六話 宿の中の出来事
あの慌てようは普通じゃないよなぁ。まあいいや、後で聞こう。宿の中に入ると。
「これはすごい…」
一番先に目に入ったのは目の前のドラゴンの標本、推定でもティラノサウルス位の大きさはあるんだけど。すご過ぎない?それに圧倒されつつも周りを見渡して見ると、かなり綺麗だった。高級ホテルといえばこう、とでも言うように、前にはカウンター、右を向くと大きな階段がある。まさかT字の階段をお目にかかれるなんて思わなかった。僕達が歩くとコツコツと綺麗な音がなった。なんの素材で出来てるんだろう。
「ふふ、奏くん、あんまりキョロキョロしてたらダメだよ。」
日菜さんも少なからずしてたように見えたけど、僕は言われたことに従ってキョロキョロするのを止めた。もう少し見たかったんだけど言われたら仕方ないや。
「いやーここはいつ見ても豪華だなー、いくら見てても飽きないよね。それじゃ、受付に行こう。予約してあるはずだから。直ぐに部屋に行くことができるよ。」
「はい、わかりました。」
「了解だよー。」
僕達はフーカちゃんに言われたとおり、カウンターに向かった。受付の人がこっちに気づいたみたいだ。笑顔でお辞儀してくれた。
「お待ちしておりました。フーカ様、フラム様、本日は当宿泊所を選んで下さり、誠にありがとうございます。」
「あーそういうのはいいから、取り敢えず何日が泊まるから、一番いいのを適当に四部屋、見繕ってくれない?」
「かしこまりました。ではこの私、当ホテルのオーナー、ミネラがご案内させていただきます。」
え?受付嬢の人かと思ったらここのホテルのオーナーなの?なんでこんな所にいるんだ。この後ミネラさんが丁寧に案内をしてくれた。どうやら部屋は三階にあるらしい。結構建築技術はあるんだね。部屋の前に着くと、オーナーのミネラさんが扉を掌で触ると、カチャリと、鍵が開いた。
「この扉は私の魔力以外では開かない仕組みとなっております。では皆様このカードを受け取りください。このカードには私の魔力を込めております。このカードを扉に当てていただきますと、開く仕組みになっております。盗難にはくれぐれもお気をつけてください。この隣、三部屋全てがお客様のお部屋となっております。では、私はこれで。あ、後、当ホテルは朝と夕の二食、大浴場は二十四時間、開いておりますので自由にお楽しみください。」
「説明ありがとね。」
フーカちゃんがミネラさんを労うと、ミネラさんは笑いながら。
「『爆裂』のフーカ様に労って頂けるとは、オーナー冥利に尽きますね。では、何かありましたらお部屋の中あるベルを鳴らしてください。使用人達が伺いに行きますので。」
そう言うとミネラさんは下に向かっていった。
「爆裂ってフーカちゃんの二つ名ですか?」
僕は素直に聞いてみた。
「バレちゃあしょうがない。まあまずは各自部屋に荷物を置いてきてよ、その後にこの部屋集合で。」
「?、分かりました。」
僕達はフーカちゃんたちから貰った下着を自分の部屋に入れに行った。ちなみにカードには7番って書いてある。覚えとかないと。僕の部屋は入ったらすぐ、花のような匂いが漂った。嫌な匂いではなく、心地いい匂いだ。窓越しの景色はもうかなり真っ暗で、繁華街みたいな所は未だに賑わってるみたいだ。
「ベッドでか!一人にこのサイズは大き過ぎない?」
ベッドもキングサイズくらいかそれ以上あるだろう。
「これを四部屋とか、フーカちゃんは凄いな。多分有名な冒険者なんだろうな。『爆裂』なんて呼ばれてるし。『爆裂』で商業ギルドの人なわけないしな。商品が爆発でもするのかっての。商業ギルドあるかわかんないけど。」
僕は独り言を呟きながら荷物を置こうとした。
