28 聖騎士 対 獣人
連投5話目です。
文字数が思ったより増えてしまいましたが、どうぞご覧ください。
獣人に協力すると決意した翌日、早ければ今日か明日にもアスタルト教国の聖騎士が来るかもしれない状況だった。
時間を無駄にはできないので朝からその準備に取り掛かる。
昨日マリアから貰った本の封印を解き内容を確認すると、相変わらず取りとめのない日記のような内容で、表紙を取ってみると、やはりこの本の裏表紙にも文章が記されていた。
『君がこの本を手に取っているという事は、獣人たちへの協力を決意してくれたからだと信じている。彼女達はただ平和に生きたいと願っているだけが、見た目の違いから迫害されてしまっている。手を取り合い共存していけばお互いの発展が望めるというのに、人間とはどうしようもない生き物だと私は感じてしまっているよ。
この封印の書は5つに分けている。全ての封印の力を手にすればきっとこの世界の在り方に変革をもたらす一端になるかもしれない。
願わくはそれを彼女達獣人のために使って欲しい。勝手な願いだが頼んだ。』
この封印の書を残した者の想いを読み終わると、本が淡く発光しだし、やがて私に吸い込まれるように消えていった。
(・・・後で鑑定の魔石があるなら持って来てもらおう。)
新たな力を手にし、無血戦闘のための準備に取り掛かる。
まず必要なのはいつ攻め込んでくるかという情報だ。今回は無人偵察機を作り出し相手の行動を監視して対応できるようにあらかじめ準備する。
少し大きめだが【MQ-9 リーパー】のデータを∑《シグマ》から検索する。この偵察機は長さ11m、翼幅20mもあるので部屋の中では作り出せないが、各種データを頭に入れていく。肝心の操縦は∑《シグマ》とリンクさせることでできないか調整をしなければならない。なにせ一機飛ばすだけでもパイロットとセンサー員が必要なので、私一人ではどうしようもない。
一通りの知識を頭に叩き込んで、セリアンスロゥプの開けた場所へミリアムに案内してもらった。
「この辺りなら広いし何もないから自由に使ってにゃ。」
「ありがとう、あと鑑定の魔石はここにないかな?」
「鑑定の魔石?ちょうど持ってるからあげるにゃ。」
ポシェットから取り出した白い魔石をこちらに手渡してくれたので、そのままつまんで砕く。
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名 前:火乃宮 蓮
レベル:160 体力:48000 魔力:-----
スキル:知識創造(限定開放)(付与可能)
万物封印(2/5) (封印サイズ中)(封印時間増加)
称 号:統治者 開発者 死を運ぶ者 異世界の理を持つ者 救世の英雄 支配者 悪魔の怨敵
平凡な封印者 獣人の守護者
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(封印できる大きさと時間が上がったという事か。しかし、なにをもってこの能力で獣人を救えというんだろう。)
ただ物が封印できるというだけで獣人の救いになるかは疑問があった。確かに守るという点においては強固な力になるだろうが、それだけでは救えないというのもまた事実だった。
「どうだったかにゃ?確認したいことは分かったかにゃ?」
「ありがとう、おかげで色々と力の使い方も分かったよ。」
「もうレベルが100以上もあれば何でもできそうだけどにゃ。」
「強ければ良いってものじゃないさ。それでは怖がられていつか周りに誰も居なくなってしまうよ。」
「このセリアンスロゥプの皆はずっと一緒にゃ!」
「ありがとう。さて、準備を始めますか!」
まず一機目の無人偵察機を想像すると目の前に∑《シグマ》で確認した通りの機体が現れた。続いて、この世界には衛星通信など無いので遠隔操作をするために電波塔を作り出し、通信が出来るように調整していく。
高さ20mはある電波塔が急に現れたので、周りの獣人達が何事かと集まってきてしまった。安心して欲しい旨を告げると、興味深げに見上げながらもそれぞれの仕事へと向かって行った。
