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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気が付けば異世界。

作者: 神在月

 気がついたら、こんな森の中の一本道で倒れていた。

 記憶を巻き戻してみる。

 そう言えば、朝いつもみたいに彩と学校に登校した、はずだった。


「このオタク、もう知らない」

 そう言って彩は階段を駆け上がっていった。

 彩。十木杉(ときすい)彩、同級生で幼なじみ隣に住んでてガキのころから連んでたので、お互い気心が知れてる仲で、オタクって言われるのもいつもの事だが、どうも俺の趣味は理解して貰えない。

 そう、俺は特撮ヒーローとロボットアニメ大好人間で、自分でもオタクだと思っている。

 今も昨夜見たヒーローの話を思わずアツく語って、彩の話をろくに聞かなかったのがいけなかった。

 頭を掻きながら階段を登ってると、急に何かがぶつかって来た。

「豚田!」

 豚田とクラスの奴から呼ばれているのは、頓田浩介。

 奴も、オタクだが奴は二次元美少女オタクなので、俺とはそんなに趣味は合わない。

 だけどクラスの連中にとってみれば、俺も奴も同じオタクらしい。

 まあ、そんな事はどうでも良い、奴は俺にしがみついているので、俺は両手が使えず、手摺もつかめずそのまま階段の下に落っこちた。


 気がつくと見慣れない森の中に倒れていた。

 かなり大きな木が茂っているようだが、空が一直線に見える。

 身体を起こして見まわすと、道の真ん中に倒れていたようだ。

「どこだ、ここは……」

 朝、階段から落ちたはずなのに、気がつくと太陽は頭の真上にある。

 もう昼なのか、スマホを捜したがなぜか無かった。

「時間がわかんないな」

 とりあえず立ち上がってみた。

 身体はどこも痛まなかった。

「階段から落ちたわけでは無いのかな」

  

 おれの名前は、東郷隆盛。

 高校2年の普通の学生だ。

 親父が鹿児島出身で西郷さんが大好なのでその名前を俺につけたらしいが、どうせ歴史上の人物の名を付けるなら平八郎にして欲しかったと常々思っている。

 まあ、今の名前もそれほど嫌いではないけど、なんか紛い物っぽいのが嫌だ。

 それはさておき、今居る世界はどう見てもおれが知って居る世界とは違う。

 鬱蒼と茂った森には、変な鳴き声が響いてるし、日本では見られない様な変に派手な花も咲いている。

 えーい、ままよ。

 足元に落ちていた棒切れを立てて、倒れた方に進むことにした。

 右、棒切れは右側に倒れた。

 俺は迷わず右へ歩き出した。


 いい加減歩いても景色はまったく変わらない。

 なんか選択間違えたかなと思った頃、前から女の子の悲鳴が聞こえた気がする。

 さっきから変な鳴き声が聞こえているので、聞き間違えかとおもったら、遠くから何かが走ってこちらに向かってきている。

 それは女の子のようだ、それも胸は頭より大きいくらいでタユタユと揺れている。

 ウエストは太ももよりも細いんじゃないかと思えるほどくびれている。

 正直言って人間離れしたプロポーション。

 それに着てるものが、なんか申し訳程度に身体を隠してるだけで露出度が半端ない。

 ア然としてると、その子は何か黒くてヒョロヒョロした尻尾も生えてる変な奴2匹に追われている様だった。


「助けてください」

 女の子は俺に駆け寄り腕をとった。

 近くでみると本当に不自然。

 まるで美少女フィギアの実寸大が動いてる感じ。

 まあ、嫌いではないけど改めてこのサイズで見るとちょっと不気味だ。

「やっぱり俺はリアル路線だな」

「え?」

 そうこうしてるうちに黒い奴も俺の前に立ち止まった。

「その女を渡せ」

 なんか甲高い気に触る声だ。

 別に引き渡しても俺に何の損もないのだが。

 こんな嫌らしい奴の言いなりになるのは気に入らない、それに少なくとも俺を頼って来たものを見捨てるのは俺の性に合わない。

「俺たちは……」

 なんか口上を話し出したが、気にせず左の口上を述べている奴に向かってダッシュした。

 間合いを一気につめ最後の一歩を踏み出すと同時に、正拳突きを奴の土手っ腹に食らわした。

 奴は胴体がくの字に折れてそのまま後方に吹っ飛び、大の字に地面にめり込んで、動かなくなった。

 

