表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

山本9

のん・あるこ〜る 第17話

山本9

「だからあの大学でサマンサと会った時も実は初見じゃなかったってわけ。」


ハルはタネ明かしをするように得意気に言った。


「えっと・・じゃぁサマンサさんは何か病気なの・・?」


少しデリケートな問題なので僕は少し言葉を選びながら聞いた。


「いや、たいしたことないよ。

ただ来日時に言葉や文化の違いにまいっちゃったらしくて・・。

彼・・・ちょっと見た目も変わってるからさ。人間関係も苦労したらしい。

それで鬱になっちゃってうちの診療科に相談しに通ってたんだ。」



「あんなに明るかったのに・・・何か考えられない・・。」


舞子が信じられないといったような口調で言った。


「まぁ、サマンサも最初は暗い奴でさ。

山本と一緒に大学で会いに行ったときはまだ俺とも知り合ってちょっとしかたってなかったし

あいつ今見たいにはまだ明るくなかったろ?」


たしかにあの時はこれほどの好印象は抱かなかったはずだ。



「それとあいつが何かアンケートとるためにうちの大学にも来るって先に言ってたから

《外国人の不審者》って噂を聞いたとき、たぶんサマンサの事だろうなってわかったんだ。」


「だからハルはその人は悪い人じゃないって言ったのか。」


「そういうこと。」ハルはパチンと指をならした。


「で、あの時色々話してさ、あいつも俺にだんだん打ち解けてくれて

その後も何度かあいつがうちの心療科に現れたときに話すようになった。

そしてあいつに頼まれて日本語も教えてあげたってわけ。

あいつ、日本語を覚えたとたんにおしゃべりになりやがって。」


そう言うとハルはうれしそうに笑った。



その時。


「あ!!」


ハルは何かを思い出したように大声を出した。


「ど・どうしたのお兄ちゃん?」


「山本!早く店にアレとりに行かないと店が閉まるぞ!」


しまった忘れていた。舞子の誕生日プレゼントをまだ取りに行っていない。

日が変わってすぐにに舞子に渡したかったので今日中に取りにいきたかった。


「山本。車と受け取り書貸せ。俺がとってくるよ。」


「いや・・僕が行くからいいよ。」


それはさすがに悪い気がした。


「いいから。お前身体ぼろぼろじゃねぇか。

それに・・・今日は舞子と二人で過ごすんだったんだろ?

・・・俺は空気を読めない男にゃなりたくないんでね。」


そう照れくさそうに冗談っぽく言うハル。


「お兄ちゃん・・・。」


「いいから。ほら、鍵と受け取り書貸せって。」


僕は車の鍵と受け取り書をハルに渡した。


「悪いな・・・ハル。」


僕は申し訳なくなってハルにお礼を言った。


「まぁ・・・ちょっくら行ってきますわ。

少々二人っきりでお待ちを。」


そう言ってハルは笑顔で車に乗り込んだ。
















「それにしても・・・。」


ハルが行ってしまってから僕と舞子で少しの間共有した沈黙を僕がやぶった。


それは恋人たちだけが作り出せる《気まずくない心地よい沈黙》だったのだが


正直なところ二人ともあまりにも驚きの連続で頭の中で整理していたのだと思う。


「ハルは・・・本当に舞子のお兄ちゃんなの?」


混乱の一番の原因であるそのことを僕は一刻も早くちゃんとしておきたかった。


「うん・・・。あの人は私のお兄ちゃん。」


「でも・・・ハルは確かに妹いるって言ってたけど

二つ下って言ってたんだ。おかしいじゃないかあいつは大学1年で

舞子もそうだ。嘘ついてたってことなのか?」


「嘘じゃないわ・・・。お兄ちゃんは私の二つ上。

つまり山本君よりも二歳年上よ。・・・お兄ちゃん二浪してるの。」


「ハルが・・・二浪!?」


僕はハルが二浪しているなんて信じられなかった。


ハルの性格なら大学に強いこだわりなんて持ってなさそうだし

二年間浪人してまでこの大学に入ろうなんて思わないように思えたからだ。


「それが・・・ちょっと訳ありで・・・。」


舞子は少し深刻そうな顔で言葉を濁しながら言った。


「どういうこと?」


「実は・・・」


舞子はしばらく言いづらそうにしていたけどついに口を開いた。


「お兄ちゃん・・・その二年間心療科に通ってたの。」


「心療科!?」


僕は信じられなかった。


「うん・・・前電話で話したよね・・お兄ちゃんと付き合ってたお金使いが荒い女の人のこと。

その人にひどい振られ方をしてお兄ちゃん人間不信に陥っちゃったの・・。」


「人間不信?あの気さくなハルが・・?」


「うん。相当ショックだったみたい・・・。

それが高校3年のとき。だからお兄ちゃん2年間大学受験ができるような状態じゃなかった。

その時お世話になったのが今お兄ちゃんが仕事を手伝わせてもらっている心療科よ。

その二年間であそこの先生と仲良くなったみたいで、

お兄ちゃんが立ち直ってからも先生のご好意で今の仕事を紹介してくれたんだって。」



自分の働いている心療科のことを自慢げに話すハルの顔を思い出す。

自分を立ち直らせてくれた大切な場所・・・か。



そして僕はハルが大学であまり人と関わらないようにしている理由もわかったような気がした。


















「それにしても何で舞子は僕がハルの話をした時お兄ちゃんだって気づかなかったの?」


「え・・・だってわかるわけないよぉ。」


少し呆れたように言う僕に少しむっとしたのか舞子は言った。


「今はお兄ちゃん一人暮らししてて当分会ってなかったし・・・。」


「でも名前とかも一緒ならさすがに気づいてもいいでしょ。」


そう僕が言うと舞子は「だって。」っと言うと


とんでもないことを言って僕を心底驚かせた。





「お兄ちゃん《ハル》なんて名前じゃないんだもん。」



ご愛読本当にありがとうございます。

よろしければ是非続きも読んでみて下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