偵察機の燃料には大容量バッテリーを使う。計算上ではこれで3時間は飛ぶことが出来るはずだ。充電には以前手に入れた遺物に知識創造で付与した万能充電器を使用する。
1時間ほどかけて通信リンクの確認と各種調整が終わったところで、試験飛行に取り掛かる。舗装されていない地面なので少々心配だが、贅沢は言っていられないのでとりあえず試すことにした。
心配だった離陸は意外とすんなりいき飛び立っていった。まずは地形の確認も兼ねてこのセリアンスロゥプを中心に円状に回って段々と外側に広げていく。
「ふぁ~。凄いですにゃ!翼が動いてないのにどうしてあんなに早く空をとんでいるにゃ?」
「本来はもっとスピードが出るんだけど、今回は電気で飛ばしているからあのプロペラが回転することで飛んでいるんだよ。」
本来のスピードなら時速482kmでるが、動力がバッテリーのためかその半分程度の速度しか出せていない。
その後試運転と並行して量産していくが、∑《シグマ》で同時操作可能なのは3機までだったので、さらに1時間ほどかけて創造と調整を終わらせた。
今のところ周囲100キロ四方に敵影は見られなかったので、無力化武器の量産に着手する。
今回準備するのは、スタングレネードとスタンロッド、テーザーガンだ。
このセリアンスロゥプには250人ほどが暮らしており、幼い子や年配の人を除けば、180人ほどが戦闘員として戦えるという事だった。
そこで、それぞれの武器を200個づつ準備して皆に使用方法の説明をするために集まって欲しいとミリアムに頼み、昼食後に広場に集まってもらうことになった。
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広場には180人ほどの獣人達が集まってくれていた。既に全体に周知はされているが、改めて現在このセリアンスロゥプが置かれている状況と、今後のアスタルト教国の行動予想を伝えていく。
そして未来の獣人達の為に、戦闘で人間を絶対に殺さないようにと注意を付け加えていく。
少しの沈黙の後ヘルハウンドのジェンナが口を開いた。
「私たちはあなたに従う者ですが、殺すつもりで来る相手を殺さずに取り押さえるのは相当に困難です。殺されても殺すなという事でしょうか?」
「違います!重要なのは双方とも死なないという事です!私がいる限り皆さんに死者など出しません!その為の武器を皆さんにお渡しするので、時間がある限りその使用方法に慣れてください!」
この言葉を実際に私から皆に伝えてほしかったのだろう、ジェンナは笑顔だった。
3種類の武器の効果や使用方法などを伝え、それぞれ試しに使ってもらった。この世界には銃という物が無いので、テーザーガンの使い方に戸惑っていたが、構えて指を引くだけでワイバーンが行動不能になった姿を見て、皆真剣に練習していた。
(従魔のワイバーンには可哀想だったが、相手がいないと効果が実感できないからな・・・)
ワイバーン獣人のラリサは若干心配な表情をしていたが、有用性をその目で確認して必要なことだとなんとか納得してもらった。
1時間ほど練習してもらい皆にアスタルト教国が来た場合の作戦について伝えておく。
「基本はスタングレネードで数人ずつ纏めて相手を行動不能にして縛っていく。突破してきた相手には近距離ではスタンロッドで、中距離ではテーザーガンで対応してくれ。相手が盾や剣で防いでも電流が金属を通して流れるから、とにかく当てれば良い。索敵が得意なものは相手が隠れて近づいてきていないか十分に注意してくれ!」
『『『はいっ!!』』』
良い返事を聞き、戦闘に備えて心の準備をしてくれと伝えて解散となった。
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そしてその時が来た。
時刻は明け方の午前5時、哨戒に出していた3機の偵察機のうちの1機が西の上空に5つの大型飛空艇を確認し、スマホのアラートが鳴り響く。