「そういや僕、アイテムボックス持ってたんだった。こっちに入れとくか『アイテムボックス』」
僕がそう唱えると、スマホがでてきた。僕の目の前には丸い穴みたいなのが空中にあって、そこに荷物を放り込む。そうするとスマホの方に下着一式と表示された。ちゃんと表示されたのを確認すると、僕はフーカちゃんの部屋に向かった。ドアをノックすると、すぐに日菜さんが開けてくれた。もうみんな揃ってたみたい。
「じゃあみんな揃ったね。」
「で、『爆裂』ってなんですか?フーカちゃんの二つ名?」
「まあ、そうですね。私の戦闘スタイルは遠距離なんですけど。私はこれを投げるんですよ。」
フーカちゃんが腰から宝石が散りばめられた金のチャクラムみたいな武器を取り出した。どちらかと言うと、ネックレスの方が似合いそうだ。
「へぇ、フーカちゃんよくそんな武器扱えるね。」
「フーカ…は、結構こういうの…得意。」
日菜さんの質問にフラムちゃんが答えた。フラムちゃんは結構無口な方なのかな?ここまでほぼ喋らなかったし。
「私のこの武器『爆輪』は相手を切る能力もありますけど、まず敵にあたると爆発します。この武器で冒険者をやっていたらいつの間にか…」
「『爆裂』の二つ名になったと。」
「そうなんです…。ちなみにフラムは『氷炎』の二つ名を持ってます。ね?フラム。」
「私のは…言わなくても…よかったのに。恥ずかしい。」
フラムちゃんが少し恥ずかしそうな顔をしてる。かわいいなぁ。僕は気になった質問をした。
「ランクはいくつなんですか?」
「冒険者?それだったら私たち二人とも黒色級だよ。ほら。」
フーカちゃんがそう言うと、首から垂らしている黒色のドッグタグ(そう呼んでるだけ)を見せてくれた。黒色のタグはなんの装飾もないと思いきや、光の角度によってはきらめいているように見える。あれだ、レアなカードにあるあのキラキラみたいな。あと、光源はどこから来てるかと言うと上にあるミニシャンデリアみたいなのが発光している。
「すいません、どれだけ凄いか分からないんですけど。」
「私もわかんない。説明してくれる?」
「でしょうねえ。まあ説明してあげましょう。」
どこからか取り出した紙とペンを机に置いて、説明してくれた。有難いな。そして片眼鏡をつける必要はあったのかな?似合ってるけどさ。
「まず、冒険者とは、無形国家『ギルド』が運営する、冒険者ギルドに所属している人を指します。他にも商人ギルドなどもありますがそれはいいでしょう。まず、冒険者になるには冒険者ギルドで登録する必要があります。ギルドにはランクというものがあり、収集、討伐、護衛の3つの総合評価で決まります。討伐が得意だからってそればっかりやっていても黒色級冒険者にはなれませんよ?」
「そうなんですか。」
へえ、ここのギルドはそういうタイプか、たまに討伐しまくってS級冒険者になってる小説もあるけど、そんなことは出来ないと。
「ちゃんと満遍なくこなさないといけないんだね。」
日菜さんも理解出来ているようだ。
「そう、そして冒険者にはランクがあります。まあ無いと強さの基準が測りにくいからね。まず最初は灰色、次に黄色、ここで初心者を突破したくらいかな。次は緑色、青色、金色、ゴールドランクまではまだ努力でいけるけどこれ以降は別格。白色。王の側近レベルかそれ以上。そして黒色。ここまで行くのはひと握りの人達。私が言うのもなんだけど、ブラックは全員化物レベルかな。」
日菜さんを見ると、聞き入るように話を聞いていた。日菜さんはブラックランクを目指しそうな気がする。まあ僕は日菜さんを応援しつつゆっくりと目指そうかな。義務とか発生するのは嫌いだけどね。あれ、なんで僕は行けると思ってるんだ?
