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転移者は異世界で笑う  作者: 黒蓮
27/61

26 決意

連投3話目です。

 その後市場と解放軍を見学して時刻は夕方になっていた。


 市場では露店で買い食いをしてみた。濃い味付けだったが、なかなか美味しく日本のファーストフードを思い出す味には驚いた。ちなみにセリアンスロゥプではレストランの類は無く露店で買ったものを持ち帰って食べるか、遺跡内に作られた食堂で食べるからしい。食堂に飽きたら露店で食べ、露店に飽きたら食堂という感じでローテーションしている人が多いということだ。


 市場の町並みは色んな店がごった返しており、どんな職業の獣人も居るんだと感心したほどだ。

大工に料理人、細工師、鍛冶屋、ガラス店、陶器店などいかに様々な分野で獣人たちが人間に使われていたかが分かった。


(ここまで自分たちで何でもできるなら本当に独立国家ができるな。というか既に国としてある程度形を成してきているしな・・・。)


と素直に感心してしまったほどだ。


 次に訪れた解放軍の訓練所では何故か模擬試合をすることになった。

昨日の話合いに同席していたヘルハウンドのジェンナが解放軍の指揮をっているらしく手合わせを希望したためだ。私は木刀を持たされ、ジェンナは小刀風の木刀を2本使ってきた。


 武術の心得どころか格闘技のテレビさえそれほど見たことが無いのに、なぜか彼女の素早い動きに目がついていき体の反応も攻撃の意図を感じると自然と避けることが出来た時には驚いた。

 

 ただ、私の素人感丸出しの大ぶりの攻撃も相手に当たる事は無かった。一度空振りした木刀が物凄い地響きと共に地面をえぐってしまった時には周りから呆然ぼうぜんとされてしまった。

 ジェンナからレベルを聞かれたので100を優に超えていることを告げると、目を丸くして急にひっくり返り、お腹を出しながら「そんなレベルの人と手合わせは無理!」と涙目で懇願してきたので直ぐに終わってしまった。


(あの後の解放軍の人たちの尊敬の眼差しは心苦しかったな。私は全然剣術や武術の心得もないのに、ただレベルが高いだけなんだが。)


そんなイベントをこなして自分の部屋に戻ってきていたのだった。


「今日一日いろいろ見て回ったけど、なんだか動物王国に訪れているような気分だったな。ただ、彼女たちの生き生きとした表情を見ると良い環境なんだという事は分かったな。」



 しばらく自室でくつろいでいると扉がノックされクマ獣人のマリアが訪ねて来た。


「おくつろぎのところすみません。このセリアンスロゥプはいかがでしたか?」


「良いところですね、皆生き生きとしていた。ただ、男の方がほとんど見受けられなかったのですが?」


「そうですね、獣人の男は女よりも力が弱いので利用価値が低く処分されることが多いんです。加えてなぜか獣人は女性が生まれることが多くここでも男性は全体の1割から2割ほどしかいません。」


「そうなんですね。そうなると種の繁栄という面では厳しいかもしれませんね。」


男女比が著しく偏っている獣人たちは段々と先細っていく未来がまっているのかもしれない。


「そうかもしれませんね。人間との行為ではなかなか孕むことが少ないこともわかっていますので・・・。ただ、だからと言って未来を諦める訳にはいきません。」


 マリアの声には決意に満ちた力があった。自然界では少数は多数に飲み込まれてしまうが、だからといってその運命を受け入れられるかは別の話だ。もし私自身が少数の立場だったら、きっとどんなことをしてでも運命に抗ってやろうと行動するだろう。彼女たちはまさに運命に抗っているのだ。


(ああ、私の人生では抗うという事はできなかったな。親の言いなりだった、初恋も諦めた、仕事も選ぶことが無かった。親が社長だったからその会社に入っただけだったな。私にとって彼女たちは眩しい・・。)


「ふっ、諦めずに足掻くというのは素晴らしいですね。しかしその結果同族たちがより人間からしいたげられる事になってもですか?」


「ええ、私たちは皆決意しているんです。人間に飼い殺しにされて一生を終えるか、幸せを掴もうとして殺されて一生を終えるか・・・私たちは後者を選んだんです。」


「殺されずに幸せをつかむという選択肢はないのですか?」


「これでも現実は見えています。獣人は人間に比べて圧倒的に少数です。数は力、出生率の低い私達にもしかしたら未来は無いかもしれない。でも、例え短い幸せだったとしても私達は幸せを掴もうとしたいんです。」


