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「我が名は、アメリア・ダイヤモンド!」

 初学園もの(?)です。

 完結目指して頑張ってまいります。お時間あれば、お暇潰しにどうぞ。


「全然なっとらんではないか! まったくつまらん物を書きおってからに、この三流作家が!」


 突然罵倒され、部屋の主である下鳥三平(しもどりさんぺい)は驚いて椅子から転げ落ちた。思いっきり腰を強打した為、涙目になりながら辺りを見渡す。


 おかしいと三平は思った。部屋には自分一人だけだった筈だ。


「だ、誰!? 母さん?」


 しかしそんな筈は無い。もう時刻は夜の2時を回っている。


 三平の母は超健康人の為、いつもなら夜の10時にはもう就寝している筈なのである。もしこんな時間に起きている事があれば、三平の父と三平の明日のお弁当は確実に消滅してしまう事を意味する。


 ならば誰だろう? 彼は不安になった。もしもお化けとかだったら……。


「これ、こっちじゃ! お主の耳と目は節穴なのかのう?」


 またもや声がした。……どうやらやはり母の声では無いらしい。三平はそう思った。


 その声は女の声だった。女性らしさを残しつつ、自らの存在を強く主張するかのような力強さを持つ声。 だがその中にも心に響いてくるかのような蠱惑(こわく)的な甘さを持つ魅力的なものでもある。三平は思わず聴き入ってしまいそうになった。


 しかし冷静に考えればあり得ない。なぜならその声の聞こえてくる方向は、つい先程まで三平が作業していた机と壁しか無い。しかもその机は、一軒家の二階の角部屋に位置するこの部屋の外に面する壁側に置いてある。


 つまり壁の向こうは空中。よってその方向からこんなにもハッキリ声が聞こえてくる事はあり得ないのだ。


「……い、いい加減気づかんか! それとも実は気づいておらんのかのぅ……」


 謎の声の主は強気の態度から一転、急に不安げな声になりどことなく泣きそうになる。摩訶不思議な状況ではあるが、女性に泣かれるのはばつが悪いと三平は慌てて声をかけた。


「ちょ、ちょいまち! 聞こえてるから泣かないでくれ」

「なら早くこちらに目を向けろこのたわけ! お主、先程まで妾の事で頭が一杯だったくせして、その妾に気づかぬとは何事か!」


 またもや態度が急変し三平をがなりたてる謎のババ臭いお嬢様口調。それを聞き三平はふつふつと怒りが込み上げて来たが、ふと気になる事を口走っていたのを聞き逃さなかった。


「妾の事で頭が一杯って、まずあんた誰だよ!?」

「何を言っておる。お主、妾の事についてその本に書いておったではないか」


 三平は訳がわからなかった。ただでさえ訳のわからない状況なのにと、彼は一度状況を整理することにした。


 たしか俺は学校から帰って来て、飯食って風呂入って、いつも通り作業に没頭していた筈だ。そしてついに最後のシーンを書き終えて……。


 そこまで思い至って三平はハッとした。


「……俺は机に向かって作業をしてた。んでさっきちょうどその作業を終えたんだ」

「うむ」

「書いてたのは演劇用の脚本だ。その内容は、ある女優の生涯についての物語だった」

「うむうむ」


 声の主はどことなく嬉しそうに声が弾んでいく、しかし三平はその事に気を割く余裕は無かった。とある一つのあり得ない仮説が彼の胸に去来する。


 確かに自分はある意味ではあるが、一人の女の子の事をずっと考えていた。それも強く。


 そしてよくよく考えれば、声の方向にあるのは机と壁だけではない。机の上にはその女の子に関して書かれた、一冊の本がある。自分が先程まで書いていた演劇用の脚本だ。


 まさか、そんなまさか。三平は腰の痛みも忘れて立ち上がり、急いで机の方へ向かい、その本を乱雑に取り上げた。


「ひゃう!? こ、これ、もっと丁寧に扱わぬか! 女の扱い方も知らんのかお主は」

「……嘘、だろ」


 三平のあり得ない仮説通り、その声は明らかにその脚本から発せられていた。本の癖に女扱いを主張するその本は、どことなくプンスカ怒っている様に見えなくもない。


「これがしゃべってんのか? しかも妾の事を書いていたって言ってたって事は……!」


 ……この脚本の主人公。その名は【アメリア・ダイヤモンド】。三年前、俳優界で天才少女と噂されながら、とある大きな舞台でデビューを果たす前に17歳の若さでこの世を去った悲劇の女優である。


「やっと気づきおったか。その通り! 我が名はアメリア・ダイヤモンド! この世の全ての者を虜にし、あらゆる劇場を制し、全ての名誉を手に入れる……予定だった者じゃ」


 熱を帯びていた声が段々と弱々しくなり、しょんぼりとした声になる。しかし三平はやはりそれ気遣うどころでは無い。自らの脚本に慌てて問いかける。


「ほ、本当なの? いや母さん、ほんとはいるんだろ? この前父さんがキャバクラ遊びしてたからって、俺にイタズラしてストレス発散とかしてるんだろ?」

「往生際が悪いのう……」

 

 そんな事を言われても三平に冷静になれと言う方が無茶であった。彼はこの状況に対し、(いちじる)しく混乱している。しかしそんな混乱の最中にある三平を、その本から発せられる声の主は容赦の無く不満をぶつけた。


「それよりお主! なんじゃこの脚本の内容は。まったく妾について正しいものでは無い上に、全然面白く無いではないか。こんなもので妾を表現されては困るのじゃ。恥を知れい恥を!」

「な、なんだと! これでも一生懸命書いたんだぞ!」


 三平は脚本のモデルになった人物、しかもとうにこの世を去っている人物から見も蓋もないダメ出しを受けてしまった。


 そしてその脚本、アメリア・ダイヤモンドを名乗るその本は高らかに宣言する。


「妾を主役にすると言う発想は良い。誉めて遣わそう。しかし妾はそんなもの程度では無い」


 その声は段々と熱を帯びる。


「妾の情熱を、才能を、美貌を、そして妾と言う物語を表現しきれておらん。よって書き直しじゃ。だから妾が直々に叩き込んでやろう。妾の全てをな!」


 ーーこれが少年と少女(?)の突然の出会い。とある夢を追いかける少年三平と、彼の脚本に取り憑いた少女、アメリア・ダイヤモンドの物語の幕開けである。

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