 こう見えても親父の影響で小学校に上がる前から空手の道場に通っている。

 週4日欠かさず鍛錬しているので、今では相当の腕前になっている。

 それでも、自分の拳で本気で何かを殴ったのは初めてだ。

 突き出した拳を開いたり閉じたりしてみたが、特に痛い所もない。

 ポカーンとしてこちらを見ていたもう1匹に向き直ると、ゆっくりと近付いた。


「%#`@ひ!!!」

 もう1匹は何かわけのわからない事を叫びながら、今来た方へ全力で逃げて行った。

 ちょっと予想外の展開だったので拍子抜けしたが、まあ構わない。

「ありがとうございました」

 フィギアみたいな女の子が駆け寄って来た。

「あれは一体なんだ?」

「あれは、突然現れた悪魔の手先です」

 悪魔の手先って、なんか陳腐だな。

「あれのせいで街の女の子はみんな拐われてしまいました、私は隙を見て逃げ出したのですが」

「って事はこのままあっちへ行くと、あいつの仲間がいるって事か」

「はい」  

「ちなみに、そっちは何がある」

「私が生まれた村です、みんなに危険を知らせないと」

 向かった方向しくったのかな、まあ良いか。

「じゃあ、あんたはそのまま村に行って、俺はあっちへいくから」

「危険ですよ」

 まあ、セオリーでいけば、危険と言われてもなんかしないと元いた世界に帰られそうにないし。

 あの程度のやつなら何とかなりそうだし。

「大丈夫だから」

 そう言って、女の子をそこに置いてそのまま歩きだした。

 なんにしても俺の好みじゃないな。

 胸はペタンコで色気はないけど彩の方が俺の好みだなやっぱり。

 それでも、彩は学年で3本の指に入るくらいの美少女って事になっている。

 それに比べて、俺はただのオタクで腕っ節が強いだけ、幼馴染ってだけで彩がどう思ってるか、気になるところではある。 


 普通こんな世界に放り込まれたら、なんか力を授けられてそうだが、歩きながら考えてみても何も変化がない様だ。

 例えば(イカズチ)……

 指差した先は何の変化も無し。まあこんなもんか。

 それにしても、あの黒い奴1匹や2匹なら素手でも負ける気はしないけど、何十匹もいたらどうしよう。

 よくよく考えてみると、複数である確率が高い様な気がする。

 こんな時には、アレがあると心強いんだけどな。

 俺は、心酔している備前福岡(いちもんじ)を思い浮かべた。

 こう見えても親父に反発して小学生になってから居合いの道場に通っている。

 週4日欠かさず鍛錬しているので、今では相当の腕前になっている。

 空手を4日、居合を4日って日数が合わないって、日曜日は午前空手で午後は居合をやってるので両方とも週4 日なのだ。


 まあ、それはいいとして、それから少し歩くと、道端にそれはあった。

 黒い鞘に収まった刀が一振り。

 手にとって抜刀して見ると、まごうことなき(いちもんじ)

