19 知識創造
連続投稿5話目です。
朝食を終えて部屋にもどると早速テーブルにある魔具に取り掛かる。
とは言っても専門家も匙を投げた正体不明の魔具なので、そう期待せずに調べる。
銀色のティッシュ箱の外見に側面に魔石を入れられる様な5センチ角のケースが引っ張り出せるようになっているだけで、他はなんのギミックも無い。
(とりあえず一緒に購入した6つの属性魔石を順に入れてみたが何も起こらないな。)
逆さにしても、振ってみても本当に何も起きない。
どうしたものかと悩みながら魔石の入っていた袋を廻していると、まだ一つ入っていることに気づく。
取り出してみると無色透明の魔石だった。これはまだ属性を付与していないもので普段使われることの無いだったはずだ。若干の期待を込めつつ入れてみても・・・
(やっぱり何も起きないか・・・。遺跡から見つかったものということだが、この世界の現代知識ではお手上げだし・・・もしかして魔法の装置ではないのかも・・・)
この世界では魔法文明はあっても科学文明は無さそうだった。もしこれが科学文明の何かだったなら。
そう考えてみても動かし方が分からなければ、結局何もできない。
「科学の根幹をなすものはエネルギーだろう。ならこの魔具も電気等のエネルギーを元に動いているとか、作り出すものだっりしないかなぁ。」
あり得ないかもしれないが、電気が簡単に作れたりすれば色々と出来ることが広がるので何とか出来ないかという願望をあれこれ考えていた。
すると脳裏に【この道具に対する新たな知識を創造しますか?】というメッセージが浮かんできた。
「えっ!?・・・もしかしてこの能力のことを少し勘違いしていたのか・・・?」
鑑定の魔石で見たときは知識創造(限定開放)となっていた。とりあえず限定開放の部分は置いておいて、知識創造の意味をそのまま読み取ると、知識を作り出すとも受け取れる。
「これは、既知の知識を具現化するだけでなく、新しく創ることも可能だということか。」
そこまで考えると、このミスリルの塊を私の考えた知識で魔具に変えてみようと取り組む。
(どうせならとびきりの高性能な物を考えよう。無尽蔵の電力を作り出し、1メートル以内の任意の電力を必要とする物を自動的に充電可能な魔具にする!)
・・・・・・・・
作り出す知識を明確に考えてしてしばらくすると、先程の創造するか問いかけるメッセージが浮かんできた。更に付与対象を求めてきたので、遺物に焦点を合わせて集中する。
ぼんやりと魔具が輝きだし、暫くすると落ち着いた。
「終わったのかな?」
試してみるために懐のスマホを近くに置いてみる。すると、スマホの画面が充電中の表示になった。
「やった、成功だ!」
お手軽な発電機が出来た事に歓喜する。電気が簡単に作れるとなれば色々なものが作れる。
あとはこの能力が何が出来て、何が出来ないのかの確認をしなければならない。
(知識を物に付与出来るなら、世界に付与することは可能だろうか?例えば、転移者が強く望めば元の世界に帰れるという知識を世界に付与すれば、それがいわば常識の様になるかもしれない。)
そう考えてしばらく頑張っていたのだが、まったく脳裏にさっきのメッセージが浮かんでこなかったので諦めた。
次に物に付与できる知識はどんな知識でもいいのかの確認をしてみる。
服に対して脱いだ後、時間経過と共に綺麗になるようにイメージしてみるが・・・これもダメだった。
「うーん、さっきの魔具と何が違うんだ?世界に付与するのは・・・さすがに能力の限度を越えているとして、服はなんで出来なかったんだ・・・?よし、今度は椅子に近付くと自動で動いて座れて、立ち上がったら自動で戻るようにイメージしてみよう。」
しかしやはりどんなにイメージしてみても付与はできなかった。
成功と失敗の違いについて考察するが比較対象が少ないので色々検証しながら確認しようと考え、書庫へと行くことにする。
「気分転換に本でも読んでこよう。」
今のところ王国や教国からは英雄のようにもてはやされているが、こんな力を持っていると知られると畏怖の感情から排除の方針に変わるかもしれないので、各国の関係性や成り立ちなどを知っておきたいと考えていた。
