58 次の一手
ここ最近は週に1話ペースになってしまいました。もう少しペースを上げたいところですが、なかなか時間を取るのが難しいですね・・・
そんな訳で家に閉じこもっている方で時間があれば見ていってください。
エレノアへのお披露目も終って数日が経ち、セリアンスロゥプのみんなも新しい首都での生活に慣れてきたころ。新しく仲間になった獣人達のリーダー格であるヴェラは親衛隊の新人として加わっていた。その他のみんなもそれぞれの得意分野や、やってみたかったことを仕事にしながら生活をしている。少しづつではあるが国としての集団としてセリアンスロゥプは回り始めていた。幸い新しい仲間との衝突も特に無かったのは今後の人口増加計画への加速になりそうだった。
そんな日常が流れていた中、ヴェラが議事堂の執務室に居る私に報告してきた。
「失礼します陛下!商国のシズよりの報告です!他国の支店で商品となっていた仲間を200人確保したとのことです!さらにもう一つ、陛下が命じられていた遺物を購入することが出来たと連絡がありました!」
両腕を後ろに組んで、胸を張って背筋を伸ばすヴェラはどこぞの軍人のようだった。
「ご苦労様。それといつも言ってるけど陛下なんて呼ばなくても皆と同じ様に呼んでくれれば良いよ。」
「いえ、火乃宮様はこの国の王です。陛下と呼ぶのは当然です!」
「そ、そうか。分かった、報告ありがとう。明日の昼にも商国へ向かうと連絡しておいてくれ。それとマリア達に新しく200人規模の受け入れをするから準備を始めてくれと伝えてくれ。」
「了解しました!」
きびきびとした動きで部屋を退出するヴェラの後ろ姿に見える逞しい尻尾は小刻みに左右に揺れていた。
(喜んでいるのか・・・?)
その尻尾の動きがどんな感情の表現かは分からないが、なんとなく喜んでいる犬の尻尾を想像してしまった。
翌日、ヴェラとメローラを護衛として商国の第六商会に向かうと、知識奴隷として雇っているシズが出迎え、執務室に案内されソファーに座ると机から書類と例の鎖で繋がれた本を渡してきた。
「今回の獣人達についての情報です。ほとんどが女性で男性は10人です。あと、これが例の遺物です。」
差し出された遺物の本は今までと同じ見た目で、封印の力が秘められているあの遺物で間違いなさそうだった。
「ありがとう。君は優秀だね!今回の働きの報酬として何か望みはあるかい?」
彼女からは奴隷の首輪は外してあるが、雇用形態としては奴隷という位置付けなので、身分の解放だろうと予想する。
「・・・実は国許に妹がおります。その子を呼び寄せ一緒に雇っていただけないでしょうか?」
予想の若干斜め上を行くシズの望みに面食らってしまった。その私の沈黙を否定的に受け取ったのか、急にシズが謝罪してきた。
「申し訳ありません!奴隷として度を越えた望みでした!」
「あ、いや。シズの望みが妹を呼びたいということであれば全然構わないよ。奴隷からの解放を望むかと思っていたから驚いただけだよ。妹さんは何をしているのかい?」
「はい、実家の農村で手伝いをしていると思いますが、私の仕送りが止まってしまっていたのでかなり生活が苦しいと思うのです。ですので、ご無理を認めていただけるならお願い致します!」
「分かった。早急に呼び寄せなさい。雇用契約についてはシズのサポートという立場で結ぶようにコダートに伝えておこう。」
「はい!ありがとうございます!!」
シズは満面の笑みを浮かべながら深く腰を折って感謝の意を示した。
「では保護した獣人の子達の移送についてだが、前回同様に3日程掛かると思うからその間の雑務を頼む。」
「はい!お任せください!」
今回の報酬のお陰か、俄然やる気を出したように見えるシズは頼りになりそうだった。
ヴェラとメローラに新しい獣人の子達と顔合わせをお願いし、シズにもコダートと妹さんについての雇用の報告に行かせ、執務室には私一人になった。この隙に封印の遺物を開封する。今まで同様裏表紙に作者の想いが綴られていた。
『三冊目の本を手にしている君はきっと獣人達の救世主となっている頃だろう。何故そう思うのかって?それは次の本で教えて上げよう。
さて、少しこの世界の本質について伝えておこう。最初の本の中身には悪魔についてフェイクの内容が書き込まれていることに気付いたかい?周りに教会の手の者が居たときの保険だね。真実は君が考えている通りだよ。皆は悪魔が人類の敵と呼んでいるが、本当の人類の敵対者はこの世界を観察している存在だと私は考えている。その者の手先となって働いているのが悪魔といった感じかな。
さぁ、世界の為に、君の為に、獣人達の為にこの力を有効に使ってくれ!』