 刀の下には俺の道着がきちんと畳んで置いてあった。

 これに着替えろって事か。

 まあ、道着の方が動きやすいし、と言う事でとっとと着替えて、腰に刀を挿した。

 ずっしり重い(いちもんじ)は妙に俺に安心感を与えてくれた。


 そこから暫く歩くと木が少しずつ疎らになって、広い草原に出た。

 それでも、道は相変わらず真っ直ぐ伸びている。

「町ってこの先なのか」

 まるで町がある感じはしない。

 ただ、なんか人が立っているように見える。

 近付くと一人や二人では無い、何十人もただ立ち尽くしている。

 それも、さっき助けた女の子並みに凄まじいプロポーションで、服装も過激だ。

 こうして、動かずに立ってるだけだと、本当に美少女フィギアのようだ。

 それでも触って見ると人間のような弾力があり、肌も人そのもの。

 胸も柔らかいのかと、ちょっとすけべな事を考えていると、後ろに何か気配を感じた。


 振り返るとあの黒い奴が何十匹もいた。

「ぬかったな」

 女の子に気を取られているうちに囲まれていた。

「俺たちは……」

 真ん中の1匹が口上を述べはじめたが、俺は気にせず切り掛かった。

 鞘から放たれた(いちもんじ)は真ん中の黒い奴を真っ二つに切り裂いた。

 あとはもう手当り次第、バッサバッサと切り倒す。

 流石に素手の相手を刀で切るのは少しだけ気が引けたが。

 多勢に無勢、このくらいのハンディはいいだろう。

 

 いい加減なぎ倒したのに、相変わらず襲ってくる、なんか俺もアドレナリン出まくってちょっとハイになってて気がつかなかったけど。

 いつの間にか襲って来る黒いのが、某悪の秘密結社の全身黒タイツの戦闘員になっていた。

「イー」とか「キー」とか「もう食べられないよー」と言いながら襲ってくる。

 こうなるとそろそろ親玉か怪人が出てくるかな。

 そんなことを考えて最後の一人を切り倒したら、目の前に蟹が現れた。

「ここは蟹男かなんか怪人が出るとこだろう」

 出現したのはリアルな本物の蟹、ただ大きさは尋常じゃ無い。

 ハサミの大きさだけで1mはありそうだ。


 蟹の攻撃は思った以上に素早い。

 俺も避けるのがやっと、次々に繰り出されるハサミ攻撃は手強い。

 刀を当てても全く歯が立ちそうにない。

 そうこうしてるうちに(いちもんじ)を挟まれ、真っ二つに折られた。

 蟹はそのままハサミを横に振って俺をなぎ倒した。

「ぐ、痛い」

 地面にぶっ倒れ、頭がクラクラする。

 そんな俺に蟹の攻撃は容赦なく続く。

 今度は上から突き刺すようにハサミを振り下ろしてくる。

 転がりながら、攻撃をかわし。

 隙を見て立ち上がり、少し引いたがいつの間にか後ろには切り立った崖がそびえていた。

 ちょっと見たがよじ上れそうな感じでは無い。

 蟹は両方のハサミを広げ、もう逃がさないってポーズをとっている。

 

