23 襲撃
連続投稿最後です。
ギルクローネ帝国への飛空挺での移動中が夕刻を過ぎた頃それは起こった。
朝食を終えてギルクローネ帝国へ旅立つ準備を整え、午前10時頃にオーラスト王国を後にした。予定では帝国まで2日間の移動らしい。
前日の夜には最後の一押しとばかりにクラリーネ王女が煽情的な衣装で私の部屋に押し掛けてきたが、それを予期していたかのようにクロスティーナも現れて迎え撃ち、あれやこれやしているうちになぜかお茶会になった。
そのなかで話は防衛戦の戦果に移り、オーラスト王国を悪魔から救った事への感謝の言葉をまた告げられた。
そして悪魔との戦いが終わったときには是非オーラスト王国の貴族としてこの国に腰を下ろし、さらにクラリーネ王女と夫婦の契りを交わして欲しいとまで言われてしまった。ちなみにその時には王族の身内になるので第一位貴族に陞爵されるらしい。隣でその話を聞いて頬を赤らめていたクロスティーナが間に入ってアスタルト教の教義の演説が始まり、有耶無耶のうちにその話はお開きとなった。
それは、そんな事を苦労話としてカイとルナにしているまさにその時だった。
『ドン!』という大きな音と共に飛空挺が傾く。
「な、なんだ!?」
「どうした?何が起こった?」
混乱とともにカイとルナが大声をあげる。
少ししてクロスティーナが慌てて走り込んできた。
「敵襲です!カイは火乃宮様の側に、ルナは私とともにワイバーンの排除をします。付いてきなさい!」
『はっ!』
指示を出し終え、慌てたようすで2人は甲板に向かっていった。
(どうやらワイバーンから攻撃を受けているようだが、これは悪魔の襲撃なのだろうか。)
「とりあえず何が起こるか分からないから、レンも装備を整えておけよ。」
さっきまでの談笑していた表情とはうって変わって真剣な顔で腰に提げている剣の柄を握りしめていた。
・・・・・・・・・・
しばらく散発的だが、甲板がある上の方から轟音と衝撃が伝わってくる。
「おかしい、ワイバーン数匹だけならこんなに手間取ったり、衝撃は来ないはずなのに・・・まさか・・・」
「何か分かったのか?」
「いや、もしかしてだが相手はワイバーンライダーかもしれない。」
「ワイバーンライダー?」
「ああ、ワイバーンに騎乗している奴がいるんだと思う。この飛空挺の方が速度が早いのに振りきれてないのは組織的に進路妨害をしているからだ。」
「となると相手は悪魔なのか?」
「ああ、おそらくな。違う可能性もあるが人類がこの世界の英雄様を襲わないだろ。」
「ならば私たちも援護に行った方がいいのでは?」
「だけど、この状況でレンを危険に曝すわけには・・・。」
そんなやり取りの最中にも船体は右に左に傾き、その戦闘の激しさを窺わせる。
「どのみち落とされれば無事ではいられない。行こう!」
「・・・わかった。無茶するなよ!」
話がまとまり、僅かな時間で準備を整える。Σ《シグマ》を起動しライフルのラインナップから〈バレットM82〉を選択し、頭にイメージを思い浮かべ、作り終えると銃弾を準備した。わずかばかりの荷物を背負ってカイの先導で甲板に移動する。
この〈バレットM82〉にしたのは使いやすさもあるが、なりより火力だ。分厚いコンクリートさえ段ボールを破るように撃ち抜く。
ワイバーンの表皮は硬い鱗で覆われているらしいが、さすがにコンクリート程ではないだろうと考えていた。
甲板に着くとそこでは周りをワイバーンだろう、3メートルほどのトカゲに翼が生えたような生き物が5匹ほど飛空挺を囲っていた。
そのワイバーンの背には人影が見え、魔法をこちらに放ってきている。
そんな中、負傷した聖騎士の回復をしているクロスティーナと目があった。
「火乃宮様!行けません、中に戻っ・・」
警告を伝えようとしたクロスティーナの言葉を遮るように飛空挺の船底から衝撃が伝わってきた。
身体を固定していなかったので、その勢いで体が船体から浮き上がってしまった。
さらに悪いことに、飛空挺はワイバーンを振りきろうと加速したため空中に置き去りにされてしまう。
「―――――――――――っ!」
自由落下の風圧のせいで声にならない叫びになってしまう。
パニックのため手足をバタバタと動かすだけで、既にライフルは手放してどこかに落ちてしまっている。
ドン!と顔面に衝撃が走ったことで我に帰ると、さきほど飛空挺を襲っていたワイバーンの背中に居ることに気付いた。
そして顔を上げるとワイバーンに跨がった人物が前を向いたまま口を開く。
「あなたが召喚された火乃宮様で間違いないのにゃ?」
何故か語尾が『にゃ』になっている人物は確信を込めた口調で問いかけてきた。
「っ!?あっ、ああ。」
「これで目的は達成にゃ!悪いけど私たちに拐われてにゃ!」
「どこに連れていく気ですか?」
「良いところだにゃ!」
そう言いながら振り返った人物は月明かりに照らされその妖しい笑顔が見えた。
頭には猫のような耳に、お尻の辺りから長い尻尾が出ていた。
(獣人が何故!?悪魔に操られているのか?)
