五話 王都へようこそ!
あとちょいで終わると思って怠けてました。
「そうだ、奏達に言いたいことあるんですけど。」
「何?フーカちゃん。」
フーカちゃんとフラムちゃんは軽武装の装備から、どこから出したのか分からない黒色のマントを着ていた。アイテムボックスかな?
「私達は、とある事情で、目の前の検問をうけたくないんですよ。だから。」
「だから?」
僕は聞き返した。
「私達は先に隠れて行くので。じゃ!」
フーカちゃん達は僕達を尻目に門に向かっていく。門には結構な量の人が並んでいる。
「分かりましたけど!どうやって行くんですかー?」
「こうします!隠密魔法『不可視』『消音』!」
その瞬間目の前から消えた。やっぱ魔法って凄いな。
「この先の広場で会いましょう。」
その声が聞こえた先の地面の土埃が舞い上がったかと思うと、土埃は風に吹かれて、まるでここには元からいなかったかのようにあの二人が消えた。
「あの魔法欲しいな。」
「奏くん、あの二人何者なんだろうね?」
「さあ?まあでも、悪い子達ではないはずですよ。」
「まあ、私達はこの世界に来たばっかりだから。分からないことばっかりだよ。」
「ですね、二度目の命、気楽に行きますか。」
「そうだね、無理はしない程度にね、奏くん。」
僕は苦笑いだった。
「善処しますよ…そんなことより、早く並びましょう。幸い列が動くのは早いですから、完全に夜になる前に中に入れますよ。」
今は大分日が傾いてるからな。スマホで見ると、5時23分と書いてあった。遅いな。この中に入ったらまずは宿とお風呂とご飯だな、他は明日にしよう。人の列が動きだし、少ししたら僕達の番だな。
「ねぇ奏くん。」
「日菜さんどうかしましたか?」
「いやーこれって入る時に入国審査とかあるのかな?」
僕は列から少し顔をだして、前の方を見た。前の冒険者らしき人達が腕や胸に下げてるドッグタグらしきものを見せている。ふーん、この世界はプレートで冒険者を判断するのか、あれは銀色だから、色でランクを決める感じか?僕は顔を戻して日菜さんの方に向き直した。
「入国審査ありますね。ドックタグみたいなのを出してます。」
「私達はこの世界に来たばっかりだよ?しかも周りに合わない服装だし。そもそもそのドックタグみたいなの持ってないでしょ?怪しまれない?」
「あ〜そう言えばそうですねぇ。」
まあ、そりゃそうだろ。服装は変えようがないから仕方ないし、プレートもないからなあ。口八丁でどうにかするか。
「僕がどうにかしますよ。だから日菜さんは一芝居頼みたいんですが、良いですか?」
僕は悪い顔でいった。
「おっ?何か面白いことしそうだね。手伝う手伝う。」
「じゃあ日菜さんは……」
僕達の順番が来た
「プレートを提示しろ。」
そう言ってきた憲兵らしき人は全身に鎧を着込んでいる。中世の全身甲冑みたいだな。頭の装備はついていないけど。僕はついつい倒せるかどうかを考えそうになって頭を振ってその思考を晴らしながら、憲兵に話しかける。
「すいません。僕達森の方で迷っていたら落としてしまって。今ないんですよ。」
「何?それならば入れることは出来ない。」
まあだよなぁ。
「奏くーん、私お腹減ったー早く入ろーよー。」
「日菜さん、僕もお腹空いてるんでもう少し我慢してください。憲兵さん。どうにか出来ないですか?僕達お昼から迷っててお腹がペコペコなんですよ。」
「うーん、だからといって身分もわからない者を無闇矢鱈に入れるなと通達されているからな。」
憲兵が哀れんでいる。もう一押しくらいか?今だ、日菜さん!