「私達以外で確認したのは防衛国『ゲート』の王様とその側近。初代勇者『時の勇者』。魔法神『マナ』。ブラックランクにはほぼ人間は確認出来てないね。時の勇者は超人種だったし。強いていえば防衛国『ゲート』にいる政治王『コウヤ・ミチカズ』とかかな?まあ、あれはもはや超人種に片足つっ込みそうだったけど。今はどうなんだろう?」
「フーカ…脱線し始めた…」
「え?ああ、ごめんごめん。話すと熱中しちゃって、私の話わかりました?二人とも。」
「面白そうな話がいっぱい出てきて楽しかったよ。ありがとね?」
「うん、僕も結構分かりやすかったよ。ありがとう。フーカちゃん。」
僕はフーカちゃんの耳を撫でた。ふぉぉっ!サラサラで気持ちいい。フーカちゃんは虎みたいな見た目だからもう少し違う感触だと思ったけど、ちゃんと手入れしてるんだろうな。獣臭さよりも先にシャンプーみたいないいにおいがする。ちゃんと手入れしてるんだろうな。僕がフーカちゃんの耳を撫でていると、フーカちゃんが甘えるように擦り寄ってきた。可愛いすぎる。
「はっ!あまりの良さに自然と擦り寄ってしまいました。そう、奏が撫で上手だからいけないんです。だからしかたないですね!うん、しかたない!しかたないついでにもっと撫でてください。」
フーカちゃんは猫ならノドをごろごろ鳴らしているかのような感じで擦り寄ってきた。
「私も撫でたーい!」
日菜さんも参加して二人で撫でまくった。さっきの仕返しだ。途中からフラムちゃんも参加して撫でさせてもらった。フラムちゃんの赤と青の縞々の髪の毛はフーカちゃん以上にサラサラで、折り畳まれた左右色違いの翼は、しなやかで強靭な鱗を纏っていた。触り心地は少しツルツルしてて、無理矢理例えるならば蛇の鱗ような感じだった。僕の撫でスキルはフラムちゃんも大絶賛だった。ちなみに僕は無音カメラで二人とも撮っておきました。大事に保存しとかないと。
「ほぉおぉおお…気持ちいい………すやぁ…」
「あ、フラムちゃん寝ちゃだめだよー。」
フラムちゃん達からいつでも触っていいという許可を貰った。言ってみるもんだね。ちなみに日菜さんも撫でるのがめちゃくちゃうまかった。どうやら猫を前に飼ってたらしい。フーカちゃんは猫レベルなのか…。
「もっと背中のそのあたり…ああ!そこです!はにゃぁぁ……って、もうそろそろですかね。奏、日菜、フラム!ご飯行かないと!」
「ん…もう…時間?」
「まだ撫でたーい!」
「あ、僕もお腹すいてきた頃なんですよ。日菜さん、またご飯食べたらにしましょう?」
「え…まだやる気ですか、まあ、私は心地いいから問題ないんですけど。取り敢えずその話はあとにして着いてきてください、一階のレストランでドラゴンのお肉キープして貰ってるんで、食べに行きましょ?」
「おお、ドラゴンのお肉!?これはまた異世界じみてきたね!ね?奏くん!」
「え?ああ、そうですね。僕はデザートの方が気になるところですけど。」
「まあ、奏達はここに来てまもないだろうから気になるよね。じゃあ早速いこー!」
ん?どういうことだ?
「あの…」
「ん?どうしたの奏、大丈夫だよ、デザートもすごく美味しいし。」
んー?僕の気のせいか?そんなはずは…
「い、いや、そう…ですよね。いやー僕もドラゴンのお肉がどんなのか気になっちゃって!いやーたのしみだなぁ!」
僕は取り敢えず聞かないことにした。フラムちゃんの視線が今のは聞かなかったことにしてくれと言いたげだったから。取り敢えずまた後で聞こう。まずは晩ご飯食べてからだね。僕達が一階に行くと、直ぐに執事のような人が丁寧に案内してくれた。僕達が恐縮そうに入口をくぐると音楽の音色が僕達を出迎えてくれた。
「ようこそ、当レストラン『休息の泉』へ。」
僕は確信をもってこのホテルを考えた人は日本人だと思う。ここにいたらHPが全回復しそう。僕達がテーブルに座ると、直ぐに料理がやってきた。
「こちら、当レストラン自慢のドラゴンステーキとなっております。こちらは合計で4.5キロ程ございますが、フラム様とフーカ様なら少し足りないくらいでしょうか。」
へえ、こっちの世界もキロで言われるのか。ってそこじゃなくて。
「4.5キロか〜今日は少なめだけどどうかした?」
「すいません、最近近辺の竜種はもちろん、亜竜種までもが姿を見せなくなりまして。もしかしたら…」
そこでドラゴンステーキと呼ばれる塊肉を持ってきた店員さんが僕達に顔を近づけ、小声で喋り出した。