「来たか。場所は西に180キロの地点。このマークは教国のシンボルだったな。そのままの速度なら3時間ほどで接敵だ。急ごう!」
直ぐに飛び起きて着替えると解放軍指揮官であるミリアムのところへ行き、アスタルト教国が近づいてきていることを伝えた。即座に全体に伝令が走り、2時間ほどで迎撃準備が整った。
「現在教国の大型飛空挺がここから西に30キロの地点まで来ており、こちらに向かっているにゃ。遺跡の手前で着陸させ聖騎士を投入してくると思われるにゃ。飛空挺の大きさなどから数はおよそ500人の聖騎士と考えられるにゃ。」
ミリアムが私の伝えた情報と自身の予想を合わせて整列している180人の獣人の前で声を張り上げている。
「戦力差は2倍以上だけど、こちらには救世主様の武器があるにゃ!そして誰一人殺すことなく、殺される事なく奴らを圧倒して驚かせ、私達の幸せを手に入れるにゃ!」
『『『おーー!!!』』』
皆の士気が上がり迎撃に向かう前に獣人達を30人ずつの6班に分け、班長にインカムを渡す。
「状況に変化があればその都度連絡する。深追いしないようにヒット&アウェイを心掛けろ!皆頼んだぞ!」
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side クロスティーナ
獣人達レジスタンスの拠点と思われる遺跡の手前10キロほどの開けた場所に飛空艇を停め、襲撃の準備を始める。
今回はアスタルト教国から450人の聖騎士を動員し獣人どもを駆逐していく算段だ。
(ここに彼が居なかったとしても以前から獣人どもの姿は目撃されている。不穏分子は消していかなければ。)
聖騎士からなる討伐隊を4つの役割ごとに整列させ作戦行動開始前の士気高揚の話を始める。
4つの役割は、立地としてある程度の木々はあるが、森や林ほど茂っておらずある程度の視界が取れるので、数の利を生かし中央部隊、左翼部隊、右翼部隊に連携を取りつつ包囲していく。
もう一つの部隊は5人で構成され、隠密行動をとりながら彼の捜索と奪還を優先していく。
「みなさん獣人たちは卑劣にも我らの世界に光をもたらす火乃宮様を誘拐しました。彼の力は私たちに必要なものであるという事はここに居るみなさんは御存じでしょう。私の信じる聖騎士の皆さんであれば必ず・・・」
クロスティーナの演説の途中で周辺の警戒に出ていた斥候が慌てて駆け寄ってきた。
「お話の途中に申し訳ありませんクロスティーナ様、2キロ程先に獣人の偵察と思われる存在を発見いたしました。数は5、いかがいたしますか?」
「まだこちらの存在を獣人の本隊に知られるのは困りますね。排除は可能ですか?」
「精鋭を15人選りすぐり、排除してまいります。」
「お願いします。分かっていると思いますが決して獣人に1対1で対峙しないように。」
「心得ております。では直ぐに行動いたします。」
獣人は基本的な肉体のスペックが人間より高いため、対処するには1対2以上で囲むのが定石である。
それは獣人と戦うことがある者であれ誰でも理解している事だった。
「みなさん、相手はこちらの予想以上に早い対応をしてくることも考えられますので、斥候を排除後即行動するため、それぞれ準備をお願いします!」
獣人に見つかるリスクを抑えるため、まだ暗闇の早朝に低空飛行で接近してきたというのに早々に発見されたのは計算外の事だった。
こうなっては迅速に行動し、相手に迎撃の準備を整えさせる前に決着をつけることが望ましい。
「ルナ、カイ、あなた達の班は先行して彼の捜索をなさい。確保が難しい場合は姿を潜め、機会を窺うように。」
『『はっ!』』
想定通りに行かないことに不穏を感じながらも、自分のやるべき事をやっていく。
そんな若干焦りを感じている状況の中、獣人の斥候の排除に向かった方向から微かに音が聞こえてきた。
(何の音?戦闘の音にしてはおかしい。距離は2キロほど離れているのにここまで聴こえてくるのも変・・・)
しばらく考えていると、排除に向かった聖騎士の一人が焦りの表情を浮かべながら走ってきた。
