31 思惑
3連投最後です。
side ルナ・カイ
本隊とは別に獣人の拠点の深部へ隠密先行していた5人の部隊の中にルナとカイの姿があった。
この部隊は獣人特有の鋭敏な察知能力にも悟られないような隠密行動が可能な精鋭達であったが、さすがに多くの獣人が闊歩している場所での行動は慎重にならざるを得なくなり、予定よりも進行が遅れていた。
「ここからもう少し行くと遺跡のある場所にでる。そこが拠点と考えられるから、より慎重に行くわよ。」
先頭を進んでいたルナが振り返り、隊員の四人を見渡しながら注意してきた。
「了解。ただ、後方から聞き慣れない音がさっきから聞こえてきてるけど大丈夫か?」
カイが現在の状況についての不安を伝えた。
「私達の任務は彼の確保よ。他に意識を割くべきではないわ。」
「いや待てよルナ。確かにお前の言うことはもっともだが、こんな音俺は聞いたことがない。相手はあのレンだぞ。何か想定外の事が起こっているんなら下手すりゃ俺らの行動が裏目になっちまう。情報はしっかり整えてから行動に移すべきだ。」
カイの不安ももっともだ。彼が獣人に与しているなら、異世界の知識を具現化出来る彼はこちらの知らない武器で討伐隊に損害を与えている可能性がある。
ルナにとってクロスティーナの任務が最優先だが、必要な情報収集を蔑ろにして失敗しては元も子もない。あと少しで相手の拠点だが、何事も急いては事を仕損じる。
「分かった、1人偵察に向かえ。状況を確認して行動を修正する。」
「はっ!」
指示を受けた1人が足早に後方へ去っていく。
カイはルナが自分の意見を受け入れたことに安堵し詰めていた息を吐きだした。
(焦って周りが見えなくなっている訳じゃないな)
しばらくすると隠密行動中とは思えない警戒心の無い全速力で偵察に向かった聖騎士が戻ってきた。
「獣人に見つかるわよ。どうしたというの?」
「大変だ!討伐隊は壊滅状態で獣人に対し一時休戦と、会談を持ちかける動きになってる。」
早口で捲し立てられた報告に一瞬理解が追い付かず何を言っているんだというような沈黙が辺りを包む。
「何かの間違いではないの?戦力差は歴然だったはずよ。それをそんな簡単に覆せるわけ・・・」
ルナの言葉に被せるように戻って来た聖騎士が口を挟む。
「あいつだよ!奴の世界の知識と思われる武器でこちらは手も足も出ずに一方的にやられたらしい。」
「殺されたってことか?」
鋭い目付きでカイが確認してくる。
「いや、皆倒れてはいたけど息はしていたらしい。」
「そうか・・・。どうするルナ?」
目を瞑り、顔を上げながら右手で自らの剣の柄を触りながらルナは自分たちの取るべき行動を検討した。
「・・・会談の申し出をするとなれば、我々が余計な行動は出来ない。会談場所に程近いところで様子を伺う。」
『『了解!』』
消極的な方針だが、自分たちの行動がクロスティーナの邪魔になることだけは避けたかったので、一先ず彼の確保という任務は保留することを決めた。
・・・・・・・・・・
会談が行われる天幕から少しの距離にルナとカイの2人が身を潜めている。教国の方針を確認すると、クロスティーナの合図で一斉に突入し、全員排除するという事だった。2人は排除に失敗した場合の保険で、もし相手が聖騎士を退けたとしても、安心した隙に獣人だけでも殺し、この拠点の頭を潰すことで指揮系統を瓦解させ、さらに掃討することで彼の居場所を無くす算段となっている。
「ここからなら私の風魔法を使って、天幕内の声を聴くことが出来る。カイ達は獣人に気付かれていないか周りに気を払っていて。」
「分かった。頼むぞ。」
「ええ、【風の調べ】」
風魔法の力でかろうじて聞き取れる音量で会話が聞こえてきた。
会話の内容から彼はアスタルト教国に対しての不信感を露わにしている。彼とクロスティーナのやり取りは次第に不穏なものになっていき、お互いの主張に決定的な亀裂が生じてしまう。
そしてここからでは聞き取れない位のクロスティーナの呟きと同時に天幕から僅かに光が漏れる。
「今よ、行きなさい!」
ルナは周りに待機していた突入部隊に指示を出し天幕に突入させた。作戦通りルナとカイはもしもの場合に備えてこの場に待機している。
「これで終わると思うか?」
「おそらくお姉様は過剰回復で彼を殺すつもりよ。ならもう終わる、終わってくれないと困るわ。」
しかしそんな思惑とは裏腹に、事態はこちらの予想を大幅に超えた動きを見せた。
「おいなんだよそれ、動けないってなんだよ!魔法が使えないってなんなんだよ!」
ルナと一緒に天幕内のやり取りを聞いていたカイはあまりの出来事に我を忘れ、声を荒げてしまった。