「最近帝国が魔物や魔獣を片っ端から集めているそうなので今回のことは帝国が糸を引いてるかもと噂が。」
まて、そんな他国の情報を知ってたとしてもここまでべらべら喋ってもいいのかな?あ、もうフラムちゃんと日菜さんは無視してステーキにむしゃぶりついている。む、僕ももう少し話を聞いたら食べよう。
「へぇー帝国がねぇ、モグ、あの国がそこまでするってことはモグ、なんか仕掛けてくるモグモグ、予兆かもねー。結構大規模な。」
フーカちゃんもフォーク片手に会話を続けている。結構話好きなのかな。僕も食べよ。おお!肉厚で美味しい!けどもう少し小さい方が好きかな、顎が疲れてくるタイプだこれ…。フラムちゃんは持ち前のギザ歯でもっぐもぐ口に含んで食べてる。そこまで頬張ってよく食べられるね。
「はい、しかも帝国は勇者召喚を再現しようとしてるらしく、フーカ様方には、もしかしたら招集命令が発令されるかも知れません。ご了承ください。」
「はっ、そんなわけないじゃん。私が出張る時は王国壊滅レベルの時だけだよ。そうなったら嫌でも出てやるさ。」
へぇ、フラムちゃん達は王国を救えるくらいには強いんだ。黒色冒険者の強さの基準があんまりわかんないな。しかも勇者召喚だって?気になることがまた増えた。後で二人から聞こうかな。
「分かりました。長々とすいません。ではごゆっくり。」
「な、なんかフーカちゃんすごいね。フラムちゃん。」
ステーキを食べて一息ついている日菜さんがフラムちゃんに喋りかけていた。フラムちゃんは両手のフォークで刺した塊肉を炎のブレスで焼いて食べていた。器用だなあ。
「モグモグモグ…フーカは…モグモグ…いつも……モグモグこんなモグの。」
「フラム、モグモグせめて食べてからモグ喋りなさいよ。」
フーカちゃんも人?のこと言えないけどね。
「いやーそれにしてもフーカちゃんは凄いなぁ。なんかさ!大人の人みたいな難しい話して。」
フーカちゃんはいつの間にあったのか。ワインみたいなのを少しドヤ顔をしながら飲んでいた。あ、これただのぶどうジュースだ。少し貰った、美味しい。
「いやーやっぱり情報は常に新鮮なうちから欲しいからね。やっぱりどんなに強くてもこれだけは欠かせないのよ。」
こんなに小さいのにちゃんと考えてるんだなぁ。いやいや、この世界は実年齢と肉体年齢が必ずしも一致しているとは限らない可能性もあるんだった。てか一致してたとしたらこの子達どれだけ頭いいのって話だからね。
「デザートの竜卵プリンになります。」
何やかんや食べていたらいつの間にかデザートまで来ていた。やばい、少食のせいでデザート入るか微妙だ。でも甘いもの好きの僕はここで諦めたりしないぞ!
「って、あんなに食べてたのにまだ食べられるんですか3人共…」
「いやー奏くん、これは無理だよ、これ食べたら美味しいって見たら分かる食べ物を食べないわけないじゃん。ん〜!このプリンも美味しい!こんなの毎日食べられたら最高だろうなー。」
「奏、大丈夫よ、私もフラムもまだまだ食べられるし。食べられなかったら食べてあげようか?そのデザート。」
「遠慮…しなくていいよ…?」
僕はあんまり食べない方なので半分くらいは食べてもらってたんだけど、デザートは譲れない!
「さり気なく僕のデザートまで取らないでください。って、あ!あ〜盗られた…」
「美味い!」
「美味しい…」
一口も食べてない僕のプリンがフラムちゃんとフーカちゃんに取られてしまった。泣きそう。
「か、奏くん?一口食べる?ほら、あーん」
哀れに思ったのか日菜さんが一口くれた。嬉しいけど、あーんする必要あるのか?まあいいや。
「あーん、ん!こ、これ、すごい美味しいです!一体いくらするんだろう?すごい美味しい。」
これマジでやばいぞ。カラメルのほろ苦さがプリンによく合う。これだったら一個500円はくだらないね!僕ならそれぐらいは出せるな。
「いや〜美味しそうに食べるねー。私も嬉しくなってくるよ。なでなでしてあげよう。」
僕の頭をまた撫でる気だな!そうはいかんざき!僕は頭を撫でられる前にさっと日菜さんの手を避けた。
「二度も同じ手はくらいませんよ。」
「じゃあ左手だったら?」
「そういう事じゃないです…」
ダジャレっぽくなってしまった〜。ちょっと恥ずかしい。
「じゃあこちょこちょ攻撃をくらえ!」
「へっ!?あーはははは!脇は、脇はダメです!弱いんですよ!あはははは!」
「頭を撫でさしてくれるまで辞めない!」
「あのー。」
「あっはい、なんでしょうか。」
