガラボアから回収しておいたものを受付台に置く。軽自動車並みの大きさがあったため、いくつかの牙と緑色に光る玉だけを回収しておいたのだが、いくらくらいになるだろうか。
換金所の受付嬢は置かれたものを見て驚く。
「この玉は珍しいですね、ドンガラボアの体内でごく稀に生成される希少な宝玉です。強力な回復薬の材料になるため需要は高く、高値で取引されます。こちらの牙も漢方薬の材料になるため宝玉ほどではないですが、そこそこの価値があります。牙4つと宝玉1つで5万ガルドになります。」
5万ガルドか、多いのかな。相場が分からないからなんとも言えないな。
「そういえば教えてなかったけど、1ガルドで1円程の価値があるよ。この世界の宿は1泊3000ガルドくらいが相場になってる、定食1食で500ガルドくらいかな。」
「前の世界と貨幣価値は変わらないのか、計算しやすくて助かる。5万ガルドだと10日くらいは寝食に不自由はしなさそうだな。でも、武器とか防具も買ったら分からないな、よく考えて使わないと。ありがとうマリア。」
物を換金して5万ガルドを受け取る。
さて、冒険者登録もできたし、お金も手に入った、イライザの店に行ってみるか。イライザの店の場所を聞き、ギルドを出ようとすると突然扉が開き、カフネは弾き飛ばされる。
「あ?なんだこのガキは?邪魔なんだよ」
尻餅をついた状態で見上げると、褐色の肌に白く腰まで伸びた長い髪が特徴的な長身でつり目の男が立っている。さらに、よく見るとつり目の男の後ろに3人の男女がいることに気づく。いわゆるパーティというやつだろうか。後ろにいた3人のうちの1人である青年が近づき手を差し伸べてくる。
「ごめんね、怪我はない?あいつ乱暴だけど見た目ほど悪い奴じゃないんだ。」
手を掴み、立ち上がると周りの冒険者達がざわついていることに気づく。
「おい、あれブラックラベルのコンキスタドールじゃないか?」
「あのエンシェントドラゴンを倒したっていうパーティか!?」
なんだかすごいパーティみたいだ。
「最近やっと実力が認められてブラックラベルに上がったんだ。君は見た感じホワイトラベルかな、でも何か素質みたいなものを感じるよ。」
「…ですかね、ありがとうございます。」
少しばかり話をしていると白い長髪の男が苛立ち言う。
「おいジン、そんなやつほっといて行くぞ!」
「先行ってるね!」
「なるべく早く来いよ〜」
白い長髪の男はさっさと歩いて2階に行ってしまう。続いてパーティメンバーらしき小柄な女の子と気怠げな女性も2階に向かう。
「もう、みんなせっかちだなぁ。これからギルドマスターと話さなきゃいけないんだ。あ、自己紹介しておこうかな、僕の名前はジン」
「カフネっていいます。」
「カフネか、いい名前だ。君とはまたどこかで会いそうだね、その時はよろしく!じゃあまたね!」
ジンも2階に向かい、姿が見えなくなる。
嵐のような人達だったなぁと思っているとマリアがフワフワと飛びながらブツブツ呟いている。
「…あいつ…こんなところに…」
「どうしたのマリア」
「んー、なんでもない〜」
「なんか今日そういうの多くない?」
「いいじゃんそういう日なのー」
「えぇ…」
マリアは不機嫌そうに頬を膨らましながらどこかに飛んでいってしまう。なんで怒ってるんだろう、女心?神心ってよくわからないなぁ。先にイライザの店に向かってようかな、マリアなら追いつけるでしょ、神だし。
カフネはマリアのことを気がかりに思いながら店に向かう。