「報告します!敵獣人は既に包囲網を展開し待ち伏せております!更に正体不明の魔具によって行動不能にされ14名が捕えられました!!」
「ありえない!行動が早すぎる。どうやってこちらの動きを察知したと言うの!」
狼狽えているクロスティーナに別の聖騎士が近づいてくる。
「クロスティーナ様いかがされましょう?迅速に指示を出さなければ囲まれます。」
(・・・この状況で戦力を分散するわけにはいかない・・・)
「獣人どもの規模は?」
「おそらく、100以上かと。」
「・・・全部隊を1つに集約し、数で相手を圧倒します!全員に正体不明の魔具について細心の注意を払うように伝えなさい。包囲網が形成される前にこちらから動きます。全体進軍開始!」
数で押しきると決めたクロスティーナは聖騎士達を動かす。相手の迎撃準備は整っていると考え、戦力を集中させ包囲の一角を破り戦況を好転させるべく作戦を考える。
しかし、戦力を集中させたことが今回は仇になってしまった。
現在戦場では纏まって行動している所にスタングレネードが次々投げ込まれ数人まとめて行動不能になってしまっている。そこにスタンロッドを携えた獣人達が追撃し、完全に戦闘不能にしていく。
離れたところで比較的影響の少なかった者がさらに距離を取ろうとすると、テーザーガンで昏倒されてしまう。
剣で対処しようにも相手の棒のような武器を防ぐだけで体が痺れて動けなくなってしまう。遠距離から魔法を放っても、獣人特有の動体視力と俊敏性で着弾する前に避けられ紐のような物が体に着いたとたん痺れて動けなくなる。
聖騎士達は見たこともない武器に次々倒れていき、それを見た周りの聖騎士は混乱し、それが波及していくことでより混乱がより増長していった。
「一体どうなっているの!?何故こちら側がここまで一方的にやられているの?」
報告を受けるクロスティーナは混乱の極みにあった。本来獣人はその俊敏な動きと自らの爪や牙を使った攻撃が主だ。多少武器を使うものもいるが少数である。
そういった攻撃スタイルから、1人が獣人に対処していればもう1人が攻撃を加えられるので、2人以上で囲めば排除は比較的簡単なはずだった。
ここには必要な人数も揃っているはずだったが、もたらされる報告はこちらが一方的に蹂躙されているというものだった。
(これは報告にあった魔具は彼が作った物かもしれないわね。対処が分からない中これ以上の損害は出せない。)
「全体に即時撤退命令を!一旦体制を整えます!」
『『はっ!』』
しかし事態はクロスティーナの想定よりも早すぎる展開を見せる。
聖騎士達をまとめて行動させてしまったため、既に獣人に包囲されており、段々と包囲網が狭まりつつ効率的にこちらの戦力が削られてしまっているのだった。
まるで上空に目があるように獣人達の動きは的確だった。距離をとっても待ち構えているように攻撃を受け、包囲から抜け出そうと突撃すると、瞬く間に分断され各個撃破されてしまっていた。
包囲されているため撤退しようにも思うように動けず、聖騎士達は本来の力を発揮できない状況で気が付けばその損耗率は50%に届こうとしていた。
「撤退はどうなっているの?このままでは全滅してしまいます。早く撤退させなさい!」
普段見せない焦りとイラつきがクロスティーナの声を大きくしていた。
「申し訳ありません!既に包囲網が形成されておりまして後退も難しく、相手の魔具も非常に厄介でして、対処は今のところ避けるしかないのですが、相手の方が素早くそれも難しく・・・」
後半は段々と言い訳じみた答えになってしまっていたため、クロスティーナのイラつきは更に高まってしまっていた。
そんな時クロスティーナの後ろに控えていた聖騎士団副団長が口を開いた。
「失礼しますクロスティーナ様、この状況では相手に対話を持ちかけて一時停戦すべきかと思われます。」
「・・・分かりました。使者を向かわせて停戦と会談の場を設ける旨を伝えましょう。」
「かしこまりました、そのように。」
次回は2月1日の投稿予定です。




