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黒猫センチメートル。  作者: 三番茶屋
30/56

■■■

『峰 千早の場合、彼の場合――いや、彼女の場合、お前も聞かされたであろう苛酷(かこく)な過去が原因だね』

 

 ほとんど間を空けることもなく、ほとんど一方的に語る。

彼女は語る。


『あぁ、彼女の過去については聞かされていなかったのかい?そうか、そうか。なら語りがいがあるね』

『まぁ、他人の秘密を勝手に明かすなんて真似、実は好きじゃないんだけど――最早、そうも言っていられない現状だよ。何たって過去が変わったのだから。現在が変わったのだから。ということはつまり、今後の未来も変わるということだよ』

『私たちだけが例外じゃない。二人の取った行動によって影響される見ず知らずの人々もいるということさ』

『それについては、彼らには記憶がないのだから、何が改変したとか、何が崩壊したとか、当事者であるにも関わらず、それを一生知ることはないんだけどね』

『だからと言って、何でもしていいということではないよ。まぁ、こんなこと問題の根源である私が言えることではないんだけどね。だからこそ、だからこそ――私にはその『根源』をお前に打ち明かす義務があるとも言えるかもしれないな』



 そうか、俺たちを取り巻く環境だけが変わったのではなく。

変わったのは環境そのもの。

改変した左目と千早との関係性が深いければ深いほど影響は自然と大きくなるのだ。

当然、二人と仲の良かったクラスメートには多大な影響を及ぼし、逆に言えば何ら関わりのない者への影響は微々たるものなのだろう。

いや――そうじゃない、か。

二人を取り巻く環境下の人間全員が当事者であり、被害者だ。

そして、当事者であり、被害者である彼らを取り巻く環境下の人間全員も当事者であり、被害者だ。

まるで、波紋のように。

周囲に影響を及ぼす。

 誰が想像したであろう。

俺たちの知らないところで、見ず知らずの他人の過去を変えてしまい、現在を変えてしまい、そして未来をも変えてしまったことを。

きっと、左目と千早もそんなことまるで考えていなかっただろう。

考える余裕など、なかったのだろう。

こんな――

こんな荒唐無稽な存在に(すが)るほどに、切羽詰っていたのかもしれない。

猫に願い、時間を改変するということが、どういう意味を持つのか、予測すらできないのだから仕方がないとも言える。



『ははっ、どうやら、徐々に現状の悲惨さを理解しつつあるようだね。そうだよ、私たちが及ぼす影響は勿論、知らないところにも表れる。こんなこと、言わずもがな、だろう?』

『青猫も赤猫も、初めにそれを伝えているはずだけどなぁ。過去、現在を壊してあげよう、って――まぁ、リスクの説明を怠った彼女らの責任でもあるかもしれないけどね』

『しかし、一体全体どうして、そのリスクを一切考えなかったのだろうね?私にはわからないよ。お前でさえ、そして楽座 怜那ですら、それについての懸念を持たなかった』

『まぁ今日の今日だから無理もない、か。それに、不確定多数に影響があっても、最早今となってはどうにもならないけどね』



 黒猫は笑う。

それは苦笑いのように思えた。



『そうだ、峰 千早について語らなければいけなかったか』

『彼女の眼帯で覆われた左目――青い目の正体を一体何だと思う?』

『彼女の生い立ちは非常に複雑で、酷く奇怪だ。詳細は省くとして――彼女は純粋な日本人ではない』

『要するに、ハーフってことだね。日本と外国のハーフ、彼女の血の二分の一を占めるのが、どこかの国の、どこかの人の、どこかの遺伝子だよ』

『子は親を選べないとは言うけれど、残酷だよね。まったく、同情するよ。まぁ、複雑な家庭環境、残酷な過去、奇怪な左目、きっと彼女は自分が死ぬほど醜いと感じていたんだろう』

『あんな青い左目のせいで、いじめを受け、迫害されて――そりゃ過去も変えたくなるね。誰しもがトラウマを抱えているだろうけれど、彼女ほどそれに(とら)われてる者は他にそうはいないよ』



 千早の左目。

青い左目。

トラウマの――象徴。



『トラウマのせいで――青い左目のせいで、いじめを受けていたんだ。トラウマが無くなれば、呪われた左目さえ無くなれば、いじめも受けずに済む。そして何より、溜まったストレスを他人にぶつけなくて済む』

『――仕返しをしなくて済む』

『まぁそれについては、お前たちと友達になって、遊ぶようになってから大分マシになったのだけどね』



 そこで黒猫は語りに重みを与えるように、間を少し空ける。



『友達が出来て、ようやく過去のトラウマから開放されつつあったというのに――』



 大馬鹿者だね、と言った。



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