~念~
んぎゃああああ!やっちゃかしたよーーー!!!
ドキドキしながら、執務室の扉をそっと開けた。
やっちゃた感が否めない。
ああ、なんで自分あそこまでやっちゃったのかな・・・っ!
は、恥ずかしいよっ!
あんなにキレるなんてっ!
内なる自分との葛藤をしながら頭を抱えた。
まあ、教育的指導は横の訓練場にて行われた。
備品壊さなくてよかった・・・。
というか、そこにいた脳筋騎士達を割れた窓から叩き出したみたいだ。
無意識でもそこはきちっとしてて良かった。
副隊長に申し訳が立たない。
後片づけは、逃げ延びた騎士達に押し付けたが。
執務室を開けた瞬間、速攻で、扉を無言で閉めた。
「・・・。・・・。・・・」
見なかったことにして、帰っていいかな・・・?
無理だろうな、あの書類の山・・・。
「うわー!!チェリーおかえり!そして、無言で扉閉めないでー!!気持ちは分かるけど!!!」
そう言って、扉の向こうからマリエーロが叫んでいた。
嘆息しながら覚悟を決めて、再び扉を開けて中に入ると
「いい加減にしてくれませーんーかあああぁぁぁ?」
そう言って、見たことない小柄の人が隊長に足蹴りを食らわせている。
「はははは!!相変わらず、こずるい手で勝負しても、俺様には敵わないぞ?」
そんな状況などかまわない様に隊長は言い放った。
なんであんたは、いつもえらそうなんだよ!
と、若干イラつきながら耳を傾けていると
「はあ?あんたどんだけ、自意識過剰なんですか?!最悪だな。頭大丈夫?ああ、そうかあんた頭弱かったね!だから書類が、あんなになってたまっているんだったな。ああ悪い、悪い。頭弱いあんたには、酷な事言ったな」
どこか神経質っぽいが見た目は全体的に細く、小柄。
それでも隊長達よりはという人物が眉宇をひそめ、皮肉げに言い放っている。
「ははは!どうとでも~俺は、書類整理は嫌いなんだよ!なんか文句あるかーははは!」
そう言いながら拳を突き出そうとするが、マリエーロが隊長を羽交い締めしているので届かない。
かなりの力でなんとか押さえつけているようだ。
そんな隊長の言葉にマリエーロが
「威張って言う事じゃないだろうが!」
「脳筋も大概だね」
小柄の人が鼻で馬鹿にしたように言っている。
「脳筋だとぉぉお!」
いきなり隊長が切れだした。
「その通りだ!!!」
「だから!威張って肯定する事じゃないだろうが!!」
さらにマリエーロが隊長の首を絞めている。
だんだんと隊長の顔色が変わって行っているが、本人気づいていない。
「馬鹿だね。ばか」
小柄の人が鼻で馬鹿にしたように笑い心底呆れたという様に、両手を挙げた。
「そろそろ、話を進めたいんだが?いいかい?アプレ・ペンラ隊長?」
そう落ち着いた様子で、一人の男性が優雅にソファで紅茶を飲んでいる。
カラスの濡れ羽色した長髪をした人物がいた。
足を組んで座っているが、それでも足が長かった。
立ったらかなりの長身だろう。
うらやましいかぎりです!
「それにそちらに配属された、そちらの方の紹介もしていただけると助かるんだがね」
そうチェリーをちらりと見て、アプレ・ペンラ隊長もとより脳筋隊長に紹介を促すが
「紹介してほしかったら、勝負だ!」
脳筋はどこまでも脳筋という残念仕様だった。
「もう、いい加減にしろぉおおお!」
そうマリエーロが涙目で叫ぶと、ゴキッと変な音が隊長の首のあたりから聞こえた。
珍しく、隊長が若干白目をむいていた。
まあ、その内復活するだろうが。
恐ろしい回復力をお持ちですから・・・。
「すいません。すいません!すいません!隊長今なんか、意識飛んじゃったみたいなんで、私の方から紹介しますね。この子は今度この隊の書類担当に配属されたチェルリ・ボイスです」
「チェルリ・ボイスです。よろしくお願いいたします。以後おみしりおきを」
ぺこりと挨拶をすると
「私は、第一ローズリティーズ騎士団、通称薔薇騎士隊長のローディ・ルル・ハースだ。よろしくチェルリ君(・・・。・・・。・・・)」
そう、顔面偏差値かなり高めの薔薇隊長が柔和に笑いながら挨拶した。
最後の方何か言っていたように聞こえたが、あまりにも小さい言葉だったので聞こえなかった。
それにしても、これが本来の隊長像なのかな。などと感じながら、白目をむいた脳筋隊長をちらりと目の端に捉える。
こりゃだめだ、全然隊長っぽくない・・・。
そう思いながら、溜息を何とか抑えた。
「はい、よろしくお願いいたします」
「僕は。パリュ・ローズ・レッド。よろしくしないでもないよ」
ふんと鼻を鳴らしている。
目線はちらちら、こちらをかなり気にしているようだ。
瞳の奥はどこかきらきらしている。
「よろしくお願いします・・・」
なんだろう・・・。
触りたいんだけどなあ・・・。触りたいんだけどなあ的な視線が飛んでくるのだが・・・。
しかも言っていることはどこか棘があるが、内容はどこかツンデレを連想させる。
「握手し、してやらなくもないよ!」
いや、結構ですと即答したいんだが・・・。
だが、言えない。
別にする必要性は感じないのだけれど、パリュはどこか期待したように挑んでくる。
そんな鬼気迫るような表情で見ないでー!