「ねぇ、憲兵さーん。早く早くー!」
「うーん、だ、だから身分が分からなければ入れないのだ、入れたくてもな。」
「別にいいじゃーん?ね?お願い!この通り。」
「うっ、だ、だが…。」
日菜さんはそのおっきいおっぱいを見せつけながら憲兵を急かしている。僕は目を憲兵の方に向けているためあまり見えないが、だいぶ憲兵はガン見をしている。日菜さん、そんな色仕掛けよくやりますね。僕は時間稼ぎしてくれって言っただけなのに。
「おーい早くしてくれないかー!?」
「こっちは早く帰りたいんだ!」
おっと後ろから声が聞こえてきた。まあ夕方で早く帰りたいのに、こんな所で時間かけたくなんてないもんな。憲兵は少し焦りながら。後ろの宿舎っぽいところに行って、何かを書いた紙のようなものを二枚持ってきていた。
「この紙に俺の名前と仮入国を一時的に保証する旨を書いておいた。冒険者ギルドでこの紙をギルド嬢に見せるんだ、そうすれば直ぐにプレートを発行してくれる。プレートを発行し終わったらこの門にもう一度来い。それで、本入国完了だ。」
こういう場面は日菜さんの色仕掛けに絆された憲兵がプレート無しの俺達を入国させるような感じだと思ったんだが。この国の兵士は結構優秀だな。
「仮入国だが、王都バルトーへようこそ!ゆっくりしていけよ。」
僕はついでだから聞いておく。
「あの、ここから一番近くの広場ってどこですかね?」
「広場か、ここからまっすぐ行ったら噴水広場があるからそこかな?」
「ありがとうございます。」
「なに、いいってことよ。そう言えば名前を聞いとかないとな。」
「僕は鞘森奏です。」
「私は白石日菜だよ。」
「ふむ、カナデに、ヒナか、顔と一緒に覚えておこう。あとそれと、プレートが発行されたら、お昼ぐらいに来てくれ、俺はここで門番をしているから。見たら分かるはずだ。一応名乗っておこう。俺の名前はノルマだ。この赤色の髪が目印だ。」
ふむ、覚えとこっと。あと、この人の名前の言い方…まあいいや。取り敢えず広場に行こう。
「日菜さん、広場に行きますか?」
「そうだね、行こっか。」
僕は王都の中を見回した。最初に目に付いたのは人の量より先に電灯だった、この世界に電気の概念でもあるのか?いや、それだったらもう少し科学力が発達してるはずだよなぁ。多分魔力灯的な何かかな。
「奏くん、これ電灯かな?」
日菜さんも同じこと思っていたようだ。
「いえ、これ多分魔力灯的なのだと思います。」
「だよねぇ、電灯だとしたら、電柱とかないもんねぇ。」
「おお、そう言えばそうですね。よく気が付きましたね。」
「これが大人の頭脳ってわけだよ。」
僕達は雑談をしながら広場を目指す。夜なのに中々活気づいているな。
「広場まであとどれ位ですかねー。」
僕がそう呟くと日菜さんが。
「私が見てあげるよ。ほっ、と。」
日菜さんが何回かジャンプをして、道の先を見ている。
「ひ、日菜さん。」
「あとすこし位かなーって何?」
「こ、これからはあんまりジャンプしない方がいいと思います。」
周りの人達がジロジロ見ているのに気づいてるのか?
「え〜何で…っておやおやぁ?まさか心配してくれるの?」
流石に気づくよな。周りの人達は日菜さんのおっぱいを見てる。この視線を遮るように僕は日菜さんの前に回り込んだ。
「この視線に晒されるのは流石に嫌でしょう?」
さっきの憲兵に見られた後に少し恥ずかしがってたように見えたし。
「いやー奏くんはうちの弟とは大違いだねぇ。うちの弟ったら、私がお風呂に入ろうとしたら、先に入るなーとか、部屋を散らかしたままにしてたらちゃんと整理しろーって言いながら、私が大事にしてた本とか勝手に捨てちゃうんだよ。」
いや、整理整頓のことは僕でも言うよ。
「そうですか、ってほら、そろそろ広場に着きますよ、あの二人はどこですかね?」
「そうだねぇ、どこにいるんでしょう?」
僕は肩をトントンとされ、後ろを振り向くと、頬に指が当たった。
「後ろです♪」
「う、後ろにいたんですか。フーカちゃん。」
結構びっくりしたけど、表面上は驚いてないように取り繕った。フーカちゃんは黒色のマントのフードを取っている。
「なんだー、後ろにいるなら言ってくれればいいのにー。」
「いえ、いまさっき気づいたところだったんで、びっくりさせようと後ろに回ったんですよ。案の定びっくりしてくれて満足です。」
バレてたか。
「ところで、何をしてたんですか?」
僕はフーカちゃんとフラムちゃんが持っている手荷物を見て言った。
「ああ、これは衣服ですよ。はい、これが奏の分。そしてこっちが日菜の分。」
僕が渡された袋の中には服の上下と、下着が入っていた。触り心地サラサラで気持ちいい。
「ってこれ、相当高いんじゃ!?」
「流石に悪いよ!これは。」
僕も日菜さんも同意見だった。
「いえいえ、どうせ使う予定がないお金だったので、どうせ腐らせるなら、役に立てた方がいいでしょう?」
「そうだけどさ…」
「なら貸し、ということにしといて下さい。それなら、いいでしょ?」
「そう、なのかな?」
「はい、そうなんです。」
僕はもやもやしつつも、貸しということにした。
「てか、どうやって下着のサイズなんてわかったの?ピッタリだし。」
日菜さんはブラジャーを胸に当てながら、聞いている。
「日菜さん!こんな所で無闇に下着なんか出したらダメです!」
僕は自分の体で隠すようにした。
「ふふ、優しいですね。奏は。」
「奏くんは気が利くね。ありがとう。」
フーカちゃんと日菜さんに褒められて、あまり褒められ慣れしてない僕ははにかみながら。
「い、いや、ふつうですよ。これぐらい。」
「照れてる。可愛いからなでなでしてあげよう。」
「照れてないです。」
「照れてますねぇ。私もなでなでしちゃお。」
この後めちゃくちゃ頭撫でられた。
「そろそろ…いこ?」
フラムちゃんよく言った!
