57 歓談
中々時間が取れずに今週も1話の更新になってしまいました。今週は各地で外出自粛になってきているので、お家にこもって時間を持て余してしまったら読んでみて下さい。
エレノアをセリアンスロゥプに迎えた夕刻、温泉旅館風に仕上げた私の自宅にて歓迎のパーティーを催した。
パーティーといっても人数は、こちらが私やマリア、ルーシー、ミリアム、パメラ、ジェンナの6人と、帝国側はエレノア、軍務大臣、近衛騎士達合わせて6人の計12人と少数なので、立食ではなくコースのように料理を出す形式にしている。
帝国の帝城で出されたような見た目も豪華な料理というよりは、味を重視した料理となっている。特に評議国で調味料の類いを大量に仕入れてこれたのて、味のバリエーションも増えた。シエラに教えられながらオーク獣人の男性料理人達は新たな味を生み出し、美味しい料理の研究に日夜余念がない。
今後は料理の彩りなどにも気を遣っていければ完璧だろう。
「ふむ、見た目はまだまだ改良の余地はあるが味は美味しいの。何を使っておるのじゃ?」
料理の紹介のためテーブルに控えているオーク獣人の料理人に向かってエレノアが食材について聞いていた。
「は、はい!そちらはリヴァイアサンの肉を使用しております。」
今出されている肉料理はリヴァイアサンの肉を香辛料を使って香り高く仕上げた料理らしい。
食材となっているリヴァイアサンは既に討伐してから2週間以上経つというのに全く腐敗が見られないどころか、今も断面はピンク色の瑞々《みずみず》しさがあり、今死んだばかりだと言われても信じられるほど状態が変わらないのだ。
「ほぅ、これが伝説の食材と言われておるリヴァイアサンの肉か・・・存外美味しいものなのじゃな。」
「なんでも評議国では一口で寿命が1年延びると言われているらしく、高額で取引したいと言われた食材だよ。」
「なるほど。しかし今回の評議国への訪問では相当成果があったのではないか?聞いた話では評議国を代表する10商会のうち半数を手懐けたらしいではないか?」
「そうですね、こちらとしても都合の良い手札が色々とあったので有効活用しただけですよ。」
「そうか。だが油断するなよ、奴らは商人・・・自分に利益があると思えば平気で裏切るぞ。」
「大丈夫ですよ。その為の布石はちゃんと打って来たので、評議国も滅多な行動には移せないはずです。」
評議国の情報を扱う第9商会には私が盗聴器を少し融通している。それは私はそういった物を使っていくらでも評議国の情報を収集することが出来るという事を相手側に知らしめているという事だ。それに気づかない相手ではないだろう。どこでどうやって聞いているか分からない以上滅多な行動を抑止しているともいえる。
「余計な心配だったようじゃな。だが教国には気を付けろよ、あやつらは教会の教えで獣人を認めておらん。全世界に建国の宣言を出せば必ず何らかの行動を取ってくるはずじゃ。」
「やはりそうですか。建国の宣言をする前にそちらの問題も綺麗にしておいた方が良さそうですね。」
帝国でのクロスティーナの去り際の表情を思い浮かべるに、直接・間接問わず何らかの手段は取ってくることが予想できる。その規模の大きさによってはこの世界中を巻き込んだ宗教戦争並みの出来事になりかねない。とすれば、教国の出方を窺うのは愚策、こちらから先制して動き出すべきだ。しかし、動き出した結果即座に争いになることも考慮した準備が必要となる。宗教の教えを否定する行動をとる私はアスタルト教にとっての神敵に等しい。宗教の教えを書き換えることが不可能な以上、最低限やりあう覚悟は持っておかねばならないだろう。
「できれば教国を滅ぼすまではしてくれるなよ。実際この世界にはアスタルト教の教えというのは深く根を張っておるのじゃ。それが消滅してしまえば世界中に居る信者たちの信仰心がどういう形で現れることになるのか想像もつかぬ。」
「それはそうですね・・・肝に銘じておきます。」
「全てに嫌気が差して盤上をひっくり返したくなったらまず妾のところに来い。足腰立たぬ様にして、何も考えられなくしてやろう。」
妖艶な笑みを浮かべながら、エレノアが冗談なのか本気なのか、私がこの世界を滅ぼすストッパーになるという事を言ってきた。
「どうせならその理由以外で足腰立たなくして欲しいですね。」
「ふふふ、良かろう。妾の夫はどの程度の技量か今晩試してやろう。」
そんな会話をエレノアとしていると、隣からルーシー達が笑いながらも怒気の籠った声で会話に入ってきた。
「あら~、皇帝陛下様にはもしかしたら蓮ちゃんのあれには耐えられないかもしれないですよ~!」
「そうにゃん、人間より体力があるはずの私達が先に足腰立たなくなることもあるにゃん。」
「ええ、火乃宮様は男性としての能力も包容力も桁違いなのです!」
みんなエレノアに牽制でもしているのだろうか、私を誉めてくれているとは思うのだが、内容があれの事なので間近でそんな事を他人に喋られるのは顔から火が出る程恥ずかしくもある。なまじ私からもエレノアに会話を振っているので止めずらいところでもある。
そんな所在なさげにしている私に帝国の軍務大臣や近衛騎士達はこの世の者とは思えない生物を見る様な表情をむけていた。
(それはどんな感情なんだ!?獣人と致していることに対してなのか?獣人よりあれで勝っていることなのか?)
