51 襲撃
連投2話目です。
奴隷となっている獣人達との顔合わせの為、第六商会へと足を運ぶ。
まずは応接室に通され奴隷のリストを渡される。対応してくれているのはこの商会のナンバー2のコダールという中年男性だ。
買収の後に何度か顔を見ているが、嫌らしい商人の特性が全部詰まった様な外見で、チビ・デブ・ハゲの三拍子揃っている。しかし意外と商売に対しては紳士的な考えの持ち主で、奴隷は見た目が大事と生活環境を整え十分な食事をとらせたりと、ここ数年改革を行い、堅実に売り上げを伸ばした結果ナンバー2になったと聞いている。
ちなみにルーシー達に言わせると、最も嫌悪感を抱く人物像らしく、顔を見ると終始鋭い目付きで睨んでいる。もちろん今この時も。
さらに今回の会頭交代に際して彼には獣人の奴隷が丸々売上げから減少するぶんに対して、人材派遣の斡旋を行ってはどうかという提案を行った。
人材派遣という文化の無いこの世界においては先駆者となり、多額の利益をもたらす可能性のある事業だと伝えたときの彼の顔は野心に燃えていたものだ。
「いかがでしょう会頭?獣人の種族や数、人間においてもどの様な経緯で奴隷となったかも網羅しております。」
手を擦りながら報告してくる様は、どこかの漫画のゴマすり役に見えてしまうが、どんな人物にもこんな態度らしいので深くは考えないようにした。
「ご苦労、指示通りだな。人間は知識奴隷が一人か・・・後で面談する。それ以外の人間は今までと同じ扱いで構わない。」
「かしこまりました、その様に。では獣人は広間に集めておりますので、ご移動をお願いします。」
倉庫の様な広間に案内されると多種多様な獣人が怯えの目を見せながら入ってきた私に一斉に視線を向けてきた。
報告書でも分かっていたが、大半が女性で男は2割程しかいなかった。
壇上に立って見渡すと、角があったり翼があったりケモミミがあったりと様々で、総勢250人の獣人を見るとある種の圧迫感がある。そんな中でも前方にいるパメラの様な体格の良い子達は全身の毛を逆立たせ、親の敵でも見るような目付きで私を睨みつけていた。
「みなさんお集まりいただきありがとうございます。私は火乃宮 蓮と言います。この商会の新しい会頭です。急な事ですが君達には私が建国する国へ移住してもらいたいと考えています。勿論今までのように奴隷として売られたいのであればその様にしますが、私が創る国の一国民として生活したいと希望されれば、いわゆる人間と同等の生活は保証しましょう。」
そう高らかに宣言すると前方にいた体格の良い獣人達が口々に野次を飛ばして来た。
「どうせあんたも今までの人間と変わらないでしょ!私たち獣人は人間の慰み者にされるか、厳しい肉体労働、魔獣の討伐で死ぬまでこき使われるだけよ!!」
「そうだそうだ!どうせ人間のやる事なんて一緒よ!!あんただってヤルことやるか、魔獣の討伐させて私たちを見殺しにしてもなんとも思わないんでしょ!?」
「そうよ!騙されないんだからね!!きっと今までの方が良かったって思えるくらいの所に連れて行く気でしょう!?」
その叫びは今までの経験からなのか、これから自身に降りかかってくるかもしれない事への不安なのか。周りの子達は彼女たちの叫びに頷きながら様子を伺っているようだった。
「まぁ、君たちの心配も理解は出来る。人間である私がいくら言おうが人間に対する根強い不信感が拭えることは無いだろう。なので、君たちと同じ獣人の言葉を聞いて欲しい。ルーシー頼む。」
袖に控えていたルーシーが静かな足取りで私の隣まで移動して来たので、少し後ずさり続きを任せる。これは想定していた状況だったのでルーシーも驚くことなくスムーズに喋りだしてくれた。
「みんなゴメンね~。今までの経験や環境で信じろって言うのが無理よね~。私たち元々は奴隷だったんだけど~同じ境遇だった獣人に助けてもらって~、人間が来ないような遺跡で隠れ住んでいたのよ~。時には私が助けられたように奴隷になっている獣人を助ける為人間と戦ったりしていたわ~。」
「・・じゃあ何であんた達はその人間に従ってるんだ?人間は戦うべき相手だろう!?」
「ん~そうね~。あなた達はこの人がこの世界とは違う世界から来たって言われたら信じられる~?」
ルーシーが延ばした手を私に向けながら異世界人だということをみんなに告げる。
「ふ、ふん。そいつが次の転移者って訳ね。でも、私達の生活を保証して何かメリットがあるとは思えない!どうするつもりなの!?」
奴隷として生活するということは閉鎖された世界に閉ざされる事になると思うのだが、異世界や転移者という言葉を当たり前のように受け入れているということは、それだけこの世界には常識と言うことなのだろうか。
「メリットね~、私の主観もあるのだけれど~、蓮ちゃんは消去法でこうなった感じがするのよね~。」
おおよそ壇上に立って演説している人物とは思えないような口調と仕草をするルーシーに目の前の獣人達も若干戸惑いを見せる。
