54 セリアンスロゥプの発展
連投2話目です。
第六商会での一連の騒動も収まり、襲撃者達の身柄は治安部隊と言う名称の組織へと引き渡した。この部隊は元の世界でいう所の警察組織らしい。コーダッチの一件については他国の要人暗殺未遂という事で、罪状としてはこの国では死罪相当になるとのことだった。そこでそもそも死罪となることから、彼を殺したことについては私やヴェラについては正当防衛としてお咎め無しとの事だった。
では何故コーダッチは死罪になるにも拘わらずこんな事をしたかと言えば、評議国では良くも悪くもお金がすべての国であり、お金を握らせてしまえばいくらでも黙らせることが出来るのだという。そんな事を聞くと、まさに商人の国の闇の部分を見た気分だった。
面倒な手続き等については悪いとは思ったがコダールに押し付けて、獣人の子達の件を先に済ませるとする。
喧騒冷めやらぬ血の臭いが未だ漂う場所だが、他に広い場所もないのでとりあえず壇上の方に集まってもらい必要事項を告げる。
「さて、色々あったけれど君たちに聞きたいことが一つある。私と共に来るのかここに残るかだ。もちろん強制ではない。奴隷からの解放だけで、どこかで自由に生きてもらっても構わない。さぁ、どうする?」
集まった獣人の子達を見渡しながら努めて優しい口調で語り掛ける。するとここでもヴェラが先頭に立って質問を投げかけてくる。
「私達にはあなた様の作る国へ行く事に否はありません。復讐の機会を与えて下さったこと、奴隷から解放していただけることは望外の喜びです!ですが、私たちは今まで長い間ずっと人間を憎んできました。異世界から来たから信頼できるとはすぐに頭を切り替えられないのです。・・・あなた様は私達をその国でどのように扱うつもりなのですか?」
先程までの喧嘩腰の口調ではなく、いやに固い言い回しで聞いてきた。
「新しく国を創るからね、やる事は山ほどあるよ。道の整備や住居の建設、田畑の耕作、衣服の制作、魔獣からの防衛等自分のやりたいことや能力に合った職に就いてもらいたいと考えているよ。」
「・・・そ、それでは普通に生活するのと変らないのでは?そ、その、寝ることなくずっと働き続けるとか、・・・よ、夜の相手をするとか?」
「いや、ちゃんと休んで良いから。そんなことしたら倒れるじゃないか。それに夜の相手も大丈夫だからね。」
「そうそう~、蓮ちゃんの夜の相手は私達がもういるし~。でもどうしても蓮ちゃんとしたいなら~いいわよ~。」
ルーシーが私との良好な関係性をアピールするためか、足を絡ませてしなだれながら横から口を挟んできた。
「いや、なんでルーシーが許可を出すんだよ!とにかく普通に生活してくれればいい。それにまだ国としては君達を入れても人口500人程度だ。これではまだ貨幣経済は成り立たないから、しばらく物々交換での生活になるため働き手が必要なんだよ。」
セリアンスロゥプでは現状、働き手はいくらあっても足りないのが実状だ。領土はあっても整備が行き届いていないので対外的にはまだ都市と呼べるようにはなっていない。その為今は手が空けば急ピッチで土地の整備をお願いしている。
「そ、そんな事でよろしいのですか?私達は獣人です。夜通し働けと言われれば3日位出来ます。それにみんな普通の人間よりは力も有りますし、空を飛べる者もいますし、多少ですが魔法を使える者もいますので、もっとあなた様のお役に立てると思います!」
「そんなにアピールしなくても君達を見捨てることはしないよ。それに実は建築物なんかは私の能力を使った方が早いから、力仕事と言えば畑仕事や鍛冶なんかだろうな。」
「そうです!蓮兄様の力を持ってすればどの様な家でも一瞬です!あんな大きな家が瞬きする内に出来てしまうんですから!」
メローラが衛星兵器と一緒に作ったマスドライバー施設の事を思い出したのか、上気した顔で得意気に語った。
ちなみにメローラの『蓮兄様』という呼び方なのだが、初めての夜の後に彼女は17歳ということで10歳違いだねと伝えた後からこんな呼び方に変わったのだった。
獣人に多いのか、あれをした後は妙に距離感が急接近して、それが呼び方に現れている気がする。・・パメラは別として・・・。
「そ、そうなんですか。ありがとうございます。ではここにいる仲間を代表して火之宮様に忠誠をお誓いいたします!」
仰々しい言動で跪いたヴェラに倣って、残りの獣人達も同じ様に跪いた。
「忠誠を誓う必要はない!あくまで同じ国で暮らす仲間と思って欲しい!別に私は崇高な思想で獣人の国を作る訳ではないし、先程見てもらった様に悪意には悪意で、善意には善意を返そうと考えているごく一般的な思考の持ち主なんだよ。」
「し、しかし火之宮様は私共の国の王なのですよね?」
「確かに私は君達を率いる立場かもしれないが、私一人では国は成り立たない。皆の協力と成長と笑顔があってこそ国は発展する。ただ言いなりに動くだけでは奴隷と変わらない。成長とは自らが望み、学ぶことでなし得るものだ!私が君達に期待するのは共に成長しようという想いだ!」