・・・・・・・・・・・・・・
書庫に入り職員に歴史書や地理についての本、経済についての本を持ってきてもらい、テーブルに積み上げてもらった。
やることは前回同様スマホに記録していく。本の量をざっと見ると夕方までに終わるかどうかの量なので、集中しながらサクサク終わらせることにする。
作業も佳境に差し掛かってきたときに、第2王女が奥から姿を見せた。
「あ、貴方は・・・」
「これはどうもベルベッティ殿下。今日も勉強ですか?」
「ええ、もちろんなのです。」
「今は何の勉強をされているのですか?」
「今は経済学を学んでいるのです。やはりお金を稼がねば生きていけないからなのです。」
「仰る通りですね。どんなお仕事をしていくかお決めになりましたか?」
そう尋ねると眉間にシワを寄せ、下を見ながら悩んでいるようすだった。
「他の人に真似されるのは嫌なので、内緒なのです。」
「それは失礼しました。ところで、ベルベッティ殿下は他国のことは何かご存知ですか?」
「何かと言われてもそこまで詳しくはないのですが、経済の状態とか特色はある程度分かるのです。」
「そうなんですね。ちなみに各国の特色とはどんなものがあるのですか?」
「うーん、例えばアッセンブリー評議国は商人中心の国なので経済が強いのです。ギルクローネ帝国は力こそ全ての軍事国家、フロリア公国は逆に緑豊かな農業国家で穏やかな国とされているのです。あとアスタルト教国は何というか宗教中心という感じなのです。」
勝手なイメージだが帝国にはあまり近付きたくない。逆に腰を据えるならフロリア公国が良さそうだと感じてしまう。
ただ彼女自身の王国の話がなかったので聞いてみる。
「では、オーラスト王国はどんな特徴が?」
そう聞くと王女は不機嫌そうな顔をして捲し立てる。
「ふん、この国なんて色欲と権力欲にまみれたくだらない国なのです。」
どうやらこの王女は自分の国がよほど嫌いなのだろう、辛辣な評価というか随分主観が混じっている。
王女である彼女がこう思う何かが過去にあったのだろう。
「そ、そうなのですね。では静かに暮らしたいという望みを叶えるには大変そうですね。」
「だから頑張って勉強しているのです!」
王女の望みを叶えるにはどこかに降嫁するか、国外逃亡になってしまいそうだ。
どうすれば王家から脱退できるかは知らないが、女性である彼女は国にとって他国との縁を結ぶ良い駒という位置付けと考えられる。
いくら体型がふくよかと言っても、利用できるものは利用するのが政治というものだ。
もしかすると今学んでいる事は、事を荒立てず王家から脱出する方法なのかもしれない。
聞きたい事を終えて王女が持っている本に目が引かれた。その本は鎖で厳重に封印されているが、ぱっと見た感じでは鍵は見えなかった。
「ところで王女殿下が持っていらっしゃるその本はなんなのですか?」
「これですか?何かは分からないのです。特殊な魔法の鎖でミスリルの剣でも断ち切れず、鍵も鍵穴もなくて、誰も内容を知らない本なのです。」
本を掲げて私に見やすいように見せてきた。本当に鎖で雁字搦めになっており、開くためのギミックが全く分からない物だった。
「では殿下はその本を開くために試していらっしゃったんですか?」
「そうなのです。どうも古くから書庫の奥にあるのですが、未だに誰も中身を知らないので、きっと凄いことが書かれているに違いないのです。まぁ未熟な私では全然ダメダメなのです・・・。」
「そう落胆せずとも大丈夫ではないでしょうか、誰も開けなかった本なのですから。しかし本当に何なんですかね?」
「それは今のところ誰にも分からないのです。・・・言ってみればこの本は今のところ何だかよく分からない鎖で封印されている何だかよく分からない本という事なのです。」
「ははっ、面白い表現ですね。・・・少し見せてもらってもいいですか?」
そう言うと王女は鎖の本を手渡してくれた。ざっと見てみてもこの鎖自体がどうやって巻いたのか見当もつかないし、本自体も古いはずが全然劣化している様に見えない。まさに何だか分からない本だった。
(この鎖に対して知識の付与が出来ないか試してみるか。よし、日本古来より伝わるあの合言葉で開くようにしてみよう!)
