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money magic  作者: オオバカミ
1章―金は力
6/9

5話『説明』

 全力で街を駆け抜けた真島の体は悲鳴をあげていた。

 走っているだけではない。

 腕もいってしまっていた。

 その激痛は一晩眠りにつかさないほどのものだった。

 

 左手を宙ぶらりんにさせながら立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。

 もちろん何もない。もぬけの殻だった。

 仕方なく、腹ごしらえにならないが台所で目一杯水を飲む。

 そして片手で顔を洗い上げ、歯磨き粉がないため、塩を口に含みながら歯磨きを行う。

 あまりスッキリとしない口を気にしながら今のカーテンを全開にする。




 外の日差しを目が拒む。

 瞳を瞑った瞬間、昨日のことが鮮明と思い出された。

 最後の戦闘。

 あの少女の弱点。

 それに気づいたのは逃げる最中の出来事だった。

 少女の光線は鋭い金属音のような音をたてながら物を『切り刻む』のに、何故だか『両断』することは無かった。

 そこから導き出される答えは一つ。

 あの光線は一回きりの、いわば使い捨ての攻撃なのだと。

 それならば簡単だ。

 何でもいい。

 何でもいいから逆にあの光線に何かさえ当ててしまえば消えてしまうのではないか。

 それを思いついた瞬間、真島はお腹に挟んでいた求人情報誌を思い出したのだ。


――――そうだ、これをちぎって当てれば。


 紙がひらひらと舞えば、切り刻まれるが、それと同時に複数の壁へと変化する。

 そう、これが彼女の動揺の原因だった。

 身近にあるもので、しかも魔法じゃないのに消えてしまうことに動揺してしまったのだ。


――――本当に偶然だよな……


 そう感嘆してから振り返った。




「これどうすりゃいいんだよ」



 

 足元で寝ている女に視線を落としながらポツリ。

 気持ちよさそうに息を吐きながら寝ている女の子は紛れもなくテラフィー。

 昨日の状況からして妖精であることは間違いないだろう。

 むしろ妖精じゃなきゃ小さくなることなんてできないだろうし。

 勝手ながらの解釈をして一応はテラフィーを信用したものの、やはりこのまま置いておくわけにもいかないと真島は考えていた。




「――――んっ」




 日差しが眩しかったのか口を酸っぱくしながら寝返りを打つ。

 そして軽く瞳を明け、俺と目が合うと何やら大事だと飛び上がってきた。




「あ、あわわ。すいませんでした、マスター!!! 不甲斐ないところを見せてしまいっ――――」

「えっとさ」




 テラフィーの同様をよそに、真島は自分の会話に持っていく。




「いきなりなんだけど。出てってくんねーかな」

「え、いきなりどうして」

「いきなりはお前のほうだし、どうしても何も命にさらされる心配事を置いておけるほどお人好しじゃないんだよ」




 カッコよく言い回したが、要約すると『死にたくないから出てけ』ということだ。





「それはそうですが……」

「何よりもお前と暮らしていける金が無い」

「え、お金ですが?」

「ああ」




 それを聞くとテラフィーは物凄く困ったように考え始めた。

 今まで見たことのないような表情に真島も疑問を抱く。




「おっかしいな」




 どこぞのアニメキャラクターのように独り言を漏らしては首をカクカクと揺らしていた。




「何がおかしいんだ」

「あ、聞いてくれますか?」





 聞いてくれるもなにも聞かせるつもりの独り言だろ、と心の中でつぶやきながら頷いた。




「そうですね――――まず率直に言い上げますと、『魔法使い』は放棄することができません」

「はぁ?」




 あまりにも衝撃な発言で右足を一歩突き出してしまう。




「魔法使いに選ばれた人間は『殺される』か『勝者』になるまで魔法使いを辞めることができないんです」

「どうしてだよ。そんなの無茶苦茶だろ」

「いえ、それも無茶苦茶というわけではないんですよ」

「…………どういうことだ」

「えっとですね――――」




 そう言うと一度咳払いをしてから再び口を開いた。




「――――まずこの魔法使い達はある戦争に参加しなければいけません。『money game』と呼ばれるものです。理由は機密事項で言えないのですが、とりあえずその戦争に参加する義務がると考えてください。そして問題はその参加者です」

