山本2
のん・あるこ〜 第3話
山本2
ポップコーンを規則的に口に運んでいた僕の手が、
空気を掴んだのはまだ食べ初めて30分が経ったくらいのときだった。
Lサイズのポップコーンもペース配分を間違えればこんなもんである。
隣を横目で見てみると、目の前のスクリーンで再会を喜んで抱き合う恋人たちのことを、
まるで自分のことのように喜んでいるかのように、
少し目を潤ませながら映画を見ている舞子が見えた。
手には、ほぼ手付かずのような状態で残っているポップコーンがしっかり握り締めていた。
Sサイズのポップコーンもペース配分さえ間違えなければこんなもんである。
「山本君、無くなっちゃったんなら私の分も食べていいよ。」
僕の視線に気づいたのかこちらを向いた舞子は、まだ少し涙ぐみながら小声でそう言うと、
僕にポップコーンの入ったカップを笑顔をつくって差し出してきた。
「あ、いやそんなつもりで見てたんじゃないから。」
僕は少し慌ててそう小声で断ると、
舞子は「そう?」と確認してまた映画の世界へと戻っていった。
舞子とは付き合って以来こういう風に映画でデートすることが多かった。
映画と言うのは、最初のデートにはすごく打って付けであるけど、
せっかくのデートなのに2時間ほどの間、ずっとお互い黙っていないといけないという点では、
余りデートには不向きな感じも否めないものである。
しかしながら僕と舞子はお互いにすごく映画が好きだったし、
見たい映画がお互いにありすぎるということで、
趣味もデートも堪能できる映画デートを好んでよくやっていたのだ。
そんなこともあり、僕は『彼氏』という肩書き通りに舞子のことを知っているかと聞かれると
自信を持って答えられないかもしれない。
なにせよくするのは映画の話だし、それも彼女は実家から大学に通っていて、
さらには学部も違ったので一緒にいられる時間が極端に少なかった。
つきあって5ヶ月で他のカップルたちがどれだけ親密になるのかはわからないけど、
もし僕らが世の中の標準だとするならば、
世の中の男女の交流はまったく健全なものである。
でもまぁそれは彼女とこれから埋めていく距離であり、
僕達ならあせらずともそうなっていくとも確信しているのだが。
しかしながら、彼女が僕とデートに行くと必ずワリカンにするといって
奢らせてくれないのは男として少し残念だった。
彼女は「お互い学生なんだから男女の差はないわよ。」といって
いつも笑顔で僕の差し出す手を拒むのだった。
いつしかそれが僕達の中で唯一のルールとなっている。
ホントできたいい女だよなぁ。
なんて改めて自分の幸せをかみ締めながら
僕は映画のラストの感動シーンに素直に涙を流していた隣の舞子に
そっとハンカチを差し出した。
「ってな感じであの映画結構よかったよ。」
次の日例のごとく大学のカフェでハルと昼食をとりながら僕は昨日見た映画の話をしていた。
なにせハルも無類の映画好きでよく映画の話をしたのだ。
「へ〜。また舞子さんと行ったの?」
「うん。また泣いてた。」
「ふ〜む。君から聞く限り最高にできた女の子だね。
俺の妹にも彼女のつめの垢でも煎じて飲ませたいよ。」
「あれ、ハルって妹なんていたんだ?」僕は少し意外でハルにいった。
「いるよ〜。2歳下かな。今もたまに家に帰るとあいつに怒られてる。病的にきっちりしてるんだ。
典型的なA型だな。たぶん周りから見たらどっちが年上かわかんないよ。」
そう言うとハルは笑った。
彼の口調からするとハルは言葉ほどその妹のことを嫌っていないみたいだ。
逆にすごく自慢の妹なのかもしれない。
2個下ってことは高校生か。
「で、映画見た後は例のごとくカフェでおしゃべり?」
「うん。例のごとくね。」
「普通カフェじゃなくてバーとか行きそうなものなのにね。」ハルが嫌味っぽく言った。
「しょうがないじゃん。俺らまだ未成年だし。
そういうの、舞子は厳しいんだ。まだダメだよって。」
「ふ〜む。」
そう言うとハルは口だけ笑いながら言った。
「つくづくいい女だ。」
ご愛読いただき本当にありがとうございました。
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