「ど、どういうこと・・・?」
「ん~、直接聞いた方が良いかな~。というわけで~・・・」
笑顔を浮かべながら私に視線を向けてきたルーシーに少しため息をつきながら前に進み出る。
「皆さんは私が一人でこの都市を小一時間で廃墟に出来る、と言ったら信じますか?」
「・・・は?いやいや何言ってんだよ、あり得ないだろ?」
「そう思うでしょうね・・・」
檀上を見渡すと隅に石像が置いてあったので、それを指さしパメラに持って来てもらう様に指示を出す。その石像は2メートルはありそうな女性の裸婦像でいわゆる芸術品だった。
「・・・少し見てもらっていいかな?」
そう言うとその石像に向かってデコピンのように中指を親指で弾くと、破裂音と共に石像は粉々に砕け散ってしまった。
「「「・・・・・・・・・!?」」」
「おっと、ここまで粉々になるとは・・・。とまぁこんな具合に指一本で石ぐらい砕けるし、ちょっと前には天災と言われているリヴァイアサンを討伐したんだが、信じるかは置いておくとして、そんな力を持っていると思われる人物が近くに居るとしたら君達ならどうする?」
私に突っかかってくる子達を見ながら質問を投げかける。
「ど、どうするって言われても・・・」
「そうだな、言い方を変えよう。君たちを苦しめている人間がたった一人、その首輪の起動魔具を持って君達250人と一緒に生活しているとしよう、どうする?」
250人全員が付けられている首輪を指さしながら再度質問を重ねた。
「・・・それは、隙を見てその魔具を奪って・・・」
「殺すだろ?その人間を。」
彼女が言葉にしなかった部分をあえて指摘する。
「そ、それは・・・だって人間は私達なんて物みたいに扱っていたんだ!」
「別に責めている訳じゃない。この世界の獣人と人間の歴史は話でしか知らないから、当事者である君たちの心情は私には分からない。ただ、この世界において私という存在は先程のたった一人の人間で、君達の部分はこの世界の人類ということだよ。まぁ、血塗られた歴史があるわけではないから仲良くし合えるかもしれないし、敵対するかもしれない。しかし敵対した場合は天災と言えるような力が降りかかってくるかもしれない。そう考えた時に人間はどんな行動に出ると思う?」
「・・・さっきの私が言ったような行動をすると?」
「おそらくね。」
「でも、あんたは教国から色々優遇されていたんだろう?何でわざわざ敵対してまでこんな・・・」
「それは教国の目的の為に私を旗頭に据えておいたほうがいいからね。でも、その目的が達せられ、教国にとって用無しになった場合、あるいは教国にとって邪魔になった場合は私を排除したいと考えるだろう。残念ながら今の私は教国にとって知らなくていい事を知ってしまった邪魔者という立ち位置になってしまったけどね。」
「・・・だから新しい国を創って教国と対抗しようって言うのか?」
「積極的に対抗したいとは考えていないが、暗殺に怯えて夜も満足に眠れない場所に居るよりも、面白おかしく笑顔で過ごせる場所に居たいと思うのは自然な事だろう?」
「「「・・・・・・」」」
納得してくれたかどうかわからないが、みんな一様に俯きながら何かを考えているようだった。
すると後ろに下がっていたルーシーが私の隣に並んで口を開いた。
「今すぐには信じれないと思うけど~別に私たちも彼に力で虐げられている訳じゃないのよ~。その証拠にほら~、首輪もつけられてないでしょ~!」
そう言うとルーシーは見えやすい様に胸元まで上着をはだけさせてアピールをした。そんな中さらにミリアムとパメラも壇上に上がり、みんなに呼びかけた。
「そうにゃん!蓮様は獣人である私達の為に寝る時間も惜しんで色々してくれたのにゃ!アスタルト教国と戦ってギルクローネ帝国と交渉して新しい私達の国を創ってくれたのにゃん!だから皆にはその目で確かめて欲しいのにゃ!」
「そうです!獣人の救世主と称えられる火乃宮様のお力をその目で見てから判断されるべきです!火乃宮様はこの世界の方ではなく私達に対して忌避感等は無いそうです。そして、こんな見た目の私でもそのお優しい指使いで寵愛を・・・」
最後の方は頬を赤らめながらその巨体に似合わないクネクネと身体を動かしている為、何だか微妙な雰囲気になってしまった。
この雰囲気で続けて何を言おうか迷っていると、比較的私に近いところに居る子たちがぼそぼそとした小声が断片的に聞こえて来る。
「「「・・どうし・・・無理で・・粉砕・・殺さ・・でも・・首輪・・」」」
どうしたのかと耳を澄ませて聞いてみようとすると、突然この広間の壁が轟音と共に破壊され、粗野な衣服を着込んだ十数人の荒くれ者のような風貌をした厳つい男たちが手に武器や杖を持って雪崩れ込んで来た。
その後方から下卑た笑みを浮かべた元第6商会の会頭、女装男のコーダッチが乗り込んできた。
「うふふ、あんた許さないわ!地獄を見せてあげる!!」
続きます。