「そうですね!早く行きましょ!ってどこに行くんですか?」
僕は優しく二人の手をどけた。
「ああ…。」
「むう、ふわふわでもうすこし触りたかったのだけど…こほん、これから向かう所は宿に行きます。もう既に予約してるんで行きましょう。案内します。」
僕達はフーカちゃんに着いて行った。少しすると、見た目が豪華なホテルに着いた。これかなりお高いのでは…?
「ここはですね、この王都でもおすすめの宿『ドラゴンの巣』です。この近辺の宿泊できる宿で一番衛生面が良くて、部屋が広いんです。そしてお風呂付き!」
「流石にこれは悪いです!」
「良いですよ別に、私ここの会員証持ってるんで割引き入りますし、冒険者カードもあるんで。」
フーカちゃんが見せてくれた冒険者カードの色は黒色だった。何ランクなんだ?てゆうか、冒険者カードってことはこの子位の年齢も冒険者になれるのか。いや、見た目だけの可能性も捨てきれない。
「まあまあ、入ろうじゃありませんか。あ、確かここの宿、ご飯がかなり美味しかったんですよねぇ。ドラゴンのステーキに虹鳥のパンケーキ、あれを食べたらもうほかの食べ物じゃ満足できなくなるのではというほどでした。」
「む…」
「いや〜あれは美味しかった。噛めば噛むほど出る肉汁それでいて食べやすくて、飲み物のエールに合うわ合うわ。あ、お酒飲めます?二人とも。」
「僕は飲んだことがないです。」
なんか怖いしね。
「私は飲めるよ、少しだけだけど。」
日菜さんは飲めるみたいだ、まあ成人済みだし、トラック運転手やってるくらいだから少しは飲めるんだろう。偏見だけど。
「よし、思いついたらすぐ動け、です!行きましょう。」
僕はパーカーのフードを掴まれて引きずられる形になった。そのまま入口まで向かうと、SPっぽい人達二名に入る前に止められた。執事のような服に腰には細剣、レイピアの類いだろう。ひっそりと目立たないように武器を持っている。僕は取り敢えずステータスを発動させた。スマホがポケットに出現し、こっそりと確認することが出来た。
ハスター(36)Lv25
体力 470(0)◁
気力 510(0)◁
スタミナ 550(0)◁
魔力 300(0)◁
闘力 580(0)◁
運 150(0)◁
称号 元冒険者◁
装備品
執事の服一式
レイピア
バフ
無し
こいつ強え。いや、そんなことより、項目が増えてる?これは僕がレベルアップしたからかな?そういえばお気に入り登録?も試してないな、後で試そう。
「お客様、あまり他人のステータスを見ない方がよろしいかと。見られた方も、あまり心地よくありませんので。」
「!?」
この行動は失敗だったか。今度から気を付けよう。
「すいませんでした。」
「いえ、ではお客様。会員証、または冒険者カードの提示をお願いします。」
しまった、フーカちゃん達はまだしも、僕と日菜さんは持ってないぞ。どうしたらいいんだ。
「いやー今この人達冒険者カード紛失しててね、これじゃダメかい?私達の命の恩人だからさ。」
フーカちゃんとフラムちゃんが会員証を提示した、どうやらフラムちゃんも持ってるんだ。ハスターっていう人が会員証を一目みると、顔面を蒼白にして、焦るように玄関に促してくれた。
「こ、これはフーカ様、フラム様、お気づきできず申し訳ございません、なにぶん、フードで隠れていたもので。」
「いやーいいよいいよ。そんな間違いは誰にだってあるし、次に間違えなければいいよ。」
「申し訳ございませんでした。」
フーカちゃんはそんなやり取りをしながら宿の中に入っていく。この時僕は引きずって入られる前に入口で離してもらえた。
「フーカちゃん達って何者?」
「いやーただのちょっと強い冒険者ですよ。」
「同じく…。」
あの慌てようはちょっとじゃなさそうだけどなぁ…
フーカちゃんは何者なんですかねぇ…