59 オーラスト王国再び
このゴールデンウイークはステイ・ホームという事で、家にいる方は時間があれば読んでいただければ幸いです!
方針を決めてから帝国と商国にオーラスト王国への外交の事を伝えると、帝国からはエレノアと宰相が、評議国からは第一商会と第九商会の会頭が同行することになった。それぞれ食品を扱う商会と情報を扱う商会で、各国に強いパイプを持っている。
王国へは帝国と評議国の連名で訪問する旨を伝え、2週間後に会談する予定で準備が進められている。今日は自室にて一人で今後の事について考えていた。
「セリアンスロゥプの人口700人が今の私の手駒になる戦力。それに対し世界の人口は5億人。教国の人口は5000万人ほどで、大体は一億数千万人の国民がそれぞれの国にいる計算か・・・私のスマホにデータがある限りの現代兵器を投入しても扱える人材が少なすぎる。まだ足りないな・・・」
私が思い描く世界にするにはまだまだ足りないものが多すぎる。協力者・情報・戦力、帝国の奴隷となっている獣人や他国に散らばっている評議国第六商会の商品である獣人があとどの程度集まるかで行動の開始時期が左右される。
「最低でも直轄の手駒が1万、私からの指示系統で行動できる軍隊が100万人ほどいれば申し分ないな。不確定要素は悪魔となっている魁人とその背後にいる何者かか・・・。あの本に書かれていることを真に受けるなら観察者なる者か・・・少し王国では仕掛けてみるか。」
今はまだ準備不足が過ぎる状況で下手な動きは取ることが出来ない。とにかく今は野心の無い優しい国家元首の言動を心掛けていくことでこの世界に私の手を広げていくことと、私の指図で動く組織を巨大化していきたい。
「さて、王国へ行くまでの2週間はこの国の発展と帝国に行って外壁を創造してきますか。」
エレノアとの約束もあったので、時間があれば帝国へ行き、地図とにらめっこしながらオスプレイで飛び回り街や都市の外壁を作った。セリアンスロゥプでは新たな国民の家や家具などの創造に勤しんでいると、あっという間に2週間が経過し王国への訪問日となった。
前日のうちに評議国と帝国へ飛び、王国へ訪問する代表者達を自国に招いて一泊して貰っていた。晩餐の際の顔合わせでは、エレノアは商人という人種に対して苦手意識があるのか、宰相が中心となって会話をしていた印象だった。対する評議国は隙あらば自分の商会を売り込んでいたが、宰相は上手く躱しながらも帝国にとって利になることについてはしっかり約束を交わしていた。両国にとって有意義な時間だったのだろう、最後は私を含め笑顔で握手を交わして晩餐はお開きになった。
当日ーーー
「お久しぶりです、ドルティエ・フォン・ウル・オーラスト陛下。」
「久しいな火乃宮殿。いや今は一国の王になったのなら我も陛下と呼ぶべきかな?」
オーラスト王国の会議室にて、クロスティーナと訪問した時以来の国王と挨拶をかわす。会議室には王国側は文官や武官の要職に就いているのだろう前回訪れた時に見た人物が大半だった。事前に会談の要請をした中には私についての情報も渡しているので、彼も私が何の為に王国へまで来ているのかは察しているようだった。
「呼び名はまだ建国準備中ですので、陛下と呼ばれるのは早いですね。」
「なるほど。ところで獣人達の国を作るらしいが、同行のギルクローネ帝国皇帝にアッセンブリー評議国商会の会頭・・・冗談ではなかったようだな。」
国王は会議室で同じ席に座っている帝国や評議国の面々を見回しながら溜息をつく。
「そうですね。お久しぶりですドルティエ陛下。今日は帝国皇帝としてではなく、あくまでも仲介者という位置付けですがよろしくお願いします。」
横に座るエレノアが立ち上がり腰を折って妖艶な笑みを浮かべて挨拶をする。
「エレノア皇帝、先の知らせにあった火乃宮殿との婚姻は真ですかな?」
「えぇ、事実ですよ。」
「・・・そうか。それに評議国の会頭達も火乃宮殿と協力関係を結んでいるということで相違ないかな?」
そう聞く国王に第一商会のギルムが代表して答えた。
「お久しぶりです陛下、第一商会会頭のギルムです。先日は大きな商いをありがとうございます。小麦の納品はもう少しで到着するかと。おっと、評議国の立ち位置でしたな。全ての商会ではありませんが、半数以上と言うところです。」
「何故と聞いてもよろしいかな?火乃宮殿はこの世界の人間では無い。ただ武力という力があるだけで、宗教についても悪魔にしてもこの世界の者より知識も乏しいだろう?」
国王がそう言うのも当然だろう。第九商会の会頭の話では、このオーラスト王国はアスタルト教の信者が多く、国王にしても信者らしい。つまり、獣人に対しては良い感情どころか人類の敵と見なしていると言っても過言ではないだろう。
宗教については本でみた程度で、この世界の宗教観もそれほど理解しているとも言い難い。悪魔についてはある程度の情報が揃いつつあるという感じだ。
