長谷川2
のん・あるこ〜る 第4話
長谷川2
そう言えば少し前に、山本君がこんなことを言っていた。
「僕はたまにハルは全てのことがわかってるんじゃないかって思うときがあるんだ。」
私は山本君らしくない子供じみた発言に少し驚きながらいった。
「え?それってどういう意味?」
私の方を落ち着いた目で見つめると静かに口を開いて先を続けた。
「うん。なんとなくなんだけどさ。ハルはいつもいきなりおかしな事言うんだけど、
実は後々ハルが言ってたことがホントにその通りだったことがわかったりするんだ。」
「た・たとえば?」
「う〜ん。例えばって聞かれると困っちゃうんだけど・・・。
例えば、ほらこの前大学でさ、外国人の不審者が大学中でいろんな人に声をかけてるって噂になったでしょ。」
「あ、うんあったよねちょっと前に。」
数週間前に大学の一部で結構話題になった噂だった。
いきなり通行人に怒鳴りかかったという話も出ていたので
私もなんか怖くかったので、山本君にしばらくの間駅まで送ってもらったくらいだった。
「そのときさ、ハルがいったんだ。」
「なんて?」
「その人は悪い人じゃないよって。」
「な・なにそれ?なんでハル君はそう思ったの?」
会ったこともない人をハル君がそういう風に言いきった理由が知りたかった。
「わかんない。でもだから僕はハルはそのことも知ってたんだろうなって思ったんだけど。」
「それはハル君が全てをわかってるから・・・。え?その前にちょっと待って。
何でそのハル君が言った、その不審者は悪い人じゃないっていうのが本当にそうだってわかったの?」
そう私が言うと山本君はまた少し照れたようにハニカミながら頭をかいて言った。
「確かめる為に僕らその不審者に会いに言ったんだ。」
私は驚きで口を開けたまま言葉を失った。
「ハルがそんなこと言うもんだから何か確かめたくなっちゃって
大学内を二人で探し回ったんだ。」
まったくこの人は・・・。
自分の好奇心を抑えられないのかしら。
私はあきれながらも実は続きがすごく聞きたかった。
「それで、結局会えたわけね。」
「うん。探して2日くらいで図書館前で人に話しかけてるその人を見つけたんだ。」
山本君は思い出すようにゆっくりと続けた。
「そしてその人にハルが話しかけたんだけど英語でさ。僕は何言ってるかわからなかった。」
「山本君は英語苦手だもんね。」
「うぐっ・・痛いところを・・・。」
そう言っておどけたあと山本君はまた続けた。
「でもハルは何か普通に会話しててさ。そしてしばらくして僕に彼を紹介してくれたんだ。」
「なんて?」
「彼はシンガポールから来たサマンサさんだって。」
「シンガポール?」
「そう。彼はシンガポール人で日本に留学してきてたらしいよ。
何でも論文のためのアンケートを日本の大学生にしてたらしいんだ。
今もこのへんの大学を色々回ってるんだってさ。」
「えっと・・・。あれ、でもそれおかしいよ。
それならなんでその人・・サマンサさんは不審者だって勘違いされたの?」
ただの論文のアンケートならそういう間違いはされないはずである。
「あぁそれは多分サマンサさんがガムを配ってたからじゃないかな。」
「ガム?」
わけがわからなかった。
それはいきなり外国人にガムを手渡されたら不信感を持ってもおかしくない、
というか持たない方がおかしいかもしれない。
「そうガム。それに言葉もなまってて怪しげだったし、
何より格好も・・確かにそう思われてもしょうがないような格好してたし。」
そう言うと山本君は思い出したように笑った。
「・・・でも、なんでガムを渡してたの?」
「それは後からハルが教えてくれた。なんでもシンガポールにはガムがないらしいよ。
ほら、あそこって街にごみとか捨てただけでも罰金があるとかってよく聞くでしょ?
ガムは所持するのですら禁止されてるんだってさ。それでガムって彼にとって貴重なものみたい。
だから彼はアンケートに答えてもらうお礼としてガムを渡していたんだって。」
確かにシンガポールが街の美化活動に務めていることは聞いたことがあった。
「じゃあ、あの通行人をいきなり怒鳴りつけたっていうのは?」
「あぁそれもさ、その通行人が路上にガムを吐いたからだって。
シンガポールじゃ犯罪行為だからね。いい文化だよ。」
な・なるほど。
「なんでもサマンサさん、ガムについての論文を書いてるらしいんだ。
確かに悪い人ではなかったけど変わった人には変わりなかったかもね。」
山本君はそういうとまた楽しそうに笑った。
ハル君とのことを話すときの山本君の笑顔だ。
「ハルと気があうわけだよ。
なんせそのあと一時間くらいサマンサさんとガムについて語ってたからね。」
「一時間も!?」
会ったばかりの外国人とガムについて一時間も語れる人・・・。
私はさらにハル君に会ってみたくなった。
ご愛読いただき本当にありがとうございました。
よろしければまた続きも是非読んでみてください。