これは私が会社勤めをしていた時に思っていたことで、笑顔のない職場に成長はないという持論から、国に置き換えても同じ事が言えるだろうと考え皆に伝えたかったことだった。
「・・・かしこまりました!・・・私達は奴隷から解放されたいと願っていたのにその心には奴隷としての思考が染み付いてしまっていたのですね・・・気づかせてくれたこと、誠に感謝いたします!」
「それから話し方もそんなに仰々《ぎょうぎょう》しくしなくていい。私の周りはもっとフレンドリーな話し方の者が多いだろ。」
「そうにゃ!蓮様はそんな事で怒るような器じゃないにゃ!」
「そうです!火之宮様はこんな厳つい私でも、ベットの上ではまるでか弱い少女のーーー」
何故かパメラは私を表現する時に夜の事を引き合いに出してくるのだが、そんなに彼女を抱くことは衝撃的なことなのだろうか。
あまり第一印象でそちらのイメージが着いてしまうのは恥ずかしいので、パメラの言葉に割って入る。
「ま、まぁとにかく、小規模な国だから家族みたいに仲良くやりたいんだよ。ただ、軍事力は最高峰と思ってもらっていい。だから君達が今まで味わったような屈辱は、少なくとも肉体的には起こらないようにしよう。」
「・・・肉体的には?」
「そうだ!人間とは差別する生き物だ。自分よりも下の存在や、下に見たい存在がいればどこまでも冷酷になれる。肉体的には何もされなくても、陰湿なことはしてくるかもしれない。」
「・・・陰湿ですか?」
「例えば商売の取引で獣人だからと不利な取引をさせられたり、何か事件があれば関係なくても疑われたり、犯人にされたりといったことかな。」
「確かにそれは有り得ることですね・・・」
いくら獣人の国を作ったとしても今までの歴史から、獣人に対する意識はそう簡単に変わらないだろう。国を作る以上他国との接触は必ずある。その際に何かにつけては嫌がらせや迫害を受けることは十分ありえる。仮に私がいなくなった後は更にそれが顕著になるだろう。もしかしたら侵略されて元の状態になるかもしれない。そう考えると、彼女達にとって獣人の国を作るのは意味の無いことなのかも知れない。
しかし、何もしなければ何も変わらない。何か行動すれば何かは変わるかもしれない。彼女達にとってはこれからが戦いになるだろう。
「とはいえ、今までの環境で良いと思っている者は・・・居ないだろう?だったら、行動を起こして自分達の環境を・・世界を変えるぞ!」
「「「はいっ!!!」」」
彼女達の目を見ながら一応の信頼は得られたと感じたが、その中で男の獣人達は一様に怯えた眼差しだった。
(獣人の中における男の立ち位置が弱すぎるのか・・・彼らはまるで人間の女の子のように寄り添って怯えている・・・)
この状況を見ると、以前ミリアム達に聞いたことだが、獣人の中では社会的な男女関係は人間とは真逆になっていると強く意識させられる構図だった。
「では今後の予定だが、これから君達の首輪を解除した後、明日にはセリアンスロゥプへ移動を順次開始する。荷物は最小限に準備しておいてくれ!」
必要事項を告げ、明日以降の準備のために獣人達が広間から退出していった。最後にヴェラが1人で残り私の前に進み出て土下座をしながら謝ってきた。
「先程は脅されているとはいえ、あなた様に対し殺すつもりで敵対していました!謝って許されることではありませんが、どうか私の首一つで仲間の事はお許し頂けませんでしょうか!?」
「・・・君達は脅されていたのだし、実害もなかったのだから気にしなくて良いよ。」
「し、しかしそれでは周りに示しが着きません!!刃を向けた者に対する対応は苛烈でなければその指示に従わない者も出てくるやもしれません!」
「それは私の対応が君達を増長させ、いずれ反旗を翻すかもしれないとの心配だろうけど・・・問題ないよ。やがて分かる、比べる事さえ馬鹿らしくなるような圧倒的な力を見れば・・・」
そうヴェラに言った私の顔はどんな表情をしていただろうか。この世界の標準に照らして考えれば異質なほどに強大な兵器を生み出せ、自身の肉体能力も桁外れている。そんな存在はいくら国や仲間を作ったとしてもどうなるのだろうか。そんな猜疑心、不安は常に私の中にあった。
「大丈夫にゃ!私もみんなもいつまでも一緒にゃ!」
「そうよ~。みんな蓮ちゃんに自分の身体も命も捧げる覚悟があるのよ~。」
「火乃宮様から離れることなどありえません!未来永劫お側におります!」
「蓮兄様はずっと一緒です!言葉で安心できないなら、身体で証明します!!」
みんなの温かい言葉や覚悟を聞き、感謝の念に堪えないが、この開けた場所で不穏なことを言いながらメローラが服を脱ぎ出そうとするので慌てて止めに入る。
「あ、ありがとうミリアム、ルーシー、パメラ、メローラ。これからもよろしく頼む!」
「・・・じゅ、獣人からこれほどまでの信頼を・・・。私は仲間の内ではまとめ役をしておりまして、水の第4位魔法が使えます。どうかよろしくお願いします!」
「ああ、ヴェラもよろしく頼む。」
続きます。




