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money magic  作者: オオバカミ
1章―金は力
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1話『妖精は唐突に』

――――金がない。

 

 狭苦しいワンルームのアパートで寝そべりながら千田真島は財布を裏っ返してみた。

 出てきたのは悲しいかな、1円玉と100円玉が1枚ずつ。

 

「これで1ヶ月暮らせっていうのは無茶だろ……」


 憂鬱のあまり独り言が出てしまう。

 真島は空腹を満たそうとその場から立ちあがり、冷蔵庫へと向かった。

 ドアを手前に引き、中を確認する。


――――豆腐が1丁、か。


 仕方なくそれを取り出し、台所で水をきる。

 わざわざ皿に移すのはもったいないと思い、真島は直接その容器に醤油を流した。

 キャパオーバーした分の醤油は手に滴り、それを無駄にしまいとすぐさま舐める。

 傍から見たら気持ち悪いことこの上ないが、そんなことも言ってられない状況であった。


 腹ごしらえと言っていいのか。

 多少の空腹を満たした真島は空の容器をゴミ箱に捨て、外に出た。

 夜ではあるが、いつものようにパーカーの帽子を被り、なるべく人の視線をかわす。

 むしろこの格好が視線を集めるということに気づかない真島は極度の人見知りであった。

 他者との会話を無くしたい。

 そのあまり25歳という年齢で職を無くしてしまった。

 理由は『能力と同調の無さ』とか。

 おそらく後者が一番の理由だろう。

 

 真島はアパートから3分のコンビニに入り、ドア付近の『求人情報誌』に手をかけた。

 1冊――――ではなく、店員の目を盗むようにして何冊も取り上げ、何も買わずコンビニを後にした。

 この本は求職に有用であるとともに、紙としての役割もはたす。

 よく揉めばティッシュの代わりにもなるし、吸水性があるのか汗だってふける。

 バカみたいな話だが、ここまでくるとその生活スタイルも恥ずかしくなくなる。


――――どうすっかな。


 財布に入っている101円のことを考えると頭が痛い。

 これで遊ぶことだって出来ないし、持っている何冊もの求人情報誌は恥ずかしさを覚えさせる。ある程度は腹の部分に隠し、数冊は手で持つことに。

 真島は折角外に出たというのに帰宅しようとした。

 その時だった。

 どこかから大きな轟音が響き渡る。

 近い、本当に近い。

 聞こえる方角からして、このコンビニの裏側だ。


 その音が気にはなるが、行っても工事というオチが目に見えていた真島は踵を返して帰宅しようとする。

 するとまただ。

 次は自分の進行方向の先にその音がする。


――――何だ? 冬祭りか?


 街の情報に疎い真島は驚きで足を止める。

 その音は聞いたことのないような響き。

 粘っこい爆発音。経験則から、太鼓の音を100倍大きくしたような音。

 

――――だいたい、そんな大きな音がして他の人は何故気にしない。


 数少ない通行人は音に気づかない感じで歩いていた。

 こんなに大きいというのに気にもならないのはおかしい。

 俺がおかしいのか、俺が間違っているのか。

 そんな自問自答を繰り返しているうちに3度目の爆音。

 次は俺の左隣。

 本当にすぐそこ。

 左耳の聴力を奪われるぐらいの近さ。

 心臓が動きをます。

 そして額に汗が。

 真島は意味のわからない音に惑わされていた。

 よく分からない音に恐怖心を抱いていた。

 それは子供の頃のオバケに対する恐怖心みたいな、今思うとバカバカしいような恐怖心。

 ゆっくり、ゆっくりと視線を左にずらす。

 それに合わして首も左に。

 そして見たものは――――


「いったぁーい!」


 女の子だった。

 言うなればコスプレをした子。

 金髪を一つ結びで後ろに、いわゆるポニーテール。

 白粉おしろいを軽く塗ったような真っ白な肌。

 そして端正な顔立ち。

 カワイイを保ちながら美人を持つ顔の並びは全世界が羨むようなものだ。

 そんな子が背中に羽をつけ、水色の服を纏っている。

 服の端々には白いフリルがついていて、それはまるで


――――妖精?


 のような格好。

 真島は困っている子をチラリと見ると、極度の人見知りから視線を逸らし、まるで私は関係ないですよ、と言わんばかりに足を進めた。


「いたたたー…………って、ちょっと待ってください!!」


 すると真島はその子に肩を掴まれ、歩きを止められる。

 振り返り彼女の顔を見るとものすごく近い。

 この距離は――――キスの距離。

 そんな不純な考えを思い浮かべると、


「ふ、不潔です!」


 真島の考えを見透かしたかのように胸を隠しながら離れていった。

 いや、考えを読めるなら胸を隠す必要はないのだが。


「…………あの、何ですか」


 俺はそれをスルーして用件を訪ねた。


「あ、申し遅れました」


 そう言うと彼女は姿勢を正し、両手を太もものところに置いてから一礼。





「    私、妖精のテラフィーです     」

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