38 威力偵察
今回3話の連投です。
帝国との会談の後にシエラとの顔合わせを行い、今後のユーリ、ジョシュの移送の段取りも取りやすくしておく。
また、皇帝と私の婚約の知らせが魔獣討伐後に予定され、悪魔への対処が一息ついたのちに盛大な婚姻披露パーティーを催すとのことだった。
その後、守備隊第8部隊部隊長のアイザックの案内の元に帝国の城下街にて回復の光魔法が込められた魔石を購入し、さらに遺物を購入できないか散策していった。
紹介された魔具店の棚の隅に売れ残っている遺物を見つけ、店主に聞くと案の定使い方が分からない遺物で、たまに好事家が買っていくが普段は売れない商品なのだという。
そこで在庫の2つの遺物を購入したが、店主にもアイザックにも物好きを見るような顔をされてしまった。
一通りの準備が終わると、セリアンスロゥプの建国についても話しておく必要があるので、翌日早朝に一旦戻る旨をシエラに伝えてもらった。
その際にユーリ達を移送する事と、身の回りの物の用意などをするように告げておいた。
クロスティーナ達については帝国との仲介の役目を終えたので、自由にして良いと言うと教国に戻るという事だった。
「また何処かでお会いしましょう。」とクロスティーナ達に伝えると、苦笑いを浮かべながら何も言わずに教会へ去っていった。
そして翌早朝にシエラと共に大きな箱の中にユーリとジョシュを詰め込んで、私が購入した物資と3人の荷物を紛れ込ませるようにオスプレイに積み込んだ。
前日にミリアム達にユーリとジョシュの事を伝えると、皆快く歓迎してくれるとの事だったが、ルーシーからは「その子も側室候補なの~?」とからかわれてしまった。ただ、シエラについては少し微妙な顔をされてしまったが、その半生や人間からされた仕打ちなどを聞き、受け入れられるように努力するとのことだ。
まだ陽も昇りきってない早い時間にセリアンスロゥプへと戻り、事の顛末をマリア達に知らせる。
建国するための諸々の懸案事項についてはマリア達にある程度任せつつ、法律や決め事等の内容については 私が草案を作り、獣人達の常識や生態に照して合っているかの確認を行いつつ制定する事で決まった。
皆への建国の知らせについては今夜にも大々的に知らせる事になった。
また、シエラとルーシー、ジョシュについてはしばらくマリアの方で面倒を見るとのことだった。
対魔獣戦に向けての準備に席を離れる際にルーシーが―――
「お母様から色々お聞きしました。私達の為に行動して頂いてありがとうございます!こんな身体ですが、私にも協力出来ることがあれば是非おっしゃって下さい!」
と私に頭を下げる。彼女はそのタコのような足のため地上を歩く速度は遅いが、水中なら素早く動けるらしい。
ここセリアンスロゥプには少し離れた場所に大きな運河が流れているので、そこで漁をしてみてはどうかとマリアが提案し、彼女も「やります!」と語尾を強めていた。ちなみにジョシュも彼女と一緒に漁に付いていくとのことだった。
そして、帝国へ出発前に作っておいた監視部屋へ足を運び、魔獣への威力偵察の準備を始める。
一番の不安材料はリヴァイアサンなので、奴を倒せる兵器であれば他の魔獣に対しても有効であると想定できるので、まずは以前作り出した無人偵察機に搭載可能なAGMー114ヘルファイアを創造する。
このヘルファイアは主に対戦車戦闘において使用されるものだ。赤外線画像誘導が可能で飛翔速度が速く、着弾所要時間が短いため、敵に回避・反撃する機会を与えることなく攻撃できる。 今回はリヴァイアサンの巨体や鱗の強靭性を考え、弾頭を対艦攻撃用に変更した物を使用することにした。
現在悪魔に率いられた魔獣たちが拠点としている地点はここセリアンスロゥプから約300キロの地点というのは帝国の地図で確認が取れているが、より正確な地形データが欲しいため先行して無人偵察機を送り込み画像などから確認しようと考えている。
無人偵察機1機を飛ばし1時間ほどで目的地に到着するはずなので、その間に帝国で購入した遺物を確認しようとしたところでルーシーが訪ねて来た。
「戻って早々また籠っているのね~。少し休まないと本当に倒れちゃうわよ~。」
そう言いながら椅子に座っている私を後ろから抱きしめて来た。後頭部にはぽよぽよと幸せな感触が感じられるが、またからかわれるのだろうと思いながら後ろを向くとルーシーは普段の、のほほんとした笑顔ではなく、本当に心配した表情で私を見つめていた。
その眼差しに本当に心配をかけてしまっていたのだと自覚することができた。
「心配してくれてありがとう。色々とやらないといけない事だらけで、今が一番忙しいのはしょうがないから。」
「蓮ちゃん~、あなたはきっと一人で何でもできる・・・出来てしまうのね~。他人を頼るより、自分で動いたほうが早いし正確だとも思っている~。それは事実かもしれない、でもそれでは仲間を遠ざけてしまうわ~。それに皆あなたに頼ってもらいたいとも思っているのよ~。それを忘れないで~。それから、笑顔も忘れちゃダメよ~!」
そう言うとルーシーは私に優しく口づけをして、「続きは後でしましょうね~」と耳元で囁き部屋をあとにした。
(まったくルーシーは男の動かし方が上手いな・・・)
彼女も今がセリアンスロゥプにとって重要で大変な時期だという事は理解しているはずだ。さらに、私のやっていることは私にしか出来ないという事も分かっているのだろう。だから休むように強要することもなかった。その代わり元気づけに来てくれたのだろう。