「落ち着きなさい!私だって理解できないわよ!・・・何よそれ、反則じゃない。」
「どうする?隙をついたとしても、動けなくされるなら何もできない可能性があるぞ・・・」
「・・・機会を伺うしかないわ。」
「はっ、そんな機会あんのかね・・・。」
二人は互いにどこか自虐めいた呟きを吐き出していた。彼と相対すると魔法が使えない、動けもしない、これでは彼は赤子の手を捻るようにこちらを殺すことが出来るという事ではないか。
そんな人物に一体どうやったら勝てるというのか、二人には自分達が勝つ姿が全く想像ができなかった。
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天幕内の空気はどこかヒリヒリとした居心地の悪いものになっていたが、それに構わず私はクロスティーナに向き合ってこれからの行動を伝える。
「ではもう動けると思うので椅子に座って今後の確認を行いましょう。」
そう伝えると自分の体が動くことに気づいたクロスティーナは少し体を動かしながら椅子へ腰掛けた。続けて私もその対面に腰を下ろす。
「それで今後、火乃宮様はどう動くというのですか?」
「まずはギルクローネ帝国に向かいます。」
さも当然と言ったように軽い口調で答えた。
「・・・何をなさるおつもりで?」
「お話では帝国は力こそ全てという事だったと思いますが?」
「まさかっ!戦争を仕掛けようということですか!?」
彼女の脳裏には帝国を圧倒的な武力でもって制圧する光景が浮かんだのか、青い顔をしながら問い詰めてきた。
「いえいえ、廃墟の王になる気はありません。もちろん交渉の為です。」
「目的をお聞きしてもよろしいのですか?」
「残念ながらまだそこまで話せませんが、クロスティーナさんには帝国との仲介役になって欲しいのです。もちろん話し合いの場に居ていただいて結構ですよ。」
「私に皇帝との会談の場をセッティングしろというのですか?」
「何も難しい事ではないでしょう。そもそもの話、私たちは帝国の要請で向かっていたのですから。目的は変わりましたが、することは同じです。いいですね?」
その目的を考え出そうとしているのだろう、彼女は俯きながらも瞳が目まぐるしく動いていた。少しの間を置いて彼女は口を開いた。
「・・・分かりました。帝国に到着後、教会経由で先触れを出します。」
「疑っておいででしょうが、何も私は各国に宣戦布告して世界征服をしようなんて考えてはいませんよ。
」
「そうであることを神に祈ります。」
彼女なりの意趣返しでもあるのだろう、両手を胸の前で組んで目を閉じながら祈りをささげている。
「それでは準備が整い次第帝国へ向かいましょうか。」
「ところで、帝国へはどうやって行くのですか?アスタルト教国の飛空艇は火乃宮様の指示で聖騎士達を乗せて行ってしまいます。まさか、獣人が乗っていたワイバーンで行くつもりですか?」
「まさかですよ。大丈夫です、ちゃんと乗り物で行きますから。」
「はぁ、分かりました。今の私は火乃宮様に付いて行くだけです。」
「そうそう、仲介をしていただく教国のあなたが従者も居ないのは不自然ですので、近くで隠れているルナとカイを呼んでください。」
私はこの近くに潜伏し、恐らく機会を窺っているだろう2人がカイとルナであろうと辺りを付けて彼女を揺さぶってみた。
すると微かに目を見開いた彼女が諦めたのか承諾の意を示す。
「っ!!ふふっ、もう何を言われても驚きませんわ。ルナ、カイ、聞こえているでしょ。来なさい。」
潜伏していたのはやはりカイとルナの2人だったらしい。どのような方法か分からないが、この天幕内の声を届ける手段があるのだろう、クロスティーナは2人を呼び寄せた。
ーー少しすると2人が天幕へと入って来た。
「申し訳ありませんクロスティーナ様!隠密行動もできずに、己の力不足を恥じるばかりです。」
天幕に入ってそうそうルナが私に見つかってしまったことに謝罪をした。
「仕方ありません、我々では火乃宮様には敵いません。今後はその行動を見定めていく事にしましょう。」
「かしこまりました!」
そんな彼女たちのやり取りを見ていると、カイが近づいてきた。
「今回はすまなかったな、俺も教国の人間だからよ。でもレンはこれから国作って何するつもりなんだよ?」
「それは先の楽しみだよ。」
「それは楽しみになんのかね・・・」
人間とは自身の環境の変化を恐れる。こうあって欲しい、ああなって欲しいという希望はあるが、それを実現するべく動くというのは実はごく少数なのだ。
そう言った意味では、これから起こるこの世界の変化に彼らは不安を感じているに違いない。
次回更新は2月8日です。
体調管理は万全に!