読み終わったその時、また本が淡く発光し私に吸い込まれていった。懐から鑑定の魔石を取り出し、早速確認をする。
名 前:火乃宮 蓮
レベル:195 体力:63180 魔力:-----
スキル:知識創造(限定開放)(付与可能)(大規模創造可)
万物封印(3/5) (封印サイズ大)(封印解除設定可)
称 号:統治者 開発者 死神 異世界の理を持つ者 悪魔の怨敵
熟練の封印者 獣人の英雄 超越者
スキルを確認すると任意での封印解除を設定できるようになっていたので、使い方の幅がかなり広がった。何より時間を確認しなくてもよくなったのはありがたいし、仲間の皆にも活用できそうだった。
戦略に幅が出来たことに笑みを浮かべていると、メローラとヴェラが私を呼びに来た。
「蓮兄様!みんなへ挨拶をお願いしたいの!良いでしょうか?」
「陛下、お手数ですが新たな仲間にそのご尊顔をお見せください!」
「・・・分かった、すぐに行くよ!」
ヴェラの話し方については今更なので、もう気にせずいくことにした。
メローラ達の案内のもと、保護した獣人が集まる広い会場へと足を踏み入れると、沢山の好奇の目が向けられていた。それは怯えのような、喜びのような、自分の行く末を知るために私の人となりを知ろうとしているようだった。
「初めまして、私は火乃宮 蓮と言います。君達が新しく過ごす国の方針を決めている一人と思ってください。メローラやヴェラから説明はあったと思いますが、私の国に来るかは自由です。みなさんはどうしますか?」
全体を見渡しながら問いかけるも誰からも否定的な意見は聞こえなかった。メローラ達が上手に説明したのか、話はスムーズに終わってしまった。
これからの予定を告げていくと、私がここに入って来た時と比べみんなの表情は穏やかになっていた。
商国での予定も終え、セリアンスロゥプに戻ってから数日間は新しい仲間の移送に忙しくも充実したい日々を送った。人口も700人程になり、農作業をしてくれる者も増え食料自給率も良くなりそうだった。ただ、小麦や香辛料、嗜好品等は商国との貿易で輸入しなければ自国生産は難しそうだった。
今はマリアやルーシー、ジェンナと共にこれからの行動について話し合っていた。
「セリアンスロゥプは落ち着いてきたので、建国の為の根回しを各国にしようと考えています。」
「根回しですか?」
マリアが聞き返してきた。
「えぇ、教国の横槍が予想される以上各国の上層部には釘を刺しておこうと思いまして。」
「でも、教会の信者達にはそんなことしても意味が無いんじゃないかにゃ?」
ミリアムの懸念は教会の信者達は国のトップの言葉よりも教会からの言葉の方を優先するのではないかと言うことだ。
「当然そうだろう。だが、国が主体となって動くことと、いち信者が動くことの意味はまるで違うんだ。」
「つまり蓮ちゃんは~、各国合同で討伐軍が編成されることを警戒しているのね~?」
「そうです。命令があれば遂行せざるを得ない兵隊と違い、一般人である信者であれば、ある程度の力を見せることで士気が下がり空中分解するでしょう。」
「なるほど、各国に釘を刺すのは国自体が動かないようにと言うことなんですね!」
ジェンナが理解したとばかりに大袈裟に首を上下している。その隣のマリアが神妙な顔つきで不安があると口にした。
「火乃宮様、心配事が2つあります。」
「各国に対する教国の影響度ですね?私が持つ力と教国及び信者との軋轢により生じる不利益を天秤にかけた時にどちらに傾くかで、釘を刺しても意味を成さない可能性もあると?」
「はい。それに今は動きを潜めている悪魔の動向も心配です。いくら火乃宮様が動いても徒労に終わる可能性や全く予期せぬ事態になることもあるかと。」
「だからといって何もしない訳にはいかないよ。行動の結果良い方向に転がることもある。意味が無いかもしれないという可能性だけで行動を諦めるつもりはないよ。」
「失礼しました。私達も全力で火乃宮様を支えさせていただきます!」
マリア達の了解も得られたことで、どこの国から廻るか行き先を考える。帝国と商国を抜かせばオーラスト王国とフロリア公国の2ヶ国に行く必要があるが、何の面識もない公国よりも、一度行っている王国の方が話が早いかもしれないと考えた。
「ではまずは面識のあるオーラスト王国へ行ってみます。外交的な話し合いを目的にしたいですので、帝国と商国から数人の代表と同行することを考えています。」
「他国も利用して~、外交的な圧力をかけるのね~。」
「その通り。まずは王国がどう出るか様子を見つつ、次は公国へ行こうと思います。」
新たに指針も決まり、数日内に帝国と商国の意向も聞いてから出発することで、その日の会議は終わった。
次回更新予定は4月25日です。




