ヘイワハネガエナイネ★
「ぎゃあぁぁぁーっ!」
というその声に思わず遠くを見つめた。
ところどころ案内をされながら、ついた騎士団の一画にたどり着いたときにチェルリは、何故か違和感が、ぬぐえなかった。
「・・・?」
明らかに、ある一線から、雰囲気がガラッと変わっていた。
それは、自分が戦闘訓練を受けていたから分かったことかもしれない。
今までの通りは、王城という、きれいな清廉とした空気が漂っていたにもかかわらずだ。
その王城内の中心部からかなり離れたその場所は、さらに騎士団内のさらに端に位置づいていた。
ちょっと、隔離されているような雰囲気にも感じた。
「あー・・・ボイス君、多分さあ、君、驚くかも・・・」
そう、ぼそりと、チェルリに聞こえるか聞こえないかの音量で呟いた。
「?」
意味が分からず、頭に?マークを付けていたら、
『どォオオオン!』
目の前の執務室の扉が吹っ飛んだ。
「・・・。・・・。・・・」
あ、ヘイワハネガエナイネ☆。
そう、誰かが、嘲笑うように呟いたように聞こえた。
「ぎゃー!!何やってんの隊長!!戦闘するなら、鍛練場でやってって!言ったでしょうが!!」
そう、マリエーロは怒鳴りながら、吹っ飛んだ扉を回収に早足で行った。
「あああ!!修理費が!修理費があああああぁぁぁ!!」
そう叫んでいる姿は、さっきのさわやか系のお兄さんというより、苦労を日々重ねた苦労人のように見えた。
彼は、確か有名な伯爵家の嫡男だったはずだが・・・。などと違う事を考えた。
考えないと、泣き出しそうな気分だ。
そんな遠くを見ながら、現実逃避していると、
「ははははは!俺様に勝とうなどと言い度胸をしているな?!ミチ!」
「うっせー!!隊長の分際で!えっらそうにしてんなよ!!」
「隊長なんでな!えらいにしているにきまってんだろ?少しは俺に勝ててからにしやがれ!弱虫坊ちゃん!」
「ってめー!ざけんなよ!人の女とりやがって!」
「はあ?メリーちゃんはおめーのじゃねーだろうが!告白もまともにできねーチェリーちゃんが!」
そう、怒鳴り合いながら、拳はすごい勢いで、相手に向かって行っている。
高笑いをしながら、そのこぶしをいなしている男は、がたいがしっかりした長身の男だった。
顔や体には、いくつか傷がついている。
相当鍛えられている体つきをしていた。
顔のつくりも精悍な男性だった。年のころは、30歳は過ぎたというところだろう。
多分言わずと知れた、『隊長』だろう。
それに立ち向かうようにして、拳を叩き込んでいる少年は、隊長に比べて、身体のつくりもまだ出来上がって間もないようにも見える。
だが、ちゃんと鍛えられているのはその動きで、分かった。
相当訓練を積んできているのは分かるが、隊長には及ばないのだろう。
造形もまだ幼さを残るが、かわいい顔をしていた。
だが、単調すぎる動きで、先が読めた。
頭に血がのぼっているからかもしれないが、それでは、あの隊長には勝てないだろう。
そんな二人のやり取りを、おもしろそうに笑ってみている人間が何人かいた。
多分騎士団員なのだろう。
それとともにマリエーロが
「うわ!!いいかげんにしろ!隊長!壁が壊れる!!うわああ!書類がバラバラ!!」
だが、一向にふたりは止まる様子など皆無だった。
戦闘狂。な感じーだと、両親の残像がちらつきチェルリは遠くを見た。
あれ?なんかやばい所に来たのか!?
と、やっぱり現実逃避したくなった。
泣かないわ!だって、だって!女の子だもん・・・。
いや、今男だったわ。自分・・・。
「はあ・・・」
ため息を吐きながら、扉が壊れた執務室の中をのぞき見ながら入る。
「・・・。・・・。・・・」
書類が大量に散乱して、飛び散っている。
かなりの量の書類が散らばっている。
しかもその奥の多分隊長の執務室の扉から、なだれるようにして書類がはみ出していた。
「・・・。・・・」
回れ右していいかな?
なんか、このままなかったことにして、帰っていいかな?