やっぱり溜息が出そうになりながら、手を躊躇しながら差し出して握手をした。
どこかこわごわとしたように、チェリーの手を握ってくる。
握った瞬間、パリュの口元が変に歪んでいた。
その表情は物語っていた。
うわっ!ちっさ!!ちっさいよ!なにこれ!!かわいい!!的な。
手をにぎにぎしてくる。
なんか変に触ってくる。
あのー、そろそろ離してもらえないでしょうか?
などと内心思いながらも、相手を見るがやっぱり口元が変に歪んでいた。
必死に緩む顔を抑えているそんな表情だった。
まあこっち見た目子供だしね。
確かにこんなむっさ苦しい騎士団内に癒しはあんまりないし、子供なんてめったに見ないだろうから、分かるっちゃー分かるが、薔薇騎士団は、王族の近衛隊だったと思うから、王子など会えると思うんだけどなあ・・・?
ちょっと自分がはっちゃける前にあった少年がちらつくが、いやいやと、頭を振って追い出す。
確か王太子の年齢は、十歳位じゃなかっただろうか?
それに確か弟君は、自分よりも年下の三歳ぐらいではなかっただろうか?
だったら見る機会などあるはずなんだが、まあ、そう王族に馴れ馴れしくはできないか。
確かにあまり変な目で見ていたら、危険人物とみなされてどっかに転属か辞めさせられるだろう。
いや、もっと悪くて冷たい鉄格子の中に入れられたりするだろう。
変態近くに置きたくないしね!
「パリュ、いい加減に離してしてあげなさい。チェルリ君が困っているだろう?」
苦笑い交じりにローディがパリュをたしなめる。
「君があまり握手したことなさそうだったからね!」
意味が分からない事を言って離された。
確かに握手なんてこっちに生まれてから、全くやったことなかったけど別に握手しなくても、死にはしない。
本当に、なんだかな・・・。としか言いようがない。
本当に、言いようがないんだが・・・。
そして、これからどうしたものかと、当たりを見回す。
マリエ―ロがにこにこしたような表情で、見ている。
パリュの気持ちが何となく分かるのだろう。
うんうんと、頭を動かして同意している。
その優しいような、見守るような笑みに、先ほどのはっちゃけてやらかした事が頭をよぎり居たたまれなさを感じ、すぐに視線をパリュに戻した。
そして、今の状況を考える。
多分ここで、重要な話がされるのだろう。
薔薇騎士隊長と、薔薇騎士副隊長がいるのだから。
本来ならば、隊長の部屋でする話なのだろうが、まだ書類で埋まっている。
てか、まだ話していないのだろうか?
結構な時間がたっているが・・・。
ちらりと、白目をむいた隊長を見る。
隊長がよけいな事をして、話が進んでなさそうだ。
なんだかここにいると、マリエ―ロの慈悲深い笑みに心をチクリチクリと刺されるような罪悪感にかられそうだ。
ということで、自分は仕事をしていいのだろうか?
そんな様子が伝わったのかローディはにっこりと人好きのする笑顔を向けて
「こちらの事は気にしないでいいよ。仕事を進めて」
「あ、はい。では失礼します」
そう言って、奥の仕事部屋へと足早に進んでいく。
あの書類の山から、一つの部屋を発掘したのだ。
自分すっげー、よくやった!
とりあえずそこを、仕事部屋にしてみた。
もちろんマリエーロには許可をとっている。
隊長に聞いてもろくな返答しないので。
一礼して部屋に引っ込むとき、パリュが何だか名残惜しそうに見ていたことは見なかったことにする。
ちなみにマリエーロもまた、若干名残惜しそうにしている。
隊長は屍と化しているが、時計を見る限りではもうすぐ何事もなく復活するだろう。
恐ろしいほどの、回復力だ。
ローディはどこか、底の見えない笑顔でチェリーに手を振っている。
今一、性格が分からない。
まあ、さっき会ったばかりでは人の性格など分からないだろうが。
そんなことを考えながら、扉を閉めた。
「疲れた・・・」
思わず呟いた。
そして、書類の量を見てうんざりするが、仕事であるからして、
「頑張ります・・・」
誰に言うでもなく、そう、呟いた。
隣の部屋からは、耳障りな音が鳴り響いてきた。
隊長・・・。
あんたって人は・・・まったく・・・。
備品壊したらただじゃおかねーぞ!
おっと、戦闘モードが若干残っている。やばい。
平常心、平常心だよ自分!
まあ、薔薇隊長がいるから大丈夫そうだけどね。
窓から見える空はとっても澄んでいて、窓から飛び出して誰もいない所に行きたい衝動に駆られた。
色々と思い返して、やらかした感が心中を襲う。
心底、恥ずかしい。
全てを投げ出したい衝動に駆られた。
何もない所に行きたくなった・・・。
社会につかれた・・・。
てか、はーずーかしいよー・・・!
この恥ずかしさと居たたまれなさは、当分残るのだろう・・・。
やっぱり、就職先間違ったかもしれない・・・。
読んでいただきありがとうございます!