24 犯行勢力
今回の投稿では5話の連投です。
ワイバーンに乗って30分ほどで拠点に着いた。辿り着くまでに蛇行飛行をしたり、森の中をかなり低空飛行で進んでいたのは追手を撒くためだったのだろう。
到着した場所に建つその建築物は遺跡と言われているらしいが、見た目はビルのような四角い外見で高さは5階建てほどありそうだった。蔦や苔に覆われており年代を感じるが、壁にヒビが入ったり欠けていたりといった壊れている箇所は見た感じでは無かった。
「お疲れ様ですにゃ。ここが私たちの拠点、セリアンスロゥプの遺跡ですにゃん。」
「ありがとう。おっと・・・。」
ワイバーンから降りる際に手を貸してもらったのだが、数十分も跨って下半身に力を入れていたので足がもつれてしまった。その勢いで彼女に覆いかぶさるようになりそうだったが、獣人の身体能力の高さなのか余裕をもって受け止められた。
「大丈夫ですかにゃん?私に触られて不快に思わないで欲しいにゃん。」
「?いえ、そんなことは思いませんよ。案内をお願いします。」
遺跡に通され向かった先は階段を2つ上がった場所で最上階らしい。この遺跡は一階一階が高く設計されているらしく中に入るとかなり広々とした印象を受ける。
その部屋には6人の獣人らしき人物がおり、大きめの円卓に4人が腰かけ壁際に護衛なのか武装した2人の人物が立っている。武器を持っていないのは獣人の戦闘スタイルが自らの牙や爪を使うものが多いからなのか。そしてどういうわけか室内の獣人たちはみな女性だった。
(こっちの組織でも女性を使った篭絡か?)
「どうぞこちらにおかけください。」
正面の位置に座っているクマの様な魔獣から声を掛けられ着席する。
「この度は乱暴な手段でご招待いたしましたこと誠に失礼いたしました。私はここに拠点を構える者達をまとめている一人でオウルベアの獣人、マリアと申します。」
「あたしはアルミラージの獣人ルーシー・・ウサ。」
「私はワイバーンの獣人ラリサ・・がおー。」
「自分はヘルハウンドの獣人でジェンナ・・だワン。」
マリアを先頭に時計回りに自己紹介された。それぞれの特徴として、熊・うさぎ・ワイバーン・犬系の獣人なんだろうが、疑問形になっているのはマリアははっきりと獣人だと分かる姿をしているが、他の獣人は耳や翼や尻尾などの種族の特徴的な部分以外はまるで人間の様だったからだ。人間が付け耳をしたら彼女たちの姿になってしまうくらい人間らしかった。
(アニメのような獣人もいるのか。あと語尾を付けているのは無理やり感があるけどなぜだ?)
そんなことを考えていると私を案内した子が隣に座り自己紹介した。
「そして私はブラックパンサーの獣人ミリアムにゃ。」
一通りの紹介が終わり皆の視線が私に注がれる。
「私はこの世界に召喚されました火乃宮 蓮といいます。それで私にどのようなご用でしょうか?」
「端的に申し上げればご協力のお願いです。」
マリアが代表し答えた。大体予想通りの答えだった。
「それは聞いています。ただ既に各国に訪問して協力はしています。この様な行動にでたのは獣人という立場だからなのですか?人と戦わせるために・・・。」
「それは『はい』でもあり、『いいえ』でもあります。・・・少し長くなりますが獣人とは何かも含め順をおって話しましょう。」
マリアから聞かされた話はクロスティーナや教皇から聞かされた話とは違っていた。
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獣人とは魔獣と人間との間に生まれた存在であるが、本来は生物学的に生まれえない。なぜ生まれたのかは悪魔が原因である。ただし、悪魔が憑依した魔獣が人間の女性を犯すことに限られる。悪魔のこの行為は単なる暇潰しの副産物らしい。
また、獣人は悪魔に精神操作されやすいという話は全く無いらしい。そもそも悪魔はその甘言によって獣人のみならず人間をも惑わし、言葉で操っているので魔法の類のものではないという。
精神操作の実態は、悪魔は自分の分身を作り出し対象に憑依することで操っている。意志の強い者であれば対抗できるが、心に動揺や悲しみなどの隙があると入り込まれ操られる。それは人間が作り出した魔具では防ぐことなどできない。