そんなことを頭にかすめながら、平和に穏和に、生活したかったはずが、これじゃ、そんな願いもちりに消えるような気がした。
現にこんな状況。
書類の多さ?は、とりあえずしょうがない事にしよう、だが、後ろで、いまだに殴り合っている、自分の上司(仮)と先輩(仮)。
それらの今後の行動は、自分の仕事の支障になる事は分かりきっている。
アレらをどう、調教・・・するかに、今後自分が平和に穏和に過ごせるかということになる。
あれ、なんか心の黒い自分が見え隠れする。
そんなことを思案していると、隣では、いつの間にか回収した扉を必死で取り付けているマリエーロがいた。
目元はしっとりとぬれている。
今までの、苦労がにじみ出ている。
たぶん、なまじ多分面倒見が良すぎて、めんどくさい事を押し付けられたのだろう。
会話をしていて、一見突き放している感じだったが、所々の気を使ってくれているのがうかがえた。
ああ、この人いい人なんだろうなあと感じて。
そっと、マリエーロのそばによる。
かがんで下の方を取り付けていたマリエーロの肩をそっといたわるように叩いた。
びっくりしたように見てくるマリエーロの顔は悲痛にゆがんでいた。
あ、これ相当、やばくねー?
思わずいたわるように
「副隊長、泣いてもいいんですよ?」
「え?」
さらに驚いたようにアクアマリンの瞳を大きく開いて、整った顔を思いっきりゆがめる。
そうとう、たまっていたのかもしれない・・・。
いや、分かるよ。分かる!自分もあの両親たちに何度、泣かされたか(物理的含み)などと感じながら
「ナイテモイインダヨ・・・」
そう、優しく、どこか遠くを見ながら言うと。
「う、うっ、うわあああん!」
そう、言って抱きついてきた。
遠くを見ながら、意外にしっかりした身体のつくりの青年をいたわるように、優しく何度も小さいモミジみたいな手で撫でる。
ああ、そう言えば、自分は子供だったなと、その小さな手をみながら、再確認した。
それにしても、確かにストレス・・・たまるよね・・・。
取り付け途中の扉が傾いてくるが、それを何の苦も無く片手で支えながら、チェルリがはめ込んでいると、マリエーロからは
「あいつら何度言っても、聞く耳持ちやしないんだ!こっちが必死に、あいつらのできない書類整理をしてやっても、執務室で暴れやがって!せめて、書類整理できないなら、他で暴れろよ!せっかく処理した書類がいみなさなくなるじゃねーか!!」
扉の向こうの廊下ではまだ、熱血ファイトがなされているようだ。
ところどころで、すごい音が聞こえるし、さっきよりも多い人のヤジが聞こえてくる。
どこからか聞きつけた騎士達がワイワイ騒いでいた。
とりあえず、一旦落ち着いたところで、マリエーロを、ソファらしきところに、誘導する。
落ち着かせるために、そこいらに転がった茶器を見つけ出して、紅茶を入れた。
もちろん、勝手に。
そして、おもむろに、溜息とともに室内を片付けだした。
とりあえず書類整理しないとどうしようもないだろうなどと、感じながら、書類や、分厚い本なども散らばっているのも同時に片づけていく。
その分厚い本が、普通の5歳児には簡単に持ち運べない程重いはずなのだが、チェルリは眉宇をゆがめることもなく本棚に片していた。
「チェリー・・・やめないよね・・・」
そう、マリエーロが言って来た。
一瞬誰に話しかけているのだろうと、思ったが、そう言えば自分の名前はチェルリだった。
まさか、いきなり愛称で呼ばれるとは、さっきの慰めが聞いたのだろうか・・・?
「どうしてですか?」
まあ、意味がわかるが聞き返すと
「だって、あれだよ?あれ・・・!?」
確かにあれを見て、そして、これを見たら、辞めたくなるのはしょうがないような気がする。
気がするが、今さらやめたりしない。
とりあえず今の所だけどね!
「まあ、驚きましたけど、とりあえず、私は書類整理をします」
「だ、大丈夫?」
マリエーロが気遣わしそうに尋ねてくる。
チェルリよりマリエーロの方が色々と大丈夫?なのだけど。
もしかしたら、先ほど、泣いてしまったのが、恥ずかしかったのかもしれない。
というか恥ずかしいだろうな。
子供の前で大泣きして、慰められたのだから。
しかも5歳児に・・・。
「ええ、私はとりあえず大丈夫です。けれど、副隊長は無理をしないでください。見たところ、かなり無理をされてきたんでしょうから・・・」
色々と限界値突破をしてないならいいけど・・・。
「人の話聞かない集団はきついよね・・・」
隊長から始まり、人の話は聞かない人が騎士団には大半いるのだろう。
まあ、脳筋っぽいしー。
「よーっし!元気出てきた!チェリーありがとう!」
そう言って、抱き着いてきた。
「私は何もしていませんが」
「そんなことないよ!一人でも、分かってくれる人がいるのといないのでは、かなり違うよ!ありがとう!」
なんだか、動物をもふもふするように抱き着いている。
癒し的なマスコット感覚になっているようだった。
まあ、癒されるならそれでいいのだが。
「では、仕事内容を教えてもらえますか?早急に処理した方がいいでしょう。この・・・」
大量の書類・・・。
なにこの量半端ないんですが!?
