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money magic  作者: オオバカミ
1章―金は力
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3話『打開策』

 路地裏を全力で走り抜け、知らない道路へと出る。

 そこには人がいなく、何故か全ての店が閉まっていた。

 不穏な空気に包まれていて足に鉛が付くような感覚になる。

 どうしたものか。

 そう悩んでいる時間は真島には無かった。

 全力で道路を駆け抜ける。

 体の隅々が痛み悲鳴を上げる。血流は今の状況を表すように荒れる。

 右足、左足と走ることはできる。だけどそれにも限界はあった。


「はぁ……はぁ……何だよこれ」


 体力が無くなったところで膝に手をつきながら愚痴を零す。

 深呼吸し、一旦全ての事象を整理することにした。


――――今日は金がないからコンビニに行って、そんで求人情報誌を取った。そのあとだ。俺は何をした。コンビニを出て、それから『変な音』を聞いて、それで『変な子』が出て、そんで命を狙われる? 俺は借金もしてないし、命を狙われるようなことはしてない。


 整理するが出てくるのは理不尽ばかりだった。

 右腕で額の汗をぬぐい、リフレッシュ完了。

 前傾姿勢から直立になり、後ろを振り返った。

 やはりといえば言いのか、そこも無人である。

 

――――今夜の11時ぐらいだから、無人ってことはないんだが……


 静けさが夜の暗闇をさらに増長させる。

 車一つ通らない車道を真島は罪悪感を抱きながらも渡った。

 そして反対側の車道に出、さらに遠くにと小さな路地裏に入った。

 微かに入る月光を頼りに進んでいく。

 転ばないよう、ゆったりと。

 気分を害する生臭さがまとわりつき、足を速めた。

 そして月光が降り注いでいる道路へと出た瞬間だった。



「…………待って」



 聞いたことのある声だ。

 優しさの中に可愛さのある声。

 天使のような囁き。



「テラフィー?」



 逆光で見にくかった顔は次第にあらわになる。



「はい。遅れてすいません」



 テラフィーは苦しそうにしながらこちらに近寄ってきた。

 真島は倒れ込んでくるテラフィーを支える。



「大丈夫か」

「…………強がりだとしても大丈夫とは言えません。結構抉られました」



 そうは言われるが、テラフィーには切り傷が無かった。

 あの時実は何らかの方法で光線を消したのではと伺うと。



「いえ。直で喰らいましたが、その後出血を抑えるために傷だけは治しました」



 つまりダメージは残ったということか。

 真島は自分の傷と比較するがその大きさのあまり、自分の痛がり方がアホらしく見えてきた。



「ごめん。君が辛いのは分かるが、今の状況を教えて欲しい。俺は何で命を狙われている。そして君は何故俺を助ける」

「そうですよね。本当にごめんなさい。こんなことになったのは私の責任なんです」



 そう言うとこの場にじっとしているのは危ないと思った真島は、テラフィーに肩を貸しながらさっきの場所から遠ざかる道を通る。

 テラフィーも足を引きずりながら必死に歩いた。



「どういうこと?」

「私の飛行能力の無さであなたの元に着くのが遅れたんです」

「え?」

「いろんなところにぶつかってて…………中々進めなかったんです」

「ってことは、あの音は君だったのか?」

「はい? なんのことでしょうか。あと君じゃなくてテラフィーと言ってくれると嬉しいです」


 

 コンビニ付近で聞いた音がテラフィーだとしても疑問はつきない。



「あのさ、そもそもの話飛ぶって何だよ。魔法の杖でも無きゃ飛べる訳無いだろ」

「その話なんですが、私はあなたに言わなきゃいけないことがあるんです。私は『妖精』であり、あなたは私のマスターである『魔法使い』になったと」



 その言葉に一種の怒りが芽生えた。



「あのな、こんな時にふざけてる場合じゃねーんだよ!!」

「私はふざけてません」



 真島は横に居るテラフィーの顔を覗き込むとその目は真剣そのものだった。

 そこでさっきの現場を思い出す。

 不思議な光線、そして傷を癒す光。

 現実に起こりえないものだとこの時にして気づいた真島は、



「本当なのか?」



 自分の過ちに気付き始めていた。



「はい。そして私たちは他の魔法使いに命を狙われているんです」

「…………仮に魔法なんて非現実的なものがあるとしよう。だけどそれが俺の命を狙われる理由にはならないだろ?」



 極まともな意見だった。

 魔法が存在すると真島が狙われる、そんな馬鹿な理由は存在しないのだ。



「そうね。それはあなたたちがバカだからでいいんじゃない」

「…………くっそ」



 進行方向の方に何故かあの子が居る。

 忌々しい刀をチラつかせ、今にでも襲いかかってきそうな黒髪の子が。

 真島は話すよりも逃げるだ、と思いテラフィに多少無理させる形で遠ざかった。

 すると驚くことに彼女は真島たちを飛び越えて行く手を阻んだ。



「私から逃げられる思うならそれは勘違いだわ」

「…………ははは。面白いこと言うなお前」

「な、何がおかしいのかしら。というよりもあなたの頭がおかしいんでしょうね」

「ああそうさ。俺の頭はおかしいぜ? 社会から孤立するような頭だからな。身内からは蔑まれ、他人からは疎まれ、そして挙句の果てには神からも人生のクビの宣告をさせられる。あーあ、何ておかしくて愉快なんだろうな!」

「何、キモいんだけど」



 これは本心である。

 本心であるが故の相手の同様。

 それが狙いだった。

 真島は話しながら隣に耳を傾ける。



『この勝負、勝ち目はありません』

『だからって死ねとは言っているわけではないのです』

『私の言うとおりにしてくれれば、もしかしたら逃げ切れるかもしれません』



 その方法とはいたってシンプル。



「もういいかしら。私だって暇じゃないの。明日だって学校があるんだから」

「ああそうかい。俺は明日も暇だけどな」

「そう。じゃあ天国はさぞかし楽しいでしょうね」

「かも…………なっ!」



 真島は近くにあったゴミ袋を思い切り少女に投げつけた。

 そしてそれと同時にテラフィーは小さな妖精へとなり、真島のポケットに入る。



「くっそ――――待てっ!」



 真島はその言葉に一切耳を傾けずに直進していた。

 そしてテラフィーの言葉を思い出す。






『――――とにかく逃げ回って』

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