「評議国としてはですが、我々は商人ですからね。火乃宮殿と協力する事が利益になると考えたのです。」
「帝国としても火乃宮殿の力と能力を見込んでの事だ。」
「なるほど、僅かな月日の内に強力な後ろ楯をつけたか・・・しかも、アスタルト教の信者の少ない国ばかりとは上手いことだのぅ?」
「そうですね、既に建国に向けて準備も整っている状況です。」
国王の嫌味はさらりと流して現在の私の国の状況を伝えた。
「ほぅ、それで今回の会談の目的を聞いてもよいか?」
「はい、ではオーラスト王国としては獣人の国が出来るということは認められる事ですか?」
同行しているマリアとミリアムに視線を向けさせながら、今回の会談の核心を王国のトップに確認する。
「そこにおられる第九商会の会頭から聞いて知っているだろう、我が国はアスタルト教の信者が多く、認めるということは国民からの支持を失う事に繋がる。」
「つまり、認めるのは国情を考慮すると困難だという事ですね。」
私と国王とのやり取りにマクレーン騎士団長が焦ったように入り込んでくる。
「火乃宮殿、誤解して欲しくないのだが、我が国はあなたと敵対したいという考えは全く無いのだ!あくまでも宗教上の考えから認めるのが困難だということを分かって欲しい!」
身を乗り出すような騎士団長の主張に、ドルティエ国王が不快げな顔をする。そのやり取りに隣に座るエレノアが手に持つ扇子で口許を隠しながら私に耳打ちしてくる。
「どうやら上層部でまだ意見が纏まっておらんようじゃな。2週間先延ばしにしてもお主を敵に回すのと教国と信者達を敵に回すことのどちらをとるかで対立しているようじゃ。」
エレノアは為政者として他国が混乱している様を見るのは痛快なのだろう、この雰囲気の中で良い笑顔をしている。
「騎士団長、下がれ!今は我が話しておる。」
「はっ!差し出がましい真似でございました、申し訳ありません!」
「はぁ、このように火乃宮殿の行動が我が国に影響しておるのだ。」
多量の嫌みを含んだ国王の言葉に私は笑顔で返す。
「それはそれは、ただ私もアスタルト教会の教えをまとめた本を読ませてもらったのですが、そこには獣人という言葉は出てきませんでしたよ。」
「何を言っておる!教典には悪魔より生まれし人ならざる魂は災いをもたらすと書いておるわ。」
「そこです!獣人は魔獣から生まれているのであって、悪魔から直接生まれているわけでは無いんです!」
「そんな詭弁、単なる言葉遊びだろう!」
「それで構わないんですよ、国が表だって私と争う姿勢さえ見せなければ。信者の方が個人的に私と敵対する分には問題ありません。」
「それでは国民の支持が低下するだろう!」
段々と国王はヒートアップしてきたので、冷静になってもらうために例え話をする。
「ですが、もし国王の選択が国を想っての選択ということを国民皆が知ることが出来れば支持は低下しないのではありませんか?」
「・・・どういう事だ?」
「例えば私と敵対することは王国を消滅させることと同義だと知れば、その道を回避した選択は称賛されると思いませんか?」
「貴様王国の国民を人質に取ると言いたいのか!?いや、王国を消滅させるだと?正気か貴様!!」
「落ち着いて下さい、例え話ですよ。」
私の言葉に国王のみならず文官の要人達は顔を赤くしてこちらを睨み付けてくるが、武官の方達は逆に顔を青くして私に恐怖の感情が乗った視線を投げてくる。そんな中騎士団長が発言を求めて国王へ許可を求めた。
「陛下、発言をお許し下さい!」
「何だ!騎士団長!?」
怒りが収まらない国王はマクレーン団長にも怒声を飛ばした。
「はっ!火乃宮殿に確認したい事がございます!」
「何でしょうか?」
「貴殿の例え話しは現実に起こし得るのですか?」
武官の方達は固唾を飲んで私を見ている。もし王国が私と敵対するのなら、その最前線に立つのは自分達だと分かっているのだろう。そして、共に戦ったことのある者は私の力もその脅威も理解しているはずだ。
「国を潰すのは案外難しい事ではないんですよ。首都を、あぁこの国で言えば、王都ですね。そこを根こそぎ消してしまえば国は混乱していく・・・。つまり頭を潰せば良いわけです。」
マクレーン団長の質問には直接的な答えをせずに、少々回りくどい返答をした。
「そう考えるということは、それを成す力があるという事ですね?」
その質問にも私はただ微笑んでいるだけで答えなかった。
「ええい、もう止めんか騎士団長!あやつは我が国を脅迫しておるのだぞ!そんな奴の言うことなぞ聞く耳持たぬわ!即刻追い返せ!」
「お待ちください国王陛下!火乃宮殿と敵対するのは王国の存亡に関わると愚考いたします!」
「貴様の考えなど聞いておらぬわ!会談はこれにて終りだ!」
怒りに顔を赤くして国王は鼻息荒く会議室を退出した。
次回更新予定は5月2日です。