ルーシーとの後に外に出て、力のあるカレンと一緒に無人偵察機にヘルファイアを2発取り付けた。重量45キロもあるミサイルを軽々持ち上げた時には獣人との力の差を感じてしまったほどだった。
無人偵察機を発進させて監視部屋へ戻ろうとしたときに、カレンから今度は大き目な皮袋に入った牛乳を渡された。
「あ、あの、今は忙しいと思うので、いっぱいいっぱい飲んで元気になって下さい!」
「ありがとう。心配かけてすまないね。」
「ううん。私達の為にありがとうございます!そ、その、飲みたかったらいつでも呼んで下さい。搾りたてが一番おいしいから・・・その・・・そのまま飲んでも良いですから。」
帝国での件から意外に積極的になってきたカレンに少々驚きながらも、改めてカレンの容姿を気にしてみると、小柄で可愛らしい顔で、頭には曲がった角が自己主張しているが、その爆乳にすべての視線が行ってしまう。そんな子からの申し出だったらありがたく好意を受け取りたいと思ってしまう。
「あ、ありがとう。その時はよろしく頼むね。」
「は、はいっ!」
監視部屋に戻り、無人偵察機から送られてくる映像を見ながらカレンの牛乳を飲みつつ一息入れる。
するとミリアムが部屋に入ってきて、何か手伝う事は無いかと聞いて来た。
「今のところは偵察機が魔獣の住処に着くまで休憩中だから、1時間くらいはゆっくりしようと思っていたんだよ。」
「じゃあミリアムがマッサージしてあげるにゃ。これでも皆から評判がいいのにゃ!」
「ありがとう。じゃあお願いしようかな。」
最近は椅子に座りっぱなしの姿勢が長時間続いていたから少し腰が痛くなってきていたので、ミリアムの申し出は有難いものだった。
「それじゃあちょっと横になって欲しいにゃん。」
準備が良いのか、最初からそうするつもりだったのかミリアムはもこもこのバスタオルのような物を床に敷き、そこにうつ伏せになる様に指示してきた。
言う通りに横になると、私の太ももの辺りに腰を下ろしたミリアムは肩から背中、腰へとまんべんなく揉み解しをしてくれる。さすがに獣人だけあるのか力強い揉み方で凝りが取れていくのが感じられる様だった。
そして驚くのは、彼女の掌はまるで肉球のぷにぷにとしているような感触で、それが筋肉を程よく刺激してことのほか気持ち良い。
「蓮様は頑張り過ぎなのにゃ。1時間したら起こすからこのまま寝ちゃってもいいのにゃ。」
そうミリアムが言ってくれた時には既に私はウトウトとしてきており、このまま寝てしまいたい状況だったがーーー
ぴぴぴぴぴ・・・・
部屋の中に敵影発見のアラートが鳴る。
夢の世界に片足を踏み入れていた状態から一気に現実に引き戻される。
(目標地点までの時間を考えれば、これは別の魔獣でも見つけたのか?)
「ありがとうミリアム。また後で頼むよ。」
そう言いながら立ち上がり椅子に腰かけてモニターの確認を行う。
「これはっ!」
「どうしたのかにゃ?・・・・何このでっかい魔獣は・・・?」
モニターに映し出された魔獣は一目見ただけでもその大きさがうかがい知れるような巨体だった。
画像からの解析では体長105メートル、見た目は日本古来の龍の様な姿をしている。全身を覆っているサファイアブルーの光沢を放つ鱗からはぼんやりとした輝きが見られ神々しささえ感じる。
「多分これがリヴァイアサンなのか・・・。帝国の情報では体長50メートル位と聞いていたが、かなり控えめな表現だったらしい。それに、このセリアンスロゥプから150キロしか離れていない。」
「えっ、リヴァイアサンはここから大体300キロの場所に居るって・・・何でこんな近くに来ているのにゃ?」
リヴァイアサンの巨体で気付かなかったが、その後方にはヒュドラなどの魔獣も追従しているように見える。
(となれば、これは帝国の都市セイリスの魔獣が移動していると考えられる。問題はその目的地だが、おそらく・・・)
「これほど早く行動してくるとは、少々想定以上だね。」
「だ、大丈夫なのかにゃ?あれが移動している川はここの近くに流れてる川だと思うのにゃ!」
「ああ、不味いね。至急皆に知らせてほしい。運河に作業に行っている者がいたら遺跡に戻る様に連絡して欲しい。お願いできるかな?」
「も、もちろんだにゃ!すぐ行ってくるにゃ!」
そう言いつつ信じられない速さで部屋から駆け出して行った。
(《《やはり》》悪魔との内通者は教会側かな。帝国という線もあるが、あの会談の様子を見れば大臣達が皇帝の意向に逆らうような気概があるとは思えない。)
素早く考えをまとめつつ、まずはリヴァイアサンの能力の確認をするためその巨体にミサイルを撃ち込む操作を∑(シグマ)に打ち込む。ヘルファイアの射程は約8キロあるので、射程に入り次第発射する。
2発のミサイルが着弾したことで画面が一瞬その爆発の発光により見えなくなる。そして次にモニターに映し出されたのは無傷のリヴァイアサンだった。
「おいおい、なんて防御力だよ。まさかミサイルを受けて無傷とは・・・。仕方ない、次のプランを急ごう。」
リヴァイアサンの進行速度を見ると、他の魔獣たちを率いている為かそれほど早くない。とは言っても、明日の午前中にはここまで辿り着く速度のためのんびりはしていられない。
魔獣たちの進行をここで監視する者を連れてくる事と、次のプランの準備のため足早に部屋を後にする。
・・・誰も居なくなった監視部屋のモニターには数キロは離れているはずなのに、まるで偵察機のカメラが見えているかのようにリヴァイアサンの瞳が向いていた。そして、その口を少し開けた顔はまるでこちらを嘲笑っているかのようだった。
続きます。