日菜さんがくすぐっていた手を止めた。はぁ、死ぬかと思った。
「他のお客様のご迷惑になりますのでちょっと…」
「すいませんでした!ほら奏くんも謝って謝って。」
「なんでですか、完璧に僕被害者なんですけど。」
僕が目でフラムちゃん達の方を見ると、笑いを堪えていた。
「く…くくく…。」
「…ぷっ…」
「も、もう行きませんか?ご飯も食べ終わったことだし。」
恥ずかしすぎて顔がもはや熱い。早くここから立ち去って部屋に帰りたいー。
「くくく…ふぅ、そうだね。そろそろ大浴場に行こうか。」
僕は少し顔を冷やすようにコップの水を飲み干した後、フーカちゃんについて行き大浴場入口まで向かった。
「え、これもしかして混浴ですか?」
「もしかしなくても混浴だよ?」
「僕はみんなが入ったあとに入ることにします。」
これはやばい。今までは気合いで耐えてたけど、日菜さんの裸とか見たらやばい事になる。それはダメだ。
「まあまあ、この大浴場入る人みんなタオルで隠してるから大丈夫だよ。日菜は見られても大丈夫でしょ?」
フーカちゃんが言った質問に日菜さんはわざわざ胸を少し寄せ上げながら。
「私はあんまり見て欲しくないから奏くんとかが守ってくれたら嬉しいんだけどなー?」
「守りたいのは山々ですけど…その、あの…。」
僕はなんで戦ってた時は大丈夫なのに。こんな時には頭が回らない。なんて言ったらいいんだ。
「ん?あ、あーそういう事ね。大丈夫だよ奏くん。弟がそういうのしてる時に部屋に入ったこととかあるし、奏くんくらいの子どもとなら入り慣れてるから。勃起しても見なかったことにしてあげよう!」
「ひ、日菜さんはもう少し自重して欲しいです。」
日菜さんってなんか、精神をごりごり削って来るタイプだなぁ。
「はいはい、うだうだ言ってないで早く行きますよー。」
僕は首を掴まれてずりずりと引き摺られて行った。大浴場の暖簾をくぐると、温泉で結構おなじみの木の籠みたいなのが、棚に並んでいる。ここに衣服を入れるんだろな。恥ずかしくて着替えるのを少し戸惑っていたら日菜さん達がガバッと勢いよく着替え始めた。やっぱり僕は少し離れたところで着替えよっと。
「あんまり離れたらわかりにくいでしょー。私たちの隣の籠にしときなよ。」
ああーありがた迷惑なんです今はー!日菜さんのタオル越しのおっぱいがやばい。てか着替えるのはや!相当お風呂楽しみだったんだろなぁ。僕は出来るだけフーカちゃん達の方を見ながら着替えた。日菜さんはもう少し慣れてからじゃないと直視出来ない。
「なーに恥ずかしがってんの奏くん?私の方を見てもいいんだよ?ほらほら、そんなタオルで隠さなくても大丈夫だよー気にしないから。」
ニヤニヤしながら言ってるよあの人絶対。てか僕の腰に巻いたタオル引っ張らんといて!それに日菜さんが気にしなくても僕が気にするわ!なんでほぼ初対面の人に股間見せなきゃいけないんだよ!
「ぼ、僕は先に行ってます!」
三十六計逃げるにしかず!早く湯船に入って隠さないと。
「あー逃げられた。ふふ、からかいがいあるねー。」
「あんまりしつこくしてあげたらだめだよ?」
「奏…嫌がりそう…。」
「あーそうだね、後で謝るけどさ。いやーあそこまで弟っぽい子もなかなかいないね。私はもう弟に会えないから代わりにからかい過ぎちゃった。自重しないとね。」
私は悲しそうな笑顔でフラム達にしゃべる。
「日菜には弟がいたの?」
「そう、だね。もう会えるか分からないけど。いたね。からかいがいがあって、面白くて、姉想いの、ちょうど奏くんぐらいの弟がいたよ。」
「奏はどうなんだろ?」
フーカちゃんはすごく聞きたそうな顔をしている。
「さあ?奏くんの方の話は奏くんに直接聞くといいんじゃない?」
「ふーん。そっかー。」
「あのさ、フーカちゃん達に一つ言いたいことあるんだけどいい?」
さっきの口調とは打って変わって真面目な口調で喋り出す。
「ん?なに?」
「何を企んでるのか知らないけど奏くんに変な事したらだめだよ。」
「ふーん…」
「……」
「じゃ、そろそろお風呂に行かないとね、奏くんも待ってるだろうし。」
私はフーカちゃん達を置いて先に行った。
『フラム?念話聞こえてる?』
『絶好調』
『あの人達、面白いわね。』
『まあね』
『これは私の目的を達成してもらうのに適任だと思わない?』
『…』
『異世界人にしてはまだ弱いしね。』
遅れた理由は夏休みの宿題をあとちょっとで終わるからって怠けるやつあるじゃないですか。それです。