「俺たちか。参加者というより無理矢理入れられた感があるんだが」

「違うんですよ。実はこの参加者には二つの条件で選ばれているんです」

「二つ? 貧乏と愚行な人間か何かか」




 自分で言っておきながらあまりにも醜いことを口走ったと後悔。




「違います。二つの条件とは『金』と『力への願望』です」




 その二つに真島は疑問符を掲げざるを得なかった。

 何故なら二つとも自分にとっては何ら関係のない言葉だったからだ。




「ちょっと待て、それじゃあ」

「そうです」




 真島の声を遮るようにして肯定する。




「マスターには参加する理由が全くないんですよ。恐らく」

「…………恐らくってどういう意味だ」

「えっと……失礼かもしれませんが、この屋敷の形態からして金銭面は皆無かと察しました」




 テラフィーは申し訳なさそうに俯いた。

 図星である発言に真島は顔を天井に向けた。




「別に気にすんな。俺が悪いわけだし」

「ご無礼申し訳ないです」

「…………それで話を戻すが、参加する理由が無い俺は何故参加している」

「それは私にも分かりません。役に立たなくてすいません」



 

 テラフィーの発言に軽く舌打ちをする真島。

 もちろんテラフィーに非はないと分かっていた。

 しかし今日昨日の出来事がここまでひどいと、流石に八つ当たりもするものである。




「ちなみに補足ですが、何故お金を持った人間が選ばれるかも説明させてもらいます。一応こちらの決まりなので」




 その言い方からしてテラフィーのような妖精にはそういった義務があるみたいだ。

 あれ、だとすると昨日の少女にも妖精がいたのか?

 過ぎてしまったことは仕方ないとケリをつけ、テラフィーに耳を傾ける。




「魔法というものは、無から物体を生み出す夢みたいなだと勘違いされやすいのですが、実は違います。一種の錬金術みたいなものを想像をしてもらえると理解しやすいです」

「あるものの形を変化させるってことか?」

「はい。そしてものすごく昔、今で言う2000年ほど前、私たちは今のようにして魔法戦争を行っていました」

「じゃあこれはいつも行われてるってことか」

「いえ、ある条件が重なった時に行われるのです――――詳しくは機密事項で言えませんが」

「なるほど」

「それでまた昔の話になりますが、昔の魔法は『血』を代償に魔法を使用することができていました。生死に関わる血の代償は、地獄のような戦いを生んだようですよ」




 生々しい話をさらりと言われ、真島は苦笑いしかできなかった。




「しかし、時代が流れるにつれて人々は殺生を好まなくなりました」

「そりゃそうだろ。殺しが好きなんてサイコパスだぞ」

「ええ。そのせいで魔法戦争の遅延が多発したんです」

「誰も殺さなくて決着が伸びたのか」

「その通りです。神はどうにかそれを解決しようと、今回を目処に新たなる戦争を行おうとしたんです」

「つまりそれが『money game』と…………って、神?」

「あ」



 それを言ってテラフィーは可愛らしい笑顔を作りながら「言い忘れてました」と呟く。

 さほど問題ではなかったので、真島は話の続きを促した。




「それでそのmoney gameでは代償になるものが変わったんです。その名のとおり『お金』が代償の対象になったんです」

「なるほど。金は命より重いと言われる時代にぴったりじゃねーか」




 現に苦しんでいる者の口から出るその言葉には何か説得力がある。

 テラフィーは一瞬その言葉に飲まれてしまった。




「だから昨日あの子は財布を見てたのか…………」

「その現場は分かりませんが……あの階級の魔法は一回につき一万ぐらいはかかるからすぐにお金は無くなるんじゃないでしょうか」




 その言葉にゾッとする。

 あの無数の光線が一万だと。

 下手をすれば100万を超えかねない量であった。

 



「そうなるとますます俺が選ばれた理由が分からねー」

「流石に私も疑問に思います」

「うーん」




 動かない左手をぶら下げたまま、真島は右手を顎に当て考え始めた。

 その行動に目をつけたテラフィーは真島に近づきその左手に両手を当てる。




「私たち妖精にはある程度の固有魔力があります。しかしこれは――――」



 両手を離し、治療が終わったかと思い左手を動かそうと思ったが




「動かね……」

「はい。残念ながら私たちにはある程度制限がかけられています。それは日毎なのでまた明日になれば治癒を行うことができるのですが」

「…………」




 真島は黙り込んでしまった。

 その言葉は遠まわしに何かを伝えていると分かっていた。

 だからこその無言。

 左手を軽く握ってみる。

 すると、ピクリともしなかった左手は手のひらだけではあるが動いた。


 



「あ、マスター」




 真島は何も言わずに靴を履き、どこかに出かけようとした。

 それを見たテラフィーは顔を歪め、出ていかなければいけない悲しさを背負わされた表情になる。




「あんさ――――――――お前プリン好きか」




 非常に難解な文章にテラフィーは首を縦に振った。

 その時の表情は涙目の笑顔だった。



 

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