また、この獣人への境遇はそもそも教国が中心となって作り出しており、アスタルト教の教義に反する人間未満の存在、いわゆる亜人として昔から排斥されていた。
そして近年教国が中心となって作り上げた精神操作を妨害する魔具の本来の目的は奴隷の製造。反抗した獣人を簡単に処分するためのもので、対になる魔具を起動すると仕込まれている風魔法の魔石が砕け、首を切り裂く。生きるためには従うしかないという事だ。
そして悪魔の目的は受肉などではない。人間を殺したり、魔獣を嗾けたりしているのは最上位者が自分の箱庭の様なこの世界で長い年月を存在しているが為の持て余した時間を過ごす為のただの遊びらしい。
強者が現れれば好奇心を満足させるために手ごろな獣人や人間に憑依して戦ったり、自らのピンチも演出することで人間に希望を持たせているという事だ。
「待ってください!何故そんな悪魔の実情を貴女達が把握しているのですか?」
「悪魔に憑依された者は一時的に心も共有するのです。もちろん表層の意識ですが。そしてその時悪魔の目的の一端を認識するのです。」
「悪魔が憑依から離れても生きていられるのですね?」
「そうですね、直ぐに死ぬわけではありません。ただ、悪魔の力に体が耐えきれないのか、ほとんどの者が数日で息を引きとります。」
「もう1つ、貴女の表現では教国はこの事を知っているということですか?」
「ええ、知っています。教国はこの状況を利用して大きくなったのですから。」
宗教の本質は救いを与えること。救われたいと願う状況にならなければ民衆には浸透しないだろう。この世界には目に見える悪魔という恐怖がある。その存在を利用すれば信者は右肩上がりに増えるということだ。
「最後に、人と戦わせる為かと言う問に曖昧な答えでしたが、どういう事ですか?」
「私たちは人間から聞くに耐えない扱いを受けてきました。貴方の隣に笑顔で座るミリアムもそんな過去を持っています。ただ、だから人間達に復讐したいというわけではなく、静かに暮らせるような手助けをして頂きたいのです。」
「また無茶なお願いですね・・・。」
現状この願いを実現するのに思い浮かべるのは、強固なシェルターの中に匿ってしまうか、獣人を中心とした独立国家を建ち上げるかになる。
しかし、王国で見たように獣人は既に労働力や愛玩用としてこの社会に取り込まれている。この状況を変えるということは相当な反発が予想される。
「あなたならば不可能ではないと私たちは希望を持ってしまったのです。今この時にも。」
「・・・どういう事ですか?」
「人間にとって私達は物と一緒です。本来ゴミを見るような目をしながらただ命令されるだけです。しかしあなたからは私達と対話するという意志があった。物ではなく人として対応している目をされていた。そしてそれを私達は実感してしまったのです。」
「それは私の世界では獣人という存在が居なかっただけですよ。」
「だとしても自分と違う存在に怖れも忌避もあなたは抱いていない。」
(それは単にアニメや小説で免疫があったからなんだけど・・・)
日本で創られている2次元はあらゆる獣娘を網羅していたのではないかと思えるほど多種多様なキャラクターがいた。特にウサ耳やネコ耳娘は多すぎて、もはや2次元に当たり前の存在と言っても過言ではなくなっている。
「つまり私を中心とした行動で人間に対する抑止力になって欲しいと?」
「仰る通りです。あなたの持つ力は思っていらっしゃる以上にこの世界に衝撃を与えています。その庇護下に入りたいということです。」
「人類を敵に回して私にメリットは?」
「私達はあなたを頂点として動くのです。事が上手く運べば、余計なちょっかいを掛けられたり、権力争いに巻き込まれたり、果ては利用された末に暗殺や排斥される恐怖に頭を悩ます事も有りませんよ。」
どうやらこのクマさんはこちらの不安をよく理解しておいでのようだ。
「貴女達を信じられる根拠は?」
「私達にあの首輪を着けてもらってかまいません。」
「では、今までの話が全て真実である証明は?」
「申し訳ありません。あなたのその目で見極めて頂くしか有りません。」
なんだか私を取り巻く環境がより複雑化しただけのように感じる。教国でも王国でも結局のところ信じられるのは己の目で見たもの、経験したものしかない。
