46 宣言
3話連投最後です。
エレノアへの報告を終えて割り当てられた部屋に案内されると、私には前回と同様の個室で獣人たちは2人一部屋という具合にだった。
一息ついて間もなくメイドのシエラからエレノアが呼んでいると知らせられると、子供の事だろうとシエラに案内されて出向いた。
エレノアの私室に案内された私は紅茶を啜りながら彼女の子供達の様子について今のところは混乱等は見受けられない事、他の獣人からも特に疎外されていなかった事を伝えた。
するとその言葉にホッと胸を撫で下ろす、子を持つ親相応の優しい表情が見てとれた。
「な、なんじゃその愛玩動物を愛でるような顔は?」
「エレノアも人の親なんだなぁと思っただけだよ。」
「・・・これから夫婦になるお主にそう言われるのは少々複雑じゃな。」
「それは確かにそうだね。」
そのやり取りにお互い顔を見つめて笑いあった。
「さて、もう一つお主に確認せねばならんことがある。」
急に真剣な顔になったエレノアが静かな迫力で私を問い詰める。
「なんでしょうか?」
「お主はこの世界をどうするつもりじゃ?」
「・・・どうもするつもりもないですよ。ただ平和に暮らしたいだけです。」
「ふっ、冗談を言うでない。天災と言われたリヴァイアサンを歯牙にもかけぬ力を持つお主に今後他国が何の干渉もしないわけなかろう?」
「・・・それは帝国も含めてと言うことですか?」
「そう思ってくれて構わん。先の会談の際に帝国を飲み込むか聞いたのも、お主はこの世界においてあまりにも個人で武力を持ち過ぎておるのじゃ。」
「各国と条約を結んでも難しいですかね?」
「・・・分かっておるだろう、国家間の条約は対等であるか、破った場合にその国が不都合になるからこそ意味がある。お主はどちらにも当てはまるまい。」
エレノアの言う事は正しい。今の私の力はこの世界のすべての国と敵対するようなことがあっても武力でもって屈服することも可能だろう。条約を結ぶにしても丸腰の相手にこちらは完全武装で武器を突きつけながら交渉するようなものだ。
「そうですね。悪魔と敵対しているうちはまだ良いでしょう。問題はその後と私も考えています。私自身が第2の悪魔となりこの世界に君臨してしまうという懸念を各国が抱くだろうと。」
「どおしようと考えておるのじゃ?各国から嫁を娶ってバランスをとるか?」
「できればもっと穏便に済ませたいのですが、そこはまだ考え中です。今はみんなの視線を悪魔に集中させて時間を稼ぎますよ。」
「・・・分かった。世界を征服するつもりは今のところ無さそうじゃな。お主が穏便に済ませたいというなら妾も知恵を絞ろう。」
これは自分の能力を自覚した当初からの懸念事項なのだが、悪魔を倒すためには相応の武力でもって対処しなければならない。しかしその武力がこの世界の人々にとっては有り得ない威力や脅威となると、例え悪魔を倒して英雄と崇められても、平和となった世界では時間が経つにつれ私の突出した武力に対する畏怖や恐怖の感情が必ず芽生えるだろう。
そして恐怖などのマイナスの感情は他者へと伝染しやすい。それはあっという間に世界を覆い、その感情がピークとなった時に人間がとる行動は大抵の場合は排除となる。
「そうしてくれるとありがたい。私にもまだ決定的な対処策は思いついていないですから。」
「ところで、今後はどう動くつもりじゃ?何やら対悪魔の準備をすると言うとったが?」
「まずはその準備が終わればアッセンブリー評議国に行ってみようと考えています。」
「ほぅ、何をするつもりじゃ?できれば帝国の発展の為にも力を使って欲しいところなのじゃが?」
「評議国は商人の国と聞いていますので色々やるべきことがありそうなのでね。帝国の発展には差し当たってリヴァイアサンの素材を提供しますので、上手に使ってください。」
商人の国と言われる評議国に赴こうとする目的は主に2つだ。遺物と情報。