《《彼女》》には見たところ精神操作を防ぐ魔具が見られなかった。
「勘違いしないでほしいんだけど、悪魔に操られているわけでは無いにゃ!これは私達の意思にゃ!」
「目的は?」
「詳しくは長から話すにゃ!でも私達の願いは、ただ平和に暮らすことにゃ。そのためには・・なんでもやる!」
強い意志が垣間見える言葉にあの語尾はなかった。
現状ではワイバーンから飛び降りても無傷では済まないだろう。パラシュートを作ったところで、操作の仕方が分からないので下手すればそのまま急降下して地面に激突してしまうかもしれない。
彼女を後ろから無力化してもワイバーンを操れない。どの選択肢も下策だった。
「・・・分かりました。」
「ゴメンにゃ。絶対に身の安全は保証するのにゃ。じゃあ、飛ばすからしっかり私に掴まっててにゃ!」
彼女の細い腰に手を回し身体を預ける。後方からはクロスティーナ達の叫び声が小さく聞こえるが、大きな飛空挺を旋回している間にワイバーンは空域を離脱した。
(今度はなにが待っているんだ・・・。)
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side クロスティーナ
一瞬だった。
カイと一緒に船内に居るはずの火乃宮様が見慣れない黒い筒の様な物を持って甲板に駆け上がってきた。
これまでの戦闘で、相手は獣人が騎乗しているワイバーンというのは確認できていた。組織だった攻撃でワイバーンより早い飛空艇の進路を妨害し、小回りの利くワイバーンはヒット&アウェイの要領でじりじりとこちら側に損害を出している。
(相手はおそらく帝国辺境の森を根城にしているレジスタンスね。でもこの攻撃には飛空艇を撃墜させるような意図を感じない。何かを探っている?・・・まさか!)
相手の意図が読めた時だった。火乃宮様が現れたとほぼ同時に船底からの衝撃で皆が一瞬の浮遊感に包まれる。既に戦闘をしていた私たちは安全帯を付けていたので、身体が放り出される事は無かったが、今来たばかりの火乃宮様とカイは投げ出されてしまった。
幸いにもカイは素早く柵を掴み事なきを得たが、火乃宮様のことまで間に合わず、伸ばした手も空を切ってしまっていた。
「いけないっ!」
慌てて甲板の縁から下を覗き込むと、火乃宮様を追ってワイバーンが急下降しているところだった。
(やられたっ!すべてはこの瞬間のためにあんなに時間をかけてじりじりとした攻撃をしていたのね!)
ワイバーンが火乃宮様を乗せそのまま旋回して飛空艇と逆方向に飛び去ろうとしていた。
「くっ、急速旋回してあのワイバーンを追いなさい!」
しかし飛空艇の大きさが仇になり、旋回しているうちにワイバーンは漆黒の中に消えていた。
悔しさを噛みしめながら今後どうすべきか考える。
(まずは教皇様に連絡ね。彼を奪還するため討伐隊を編成して獣人どものレジスタンスを根絶やしにしなければ。)
今後の方針について考えていると、カイが青い顔をしながら近づいてきた。
「申し訳ありませんクロスティーナ様!私の判断ミスで火乃宮様を甲板にお連れしてしまい、あまつさえ守り切ることが出来ませんでした。」
身体を90°に曲げながら謝罪するカイの声は既に耳に入っていない。クロスティーナは別の事に頭を割いていた。
(もし奴らがあの情報を彼に吹き込めば教国だけじゃない、各国のお偉方の印象は最悪だわ。それいかんによっては彼が敵に回るかもしれない。最悪を想定しつつ動かなければ・・・)
アスタルト教国が主導して隠している不都合な真実を獣人が露見させても、獣人の戯言と切って捨てれる。そもそも露見する前に今までは対処できていた。しかし彼、火乃宮 蓮はこの世界の知識にはいまだ疎く、獣人の言葉といえど信じてしまう可能性が捨てきれない。
彼がオーラスト王国でみた獣人たちにどんな思いを持ったか、今となってはもっと探りを入れておけばと後悔をしながら暗闇の夜空を見据えていた。
「何事も予定通りにはいかないものね・・・。」
そんなクロスティーナの呟きは風の音に掻き消えていた。
今回は結構書き溜めていたので一気に投稿しました。
次回は1月25日の予定です。