「結果より、過程が大事だと?」


「それが獣人として生きた証しになるのならですね。」


 彼女達は家畜のような人生を送るくらいなら、抗って殺されたとしても獣人としての尊厳を守って死にたいのだろう。

それはきっと獣人にとっての高潔な生き方なのであろう。


「抗うと言うわりには諦めているのは気に入らないですね。どうせなら圧倒的不利をはね除けて勝ち取る算段を考えるべきです。」


「ふふっ、分かっておいででしょう、その算段があなたしかいないと言うことは。」


 あり得ない選択だとは思う。獣人に手を差し伸べてもそれに見合うリターンは少ない。でも運命に抗う覚悟は称賛してしまう、憧れてしまう。


(ふっ、せっかく別の世界に来たんだから、元の世界ではしない選択をするのも面白そうだ!)


「・・・分かりました。では私も協力しましょう!」


「・・・本当によろしいのですか?断ってアスタルト教国に戻ることも出来るのですよ?」


「馬鹿げた選択だと私も思います。ただ、無理難題に挑むのは嫌いじゃないですからね!」


言いながら無意識に口角がつり上がって笑みを浮かべていた。


「本当にありがとうございます!」


マリアは席を立ち、土下座しながら私に頭を下げてきた。


 大学院の時にも兵器の開発だ活用法だと学び、威力を上げるとコストが信じられない値段になるので、削減した内容の論文を作ると、今度は威力が足りないからと捨てられて、上の方からは安くて威力もある高性能なものという無茶苦茶な要求をよくされていた。

そんな無理難題を私の力でねじ伏せたときには達成感があったものだ。


(どうせ挑むのなら完璧にこなしてやる。)


「確認したいのですが、今までの人間との戦いで《《民間人》》を殺した事はありますか?」


「いえ、今までは同胞の解放がメインで、気づかれないように潜入して脱出しておりましたので、基本は戦わないようにしておりました。戦ったとしても非戦闘員は巻き込まないよう注意していましたので。」


「そうですか、では協力するに当たってお願いがあるのですが。人間との戦いでは無血戦闘でお願いします。」


「・・・?どういう事ですか?」


「簡単です。戦闘で誰も死なないようにするのです。人間も獣人もね。」


「そ、そんなこと不可能では?おそらくアスタルト教国はあなたを取り戻そうと聖騎士達を派遣し、私たちを根絶やしにするはずです。」


「大丈夫!私が可能にします。それに、私を旗標はたじるしとするならそうでないと独立は無理です。」


 暴力によって得たものは、暴力によって奪われる。一時的に奪ったとしても、恨みが残ればいつ反撃にあうかと常に臨戦態勢でなければならない。そんな生活では心が休まらない。

殺したから殺されて、殺されたから殺してでは永遠に負のスパイラルにおちいってしまう。


(始まりは必ず衝突するが、死者を出さずに圧倒すれば相手は対話に乗ってくるだろう。そこでお互いの妥協案を模索できれば良い。)


「分かりましたよろしくお願いいたします!」


「こちらこそ。」


「最後に一つお渡ししたいものがあるのですが。」


そう言いながらマリアは一冊の本を取り出した。


「これは!!」


渡された本は鎖で十字に封印されたオーラスト王国で見たあの本だった。


「これはいつか私たちに協力していただける力ある者が現れた時に渡せと、代々受け継がれてきたものなんです。誰にも開けることはできなかったので、何が書かれているか分かりませんし、どうやって開くのかも分かりませんが、ご存じなのですか?」


「ええ、オーラスト王国で同じ様な本を見たことがありまして、もし同じものならあなた達の力にきっとなりますよ。」


「分かりました。私どもセリアンスロゥプの獣人一同は火乃宮 蓮様の剣となり、盾となり、その身尽き果て天に還るその時まで共にあります。」


片膝を立て、右腕を心臓の位置に置きこちらを見据えながらまるで宣言の様に伝えられた。


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