「そ、そうなのか・・・ま、まぁ初夜は優しく頼むぞ!優しくな!」
2回言ったのはエレノアの心の表れなのか、こちらに引きつった笑みを浮かべながら懇願してきた。
「人をそんな性欲の塊みたいに見ないで下さい!レベルのせいで少し体力があるだけですよ!」
そんな少し場が和んで歓談していたところで、軍務大臣がおずおずといった感じで話しに入ってきた。
「火乃宮殿、少しよろしいですか?」
「ええ、なんでしょう?」
「先程皇帝陛下が仰った様に教国からの武力介入もあり得る状況で、我が国が後ろ盾になっている事も教国は快く思わないでしょう。」
「つまり帝国も教国の標的になる可能性があるということですね?」
「はい。その際に帝国民のみならず、皇帝陛下も万全に守護できるよう協力をお願いしたいのです。」
「・・・具体的には?」
「火乃宮殿が作ったと言われる外壁を帝国の首都や各街へもお願いしたい。また、万一教国や信者たちが攻めてくる事があればご助力頂きたい。」
「なるほど、帝国がこのセリアンスロゥプの後ろ盾になった際に、教国からの武力的なリスクに予防・対処して欲しいという事ですね。」
「はい。帝国は評議国に次いでアスタルト教の信者の数という意味では少ないですので、内部からの発起よりも外部からの侵攻の準備をしなければなりません。」
「しかし、教会の教えでは人同士の争いを禁じているのでは?」
「それは今後も変わらないでしょうが、聖戦と名付ければお題目も立つでしょう。」
「都合の良い言葉ですね。」
「まったくです!ただ、そういった批判をしたとしても止まらないでしょう。それが信仰心というものだと私は考えております。」
もし教国がセリアンスロゥプの国民である獣人達の後ろ盾となっていることに不快感を持って帝国まで攻め込んでくるというなら、それは人同士の争いによって悪魔の力を増幅させるという事を教国が積極的に蔑ろにしているという事だ。また、本来そういったことをすれば残りの国々が教国へ武力を向けるはずだが、そこを指摘したとしても『これは聖戦なのだ』と言い張って信者たちを言いくるめてしまえば指摘することに意味は無いだろう。
「蓮よ、妾からもお願いしたい。帝国の民が害されれば、妾の判断が間違っておったと言われかねん。お主の出来る範囲で帝国の都市や街に外壁を作って欲しい。勿論その対価は払おう。」
「外壁を作ること自体はおそらく一つの都市で5分もあれば出来るでしょう。では私の準備が整い次第向かいますので帝国全体の地図があれば用意しておいてください。また、対価の一部は奴隷となっている獣人がいるなら帝国の方で買い取って引き渡していただければ結構ですよ。」
「分かった。そちらの輸送可能人数を伝えてくれれば、その人数ごとに輸送できる準備を帝国の方でしておこう。」
「ではよろしくお願いします。」
お披露目のパーティーで帝国との交渉もまとまりお互いに満足いく結果でお開きとなった。その夜エレノアと・・・
「ちょっ、ちょっと待て!少し休ませてくれんか?これではおかしくなってしまう!」
「その時はちゃんと面倒見ますよ。」
「お主はベッドの上でも容赦ないのか!?」
「ふふふ、楽しみはこれからですよ。」
「あ・・・・・」
翌日エレノアは娘のユーリを訪ねた際に「お母様大丈夫ですか?歩き方がぎこちなくないですか?」と指摘されると、私へ何とも言えない表情を向けた。去り際に「今度はもう少し手加減してくれんか?」と頬を赤らめながら耳元で私に伝えてきて、そのままセリアンスロゥプを後にした。
次回更新予定は4月18日です。




