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夢の中で、一匹の猫を見た。
醤油に漬けたような黒い毛並みに、虹色の瞳を光らせる黒猫だった。
ゆらゆら。
ふらふら。
近づいてきた黒猫は愛でたくなる可愛らしい声で鳴く。
そっと、頭に手を伸ばして、撫でる。
『にゃおん』
彼女はもう一度、そんな風に鳴いて見せた。
俺は愛しく、黒猫を抱きかかえた。
◆
夢の中で、一人の少女を見た。
少し色の薄い短めの黒髪に、青色の瞳を光らせる少女だった。
確かな足取りで近づく彼女に言う。
「君は、笑える?」
その問い掛けに彼女は小さく頷いて、笑って見せた。
その笑顔はどこか儚げで、けれど確かに順風を感じさせるものだった。
ビー玉のような透き通った青い瞳が揺れた。
◆
夢の中で、一人の少女を見た。
少し赤みかかった髪色に、丸い瞳を柔らかく光らせる少女だった。
恐る恐る近づく彼女に言う。
「君は、笑える?」
その問い掛けに彼女は大きく首を縦に振って、笑って見せた。
その笑顔は快活で、見ている方にも元気を与えそうなものだった。
色の抜けた赤い前髪が揺れた。
◆
夢の中で、一人の少女を見た。
艶やかで艶かしい黒髪に、長い睫毛の鋭い瞳を光らせる少女だった。
徐に近づく彼女に言う。
「君は、笑える?」
その問い掛けに彼女は頷きはしないものの、小さく笑って見せた。
その笑顔は可憐で、深窓の令嬢を彷彿させるものだった。
鋭い眼光と長い黒髪が揺れた。
◆
夢の中で、一人の少女を見た。
醤油に漬けたような真っ黒の髪は黒猫を彷彿とさせた。
吸い込まれそうな黒い瞳を鈍く光らせるのは、幼くも整った顔立ちの少女だった。
立ち止まる彼女に近づいて言う。
「君は、笑える?」
その問い掛けに彼女は首を横に振りながら、口角を上げた。
その笑顔は弱々しくも、確固たる強い意志を感じさせるものだった。
鈍く光る瞳が揺れた。
「君も、笑える?」
彼女の急な問い掛けに戸惑いつつ、笑う。
その笑顔は自分でも感じることができるほど、不器用なものだった。
彼女の長い真っ黒の髪が揺れた。
「あは、あはは」
そんな風に、馬鹿にしたように笑ったかと思うと、いつの間にか彼女は目の前から消えていた。
瞬きの間に、姿を消した。