「そうだね・・・。よし!がんばろうか!お兄さん、情けない所見せちゃったけど、いいとこ見せなくちゃね!」
そう言って、自分の頬で、頭をぐりぐりしてくる。なんか、子供で癒しを求めてきているような気がする。
なんだかなーと思いながらも、気のすむまでそのままにさせながら、書類のやり方を大まかに聞いていく。
そう言って、本格的に書類整理を少しずつ、片していた。
だが、自分は重要な事を失念していた。
先ほどの元凶が、まだ、収集していない事実に。
「ふんぎゃー!!!」
マリエーロから、絶望を一身に背負ったような悲痛の叫びが再度聞こえた。
再び、扉が吹っ飛んだのだ。
「・・・。・・・。・・・」
いや、うん、分かる・・・分かるよ!
そんな、マリエーロの叫びを聞きながら、無言で、元凶たちを見る。
額にはうっすらと青筋が浮かんでいるだろうと内心チェルリは思った。
彼らは相変わらず罵声と、怒声と熱血ファイトがなされていた。
「ざっけんなよ!くたばれ!くそ隊長!」
「はははは!いい加減あきらめろって!」
「いいぞーやれやれ!」
「負けんな!!」
「隊長さっすが!!」
などと言っている。
さっき処理した、書類がはらり、はらりと舞って落ちていく。
「・・・。・・・。・・・」
ゆっくりと、チェルリは机から立ち上がり、辞書以上に重く分厚い本を両手に一つずつ持った。
「えっと、ちぇりー・・・?」
そんな様子を、マリエーロは不思議な様子で見てくる。
「副隊長、今後のため、強いては言えば今後の私の仕事の支障になる事は、取り除いていたいと思うのです。それは、今後の書類整理と直結することですので、目をつむってもらえるとありがたいのですが、まあ、目を瞑ってくれなくても、それはしょうがありませんが、これは仕事のためです!!」
そう言って、手元の本を振り上げた。しかも高速で。
「え?」
「は?」
「うえ?」
一瞬の事で何が起きたかそこにいる人達は分からなかった。
いきなり隊長と、団員が一瞬で地に付したのだった。
二人の近くには、分厚い辞書並みの本が二冊。
しかも変形していた。
「「「・・・。は?」」」
意味が分からず硬直している団員達をしり目に、隊長に近づき
「ペンラ隊長。はじめてお目にかかります。本日付けで騎士団の書類整理担当に配属されました。チェルリ・ボイスと申します。至らない事もありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
どこからか、え?子供??
などと聞こえてくるが、スルーする。
だって、子供だし。
そんなことは、気にせず、ぺンラ隊長とミチという団員の首根っこを掴んで、無情にも難なくひきずっていく。
そんなチェルリに、マリエーロが顔をひきつりながら、
「チェリー?」
そう、どうしていいのか分からないというような表情のマリエーロが尋ねた。
「隊長には仕事をしていただきます。それとともに、ペンラ隊長とミチ団員の方には、色々な破損分のかたずけ、および、代償と、説教を少々。今後、このような事のないように、よく、よーく言い聞かせなければなりません。修理費など無限になど存在しませんので。そんなことあるわけありませんので、きっちりかっちり、洗脳・・・いえ、調教・・・いえ、躾け・・・とりあえず、分かってもらえるように、いたしましょう」
え?言い直しているけど、全然言い直してない。
めんどくさくなって否定しなくなったなどと、周りがひそひそと言っていた。
チェルリは、周りをゆっくりと見回す。
そこにいた野次馬たちの表情がだんだんと蒼白になる。
確かにそこにいるのは、小さな子供。
本当に小さな、小さな、まだ何も知らないような少年にも達してないような幼児。
何故だろう。それでも、逆らっちゃいけないような雰囲気が漂っている。
大きなメガネのガラスが、無意味に反射して、そこにいる者の恐怖を誘った。
「先輩方も、今後よろしくお願いいたします」
そこで一旦、言葉を切る。
「ただし、室内での戦闘はお控えください。書類整理の邪魔や備品を破損した場合は・・・」
ちらりと、手元の隊長と団員を見る。
「説教を少々」
誰かの、喉のなる音が聞こえた。
いっせいに、執務室から、人がいなくなった。
「「「失礼しました!!!」」」
隣では、口元をひきつらせたようなけれど、どこか尊敬のまなざしで、マリエーロが見ている。
窓からは、心地の良い風か入ってきて。
今日の天気は気持ちのいい蒼天。
何も知らずに青々とした空が存在していて。
文官に受かったけれど、騎士団に配属され、騎士団の一員へとなったチェルリ・ボイス。
そんな新たな毎日がまっている。
今日も元気にチェルリ・ボイス☆
新たな、毎日がまっているかも☆
読んでくださり本当にありがとうございます!
更新はゆっくりになるかもしれません。
申し訳ございません。