29 会談
今週は風邪を引いてしまって中々書けませんでしたが、何とか3つ投稿できます。
皆さんも体調には気を付けてくださいね。
アスタルト教国の使者からの申し出により会談の場が設けられることになった。会談はお互いの拠点の中間地点で行う事となり、天幕とテーブルを作り出しての青空会談となった。
こちらからは私とセリアンスロゥプを取りまとめているマリア、ミリアム、ルーシー、ラリサ、ジェンナの6人で臨むことになった。
「火乃宮様はそちら側の代表になられたのですか?」
会談の席に座りお互いが顔を合わせると、クロスティーナが話し掛けてきた。
アスタルト教国もクロスティーナを含む6人がこの会談に臨んでいる。
「そうですね・・成り行きかもしれませんが、この方たちの言い分にも少し思うところがありまして。ちょうどいいですからこの席で少し確認したいこともあるんですよ。」
「分かりました。私で分かることであればお答えいたします。ただ、こちら側の話もしっかりと聞いていただきたいですわ。」
「もちろんです。まず、私が彼らに協力しているのは境遇に同情しているからではありません。私の今後にとって利益になると判断したからです。」
「それはどのような利益なのですか?」
こちらの本心を探るようにクロスティーナは問いかけてくる。
「そうですね、もし悪魔が居なくなった後に私が安心出来る場所の提供というところでしょうか。」
「それでしたらアスタルト教国でも既に身の安全は保証させて頂いておりますが。」
「そうですね、クロスティーナさんは各国に私に危害を加えないと確認したと言ってくださいました。」
「ええそうです。ですから・・・」
「確約した、ではなく確認でとどまっているのはどうしてでしょうか?」
「それは、教会としては各国に対する強制力があるというわけではないのです。ですが各国との約束事として転移者に対しては手厚く対応すると昔から決めておりますので、今一度その事についての確認を行ったという事です。」
さも当然と言った口調で返答してきた。
「アスタルト教国やオーラスト王国での対応で感じました。各国のバランスは微妙な状況で成り立っているのではないか。仮に悪魔が居なくなると、それぞれが世界の覇権を握ろうと動き出す可能性が高いのではないか。何故ならこの世界には国の数が少なすぎる。」
「そんなことはありませんよ。教会では人同士の争いは禁じられております。そして、アスタルト教を信仰する者は世界中に居るのですから。」
「宗教と政治は別であると私は考えています。今は悪魔が世界のバランスとなり、ストレスの捌け口は獣人が、そしてその調整役は教国が担っているという構図に見えるのですよ。」
この世界に来てそれほど長くはないが、元の世界と比較して考えるとまず世界の大きさ自体が小さく、人口も書物で見る限り5億人程度。正直この規模であるなら世界を統一したいという考えがあっても不思議ではない。
それが出来ないのは悪魔というストッパーがいて、信仰を教会が広めてコントロールしていると見るとしっくり感じる。
「考えすぎですよ。私共は悪魔の消滅の為に手を取り合い、平和な未来を一緒に目指しております。」
私はそこでもう一つの疑問を口にする。
「その悪魔なのですが、この世界の理と離れた力で消滅できると言われましたが、どなたがそれを確認したんですか?」
「それは教会に残されている書物から教皇様が確認しております。悪魔の侵攻も転移者と戦った後にはしばらく姿を現さなくなりますし。そうであると歴代の教皇様も言葉を残しておりますわ。」
「その言葉だけで判断してしまうと、教会が情報操作をしているという印象を受けてしまいますね。」
「何故です!?教会や教国を導く教皇様が嘘をつくはずがありません!アスタルト教の信仰にも汝他人を欺くことなかれという教えだってあります。」
「クロスティーナさん、あなたは人を綺麗に見過ぎている。いや、教会という組織を綺麗に見過ぎているんですね。どんな人物であろうと、人の欲望に底はないですから。」
「教会を、教皇様を愚弄するのですか!?」
「いえ、ただ教会の言う悪魔の弱点はあまりにもあやふやで具体性に欠けます。この世界の理からどの程度離れていないといけないのか、そもそも理とは何なのか、全て教会が定義しているのではありませんか?」