 参った、どうしようと考えながらなんとなく腰に手を置いたら、帯とは違うものをいつの間にか巻いていた。

 俯いて腹を見ると、そこには親父秘蔵の変身ベルトが巻かれて居た。

 親父の影響で俺が一番好きなライダーのそれだ、無意識にもう何百回となく繰り返している変身ポーズをとった。

「へーんしん、トゥー」

 ジャンプしたら思った以上に飛び上がれた、後方に一回転して崖の上に立った俺は変身していた。

 姿見が欲しいがそんなものあるわけも無し、取り敢えず飛び降りて蟹と再戦する。

 あれだけ苦戦して居たハサミ攻撃が余裕でかわせ、片手で払いのけられる。

 何度かかわした後、両手でハサミをつかみぶん投げた。

 蟹は飛ばされて不様にひっくり返った、自重でダメージを受けたようで、よろよろと起き上がろうとしている。

「ここは必殺技だろう」

 俺は飛び上がって必殺技を繰り出した。

「ダー、キッーク」

 キックは蟹と目と目の間に決まり、甲羅がグシャっと割れる感触があって、そのままポーンと後方へ飛んで行った。

「シャー」

 軽くガッツポーズをしたが、飛んでいった方向が不味かった。

 蟹は動けない女の子たちの真ん中辺りに落っこちて、お約束通り大爆発した。

「やっちまったー」


 唖然として見て居たら煙の中からむくむくとダークグリーンの何かが現れた。

 そいつは触手だらけで、下の触手をくねくね動かして近付いてきた。

 その化物は校舎の3階くらいの高さがあった。

 触手の攻撃は蟹のハサミ攻撃の比では無い、早くて重そうだ。

 それに数も多い、何度目かの攻撃でもろに脇腹にヒットした。

 俺は吹っ飛ばされてさっきの崖の上に転がった。

「つ、痛い」 

 気がついたら変身は解けて、学生服に戻っていた。

「くそ、あいつにはこのままじゃどうしようもないな、アレがあれば」

 俺は崖とは反対側の坂を駆け下りた、この辺りにはまばらに木が生えていて木を避けながらアレを探した。

 すると、坂の下のトレーラーに白いシートを被ったアレはあった。

「よし!」

 トレーラーに駆け寄り荷台に上がって、シートをはがしてコクピットにもぐり込んだ。

 頭上のスイッチをいくつか操作すると、コクピットのハッチが閉まり、モニターがオンになった。

「いける」

 その機動兵器をレバー2本とペダル2つで器用に立ち上がらせて、武器を捜した。

 トレーラーの荷台に残ったシートを剥がすと、ビームライフルがあった。

 それを取ろうとしたとき、崖を這い上がったダークグリーンの怪物が火球を吹いた。

 とっさに避けたが、ビームライフルは取り損なった。

 トレーラーは派手に爆発した。

「くそ、やられた」

 仕方なく、頭部のバルカン砲で威嚇しながら坂を登った。

 バルカン砲は化物に吸い込まれるように命中するが、触手はいくつか千切れたがあまり効果は無いようだった。

 化物の火球を幾つかかわし、バックパックからビームサーベルを抜いて、化物をすれ違いざまに切りつけた。


 崖の上で振り返ると、燃える森をバックに立っている化物の胴体はざっくり切り開かれている。

「なんで、僕の邪魔するんだ」

 化物の傷口から何かモコモコと現れたものが、だんだん人の顔のようになり、その口から恨み言が漏れる。

「豚田!」

 その顔はいつの間にか頓田の顔になった。

「おたくは、おたくの夢で楽しめばいいじゃ無いか、なんで僕の夢を邪魔するんだ」

「夢?これはお前の夢なのか、じゃあなんで俺の思っていることができる」

「そんなこと、僕にわかるわけないでしょ、とにかく早く僕の夢から出ていって」

 いつの間にか頓田の顔はモニターから飛びだして俺の眼の前にあった。

 頓田が叫ぶと、目の前の空間が裂け始めた。

 頓田との距離が離れると、周りは真っ暗な空間が広がっていて、頓田の顔をした化物とその周りの世界が窓のように空間にぽっかり浮かび、どんどん遠ざかっていく。

 俺はいつの間にか一人で空間を漂っていた。

「俺の夢か、こんな空間なら宇宙戦か」

 そう思ったら、真っ暗だった空間にポツポツと星が浮かびだし、頭上に覆いかぶさるような蒼い地球も見える。

「これだよ、これ」

 また、機動兵器のコクピットにおさまった俺は、目の前の光点を注視した。

「奴が来る」

 そう思ったときインカムから女の子の声が聞こえた。

「帰ってきて……」

 この声は……

「タカ帰ってきて」

 そうだ、俺の夢はこれじゃないんだ……


 気がつくと俺は病院のベッドの上に横たわっていた。

 俺の左手を握って彩が涙を流していた。

「帰ってきて、お願い」

 彩の横顔を見ていたら俺も泣けてきた。

 右手で彩の頭を触ろうと思ったら右手には点滴が打たれていた。

「彩……」

「タカ、気がついたの」

 彩の目は真っ赤だった。

「俺はどうなったんだ」

「覚えてないの、頓田くんと一緒に階段から落ちて、丸一日意識が戻らなかったのよ」

 彩の話しによると、階段から落ちて救急搬送されて、今朝までICUに入っていたらしい。

「豚、いや頓田はどうなった」

「頓田くんはまだICUにいるわ、脳挫傷と頚椎骨折で意識不明のまま」

 あいつはまだ夢の世界を彷徨ってるようだな。

 俺が帰って来れたのは彩のおかげか。

「彩、俺はお前が……」






 

 

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