そう考えてあの言葉で鎖がバラバラになるようにイメージを固めていく。すると今度は脳裏に例のメッセージが浮かんできたので、あとは対象を目視し付与を完了する。
すると興味深そうにこちらを見ていた王女が問いかけてきた。
「・・・何をしたのです?」
「少し見ていてくださいね。・・・【開けゴマ!】」
すると手に持っていた本の鎖が淡く発光しだして次の瞬間には砕けてバラバラに床に散らばった。
「な、なんで!?鎖が・・・え、どうなって、というか合言葉なのです?なんで知っていたのです?」
混乱の極みにあるようなわなわなとした表情で近付きながら王女が問いかけてくる。
「あ~、実はこの言葉は私の世界でよく使われている封印を破る合言葉なんですよ。もしかしてと思ったんですが、この世界でも効果があったようですね。」
女の子らしからぬ口をポカーンと開けたままの顔で私の説明を聞いているようだった。
「今まで誰も開けられなかった本が・・・見せてっ!なのですっ!」
私の手にある本を奪うように持っていくとこちらに背を向けながら王女は中身を確認していく。
しばらくパラパラとめくりながらふとこちらに顔を向けてきた。
「・・・な、何これ・・・」
そう言いながら本を開きながらこちらに見せてきた。
さっと目を通してみると書物というよりは日記の様だった。日付を見るとおよそ500年以上前のもので、悪魔との戦いや獣人との争い、さらに他国との戦争やオーラスト王国の内政に対する憂いなど内容は多岐にわたって書かれていた。
興味深いものはその考察だった。悪魔については理について教皇に聞いていた通りに記されていた。さらにこの時代他国との戦争も活発で、悪魔の侵攻を受けて弱った国に対して追い打ちをかけることが多かったらしい。ただその後攻めた国にも悪魔の侵攻があり大打撃を受けている。
さらに獣人については人々はかなり残酷な仕打ちをしており、不満を募らせた獣人たちとの争いは絶えることが無かったというのだ。
(獣人については正直ハーピーしか見ていないし、それも遠くから飛んでいるのを見たぐらいだ。今の対応はどうなっているのだろう・・・)
本の内容に少なくない衝撃を持って読んでいると王女が袖を引っ張ってきた。
「そんなに集中してどうしたのです?この本には凄い魔法だとか儲け話になりそうな事なんて書いてなかったのです。がっかりなのです。」
どうやら彼女の望んでいた内容ではなかったようだ。ただ内容的に気になっていたことを彼女に聞いてみた。
「この本の内容の中に獣人に対する記述があったのですが、今はどんな対応かご存じですか?」
「獣人ですか?王国ではサーバントとしていろいろな仕事に従事《《させて》》、給金も払って生活に困らないようにしているはずですよ。」
言葉の言い回しの中になんとなく獣人への差別意識の様な物が無意識に出ている気がしてしまう。
過去に争いをしていた歴史もあり、魔法が使えないという事で人としては見なされていないのだろう。
今はあの本に書いてあったような残酷な対応をしてはいないと思うが、人間とは自分より下にみなすものにいくらでも非情になれるものだ。
「そうなんですか。私の世界には獣人など居なかったものですから、今度見てみたいものですね。」
「ふ~ん、獣人を見たいなんて物好きなのです。王城にも居るはずですし、獣人地区にいくらでもいるのです。」
「ありがとうございます。今度訪ねてみることにします。」
「でも残念だったのです。私の将来の役に立つかもしれないと期待していたのに・・・こんな日記みたいなものに厳重な封印なんてするな!なのです。」
王女の言う事は最もだなと思いつつ、最終ページまで捲った後に癖で表紙を外してみると、ある一文が裏表紙に書いてあった。
『将来この封印を解きせし者よ、私は獣人の一人を愛してしまった。この感情を周りに知られれば私は白い目で見られ、周りからは排斥されるだろう。この本に私の想いを封じよう。
そして願わくばこの本の封印が解かれる未来では獣人と人とが互いに想い合っていける世界になっている事を願っている。
しかし変わることがなければ、この本の封印を解けるだけの力を持った君に獣人を憂う心があれば私の代わりに実現してもらいたい。勝手ながら期待させてもらおう。そのかわりに封印の魔法を授けよう。』
その一文を読むと本が輝きだし私の手の中に吸い込まれるように消えていった。
「えっ!?あ、あなた本はどうしたのです?消えたのです?」
「いや、私にも分かりません、急に光ったと思ったら消えてしまって。マズいですか?」
「まぁ、何だかわからなかった本が一冊消えたところでなんともないのです。私はそろそろ勉強に戻るのです。」
そう言うと踵を返して奥の部屋へと消えていった。
自分の身体に変化が起こったのか確認するために後で鑑定の魔石を使ってみるしかないなと思いながら残りの作業に戻った。