あらゆる物と情報が集まると言われているので、知識付与が可能な遺物の購入と各国の私に対する情報収集をしようと考えている。
「まぁ良いじゃろう。くれぐれも勝手に新しい嫁を連れてくるでないぞ。私との序列の兼ね合いもあるから面倒なことになるぞ。」
「分かっているよ。3日後の婚姻の宣言には他国への牽制も兼ねているんだろ?」
「もちろんじゃ。これはお主の為でもあるのだぞ。お主を排除するにしても取り込むにしてもそこには帝国というバックボーンがあるのじゃからな。今の世界情勢から考えれば強力な後ろ盾じゃぞ。」
エレノアが「今の」と強調したのは、今後私の力を各国が知ればその情勢は変化するからだろう。
エレノアとの話も終わり部屋に戻るとそこには片膝をついて待っていたパメラとカレンが居た。
「お、お待ちしておりました。そ、その夜伽の準備は出来ておりますので、い、いつでもご用命下さい。」
「あ、あぁ。・・・カレンはどうしたんだ?」
「はい!パメラ隊長と協議した結果、蓮様が受け入れてくれるなら2人で寵愛を頂こうと。」
・・・2人の顔や体にはさっきまでなかったはずだが、薄く擦り傷のようなものが見える。まさか、取っ組み合いのケンカまでしてないだろうかという心配事が浮かんできた。というかもしそうだとすれば2人共を受け入れない場合は大変なことになりそうだ。
(どちらも美人で可愛い子に迫られるのは男冥利に尽きるのだが、複数相手って大変なんだよな・・・しかし、ここで片方を後日に・・何て言えば順番で揉めるだろうし。はぁ、嬉しいやら大変やら。)
「わ、分かった。じゃあ浴室に行ってくるから待ーーー」
私が了解の言葉を言うや否や被せるようにカレンが喜んだ。
「ほ、本当ですか!?やったー!ほらパメラ隊長、私の言った通りです。蓮様は受け入れてくださいましたよ!」
「く、し、仕方ない。初めては2人きりが良かったのに・・・」
「ぶ~、私だってそうです!でも、順番が後はもっと嫌です~!」
「いや、2人共聞いてる?ちょっとお風呂に入っーーー」
「「大丈夫です!私たちはしっかり身を清めてきましたので。さぁ服は私たちにお任せください!」」
「い、いや。私が入りたいんだが・・・」
「「はぁ、はぁ、こ、これからご寵愛を・・・」」
2人の目は若干血走っているのか、私の言葉がほとんど入っていないようだった。嬉しいやら怖いやら、今夜は搾り取られそうな予感がしてならないがもう流れに身を任せるしかない。
・・・たっぷり2人に搾られて思ったのは、体格の大きいパメラに小柄なカレン、2人の爆乳に包まれて窒息するかと思ってしまったほどだ。いや、男にとっては極楽なのだろうが・・・凄いという言葉しか浮かばなかった。
ちなみに2人のミルクも直飲みさせてもらったのだが、容器に入れられたミルクと違って、まろやかな舌触りで甘みの中に深いコクのある絶品だったと付け加えておこう。
・・・・・・・・・・・・
3日後の午前10時。私は帝城のバルコニーに豪華に着飾ったエレノアやその側近達と共にいる。
ここからは城下が良く見渡せる場所で、下に目を向けるとたくさんの人々が帝城前の広場に帝国国旗を模した旗を振りながらこちらを見上げているのが見えた。それはまるでこの首都に住む全ての人々が集まっているようだった。
エレノアは静かな足取りで前に出てバルコニーから見えるように壇上に立った。そこには音声を拡散する魔道具なのかメガホンのような形をしたものが置かれていた。
「親愛なる帝国臣民たちよ、今日は妾から皆に知らせることがある。知っての事と思うがこの帝国に悪魔が率いる魔獣の軍勢が迫っておった。更に皆には伏せておったがその軍勢の中に天災級と言われておるリヴァイアサンの存在が確認されていたのだ。」
