リライト
思いつきでパーっと書きました。
「…え、何処だここ…」
目が覚めるとそこは白い空間だった。見渡す限り何も無い、どこまでも無限に続いているように感じる。
「…確か俺は仕事から帰って…そうだ、夕飯はカレーを食べたんだ…それで、風呂に入ろうと思ったけど立ちくらみがして、そこから記憶がないな…。あれ、
もしかして俺死んだか?死んだのか!?まぁ確かに職場はブラックで21連勤とか当たり前だったしなぁ…なんかあんまり驚かないもんだなぁ。でも、これで仕事に行かなくて済むって考えればむしろ幸運かも!…んなわけないなぁ…もっとやりたいことあったなぁ。」
人に使われ、我慢し、搾取され、本当の自分を押し殺して生きてきた。男は呆然と立ち尽くしながら、人生を振り返る。思い返すと涙が止まらない。
「なぁなぁ君よ、なぜ泣いているんだい?」
突然背後から声がする。
驚いて後ろを振り返ると、背後の空間と同化しそうなほど白く滑らかなロングヘア、人形のような整った顔立ちに黄金色に輝く瞳、身長は小柄で150cmくらいだろうか、真っ白い服に身を包んだ人物が不思議そうな顔をして立っている。
「…えっと、あなたは?」
「私はねぇ…うーん、なんて言ったらいいんだろ…君達の世界でいう神…ってやつかな?宇宙であり、君自身でもある。名前はまだない。好きに呼んでくれよ。」
「はぁ…神様…ですか」
明らかに怪しい、怪しいがどこかに懐かしさのようなものを感じる。あながち嘘ではないのかもしれないと男はとりあえず信じることにした。
「ここはどこなんです?私は死んでしまったんでしょうか?これからどうすればいいんでしょうか」
「まぁまぁ落ち着きたまえよ。順を追って説明するからさ。はい、じゃあまず座ろっか、立ち話もなんだしね。」
神がパチンと指を鳴らすと1人がけのソファが横並びに2つ現れる。男も驚きながらも勧められるまま腰掛ける。
ソファに腰掛け顔を上げると大きなスクリーンが現れ、映画館のように男の人生がダイジェストで映し出される。神はどこからか取り出したポップコーンを片手に退屈そうに映像を眺めている。男も懐かしむように自身の人生を眺める。先ほど止まった涙が再び溢れそうになる。つまらない。起承転結に乏しい人生だ。
映像がエンディングを迎え、スクリーンを眺めている2人が後ろ姿が映し出されると神は話し出す。
「なぁなぁ君よ、今見た人生についてどう思う。」
「…つまらないです。なんの面白味もない人生だった…」
「そうだな。私もそう思ったよ。」
男は少し苛立つ。改めて他人に指摘されて自尊心が傷付いたのだ。
「それで、結局なんなんです?用件は?質問に答えてくれるんじゃないですか?」
「そうそう、ここからが本題さ。君、新しい世界で人生をやり直してみない?私たちはね、ぶっちゃけ暇なんだよね。世界作ったら壊したりするのにも飽きちゃったしさ、刺激に飢えてるわけよ。だから、君に新しい人生を送って欲しいわけよ。んで、それを近くで面白おかしく眺める、OK?」
神様って暇なんだ…思いもよらない神様事情を知ってしまい、男の中の神様像が瓦解していく。違う、そこじゃないと首を振り我に帰る。男にとっては願ってもないチャンスだ。
「ぜひお願いします!」
「おぉ…いい返事だね。じゃあ早速転生先とか諸々決めて行こうか。出来るだけ君の希望には沿うようにするけど、希望通り過ぎるとつまんなくなりそうだからこっちでうまく調整しちゃうからね。」
神はポチポチとリモコンを押し、スクリーン画面を切替話す。スクリーンには男のプロフィールが映し出されている。現在はまっさらな何も書かれていない状態だ。
男は少し考える。どうしても譲れないポイントが2つあった。1つ目は搾取されないこと。2つ目は囚われないことだ。いずれも人生の教訓から学んだことだ。
「2つ希望があります。1つは搾取されないこと、2つ目は囚われないことです。」
「なるほど、ざっくりだね。自由になりたいのかな?ふーん、じゃああとは適当に決めちゃおうかな。転生先はこの辺で…容姿はこんな感じで…」
ほとんどあんたが決めるんじゃないかと心の中で悪態をつきながら、他にどんなことがあれば幸せに生きられるかを考える。次の人生は刺激的に、波乱万丈な人生を生きてみたい。本当の自分をさらけ出すんだと小さく心に誓う。
ふとスクリーンに目をやると先ほどまでまっさらだったプロフィールが埋まっている。中でも気になる項目がある。
ふぅ〜っと一仕事終えた様子の神が話し出す。
「できたよー。こんな感じで転生するからね。」
「あの、このレベル1とかスキルとかってなんなんですか?」
「え、君ゲームとかやったことない?いわゆる剣と魔法のファンタジーの世界に転生してもらうからね。一応そういうのがあるのよね。まぁ追って説明するからさ、とりあえず転生しちゃおっか!」
「えぇ…やったことはありますけど…ていうか説明してから転生するんじゃないんですね。」
露骨に眉を潜め、面倒臭そうな反応をする。
「あ〜、君細かいよぉ。追って説明するって言ってんじゃん。はいはい行くよー、3.2.1」
カウントダウンと共にパチンと指を鳴らす音が聞こえ、意識は途切れる。