33 ギルクローネ帝国
連投2話目です。
セリアンスロゥプでの準備を終えて、オスプレイとジェット燃料を作り出し、Σ(シグマ)での自動飛行による試運転の確認を経て、これから帝国へと向かう。
ちなみにルーシーとミリアムとの添い寝について私が寝てしまったことについては、2人は特に何も言わなかったので少しモヤモヤしている。
(不能とだけは思われたくない。私はまだ20代なんだから・・・)
またチャンスがあればと考えているのだが、前回の寝落ちもあって立場的にも獣人達の救世主的なポジションだと、権力を笠に着せたセクハラみたいになるのではないかと考えてしまっていた。
「立場を利用してやりたい放題では獣人達の信頼は得られないだろうからなぁ。」
そんなことを呟いているとクロスティーナがカイとルナを引き連れて近づいてきていた。
「おはようございます。何をお悩みか存じませんが、火乃宮様はこの世界においてもう十分にやりたい放題ではありませんか?」
クロスティーナにとってみれば、教国の構想を乱している私は十分にやりたい放題しているように写っているのだろう。
ただ私からしてみれば勝手に召喚されたあげく、良いように私を利用していた教国も十分にやりたい放題だ。
「ははっ、私の立場から見ればそれはお互い様ですよ。」
「・・・それは失礼しました。ではこちらに乗ればよろしいのですか?」
彼女にとって見たことがないオスプレイを前に若干緊張が伝わってくる。
「多少音はうるさいですが、きちんと試運転もしてますので大丈夫ですよ。」
この世界にとって空を飛ぶ乗り物は飛空艇だが、オスプレイと比べると仕組みも構造も開発理念も何もかもが違う。
飛空艇は熱した空気で船体を浮かせ、風の力で推進力を得るが、その全てで魔法が使われている。
対してオスプレイはジェット燃料を爆発させることでプロペラを回転させて浮力と推進力を得ているので、この世界にとっては未知の技術となる。
今回帝国へは、獣人側から私とミリアム、ルーシー、そして身の回りの手伝いをするという事で、あの爆乳牛娘さんことカレンの4人で、教国はクロスティーナとルナ、カイの3人の計7人で向かう。
人数が少ないこともあって、座席もクッションの利いた革張りの座席でゆったり出来るようにしている。
更に、不要な軋轢を生じさせないために機内を2部屋に仕切っている。
「搭乗したら座席に置いてあるヘッドセットを着けてください。移動中は声が聞こえずらいほどの音が出ますので、それを着けることで騒音を防ぎ会話も可能となりますから。」
「分かりました。ではよろしくお願いします。」
注意事項を説明し後ろのハッチを開け、クロスティーナ達を中へ誘導する。
すれ違いざまにルナと目が合ったが、鋭い目付きで睨まれてしまった。
獣人達も乗り込み出発準備が整う。ここから帝国の首都までは500キロ程ある。一応前日のうちに無人偵察機でそこまでの地理を確認しているので、後は飛行ルートを設定してΣ(シグマ)に任すだけとなる。
時刻は午前10時半過ぎ、機体性能から言えば1時間位で到着するが、余裕をもって1時間半の予定と告げている。
ただこの世界ではあり得ないスピードなので、伝えた時には騙しているとルナが目くじらを立てていた。
飛行は順調そのもので、道中特に何もなく1時間程で帝国の首都グランデウスが見えてきた。
首都は堅牢な外壁で囲まれており、上空から見ると8角形をして8つに都市が区分されている。
その広さは縦横およそ15キロあり、その広大さが見てとれた。中央付近には湖があり、その中心の島に巨大な城が聳えており、まるでその力を民衆に見せつけているようだった。
帝城がある島からは8本の石造りの大きな橋が8つに区分されている都市へそれぞれ掛かっている。
力が全てという帝国と聞いていたので、無法者が闊歩する荒れた国だろうというイメージだったが、中央にある湖から幾本もの水路が整備されている美しい国だった。
『もうすぐ到着する。予定通り外壁手前に着陸する。既に外壁に居た門番とおぼしき兵達がこちらに近づいているから対応はクロスティーナに任せる。』
ヘッドセットに内蔵されているインカムで皆に伝えると、クロスティーナから了解の返事があった。
無事に着陸すると守備を担っている兵なのか20人ほどが機体を囲むように臨戦態勢をとっている。
後部ハッチを開きクロスティーナを先頭に兵達と相対した。
「私はアスタルト教国のクロスティーナと申します。この度は突然のご訪問で失礼します。この中の責任者の方とお話ししたいのですがよろしいですか?」
クロスティーナの呼び掛けに1人の兵が名乗り出た。
「私はギルクローネ帝国守備隊第8部隊部隊長アイザック・ロア!聖女様におかれましてはご用件をお聞かせ頂きたい!」
緊張感の混じった声でアイザックと名乗った兵士が目的を聞いてくる。見たこともない乗り物で来たのだから当然の反応なのだろう。
「実はこの度召喚された火乃宮 蓮様とギルクローネ帝国皇帝陛下との会談の場を設けたく伺いました。アスタルト教国の名目で先触れを出していただけませんか?」
彼は少し考える素振りを見せ確認してくる。
「火乃宮様は獣人に捕らえられたと報告を受けておりますが・・・間違いないでしょうか?」
「はい。詳しくお伝えしたいところですが、まずは皇帝陛下へご連絡頂けますか?詳細は陛下の御前にて出来ればと考えております。」
