山本7
のん・あるこ〜る 第13話
山本7
「誰だ!!」
舞子を襲った男が大声を上げた。
誰かが助けに来たようだ。
男と舞子は目をまんまるにしてドアの方を見つめている。
「え・・・?」
舞子は驚いたような表情で声を漏らした。
そりゃ僕以外の味方が助けにくるなんて思ってもいなかっただろう。
僕は薄れゆく意識の中で這いつくばりながら必死にドアの方を向いた。
余裕の笑みを浮かべ腕を組んだハルがそこには立っていた。
「山本わりぃ。遅れた。」そう言ってハルは顔の前で手を合わせて舌を出した。
「おい。いきなり入ってきて誰だって聞いてんだ!」
相変わらず男は声を張り上げていた。
殴られ頭に響くぜ、ちくしょう。
「うるさいなぁ。あんたもこんなにいい大学通ってるんだったらさ。
もっと知的に美しくことを運べよな。」
ハルはそう言うと「あ。」と思い出したようにして
「《俺ならいいんだよ》だっけ?ぷっ。」
と電話越しで聞いた男の台詞を馬鹿にしたような口調で真似して声をあげて笑った。
「てめぇ。」
顔を真っ赤にして牙をむく男。
あきらかにハルのペースになっていた。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。
いい大学にいる生徒が必ずしも頭いいなんて俺は思ってないからさ。
いるよな〜。お勉強だけできて自分は天才だなんて勘違いして図に乗ってるバカ。」
容赦なく攻めるハル。
口調や顔色は全く変わらず冷静で、時々笑みすらこぼれていた。
くちゃくちゃくちゃ。
怒りと共に男のガムの噛む音が荒々しくなってきた。
「ハル・・・。」
僕は声を振り絞るように出した。
これ以上の挑発は危ないと思ったからだ。
この男を怒らせると何するかわからない。
それに男とハルとじゃ体格差は歴然だった。
殴り合いになれば敵いっこない。
「え・・・ハル・・・君・・・?」
舞子は驚きの声をあげた。
それはそうだ。ずっと会いたがっていた僕の友人ハルとの初対面が
このようなシチュエーションだなんて夢にも思ってなかっただろう。
「てめぇ。ハルって言いやがるのか。」
男が凄んだ。
「そ。《ハルはアケボノ》ってね。俺は曙並みに強いぜ。
・・・あれ?今はあの人弱いんだっけ?」とハルは冗談っぽく言った。
「ふざけやがって。くちゃ。こいつがどうなってもいいのか?」
「そうそういい加減そいつ離してくれよ。
嫌がってるの気づかないほど鈍感じゃないでしょ。」
「ふん。」男がここでまた嫌らしそうに笑って言った。
「すぐに俺から離れたくないなんて言うようになるさ。」
くちゃくちゃ。
相変わらず癇に障るやつだ。
「わかってないなぁ。女の子は無理やり押したくらいで惚れてはくれないぞ。
さては女の子とちゃんとつきあったことないとか?」
ハルは相変わらず男を挑発する言葉を吐いている。
「はは。お前の倍以上の数の女と寝た自信はあるね。」そう言うと男は声をあげて笑った。
「寝た人数を威張ってどうすんの。
どうせベットだの酒だのって、勝手にテンションあげてくれるもんに頼って
金だけが目当てみたいな馬鹿な女をだましてきたんだろ。
悔しかったら一晩シラフの状態でカフェでお喋りするだけで女の子を満足させてみろ。
ここに寝てる山本はな、それができる男なんだよ。」
「ハル・・。」
「くっ・・・。」
図星を突かれたように取り乱す男。
くちゃくちゃくちゃ。
怒りはマックスに高まっていた。
「ちくしょお!」
「きゃっ!!」
男が舞子の腕を乱暴に掴んだ。
「おい!」叫ぶハル。
その時信じられない言葉がハルの口から飛び出した。
「俺の妹を離せ。」
僕は危うく本当に気を失いそうになった。
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