エレノアの言葉に人々は国旗を振るのも忘れ悲鳴となって辺りを包んだ。中にはリヴァイアサンという魔獣が何なのか分かっていないような声が多数聞こえて来るが、天災級という言葉にその強大さを感じているのだろう、人々の動揺が感じ取れる。
「落ち着くのじゃ!皆が感じている通り天災級の魔獣とは一国を滅ぼす程の力を有しておる。しかし、妾がこうして皆を集めたのはリヴァイアサンを討伐することが成
《な》ったからじゃ!これがその証のリヴァイアサンの鱗である!!」
エレノアは両手で持ったリヴァイアサンの鱗を空に高々と掲げて人々に良く見せるようにしている。日の光を通してその鱗は青々とした光を人々へ降り注いでいるようだった。
その青い光に人々は一瞬静まり返り、ただ見つめるだけだった。そして次の瞬間には喜びの歓声が上がった。
「さらにこのリヴァイアサンを討伐したのはたった一人の人物じゃ!その人物こそ悪魔を討伐するために異世界から召喚されし者、火乃宮 蓮殿じゃ!」
そう言うとエレノアは後ろを振り返り私に目配せをしてくる。
ゆっくりとエレノアの隣まで歩みその場で帝国から貸し出された儀礼用の宝剣を掲げて見せる。
(事前の打ち合わせでは了承したが、本当にあんなことして大丈夫なのかね・・・)
このパレードに際して私に求められたことが武力の誇示だ。皇帝エレノアとの婚姻に差し当たって障害になるのは私の力を知らなければ反発や侮蔑、嘲笑といったエレノアの評価を下げることになってしまう可能性がある。
しかし、私の能力や強さを帝国民全体に誇示することでこんな人物と縁を結べたという事でエレノアの評価を上げようという事だ。
「皆の中には召喚された彼の事を知らないものもいるだろう。その力に疑問を持つ者もいるだろう。そこで彼にはその力の一端を見せてもらいたい。」
その言葉と共に宝剣を鞘に納め、懐のスマホを取り出しボタンを押す。そして左手を空に掲げ声を張り上げた。
「刮目せよ、これが我が力だ!!」
瞬間空が轟音と共に朱に染まる。元々帝城のバルコニーを見上げていた人々は耳を塞ぎながら朱に染まった空を不思議そうに見た次の瞬間に物凄い爆風が辺りを覆う。広場はきっと阿鼻叫喚の状況だと思うのだが、20発のミサイルを連発しているためにその轟音にかき消されているのだろう、人々の声は聞こえなかった。
やがて準備した全てのミサイルの発射が終わり、辺りは人々の驚きや困惑、悲鳴などのざわめきに支配されていた。
「皆の者落ち着け!!」
エレノアの一喝で辺りは徐々に静寂を取り戻していった。
「これが彼の能力の一端じゃ!この力でもって彼は天災級のリヴァイアサンを討伐せしめたのじゃ。この力を見れば皆もそれが真実だと納得できたことだろう。・・・だが同時にその心には恐怖も宿ったことだろう。この力が自分達に向けられたならと・・・。案ずる事は無い!なぜならば妾と火乃宮殿はこれをもって夫婦の縁を結んだことを皆に知らせる!!」
「「「おぉ~!!!皇帝陛下バンザーイ!!!火乃宮様バンザーイ!!!」」」
静寂の後に大歓声が人々からなされる。それは婚姻への祝福か、安堵への叫びか、空気が震えるほどの叫びとなって私に届いた。
「そしてもう一つの知らせじゃ。我が夫となる蓮に帝国の領土の一部を下賜し悪魔討伐の為の国を建国してもらうこととなった!そこはここ首都グランデウスから西に500キロ程の場所にある魔獣たちが闊歩する場所じゃが、皆も見ての通りその魔獣達を一掃することなど造作もないと語ってくれた!」
帝国にとっての落し所として譲渡はあくまで悪魔討伐が目的の為ということと、その場所は帝国にとっては開発できないような場所だという事を前面に出すような話し方で民衆の了解を得ようとしているのだろう。
それが功を奏したのか分からないが人々の反応に拒否感は無かった。
「皆今日はご苦労だった。ギルクローネ帝国に栄光を!!」
「「「栄光を!!!」」」
その言葉と共に宣言は終わった。
次回更新予定日は3月14日です。