「かしこまりました。先触れを出しますので少々お待ち頂けますか?」
「はい構いません。よろしくお願いします。」
・・・・・・・・・・・
それから1時間程してようやく返答があった。
「お待たせしました聖女様。陛下は明日の昼であれば構わないと申しておりますが、いかがでしょう?」
「もちろんそれで構いません。では明日の昼に私を含めた7名で向かうと申し伝えてください。」
「はっ!では今日の滞在先としてグランデウス1番の宿屋にご案内いたしますので、私達の先導に着いてきて下さい。」
「ありがとうございます。」
帝国の用意したビーグルに乗って移動してしばらく、目的と思われる宿屋に到着した。
その大きさと外観から高級旅館だろうというのは誰しも分かるものだった。
こちらの為にわざわざ部屋を4つ押さえてくれたらしく、私とクロスティーナが個室でルナとカイで1部屋、ミリアム、ルーシー、カレンで1部屋という具合になった。
また、最後に低姿勢で謝られたのが明日の謁見まで外出は控えて欲しいとのことだった。事情が事情なのでこちらも了承し、明日の11時頃に迎えに来るということで話がついた。
当然の事ながらあちこちから監視されていると思うが、獣人に捕らえられたはずの私が急にやって来たので仕方ない事と割りきる。
カレンが私の世話係りだからということで一緒の部屋でという懇願を受けたが、さすがにこの状況下で可愛い牛娘さんと過ごすと帝国側に偏った情報がもたされそうなので、状況を説明して断ると、「ふぇ~、マリア様から申し付かって来たのに~」と涙目で言われてしまった。しかし私が折れないので、これだけでもと言われ革袋に入ったミルクを置いていかれた。
前回の事も合わせて美味しかったとお礼を伝えると、「お、お粗末様です。」と言いながら頬を赤らめ足早に部屋を後にした。
「美味しいし栄養も有りそうなんだけど、彼女が用意している姿を想像するとなんというか背徳感が凄いな。」
就寝前にそんなことを思いながらミルクで喉を潤し翌日に備えて早めに就寝した。
そして翌日の昼、私は少しの緊張と共に帝城の玉座の間の扉の前に立っている。
二人の兵士によって開け放たれた扉の先には、赤色をふんだんに使用した広々とした玉座の間があった。
赤い絨毯に赤い国旗の垂れ幕、壇上の玉座に座る皇帝も赤い衣装に身を包んでいる。
右手に並ぶ文官とおぼしき人物達と、左手に並ぶ武官とおぼしき人物達が仰々《ぎょうぎょう》しさを強調するように直立不動の姿勢のまま一斉にこちらに視線を向けた。
その威圧的な雰囲気の中をクロスティーナらを従える形で私が皇帝の御前へと突き進んでいく。
「そこで止まれ!」
皇帝の玉座に一番近い黄金の槍を携えた武官が私達を制止した。
辺りに嫌な沈黙が流れるが、こちらは今回会談に来ているのであって、ここで謙った態度を取ってしまうと後々の交渉に影響が出てしまうと考え、嫌な空気を無視する形で膝を折らずに挨拶を口にする。
「初めましてギルクローネ帝国皇帝陛下。私は火乃宮 蓮と申します。この度はお忙しい中会談の要請にお応えいただき誠にありがとうございます。」
「ふむ、異世界の来訪者はちと礼儀を知らぬと見えるの。それにその服装はあくまで教国とは関係のない立場の表れかの?」
その言葉に左手に並ぶ武官たちが自らの武器に手を添える気配がする。
今回の服装は元の世界ではよくある黒のスーツに銀色のネクタイをしている。これは教国との立ち位置を示すものとして選んだのだが、皇帝には私の意図がきちんと伝わっているようだった。
こちらを見下す皇帝に対し、真っすぐな視線を返す。近くで見る皇帝の印象は歳の頃30前半ほどで、艶やかな黒髪をアップに纏め、真っ赤な薔薇の模様をあしらったドレスのスリットから覗く生足はシミ一つなく美しく、肩がはだけ谷間の露わになった姿にはいやらしさを感じさせず、むしろ神々しさを醸し出しているような傾国の美女という印象だった。
「ご明察通りです。礼儀については私はまだ若輩の身でして、今後ご教授頂ければと考えております。」
右手を胸に当て、大仰な仕草で腰を折って返答する。
「ほぅ、《《考えている》》か。まぁ良かろう。そなたが教国と距離を置いているという事なら。本来無礼者に名乗る名など無いところじゃがそなたの勇気に免じて許そう。妾がギルクローネ帝国皇帝エレノア・ローズ・ルメットじゃ。」
皇帝が名乗りを上げたところで武器に手を添えていた武官たちに弛緩する雰囲気が感じ取れた。
場の空気が変わったところで、皇帝は自らの顎を人差し指で撫でながらこちらを見下ろしつつ尋ねて来た。
「それで、本日はどのような用向きじゃ?そもそも後ろにいる獣人共といい、攫われたはずのそなたがどの様な経緯でそこに居る?」
「皇帝陛下に置かれましては私に聞きたいことは多岐にわたりましょう。こちらとしても帝国と有意義な会談が望みですので、少々腰を落ち着けてお伝えしていきたいのですが。」
言外に謁見はここまでで、会談の準備をしろと伝える。
「・・・まったく、そなたは稀代の愚か者か、力ある者ゆえの驕りか・・・よかろう。では隣の会議室へと案内しよう。お前たち、事前に伝えたものだけ付いてまいれ。」
自らの臣下へ命令し皇帝はゆっくりと腰を上げた。
次で最後です。