「そんなこと・・ありません!」
「では理とは何なんですか?」
「理とは人の営みそれ自体です。」
諭すような穏やかな笑みを浮かべながら語りかけてきた。
その答えに対し苦笑いしながら返答する。
「それだと悪魔に対抗できる私は人成らざる者、人から外れた存在と言うことになってしまいますね。」
「あ、いえ、そう言うことでは・・・この世界とは別の世界からいらっしゃっただけで、そのようなことはございません。」
「私には獣人の皆さんの言葉の方が納得できる部分がありまして、お聴きになってみませんか?」
「それは・・・教会の教義に・・。」
「獣人をどう評価してるかは理解しています。ですが、対話が可能な相手に最初から対話を放棄するのはどうかと思いますよ。」
苦渋の選択というのがありありと見てとれる表情でクロスティーナはマリア達と言葉を交わし始めた。
「初めましてアスタルト教会の聖女クロスティーナ様。私はこのセリアンスロゥプで皆をまとめているマリアと申します。少しだけ私たちの話にも耳を傾けて下さい。」
その内容は私が聞いた悪魔の情報で、行動原理や精神操作の実態、また教会が開発した魔具についてだった。
その話を聞くクロスティーナは段々と顔を赤らめながら怒りの表情になっていった。
「教会がそんなことするわけありません!やはり獣人と言うものですね。火乃宮様、騙されてはいけません!彼女達は魔具の事など理解する知識など持っておりません。所詮獣人にそんな高度なことは無理なのです。」
「魔具の件は言いがかりであるということですか?」
「もちろんです!全てにおいて獣人の主張は間違っています!アスタルト教国こそが正しいのです。」
「では1つだけ簡単に確認できるのですが、精神操作妨害の魔具を見たいのですがお持ちでいらっしゃいますか?」
「申し訳ありませんが、今は手持ちがございませんので。」
「ではこちらに保管されているものを持って来ていますのでそれで判断してみましょう。」
そう伝えると不機嫌だったクロスティーナの表情は段々と能面の様な無表情へと変っていった。
マリアに事前に持って来てもらっていた魔具をテーブルに置き対になる指輪の様な装置を並べた。
「これが精神操作妨害魔具という事ですが、本物でしょうか?」
「見たところそうかもしれませんね。」
「この魔具はもともとこのセリアンスロゥプの獣人が人間から装着されたものを取り外した物ということです。この魔具は対となっているものなんですね?」
「そうですね。」
「では実験してみましょう。」
そう言って手ごろな大きさの丸太を持って来てもらい、少し離れたところで丸太に魔具を装着し首に付けているように見立てる。
ただ、魔具の発動には魔力が必要であり、私は魔力を持っていないのでクロスティーナに発動のお願いをする。
「すみませんクロスティーナさん、私は魔力がありませんので発動させてもらえませんか?」
「・・ええ、いいですよ。」
対になっている指輪を摘まむと魔力を流しているのか、ぼんやりと指輪が光った。次の瞬間丸太に付けていた魔具がかまいたちの様な鋭い疾風で丸太を両断していた。
「・・・獣人達の言う通りの結果でしたね。」
「これは獣人達が改造して自分達の主張を正しいものと見せる工作です。」
「先程クロスティーナさんは獣人にそんな知識はないと断言していましたが。」
「・・・。火乃宮様、獣人は私たち人間とは違う生き物です。人間に牙をむく可能性があるなら誰かが管理しなければ・・・血が流れからでは遅いのです。」
「お互いに手を取り合っていくという事はできないのですか?」
「・・・無理です。世界は既にアスタルト教会を中心に動こうと秩序が整ってきて います。教会の教えに疑問を投げかけるような動きは排除しなければなりません。・・・ところで、カイとルナはそちらに捕まっていますか?」
不穏な雰囲気を出しながら急に話を変えてきた。
「いえ、こちらで捕らえている聖騎士達の中には見ていませんね。どうかされましたか?」
「そうですか・・。」
そう言うと、クロスティーナはゆるりとした動作で立ち上がり小声でぼそっと何かを呟いた。
「・・【閃光】・・」
その瞬間辺りを眩い光が覆い何も見えなくなってしまった。
続きます。