獣人たちを信じても、人間を信じても争いは無くなりそうにない。
(だったら私のやりたいようにやるだけか・・・)
獣人たちの境遇に同情はするが、だからといってこの世界の人類と敵対したい訳ではない。ただ、教国や王国などに良いように利用されたあげく、邪魔になったから監禁されたり殺されたりするのはゴメンだ。
(ならいっそ私の独立国家でも作った方が穏やかに暮らせるんじゃないか。幸い防衛に関しては十分すぎる武装が準備できるし。)
段々と思考が危険な方に向いてきてしまったが、穏やかな生活を送りたいという点については賛同できる。
ただ本当に独立国家を作ろうものなら各国の反発は必至になるだろう。場所も元の国の土地を占拠することになる。いくら経済的価値が皆無な場所だったとしても、明け渡すとなれば国の面目が立たない。
つまり必ず争いになるし、武力で解決できたとしても遺恨を残すことになる。何か上手いやり方を考えていくしかないのが現状だ。
「分かりました。ただ、何分判断する情報が乏しいのでしばらく様子を見させてください。」
「もちろんでございます。あなた様のお気の済むまで。」
「ところで、この席に男が居ないのは何か思惑があるのですか?」
「?男ですか?いえ、私達を引っ張るのはやはり力がないといけませんから。」
隣に座るミリアムも話に入ってくる。
「獣人の男なんて弱いし役に立たないにゃ。」
話が噛み合っていなかったので疑問に思ったが、良く考えてみれば自然界ではメスの方が体格が大きいことが普通で、狩りなどもメスが主体だったりと強いのはメスの方であると何かのテレビで見た記憶がある。
獣人にもこの在り方が当てはまるならば女性がイニシアチブを握るのは自然な事だろう。
「そうなんですね。あと、その語尾は種族特性か何かなのですか?」
「えっ、だって男の人はこういうのが好きなのでは?・・うさ。」
うさ耳のルーシーが驚いたように問いかけてきた。
「否定はしないですが、あまりに不自然なので・・・言わないといけないルールでもあるかと思っていたんです。」
「うっ、頑張ったんですが、慣れなくて・・・。」
申し訳なさそうにうさ耳が垂れてしまっている。
「普通に話してくれて結構ですよ。ルーシーさん達はほとんど人間にしか見えないですが、それが普通なんですか?」
「えっ、私達がそんなに人間のように見えるんですか?」
驚いた表情でイヌ耳のジェンナが聞いてくる。
「いや、違いなんて魔獣の耳しか見えないので。」
「で、でも、爪とか牙とか鋭いし、尻尾も生えてるし、瞳も気持ち悪いって・・・。」
「はぁ、私にとっては可愛らしいケモ耳娘としか見えてないので。」
彼女たちにとっては失礼な話かもしれないが、耳がピコピコ動いたり、尻尾がユラユラ動いている姿を見るとなんだか可愛がっていたペットを思い浮かべてしまう。
『か、か、可愛いい!!!!?』
彼女たちが恥ずかしがって顔を俯かせてしまったので、彼女たちの境遇からもしかしてどこかの貴族にされていたような愛玩用に可愛がられるのではという危機感を持たせてしまったのではないかと焦る。
「すみません火乃宮様。私ども獣人は相手の敵意や善意に敏感なのです。彼女たちは純粋なあなたの賛辞に驚いたのです。特に彼女たちは獣人と人間の間に生まれた子達で人間にかなり近い姿をしているのですが、それでも人間からの蔑みは変わらず受けていたものですから。」
どうやら彼女たちはいわゆるクオーターで、魔獣の血は4分の1程しかないために、見た目は人間に近い姿という事らしい。さらにクオーターの彼女たちの中には本来獣人は使えないと言われている魔法も使用できる者がいるという事だ。
(ここまでくるとこの世界の人間が定義している【人】という定義で考えれば彼女たちは十分【人】であると思えるな。あとは見た目が少し違うほどで・・・いや、人間にとってはそれが一番重要で、魔法が使えるかどうかは重要ではないな・・・。)
「軽はずみな発言でしたね、すみません。では差し当たってあなたたちの事を信じられるかしばらく時間をいただきます。」
「畏まりました。申し遅れましたがようこそ獣人帝国支部セリアンスロゥプへ!」
最近は暖冬ですね。寒さに備えて防寒着を準備したのに、今年の出番は来ないかもしれません。




